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第五章 心の在りか

信頼

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「ランカスタ公爵様、今のところ帰るつもりはありません。カルロ殿下に恩がありますから。まあしかし、イセリナ様次第では貴族院に入ることになるでしょう」

「ルイ!?」

 カルロが慌てているのは明らか。

 貴族院には同年代である王子殿下が二人も入る予定なのです。

 私の使命を知る彼にとっては、わざわざ心に傷を負うために向かう自傷行為とも感じられたことでしょう。

「イセリナ次第とは、どういったことだろう?」

「そのままですわ。ランカスタ公爵様は多方面から恨まれておりますもの。そのとばっちりを彼女が受ける羽目になる可能性は高い。もっとも既にイセリナ様は辛い立場であったりします。心を許せる人間はオリビア様しかいないのですから」

 髭がイセリナの交友関係を知っているはずもないし、イセリナ自身は誰にも愚痴を漏らしていません。

 だから二人共が驚くのは無理もないでしょうね。

「イセリナ、まことか?」

 ツンデレな髭は考えを改めるかもしれない。

 自身の悪行が娘に跳ね返っているなんて考えもしていないのですから。

「お父様、ワタクシは公爵家の人間です。それだけでやっかむ人間はおりますの。一々気にしていたら、キリがありませんわ」

 イセリナらしい話ですけれど、私は悲しげな彼女の顔を見ています。

 最後まで裏切らないでという話を聞いたのです。辛くないはずはありませんでした。

「イセリナ様、私は貴方様の味方ですわ。世界中の誰もが貴方の敵になろうとも、最後までお守りしようと考えております」

 私はイセリナを裏切らない。裏切ることなどできません。

 前世の自分であり、イセリナありきで転生した私は彼女に寄り添い続ける。

「ルイといったわね? ワタクシは口だけの人間を多く見てきました。貴方は信用できる人間なの?」

「さあ、どうでしょうかね。まあでも、私はイセリナ様をよく存じておりますわ。好き嫌いから、生活力のなさ、果てには隙あらば居眠りをする姫君であることまで」

 思い返す懐かしい日々。イセリナの世話に明け暮れた毎日が蘇っています。

 本当に私のクリアデータが反映されているのかと疑うほどに、怠惰な彼女を見ていました。

「怠け者で負けず嫌いな眠り姫さま――」

 暴言ともいえる話。居合わせた全員が目を丸くしていました。

 かといって、本人には分かっているはず。私は彼女の本質を口にしただけなのですから。

「あああ、貴方、ワタ、ワタクシを何だと!?」

「知ってますよ。全部私は存じております。とりあえず真っ先に解雇すべきメイドと執事をお知らせしますわ。それだけで家の中くらいは過ごしやすくなるでしょう」

 言って私はランカスタ公爵家のメイドと執事の名を挙げていく。

 引き籠もっているのは辛かったことでしょう。父親に告げ口するなんて負けだとイセリナは考えてしまうからね。

 良い機会だから私が全部処理してあげます。

「ルイ枢機卿、どうして我が公爵家の使用人を……?」

 どうやら、まだ私の予知は信用されていなかったみたいね。

 百人以上いる中から的確に二十人の名前を列挙したのです。

 その疑念も吹っ飛んだことでしょう。

「公爵様、名を挙げた者たちはイセリナ様に害を成す者たちですわ。今は嫌がらせで終わっておりますが、そのうちに暗殺まで発展する可能性は高いです。いち早く解雇するなり、対処してくださいまし」

 親子共が呆然と頭を振っています。

 イセリナの反応を見る髭も分かったはず。彼女が多くの敵に囲まれていること。

 加えてイセリナもまた理解したことでしょうね。私こそが味方になる者だと。

「イセリナ様、私は貴方様が納まるべき場所を存じておりますの。貴方様には王座の隣が相応しい。セントローゼス王国の未来は貴方様の頑張りにかかっております。果てにはプロメティア世界を救うことにもなるでしょう」

 ここは理解できなくても構わない。しかし、私の予知くらいは信じて欲しいところです。

 目指すべき道程。私はそれを明らかとしているのですから。

「ワタクシが王座の隣に……?」

 今世にて私は脇役に徹すると決めた。

 それ以外のルートは私の心が耐えられるのか分からないの。

 だからこそ口にする。イセリナに託す全てを。

「胡蝶蘭の夜会は貴方が主役となるべきですわ」
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