青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
99 / 377
第五章 心の在りか

鋭い棘

しおりを挟む
「私こそがアナスタシア・スカーレットだからです」

 流石に予想していなかったのか、髭だけでなくイセリナも絶句しています。

 顔を見せたところで知るはずもありませんけれど、名前くらいは知っているだろうと。

「貴様が火竜の聖女だと!?」

 疑うのなら、マリィを出すだけです。何しろ聖女は火竜とセットなのですから。

「がぁぁっ!」

 何も知らないマリィはキャリーバッグから出してもらえて嬉しそうです。

 私も彼女のように屈託のない表情ができたら良いのですけどね。

「実をいうと、私も命の危機にあったのです。殿下の行いは事実ですけれど、あの件によって失踪したとされるのは心外であります」

 ルークは悪くない。悪者がいるとすれば私だけだ。

「それも……リッチモンドのせいか?」

 ここは頷くだけ。悪いけれど、私に喧嘩を売ったのはリッチモンドだからね。

 転生したとして許さないし、全ての罪を背負わせてあげるわ。

「お父様、リッチモンド公爵は許せません!」

「落ち着け、イセリナ。して、アナスタシア嬢、策はあるのだろう?」

 ようやく話が進み始めました。

 聞く耳を持ってくれたのなら、思うつぼです。もはやリッチモンド公爵家の没落は決定したと言えましょう。

「ルイとお呼びください。私はもう過去を捨てております。身分も生き様も、心までも……」

 突き進むしかない。この世界線をいち早く終わらせるために。

 私の平穏はこの世界線には存在しないのですから。

「ではルイ、聞かせてくれ」

 髭の要請に頷くと、私はこれからすべきことを述べる。

「まずイセリナ様の暗殺ですが、既に解決しております。優秀な暗殺者を雇いました」

「いや、暗殺者を雇うだけで解決するのか?」

「当然ですわ。解決しないはずがありませんもの。何しろ……」

 聞いて驚くがいいわ。悪役令嬢が結論づけた悪の限りを。

「リッチモンド公爵は私の暗殺者と契約しております」

「二重契約だと!?」

「お静かに。特別な契約術式を施しております。私と交わした契約以降は如何なる契約も無効ですわ。きっとリッチモンド公爵は満足しておられるでしょうけれど」

 それは決定事項だ。コンラッドは前世界線同様に上手く取り入っていると思う。

 全ての企てが進行しているはずよ。

「ただイセリナ様には他に問題もございますので、しばらくはサルバディール皇国に留まっていただきたい。覚えることが沢山ございますから」

 基本的な回避行動は覚えてもらわないとね。

 あと迂闊な行動は死に繋がることを意識してもらわねばなりません。

「覚えること? 何なのそれは……?」

「立ち回りですわ。暗殺は未然に防ぐのではなく、実際に実行されなくてはならないからです」

「貴方、ワタクシに危険を冒せと!?」

「安全は保証します。私の話す通りにしていただけるのであれば……」

 睨むような私の目にイセリナは黙り込む。

 彼女としては看過できる話ではなかったというのに。

「ルイ枢機卿、イセリナの暗殺だけは阻止せねばならんぞ?」

 唯一の後継者だから仕方ないね。

 まあでも、安心して欲しい。基本的に茶番なのだから。

「問題ありませんわ。イセリナ様が失われる未来など存在いたしません。イセリナ様は気高くあられますからね。弱者などに殺されるはずもありませんわ。美しい薔薇には棘がございましょう?」

 だから私は告げるだけよ。

 青き薔薇が今世も咲き乱れる理由について。

「血をすするための鋭い棘が――」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

処理中です...