青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第五章 心の在りか

異変

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 私は割と忙しい日々を過ごしていました。

 孤児院にて施しをしたり、イセリナの様子を見に行ったりと。まあそれで三ヶ月が経過したわけですけれど、遂にその日がやって来たのです。

 キャサリンの誕生パーティーイベントという地獄の扉が開かれた日が……。

「ルイ、準備はできたか?」

 今回はカルロも同行してくれます。オリビアの服飾店イベントをスルーしましたけれど、それは彼とリックがいたからこそ。

 オリビアとはランカスタ公爵邸で会っており、今回は現地集合という話になっています。

「はい、ようやく決着のときです……」

 リックは先んじてサルバディール皇国にある書面を取りに行っています。

 毒物を大量に輸出したという証拠。これによりデンバー侯爵は言い逃れができなくなり、果てにはリッチモンド公爵の捕縛にまで発展させる予定です。

「もう何ヶ月も雨が降ってるな?」

 まだ薄暗い空を見上げてカルロ。早朝ではありましたが、明らかに黒い雲が空を覆っています。

 シトシトと雨が降り続けていました。とはいえペガサスで飛んでいくわけでもありません。気分が晴れないだけで問題はありませんでした。

「さあ、行くぞ。ルイの予知とやらが上手くいけばいいな?」

 カルロに頷いて、私たちは馬車へと乗り込む。

 立派な馬車は長雨で荒れた悪路も難なく進んでいきます。立ち往生するような事態にはなりません。


 王都ルナレイクを発って十時間ほどが経過していたでしょうか。

 ランカスタ公爵邸でイセリナを乗せてから二時間ほどの地点。どうしてか馬車が急停車しています。

「どうした!?」

 カルロが声を荒らげると、御者はすみませんと返します。

 しかしながら、彼にも停車した理由があったらしく、その原因は直ぐに語られました。

「川が氾濫して街道の橋が落ちてしまったようです」

 何ということでしょう。

 つい今し方の出来事であったようで、まだランカスタ公爵家の衛兵は到着していません。近隣住民が街道を封鎖しているだけでした。

 まるで記憶にないことです。

 ああいや、私はそれを知っていました。

「大洪水……?」

 おかしなことです。長雨による大洪水は私が貴族院に入ってからの話。十四歳の時点でそれが起きるなど考えられません。

「ルイ、大洪水とは何だ?」

 ポツリと漏らした言葉にカルロが反応しています。

 馬車にはイセリナもいましたが、説明しないわけにはならないようです。

「実は三年後に大洪水がセントローゼス王国を襲うのです。その状況に酷似しています。初夏から降り続けた長雨とか……」

 各地で川が氾濫し、街道のあちこちが通行できなくなるのです。

 長雨から連想される記憶はそれしかありません。

「予知が三年も早まったというわけか?」

 イセリナがいたからか、カルロは話を合わせてくれました。

 正直に考えられない事態でしたが、環状街道が通行止めになった記憶は大洪水しかありません。

「恐らく、通行できないのですから、ランカスタ公爵邸に戻りましょう」

 どうなってしまうのだろう。まるで予想できない事態です。初めての経験は私を困惑させていました。

 世界線を動かしすぎたのかもしれない。

 思えば今までとはまるで異なるルート。時系列すらも乱れてしまった可能性は否定できません。

 困惑しつつも、私たちはランカスタ公爵邸へと引き返しています。
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