106 / 377
第五章 心の在りか
邂逅
しおりを挟む
王都ルナレイクに引っ越しをして三ヶ月が経過しました。
カルロの指示通り外出時は修道服。何とも華やかさに欠ける暮らしです。
さりとて、元より聖職者なので文句は言えません。ただ服装以外は割と自由を与えてくれたので、好き勝手に街を彷徨いたりできました。
「マリィと外出できないのだけは残念だわ」
流石に火竜をつれて歩くと見つかってしまう可能性がある。
最初は駄々をこねていたマリィも、露店でお土産を買うようにしたら大人しく待つようになっています。
どこまで食い意地が張っているのでしょうかね。一体誰に似たことやら。
「おやつとマリィのサンドイッチも買ったし、そろそろ帰ろうかな」
本日も暇つぶしの散策終了です。
バゲットみたいな固いパンに肉やら野菜が挟んであるものですが、マリィはこのサンドイッチが大好きなのよね。
意気揚々と大通りを歩いていると、
「あれ?」
ルナレイクに来てから、私は初めて知った顔を見ています。
「エリカ……」
私と同じく修道服を着た少女。間違いなくそれは主人公エリカでした。
「もうすぐ十四歳。ってことはまだ聖女認定されていない頃か」
ボウッと見ていた私ですけれど、ふと気付く。
エリカは真正面にいたのです。
「やば……」
エリカの修道服は一般的なベールを被るものでしたが、真正面以外で顔を拝見しにくいもの。つまり私はエリカの進行方向に立っていたことになる。
「貴方様はアウローラ聖教会の方でしょうか?」
遂には話しかけられてしまった。
ヴィクトル教皇に聞いた話ではラマティック正教会は正式にアウローラ聖教会から分派したみたい。
疑問を持ったのであれば、エリカの修道服とは少し違うのでしょうね。
「ああいや、私はラマティック正教会の修道女ですわ!」
今は聖女の法衣を来ていないのだから修道女でいいはずです。
もし仮にラマティック正教会の枢機卿だなんてバレでもすれば、面倒なことになるかもしれませんし。
「ああ、ラマティック正教会の! 大聖堂へ礼拝に来られたのですね!」
どうやらラマティック正教会の聖地もルナレイクであるらしいね。
分派したのだから当然と言えば当然なのかもしれない。
「ご案内いたします!」
うーん、完全に聖地巡礼に来た修道女と勘違いされています。かといって、修道服の着用を義務付けられているだけとも言えません。
仕方なく私はエリカに案内されるがまま、ルナレイク大聖堂へとやって来ました。
「懐かしい……」
「あ、来られたことがございましたか!?」
思わず漏れた声にエリカが反応する。
いいえ、そうじゃないの。確かにアナスタシアでは初めてだけど、ルナレイク大聖堂は私とルークが結婚式を挙げた場所ってだけ。
やはり胸が痛い。今でも鮮烈に思い出されてしまう。
実をいうと三十回以上も繰り返した新婚初夜は結婚式こそがセーブポイントでした。
なので、挙式のシーンを忘れるはずもないね。
「ルーク……」
少しばかり涙目になっていたところ、
「ルーク殿下でしょうか? そういえば最近はお姿を見ることもなくなりましたね……」
エリカの話に私は目尻の涙を拭った。
「以前はルーク殿下を見たの?」
どうにも気になってしまう。
イセリナだった頃はずっとランカスタ公爵領におりましたから、王都でルークがどうしていたのか私は知りません。
「ええ、何度かお見かけしましたよ? とても気さくな王子殿下様でしたね……」
まあ、そうかもしれない。何も考えていないというのが正しいのだけど。
直感で行動するタイプだし、彼は作業服のような服を着ていたアナスタシアにも平気で声をかけてしまう人なのだから。
「そうよね……」
それ以上の言葉は出て来ない。懐かしく感じたとして、それは前世の話です。今世の私には関係のないことだ。
大聖堂を見上げていると、不意にエリカのお腹が鳴る。
「すみません! 私ったら……」
そういえば彼女は孤児でしたね。
聖女認定されていない現在では満足に食べることもできないはずです。
「これ食べる?」
私はマリィのために買ったサンドイッチの袋を差し出しています。
端銭五十枚という安いものであったけれど、エリカならば喜んでくれるだろうと。
「いえ、でも……」
しかし、彼女は受け取ろうとしません。間違いなくお腹が減っていたでしょうに。
まあでも、その気持ちは直ぐに推し量れました。
エリカは自分だけが食べることを躊躇しているのだろうと。スラムの教会には孤児たちが他にも沢山いたのですから。
「全員で何人いるの? みんなの分も買ってあげるわ。一緒に食べましょう」
丸い目をしてエリカが私を見ています。
確かにおかしな話かもね。出会ったばかりの人間が食べ物を買ってあげるなんて。
「いえ、そのようなご厚意を受けるなんてことは……」
「気にしなくてもいいわ! 私はこう見えて割と高給取りなのよ。仕えている方は超お金持ちだし、教会から支給されるお金は余りまくってるからね。みんなで食べた方がおいしいでしょ?」
悪であろうと決めた私だけど、それはそれよ。別に施しをしてはいけないなんて決めていないもの。
思わぬ出会いに私は大盤振る舞いしようと考えます。
ま、露店の食べ物ですけれど……。
カルロの指示通り外出時は修道服。何とも華やかさに欠ける暮らしです。
さりとて、元より聖職者なので文句は言えません。ただ服装以外は割と自由を与えてくれたので、好き勝手に街を彷徨いたりできました。
「マリィと外出できないのだけは残念だわ」
流石に火竜をつれて歩くと見つかってしまう可能性がある。
最初は駄々をこねていたマリィも、露店でお土産を買うようにしたら大人しく待つようになっています。
どこまで食い意地が張っているのでしょうかね。一体誰に似たことやら。
「おやつとマリィのサンドイッチも買ったし、そろそろ帰ろうかな」
本日も暇つぶしの散策終了です。
バゲットみたいな固いパンに肉やら野菜が挟んであるものですが、マリィはこのサンドイッチが大好きなのよね。
意気揚々と大通りを歩いていると、
「あれ?」
ルナレイクに来てから、私は初めて知った顔を見ています。
「エリカ……」
私と同じく修道服を着た少女。間違いなくそれは主人公エリカでした。
「もうすぐ十四歳。ってことはまだ聖女認定されていない頃か」
ボウッと見ていた私ですけれど、ふと気付く。
エリカは真正面にいたのです。
「やば……」
エリカの修道服は一般的なベールを被るものでしたが、真正面以外で顔を拝見しにくいもの。つまり私はエリカの進行方向に立っていたことになる。
「貴方様はアウローラ聖教会の方でしょうか?」
遂には話しかけられてしまった。
ヴィクトル教皇に聞いた話ではラマティック正教会は正式にアウローラ聖教会から分派したみたい。
疑問を持ったのであれば、エリカの修道服とは少し違うのでしょうね。
「ああいや、私はラマティック正教会の修道女ですわ!」
今は聖女の法衣を来ていないのだから修道女でいいはずです。
もし仮にラマティック正教会の枢機卿だなんてバレでもすれば、面倒なことになるかもしれませんし。
「ああ、ラマティック正教会の! 大聖堂へ礼拝に来られたのですね!」
どうやらラマティック正教会の聖地もルナレイクであるらしいね。
分派したのだから当然と言えば当然なのかもしれない。
「ご案内いたします!」
うーん、完全に聖地巡礼に来た修道女と勘違いされています。かといって、修道服の着用を義務付けられているだけとも言えません。
仕方なく私はエリカに案内されるがまま、ルナレイク大聖堂へとやって来ました。
「懐かしい……」
「あ、来られたことがございましたか!?」
思わず漏れた声にエリカが反応する。
いいえ、そうじゃないの。確かにアナスタシアでは初めてだけど、ルナレイク大聖堂は私とルークが結婚式を挙げた場所ってだけ。
やはり胸が痛い。今でも鮮烈に思い出されてしまう。
実をいうと三十回以上も繰り返した新婚初夜は結婚式こそがセーブポイントでした。
なので、挙式のシーンを忘れるはずもないね。
「ルーク……」
少しばかり涙目になっていたところ、
「ルーク殿下でしょうか? そういえば最近はお姿を見ることもなくなりましたね……」
エリカの話に私は目尻の涙を拭った。
「以前はルーク殿下を見たの?」
どうにも気になってしまう。
イセリナだった頃はずっとランカスタ公爵領におりましたから、王都でルークがどうしていたのか私は知りません。
「ええ、何度かお見かけしましたよ? とても気さくな王子殿下様でしたね……」
まあ、そうかもしれない。何も考えていないというのが正しいのだけど。
直感で行動するタイプだし、彼は作業服のような服を着ていたアナスタシアにも平気で声をかけてしまう人なのだから。
「そうよね……」
それ以上の言葉は出て来ない。懐かしく感じたとして、それは前世の話です。今世の私には関係のないことだ。
大聖堂を見上げていると、不意にエリカのお腹が鳴る。
「すみません! 私ったら……」
そういえば彼女は孤児でしたね。
聖女認定されていない現在では満足に食べることもできないはずです。
「これ食べる?」
私はマリィのために買ったサンドイッチの袋を差し出しています。
端銭五十枚という安いものであったけれど、エリカならば喜んでくれるだろうと。
「いえ、でも……」
しかし、彼女は受け取ろうとしません。間違いなくお腹が減っていたでしょうに。
まあでも、その気持ちは直ぐに推し量れました。
エリカは自分だけが食べることを躊躇しているのだろうと。スラムの教会には孤児たちが他にも沢山いたのですから。
「全員で何人いるの? みんなの分も買ってあげるわ。一緒に食べましょう」
丸い目をしてエリカが私を見ています。
確かにおかしな話かもね。出会ったばかりの人間が食べ物を買ってあげるなんて。
「いえ、そのようなご厚意を受けるなんてことは……」
「気にしなくてもいいわ! 私はこう見えて割と高給取りなのよ。仕えている方は超お金持ちだし、教会から支給されるお金は余りまくってるからね。みんなで食べた方がおいしいでしょ?」
悪であろうと決めた私だけど、それはそれよ。別に施しをしてはいけないなんて決めていないもの。
思わぬ出会いに私は大盤振る舞いしようと考えます。
ま、露店の食べ物ですけれど……。
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる