青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第五章 心の在りか

お姫様

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 私は本当に熟睡していました。

 気付けば肩を叩かれており、王都どころか宿舎まで到着していたみたい。

「あれ? 一軒家?」

 高級な宿だと考えていましたが、馬車を降りると豪邸が目の前にありました。

「当たり前だろ? これから三年以上も暮らすんだぞ? 貴族院を出たあともしばらく留まる予定だから、買った方が安い」

 いやいや、王都にこんな豪邸って幾らすると思ってんのよ? 絶対に宿の方が安くつくって。

「流石は皇子様ですわねぇ……」

「ルイ、早く入れ。お前の部屋もある」

 私の過去を聞いてから、カルロはずっとぶっきらぼうな態度です。オリビアもこんな扱いを受けていたのかしら。

「ルイ様はこちらのお部屋に」

「リック、この荷物は何なの?」

 私の部屋の前には大きな荷物が幾つも置いてありました。

 私は普段着は修道服しか持っていないし、手荷物はアイテムボックスへとしまっていたので、一体何が置いてあるのか疑問でしかありません。

「それは俺からのプレゼントだ。家の中でも修道服とか可哀相だと思ってな」

「サイズは知っていたのです?」

「そそそ、それは修道服のサイズを聞いたんだ……」

 何だか顔を赤くしていますね。

 いやしかし、これは面白いな。顔を赤くするって、一体どういった数値を聞いたのかしら?

 しかしまあ、女子としてドレスは嬉しいね。深いベールまである修道服は地味だし、華やかな格好もしてみたいわ。

「でも、外出は修道服で行けよ? ベールを深く被ってな!」

 んんん? この沢山のドレスは全部部屋着ってことなの?

 せっかくだからお洒落して王都を彷徨きたいのだけど。

「少しくらい良いじゃないですか? どうせ私の顔を知っている人なんていませんよ。死んだことになっているし」

「ダメだ! 絶対に許可できない!」

 ああ、なるほど。そういうことですか。カルロってば……。

「独占欲が強いのですね?」

「そそ、そんなんじゃねぇよ! 俺はただ心配なんだ。昔を知っている人間に見つかるのも、お前が過去を思い出すことも……」

 まあそういうことにしておきましょうか。どうせ私は彼の所有物なのだしね。

 運ばれていた荷物の封を開け、徐にドレスを確認します。

 何というか、やはり可愛い系ばかりだね。ピンク色や黄色とか可愛らしい系の色ばかりです。

「あれ?」

 ところが、一着だけブルーのドレスが入っていました。

 どうしてなのでしょう。明らかに発注間違いとしか思えない異質のドレスに私は戸惑っています。

「ああ、それは似合うんじゃないかと思ってな……」

 ゴクリと息を呑む。

 何しろ前世で私が着ていた生地にそっくりなんだもの。青薔薇の夜会に着ていたドレスの生地に……。

(偶然だよね……?)

 カルロルートはハッピーエンドであっても、胡蝶蘭の夜会には参加しません。

 滅亡する国の皇太子。一学年上の彼が私の夜会に参加できるはずもありません。

 だとすれば、どういった因果なのでしょう? もしかするとアマンダが気を利かせてくれたのでしょうか?

「私に似合いますか?」

「着て見せてくれ。俺はそのドレスを纏ったルイが見たい」

 彼もまたレジュームポイントの反映を受けているのかな?

 無意識に青いドレスが似合うと考えているの?

「じゃあ、出てってください。着替えますので……」

「と、当然だろ!? 早く着替えろ」

 クスリと笑った私は徐にドレスを拡げました。

 シンプルな青いドレス。大海原や青空とも違う。どこまでも深い青をした美しい一着でした。

 笑顔で着替える私。肩紐のないタイプでしたが、割と詳細にサイズを聞いたのかも。

「ずり落ちる感じはないね……」

 まあしかし、胸のラインが露わになるデザインで、成長途中の谷間も見えてしまうんじゃないかと思えてならない。

 真面目そうに見えて、実はスケベなのかもと笑ってしまいました。

 着替え終えた私は自室の扉を開く。

「どうです? スケベな殿下が選んだドレスは?」

「誰がスケベだ! てか、まあ……」

 どうぞ見てくださいな?

 貴方が似合うと思って作らせた一着。心は穢れていましたけれど、マネキンとしては私もそこそこ良いかと思うのだけど?

 ジッと私を見つめるカルロ殿下。何度か頷いたあと、どうしてか斜め上に視線を回す。

「ま、綺麗だ……」

 思わず吹き出しそうになりましたが、ここは我慢です。

 ぶっきらぼうにしては及第点を差し上げられるのではないでしょうかね。

「もっと見てくださいよ?」

 面白がって視線の先に回り込む。すると彼は私から視線を外して背中を向けました。

 少しからかいが過ぎたでしょうか。反省していると、彼はサッと振り向いて私の手を取る。

「ルイ、踊ろう?」

「はいぃ?」

 楽団もいなければ、私の自室です。

 ですが、カルロは気にすることなく私を抱き寄せるや、チークダンスを始めます。

 流石に戸惑いましたが、受けて立ちましょう。こう見えてダンスは得意なのですから。


 曲はありませんでしたけれど、脳裏にはスローバラードが鳴り響いています。

 直ぐ近くにある彼の顔を見上げると、やはり私から目を逸らしている。とはいえ、彼なりに頑張っているのでしょうね。

 頬にキスをして以来、手に触れることすらなかったのですから……。

 とても長い時間、私たちは踊っていました。奥手なカルロはやめどきが分からなかったのかもしれません。

 心の安らぎがあったように思う。このダンスを通して私は今世における居場所を見つけられたのかもしれない。

 素っ気なく踊るカルロを見つめながら、私はそのような思考を始めていました。

 今世もお姫様になるのかな――。
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