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第四章 歪んだ愛の形
サルバディール皇国にて
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約二週間という旅程。私はサルバディール皇国へと入っていました。
マリィは空から関所を越え、私は正規の手順で奴隷として入国を果たしています。
「先にサルバディール皇と面会願います。予定より早く戻ることになりましたので」
「構わないわ。是非とも好印象を持ってもらわないとね」
サルバディール皇国の首都ガラクシアは王都ルナレイクと比べれば地方都市のよう。
しかしながら、主要産業が農業と採掘であるのだから、仕方がない現状かもしれません。
リックに案内されるがまま、私はあとを付いていく。ボロボロの身なりなのですけれど、リックのおかげで入城すら余裕でした。
「サルバディール皇の準備が整いました。行きましょうか」
私は頷いて皇様が待つ謁見の間へと向かいます。
もう既にあらゆる覚悟をした私なのですから、少しも気後れすることなく。
皇城もあまり広くありません。小国という設定通りにこぢんまりとしています。
「皇様、私はアナスタシア・スカーレットと申します」
恐らく私よりもリックの方が緊張していたでしょうね。
既に私という悪役令嬢を知った彼は私が妙な話をしないようにと願っていたはずです。
「ああ、先ほど聞いた。しかし、驚いたな。火竜の聖女が我が国に亡命だなんて」
「事情はお聞きになられましたか? まあ、私は死んだことになっております。亡命と言うより亡霊なのかもしれませんね……」
私の返答に謁見の間は静まり返っています。
えっと、笑うところなんだけど? 上手く言ったつもりなんだけど?
「私は世界の安寧を願っております。元々はセントローゼス王国内で行動しようと考えておったのですが、新たな予知を得たことによりサルバディール皇国まで赴くことにしました。より良い選択でありましたから」
一応は頷いてくれる皇様。まあしかし、反応は悪い。
リックは妙な話をできないはずですけど、やはりいきなり亡命だなんて怪しすぎるよね。
「予知と言ったが、どういったものだ? 聞いた話はセントローゼス王国の問題。我がサルバディールは巻き込まれたくないと考えておる」
初めから二つ返事で了承いただけるなんて考えてないわ。
これでも私は千年からプロメティア世界に生きている。前世では七十五年という歴史を見ているのよ。
「現状で巻き込まれたくないのは理解しております。何しろサルバディール皇国はヴァリアント帝国といざこざを抱えておりますし……」
私の話に全員が固まっていました。
貴族院に入って数ヶ月後のこと。隣国サルバディール皇国とヴァリアント帝国は開戦してしまうのです。
それによりカルロは貴族院を辞めて帰国することになるのですけれど、カルロルートのバッドエンドでは前線に赴き帰らぬ人となります。
加えて、そのルートではオリビアだけでなく主人公エリカもまた失われるという最低のシナリオです。
ちなみにハッピーエンドでもカルロとエリカが亡命をするという微妙な内容だったりします。どちらにせよサルバディール皇国は滅亡から逃れられません。
(確か戦争の原因は鉱山だったよね……)
一応は何事もなく関係を続けていた両国なのですけれど、境界線上に鉱山が発見されてからは関係がおかしくなってしまいます。
先に兵を配置した側こそサルバディール皇国でありますが、当然のこと帝国も兵を配備することに。
イセリナであった頃の私は静観していました。
セントローゼス王国が小国同士のいざこざに首を突っ込む必要はなかったからです。
(皮肉なことに、どちらも敗者なのよね……)
サルバディール皇国を滅ぼしたヴァリアント帝国でしたが、長く続いた戦争にて帝国は疲弊していました。
拡大した領土を掌握する時間がなかった帝国は国力を回復させる間もなく、第三者であったノヴァ聖教国によって敢えなく滅亡に追い込まれてしまいます。
「汝は知っておるのか……?」
まあ流石に今の時点で両国の関係を知る者は少ないでしょう。
皇様や重鎮、政務に携わる者だけであったはず。
「もちろんですわ。しけた鉱山の取り合いだなんて情けないと思います」
「ア、アナスタシア様!?」
声を荒らげるように私を制するリックですが、生憎とスイッチが入っちゃったのよね。
私は皇様に頼み込む立場じゃなく、頼られる側になりたいのよ。
「件の鉱山は考えられているような採掘量が見込めません。ここは帝国と交渉すべきです。鉱山を譲る代わりに、境界線上に浮かぶ島を求めるべきでしょう。あの島も互いが領有権を主張していますよね?」
サルバディール皇国の領土はいずれセントローゼス王国のものとなります。
新たな統治者ノヴァ聖教国は割と頭が切れる人たちでありました。
拡がった領土を独り占めするのではなく、強国セントローゼス王国に擦り寄る方針を掲げていたのです。
セントローゼス王国はサルバディール皇国であった土地を譲り受け、対等な和平条約を結んだのですから。
「あの島に価値はないだろう?」
貴方たちは調査をしていないだろうけど、私は知っているの。
思考する頭があるのなら、よく考えることね。
私は知りうる事実を伝えるだけ。ノヴァ聖教国がくれた島がどういったものであるのかを。
「あの島は金鉱脈ですわ……」
マリィは空から関所を越え、私は正規の手順で奴隷として入国を果たしています。
「先にサルバディール皇と面会願います。予定より早く戻ることになりましたので」
「構わないわ。是非とも好印象を持ってもらわないとね」
サルバディール皇国の首都ガラクシアは王都ルナレイクと比べれば地方都市のよう。
しかしながら、主要産業が農業と採掘であるのだから、仕方がない現状かもしれません。
リックに案内されるがまま、私はあとを付いていく。ボロボロの身なりなのですけれど、リックのおかげで入城すら余裕でした。
「サルバディール皇の準備が整いました。行きましょうか」
私は頷いて皇様が待つ謁見の間へと向かいます。
もう既にあらゆる覚悟をした私なのですから、少しも気後れすることなく。
皇城もあまり広くありません。小国という設定通りにこぢんまりとしています。
「皇様、私はアナスタシア・スカーレットと申します」
恐らく私よりもリックの方が緊張していたでしょうね。
既に私という悪役令嬢を知った彼は私が妙な話をしないようにと願っていたはずです。
「ああ、先ほど聞いた。しかし、驚いたな。火竜の聖女が我が国に亡命だなんて」
「事情はお聞きになられましたか? まあ、私は死んだことになっております。亡命と言うより亡霊なのかもしれませんね……」
私の返答に謁見の間は静まり返っています。
えっと、笑うところなんだけど? 上手く言ったつもりなんだけど?
「私は世界の安寧を願っております。元々はセントローゼス王国内で行動しようと考えておったのですが、新たな予知を得たことによりサルバディール皇国まで赴くことにしました。より良い選択でありましたから」
一応は頷いてくれる皇様。まあしかし、反応は悪い。
リックは妙な話をできないはずですけど、やはりいきなり亡命だなんて怪しすぎるよね。
「予知と言ったが、どういったものだ? 聞いた話はセントローゼス王国の問題。我がサルバディールは巻き込まれたくないと考えておる」
初めから二つ返事で了承いただけるなんて考えてないわ。
これでも私は千年からプロメティア世界に生きている。前世では七十五年という歴史を見ているのよ。
「現状で巻き込まれたくないのは理解しております。何しろサルバディール皇国はヴァリアント帝国といざこざを抱えておりますし……」
私の話に全員が固まっていました。
貴族院に入って数ヶ月後のこと。隣国サルバディール皇国とヴァリアント帝国は開戦してしまうのです。
それによりカルロは貴族院を辞めて帰国することになるのですけれど、カルロルートのバッドエンドでは前線に赴き帰らぬ人となります。
加えて、そのルートではオリビアだけでなく主人公エリカもまた失われるという最低のシナリオです。
ちなみにハッピーエンドでもカルロとエリカが亡命をするという微妙な内容だったりします。どちらにせよサルバディール皇国は滅亡から逃れられません。
(確か戦争の原因は鉱山だったよね……)
一応は何事もなく関係を続けていた両国なのですけれど、境界線上に鉱山が発見されてからは関係がおかしくなってしまいます。
先に兵を配置した側こそサルバディール皇国でありますが、当然のこと帝国も兵を配備することに。
イセリナであった頃の私は静観していました。
セントローゼス王国が小国同士のいざこざに首を突っ込む必要はなかったからです。
(皮肉なことに、どちらも敗者なのよね……)
サルバディール皇国を滅ぼしたヴァリアント帝国でしたが、長く続いた戦争にて帝国は疲弊していました。
拡大した領土を掌握する時間がなかった帝国は国力を回復させる間もなく、第三者であったノヴァ聖教国によって敢えなく滅亡に追い込まれてしまいます。
「汝は知っておるのか……?」
まあ流石に今の時点で両国の関係を知る者は少ないでしょう。
皇様や重鎮、政務に携わる者だけであったはず。
「もちろんですわ。しけた鉱山の取り合いだなんて情けないと思います」
「ア、アナスタシア様!?」
声を荒らげるように私を制するリックですが、生憎とスイッチが入っちゃったのよね。
私は皇様に頼み込む立場じゃなく、頼られる側になりたいのよ。
「件の鉱山は考えられているような採掘量が見込めません。ここは帝国と交渉すべきです。鉱山を譲る代わりに、境界線上に浮かぶ島を求めるべきでしょう。あの島も互いが領有権を主張していますよね?」
サルバディール皇国の領土はいずれセントローゼス王国のものとなります。
新たな統治者ノヴァ聖教国は割と頭が切れる人たちでありました。
拡がった領土を独り占めするのではなく、強国セントローゼス王国に擦り寄る方針を掲げていたのです。
セントローゼス王国はサルバディール皇国であった土地を譲り受け、対等な和平条約を結んだのですから。
「あの島に価値はないだろう?」
貴方たちは調査をしていないだろうけど、私は知っているの。
思考する頭があるのなら、よく考えることね。
私は知りうる事実を伝えるだけ。ノヴァ聖教国がくれた島がどういったものであるのかを。
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