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第五章 心の在りか

邂逅

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 王都ルナレイクに引っ越しをして三ヶ月が経過しました。

 カルロの指示通り外出時は修道服。何とも華やかさに欠ける暮らしです。

 さりとて、元より聖職者なので文句は言えません。ただ服装以外は割と自由を与えてくれたので、好き勝手に街を彷徨いたりできました。

「マリィと外出できないのだけは残念だわ」

 流石に火竜をつれて歩くと見つかってしまう可能性がある。

 最初は駄々をこねていたマリィも、露店でお土産を買うようにしたら大人しく待つようになっています。

 どこまで食い意地が張っているのでしょうかね。一体誰に似たことやら。

「おやつとマリィのサンドイッチも買ったし、そろそろ帰ろうかな」

 本日も暇つぶしの散策終了です。

 バゲットみたいな固いパンに肉やら野菜が挟んであるものですが、マリィはこのサンドイッチが大好きなのよね。

 意気揚々と大通りを歩いていると、

「あれ?」

 ルナレイクに来てから、私は初めて知った顔を見ています。

「エリカ……」

 私と同じく修道服を着た少女。間違いなくそれは主人公エリカでした。

「もうすぐ十四歳。ってことはまだ聖女認定されていない頃か」

 ボウッと見ていた私ですけれど、ふと気付く。

 エリカは真正面にいたのです。

「やば……」

 エリカの修道服は一般的なベールを被るものでしたが、真正面以外で顔を拝見しにくいもの。つまり私はエリカの進行方向に立っていたことになる。

「貴方様はアウローラ聖教会の方でしょうか?」

 遂には話しかけられてしまった。

 ヴィクトル教皇に聞いた話ではラマティック正教会は正式にアウローラ聖教会から分派したみたい。

 疑問を持ったのであれば、エリカの修道服とは少し違うのでしょうね。

「ああいや、私はラマティック正教会の修道女ですわ!」

 今は聖女の法衣を来ていないのだから修道女でいいはずです。

 もし仮にラマティック正教会の枢機卿だなんてバレでもすれば、面倒なことになるかもしれませんし。

「ああ、ラマティック正教会の! 大聖堂へ礼拝に来られたのですね!」

 どうやらラマティック正教会の聖地もルナレイクであるらしいね。

 分派したのだから当然と言えば当然なのかもしれない。

「ご案内いたします!」

 うーん、完全に聖地巡礼に来た修道女と勘違いされています。かといって、修道服の着用を義務付けられているだけとも言えません。

 仕方なく私はエリカに案内されるがまま、ルナレイク大聖堂へとやって来ました。

「懐かしい……」

「あ、来られたことがございましたか!?」

 思わず漏れた声にエリカが反応する。

 いいえ、そうじゃないの。確かにアナスタシアでは初めてだけど、ルナレイク大聖堂は私とルークが結婚式を挙げた場所ってだけ。

 やはり胸が痛い。今でも鮮烈に思い出されてしまう。

 実をいうと三十回以上も繰り返した新婚初夜は結婚式こそがセーブポイントでした。

 なので、挙式のシーンを忘れるはずもないね。

「ルーク……」

 少しばかり涙目になっていたところ、

「ルーク殿下でしょうか? そういえば最近はお姿を見ることもなくなりましたね……」

 エリカの話に私は目尻の涙を拭った。

「以前はルーク殿下を見たの?」

 どうにも気になってしまう。

 イセリナだった頃はずっとランカスタ公爵領におりましたから、王都でルークがどうしていたのか私は知りません。

「ええ、何度かお見かけしましたよ? とても気さくな王子殿下様でしたね……」

 まあ、そうかもしれない。何も考えていないというのが正しいのだけど。

 直感で行動するタイプだし、彼は作業服のような服を着ていたアナスタシアにも平気で声をかけてしまう人なのだから。

「そうよね……」

 それ以上の言葉は出て来ない。懐かしく感じたとして、それは前世の話です。今世の私には関係のないことだ。

 大聖堂を見上げていると、不意にエリカのお腹が鳴る。

「すみません! 私ったら……」

 そういえば彼女は孤児でしたね。

 聖女認定されていない現在では満足に食べることもできないはずです。

「これ食べる?」

 私はマリィのために買ったサンドイッチの袋を差し出しています。

 端銭五十枚という安いものであったけれど、エリカならば喜んでくれるだろうと。

「いえ、でも……」

 しかし、彼女は受け取ろうとしません。間違いなくお腹が減っていたでしょうに。

 まあでも、その気持ちは直ぐに推し量れました。

 エリカは自分だけが食べることを躊躇しているのだろうと。スラムの教会には孤児たちが他にも沢山いたのですから。

「全員で何人いるの? みんなの分も買ってあげるわ。一緒に食べましょう」

 丸い目をしてエリカが私を見ています。

 確かにおかしな話かもね。出会ったばかりの人間が食べ物を買ってあげるなんて。

「いえ、そのようなご厚意を受けるなんてことは……」

「気にしなくてもいいわ! 私はこう見えて割と高給取りなのよ。仕えている方は超お金持ちだし、教会から支給されるお金は余りまくってるからね。みんなで食べた方がおいしいでしょ?」

 悪であろうと決めた私だけど、それはそれよ。別に施しをしてはいけないなんて決めていないもの。

 思わぬ出会いに私は大盤振る舞いしようと考えます。

 ま、露店の食べ物ですけれど……。
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