青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
75 / 377
第四章 歪んだ愛の形

新たなルート

しおりを挟む
 ルークが去って行ったあと、私は考えていました。

 いきなりであったから、追い返しただけ。

 何のプランニングもできていません。まあしかし、ある程度の予測はしています。

「ルークとキスしなかった世界線……」

 それは過去に一度だけありました。

 死に戻りに苛立った末、頭突きをかました世界線に。

「コンラッドが現れる……」

 キャサリン・デンバーの誕生パーティーはずっとアドルフが執事であったというのに、キスをしなかった世界線だけは手練れの暗殺者コンラッドが現れていたのです。

 先ほどの世界線では王家の力を借り、ランカスタ公爵家に潜り込めました。

 しかし、この世界線において、私は岩山イベントを待つしか髭に会えないのです。

 加えて陞爵すら断った私は元の子爵令嬢に戻っています。

「リセットされないなら、まだ道は切り開ける」

 王家との関わりを断ったというのに、今も意識はハッキリとしています。

 ならば、まだ未来は繋がっている。

 やはり重要なのはランカスタ公爵家へと入り込むことなのでしょう。

 この先の未来は確実にアルティメットモードだ。

 後ろ盾を失っただけでなく、誕生パーティーイベントにはコンラッドが現れる可能性が高い。

 準備期間もないというのに、私は最悪の暗殺者と戦わねばなりません。

「コンラッドは危険だ。彼の有能さはもう嫌というほど分かっている」

 死に戻ると、再びルークとの別れが待っています。

 それだけは二度と経験したくない。彼との別れは一度だけで充分なんだ。

「確かサルバディール皇国を中心に活動しているって話してたわね……」

 私は考える。

 軍資金といえば、髭を騙すために掘ったミスリルだけ。現状は白金貨三枚分掘ったところです。

「少しずつ売却すれば何とかなるかしら?」

 売却が髭にバレてはリセットが確定する。

 髭には残りの二枚分相当で満足してもらうとして、白金貨三枚分は私の旅費としよう。

「コンラッドをもう一度仲間に引き入れなきゃ……」

 そうと決まれば旅立ちの準備。かといって手荷物があるわけでもなく、両親に書き置きをするだけです。

 ただ旅に出ると……。

「早速、出発だ。あと二年しかないのだし」

 子爵家に一頭しかいない馬は持って行けない。

 なので私は徒歩にて子爵領を後にしました。当然のことマリィもついてくるのですが、この頃はベッタリなので仕方ありません。

「とりあえず髭に会う……」

 十四歳まで待っていられない。

 コンラッドと戦う道もありましたけれど、やはり彼を味方に付けた方が確実です。正攻法など選んでいられません。

 しかし、ランカスタ公爵家まで馬でも一週間以上かかってしまう。徒歩でなら何日かかるか分かりません。

 さりとて私は決意を覚悟に変えた女です。無茶をしてでも赴くだけですから。

「山越えだね……」

 移動だけで一ヶ月とか無駄なことはしない。

 ミスリルの岩山を越えて、公爵領へと入る。関所を経由しない違法行為ですけれど、越える瞬間を見つからない限り問題はありません。

 マリィを連れて歩き出す。何度も通った岩山に向かって……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...