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第五章 心の在りか
新たな聖女
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ガラクシアの宿に泊まって三日目。朝から来客です。
それはカルロ殿下とリックに他なりません。正装をして現れたことから、良い報告を受けられるものだと思います。
「アナ、一人で大丈夫だったか?」
顔を赤らめながら、カルロが聞いた。
照れくさそうに鼻筋を掻く皇子様には一定の推測が成りたちます。
(やっぱマジですか……)
どうにも私はフラグを立ててしまったみたい。
そういえばオリビアも一目惚れされたのだと聞いています。
確か彼は心の綺麗な女性がタイプ。ひょっとして彼の前で大泣きしたことが関係しているのかもしれません。私はこんなにも穢れた女であるというのに。
困惑する私にリックが話し始めます。
「殿下は議会で証言されました。アナスタシア・スカーレットこそが真の聖女であり、女神アマンダの使徒なのだと」
え? ちょっと待って。私が転生者だという話をしちゃったの?
薄い視線を向ける私にカルロは首を振りました。
「全部は話していない。君の想いは俺の胸に留めてある」
「アナスタシア様、殿下は古い歴史書を引っ張り出してまで、全員を説得したのです。かつて火竜の聖女は世界を守るため、時に障害となる存在をも殺めたのだと……」
どうしてか火竜の聖女は私と一緒だったみたい。
火竜の聖女は明確にエリカの祖先であったというのに。
「それはさぞかし気の長い聖女様だったのですね……」
「君も随分と余裕がでてきたじゃないか? これから君を皇城へと案内しよう。正式にラマティック正教会の枢機卿として認められた」
「えええ!?」
嘘でしょ? 枢機卿は貴族でいえば公爵にも相当する身分です。
偽物の聖女が選ばれるとは思えません。
「無茶しないでくださいまし! 私は権力など欲していないのです!」
ラマティック正教会は大陸の南東部で支持される宗派です。アマンダを崇拝するアウローラ聖教会から分派した教会だったと記憶しています。
しかし、それにしてもいきなり枢機卿だなんてあり得ません。
「ラマティック正教会は火竜の聖女伝説を重んじている。君の行いと生き方、幼竜の話までヴィクトル教皇に伝えた。すると彼は本部のマクスウェル聖議長と掛け合ってくれたらしい。つまりアナは皇国のゴリ押しではなく、正教会が認定した聖女であり、その立場に相応しい役職を与えられただけ。また正教会が独自に認めた聖女ならば、議会も文句は言えない」
聞けば、ラマティック正教会の本部はノヴァ聖教国にあるみたい。
教皇が派遣されているのには驚きましたが、ノヴァ聖教国を統べるマクスウェル聖議長こそがラマティック正教会のトップであるようです。
「もう逃げ道はないのですね?」
「逃げるつもりはないのだろう?」
カルロに言われて決意は固まった。
その通りだ。私はもう前に進むだけ。絶対に戻れない時間軸がある限り、突き進むしかありません。
「承知しました。ラマティック正教会教皇様の顧問として従事させていただきますわ」
枢機卿は教皇様の顧問的な位置付け。本部が別にあるものですから、私の認識よりも弱い立場なのだと思われます。
ならば引き受けましょうか。どうせ全てが終われば、出家しようと考えていたのですし。
「ならば今よりアナはルイ・ローズマリー枢機卿を名乗れ。君はもう過去を捨てていい」
まいったな。まさかエリカと同じ名字になっちゃうなんて。
もっとも、エリカとて偽名です。孤児だった彼女は光属性の所有者であったから、授爵の際にローズマリーの名字を授かったという設定ですし。
「ローズマリー以外の偽名はなかったのですか?」
このままじゃ世界線がおかしくなってしまうよ。
ルイはスーパーほにゃららシスターズの片割れなのに、聖女の名を冠するだなんてさ。
「火竜の聖女を名乗るにはそれしかない。ルイ・ローズマリー、それが君の名だ」
ま、カルロがいう通りかもね。エリカがセシルと結ばれない未来には私が正規の聖女となるしかない。
たとえ偽物であったとしても……。
まるで予定しない世界線となっていました。
カルロに言い寄られるだけでなく、本当に火竜の聖女を名乗ることになるなんて。
イセリナであった頃のなんちゃって聖女が懐かしく思えるくらいです。
「私が枢機卿になることは承知しました。ならば皇国は私の目的を果たすために動いてくれるのでしょうか?」
「もちろん。君が世界の安寧を願っているのならば、我が国は協力を惜しまない。セントローゼス王国との関係も良くなるというのだから」
たった三日で信じられない。
私は皇国の貴族を殺めました。間違いなく正当防衛であるけれど、マリィが黒焦げにしてしまったのは事実です。
「よく説得できましたね?」
「当然、苦労はした。でも、俺は君の涙を見てしまった。語られる想いの全てを知ってしまったんだ。そこに嘘は微塵も含まれていない。数奇な運命に振り回される少女の姿があっただけだ。俺は君の苦痛を軽減したい。また俺ならば可能だと思った」
そういえばこの人は心の綺麗な人が好きだったんだね。
感極まって愚痴にも似た話をした私は澄んだ心をしていたのでしょうか。
「ルイ、ずっと皇国にいろ……」
どうしたらいいの?
カルロはオリビアと結ばれるべきです。かといって、私は自分を好きにしていいと彼に言った。その末の話なのかもしれません。
「もう人知れず戦わなくてもいい。世界のために自分を犠牲にするな。俺が側にいてやるから……」
どうやら今世はカルロ殿下の庇護下に置かれるようです。
今さら撤回はできない感じ。とはいえ、有り難いお話であったりします。
全てを終えたとき、呆然とすることがないのですから。彼の相手をして生きていけばいいだけなんですもの。
帝国との戦争にて滅亡という未来が待っていたとしても。
「これより私はルイ・ローズマリー。教皇様のお力となり、果てにはサルバディール皇国のために尽力いたしましょう」
これで良い。飾りみたいなものだと理解している。
出しゃばることなく、影ながらサポートしていたら問題はないでしょう。
思わぬ事態となってしまいましたが、私の覚悟は初めから決まっています。
全てを捨てて世界を救うだけ。従って私が誰であるかなんて関係ありません。
世界線が再び動き出せばそれで構わない。
ルイ・ローズマリーとして、私はそのときが来ることを待ち望むことにしましょう。
それはカルロ殿下とリックに他なりません。正装をして現れたことから、良い報告を受けられるものだと思います。
「アナ、一人で大丈夫だったか?」
顔を赤らめながら、カルロが聞いた。
照れくさそうに鼻筋を掻く皇子様には一定の推測が成りたちます。
(やっぱマジですか……)
どうにも私はフラグを立ててしまったみたい。
そういえばオリビアも一目惚れされたのだと聞いています。
確か彼は心の綺麗な女性がタイプ。ひょっとして彼の前で大泣きしたことが関係しているのかもしれません。私はこんなにも穢れた女であるというのに。
困惑する私にリックが話し始めます。
「殿下は議会で証言されました。アナスタシア・スカーレットこそが真の聖女であり、女神アマンダの使徒なのだと」
え? ちょっと待って。私が転生者だという話をしちゃったの?
薄い視線を向ける私にカルロは首を振りました。
「全部は話していない。君の想いは俺の胸に留めてある」
「アナスタシア様、殿下は古い歴史書を引っ張り出してまで、全員を説得したのです。かつて火竜の聖女は世界を守るため、時に障害となる存在をも殺めたのだと……」
どうしてか火竜の聖女は私と一緒だったみたい。
火竜の聖女は明確にエリカの祖先であったというのに。
「それはさぞかし気の長い聖女様だったのですね……」
「君も随分と余裕がでてきたじゃないか? これから君を皇城へと案内しよう。正式にラマティック正教会の枢機卿として認められた」
「えええ!?」
嘘でしょ? 枢機卿は貴族でいえば公爵にも相当する身分です。
偽物の聖女が選ばれるとは思えません。
「無茶しないでくださいまし! 私は権力など欲していないのです!」
ラマティック正教会は大陸の南東部で支持される宗派です。アマンダを崇拝するアウローラ聖教会から分派した教会だったと記憶しています。
しかし、それにしてもいきなり枢機卿だなんてあり得ません。
「ラマティック正教会は火竜の聖女伝説を重んじている。君の行いと生き方、幼竜の話までヴィクトル教皇に伝えた。すると彼は本部のマクスウェル聖議長と掛け合ってくれたらしい。つまりアナは皇国のゴリ押しではなく、正教会が認定した聖女であり、その立場に相応しい役職を与えられただけ。また正教会が独自に認めた聖女ならば、議会も文句は言えない」
聞けば、ラマティック正教会の本部はノヴァ聖教国にあるみたい。
教皇が派遣されているのには驚きましたが、ノヴァ聖教国を統べるマクスウェル聖議長こそがラマティック正教会のトップであるようです。
「もう逃げ道はないのですね?」
「逃げるつもりはないのだろう?」
カルロに言われて決意は固まった。
その通りだ。私はもう前に進むだけ。絶対に戻れない時間軸がある限り、突き進むしかありません。
「承知しました。ラマティック正教会教皇様の顧問として従事させていただきますわ」
枢機卿は教皇様の顧問的な位置付け。本部が別にあるものですから、私の認識よりも弱い立場なのだと思われます。
ならば引き受けましょうか。どうせ全てが終われば、出家しようと考えていたのですし。
「ならば今よりアナはルイ・ローズマリー枢機卿を名乗れ。君はもう過去を捨てていい」
まいったな。まさかエリカと同じ名字になっちゃうなんて。
もっとも、エリカとて偽名です。孤児だった彼女は光属性の所有者であったから、授爵の際にローズマリーの名字を授かったという設定ですし。
「ローズマリー以外の偽名はなかったのですか?」
このままじゃ世界線がおかしくなってしまうよ。
ルイはスーパーほにゃららシスターズの片割れなのに、聖女の名を冠するだなんてさ。
「火竜の聖女を名乗るにはそれしかない。ルイ・ローズマリー、それが君の名だ」
ま、カルロがいう通りかもね。エリカがセシルと結ばれない未来には私が正規の聖女となるしかない。
たとえ偽物であったとしても……。
まるで予定しない世界線となっていました。
カルロに言い寄られるだけでなく、本当に火竜の聖女を名乗ることになるなんて。
イセリナであった頃のなんちゃって聖女が懐かしく思えるくらいです。
「私が枢機卿になることは承知しました。ならば皇国は私の目的を果たすために動いてくれるのでしょうか?」
「もちろん。君が世界の安寧を願っているのならば、我が国は協力を惜しまない。セントローゼス王国との関係も良くなるというのだから」
たった三日で信じられない。
私は皇国の貴族を殺めました。間違いなく正当防衛であるけれど、マリィが黒焦げにしてしまったのは事実です。
「よく説得できましたね?」
「当然、苦労はした。でも、俺は君の涙を見てしまった。語られる想いの全てを知ってしまったんだ。そこに嘘は微塵も含まれていない。数奇な運命に振り回される少女の姿があっただけだ。俺は君の苦痛を軽減したい。また俺ならば可能だと思った」
そういえばこの人は心の綺麗な人が好きだったんだね。
感極まって愚痴にも似た話をした私は澄んだ心をしていたのでしょうか。
「ルイ、ずっと皇国にいろ……」
どうしたらいいの?
カルロはオリビアと結ばれるべきです。かといって、私は自分を好きにしていいと彼に言った。その末の話なのかもしれません。
「もう人知れず戦わなくてもいい。世界のために自分を犠牲にするな。俺が側にいてやるから……」
どうやら今世はカルロ殿下の庇護下に置かれるようです。
今さら撤回はできない感じ。とはいえ、有り難いお話であったりします。
全てを終えたとき、呆然とすることがないのですから。彼の相手をして生きていけばいいだけなんですもの。
帝国との戦争にて滅亡という未来が待っていたとしても。
「これより私はルイ・ローズマリー。教皇様のお力となり、果てにはサルバディール皇国のために尽力いたしましょう」
これで良い。飾りみたいなものだと理解している。
出しゃばることなく、影ながらサポートしていたら問題はないでしょう。
思わぬ事態となってしまいましたが、私の覚悟は初めから決まっています。
全てを捨てて世界を救うだけ。従って私が誰であるかなんて関係ありません。
世界線が再び動き出せばそれで構わない。
ルイ・ローズマリーとして、私はそのときが来ることを待ち望むことにしましょう。
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