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第三章 鮮血に染まる赤薔薇を君に
思わぬ出会い
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私に声をかけたのはBlueRoseの主人公エリカ・ローズマリーでした。
「私のことご存じなのでしょうか?」
まぁたしくったわね。
まあでも、彼女は授爵したのだし、知っていてもおかしくないよね?
「ええ、知っているわ。准男爵でしたっけ?」
エリカは頷いている。
何の用事かな。前世では一度も話しかけられなかったから驚いてしまったわ。
「突然、お声かけして申し訳ございません。下位貴族ですのに……」
「いやいや、そこは気にしないで! 私も元は下位貴族なんだから!」
本当に驚いた。まさかエリカに話しかけられるなんて。
恐らく彼女は自身の身分を気にしてイセリナには話しかけられなかったのでしょう。
「私は王家にお世話になっているのですけれど、よくアナスタシア様のお話を耳にしております。まあそれで、少しばかりアナスタシア様に興味がございまして……」
どうやら王子殿下の二人がエリカに興味を抱かせたみたいね。
(この子はどう対処しているのかしら?)
疑問は当然あった。
エリカが王城勤めを始めてから三年が経過しているはず。主人公補正でもって王子たちを籠絡できなかったのかと。
「アナスタシア様はルーク殿下を嫌っておられるのでしょうか?」
私が話すよりも前にエリカが聞いた。
私の鼓動が高鳴っていく。どうしてそんな話を始めるのかと。
「どうして……?」
理由は明らかであったというのに、私は問いを返してしまう。
「いえ、アナスタシア様はルーク殿下から逃げておられました。だからその、どうしてなのかと……」
イセリナでも気付く話です。
主人公エリカが疑問に感じないはずはない。
だけど、私には答えられる内容がありません。私の目的は好きや嫌いなどではなかったのですから。
「ルーク殿下は酷く落ち込まれておられました。貴族院に入る前は久しぶりに会えると喜んでおられたというのに」
三年も会っていなかったというのに、ルークはエリカに入れ込んでいないようです。
サヨナラの意味を彼はよく理解していなかったのかもしれません。
「私は伯爵令嬢ですの。第一王子の気を引いたなんて噂されてしまえば、伯爵家の風当たりが強くなってしまうわ。だから近付けない。近付いて欲しくない……」
こんな今も胸を刺すような痛みを覚えています。
それは間違っても本心じゃない。明確に心を理解していたというのに、私は自分の心情をも欺く言葉を口にするしかできません。
ただひたすらに悪役令嬢の道を歩まねばならないのですから。
「ルーク殿下は身分など気にされませんが……」
「うるさい!!」
私は怒鳴りつけていた。
清浄なる光エリカ・ローズマリーは良かれと思って話しかけてくれたというのに。
かといって、私は冷静になれないほど苛立っていました。
「黙りなさい! 私はルーク殿下など……」
どうしてだろう。私は言いかけて口を噤む。
それどころか瞳からは涙が零れ落ちていました。
こんなにも弱い人間だったのかな。
涙は女の武器というけれど、私にはそんなつもりがない。
ただ胸の痛みに耐えきれず、涙が頬を伝ってしまうだけ。
「アナスタシア様……?」
「怒鳴ってごめんなさい。私は自分の気持ちに気付いています。でもね、それは願っちゃいけないことなのよ。だから私は向き合わない。永遠に平行線を辿り、近付いてくるのなら離れるだけ。どうか、私の心を惑わさないで。もう決めたことだし、納得もしているのだから」
少女のように泣きじゃくる私をエリカは介抱してくれました。
きっと私の気持ちに気付いたことでしょう。
できれば察して欲しいわ。今の話はここだけにしてもらいたい。
「アナスタシア様が目指されているものは何でしょうか?」
背中をさすりながらエリカが聞いた。
流石に聖女なだけはあります。まあでも、その質問には答えられない。
悩みをぶちまけたところで、私の目的は変わらないのだし、何より世界を救うなんて話ができるはずもありません。
「胡蝶蘭の夜会――――」
もし仮に伝えられることがあるとすればそれだけだ。
恋愛に関しては決定事項だし、今世で私の意志が反映されるとすれば、卒業式のあとにある夜会のみ。そこで私は再び輝きたいのです。
「胡蝶蘭の夜会でしょうか?」
「今は気にしなくてもいいわ。でも、きっと貴方もそこにいるから……」
それだけは間違いない。本来なら主人公エリカが最も輝く場所なのだから。
星たちが照らし出す純白のテラス。晴れて成人した王子様と踊るのはエリカなのです。
二代に亘って役割を奪うのは悪いと思いますが、私はきっと停滞する世界を動かしてみせる。愛を捨ててまで私は世界を選んでいるのですから。
「エリカさん、貴方は准男爵。恐らく悪目立ちするでしょう。何かあれば手を貸します。私を頼ってください」
これでいいはずだ。
今世ではエリカを味方につけよう。貴方に相応しい殿方を私が捜してあげる。
千年後、いえ三千年後かもしれません。でも必ず達成するわ。
再びプロメティア世界が時を刻み始めるように。
「私のことご存じなのでしょうか?」
まぁたしくったわね。
まあでも、彼女は授爵したのだし、知っていてもおかしくないよね?
「ええ、知っているわ。准男爵でしたっけ?」
エリカは頷いている。
何の用事かな。前世では一度も話しかけられなかったから驚いてしまったわ。
「突然、お声かけして申し訳ございません。下位貴族ですのに……」
「いやいや、そこは気にしないで! 私も元は下位貴族なんだから!」
本当に驚いた。まさかエリカに話しかけられるなんて。
恐らく彼女は自身の身分を気にしてイセリナには話しかけられなかったのでしょう。
「私は王家にお世話になっているのですけれど、よくアナスタシア様のお話を耳にしております。まあそれで、少しばかりアナスタシア様に興味がございまして……」
どうやら王子殿下の二人がエリカに興味を抱かせたみたいね。
(この子はどう対処しているのかしら?)
疑問は当然あった。
エリカが王城勤めを始めてから三年が経過しているはず。主人公補正でもって王子たちを籠絡できなかったのかと。
「アナスタシア様はルーク殿下を嫌っておられるのでしょうか?」
私が話すよりも前にエリカが聞いた。
私の鼓動が高鳴っていく。どうしてそんな話を始めるのかと。
「どうして……?」
理由は明らかであったというのに、私は問いを返してしまう。
「いえ、アナスタシア様はルーク殿下から逃げておられました。だからその、どうしてなのかと……」
イセリナでも気付く話です。
主人公エリカが疑問に感じないはずはない。
だけど、私には答えられる内容がありません。私の目的は好きや嫌いなどではなかったのですから。
「ルーク殿下は酷く落ち込まれておられました。貴族院に入る前は久しぶりに会えると喜んでおられたというのに」
三年も会っていなかったというのに、ルークはエリカに入れ込んでいないようです。
サヨナラの意味を彼はよく理解していなかったのかもしれません。
「私は伯爵令嬢ですの。第一王子の気を引いたなんて噂されてしまえば、伯爵家の風当たりが強くなってしまうわ。だから近付けない。近付いて欲しくない……」
こんな今も胸を刺すような痛みを覚えています。
それは間違っても本心じゃない。明確に心を理解していたというのに、私は自分の心情をも欺く言葉を口にするしかできません。
ただひたすらに悪役令嬢の道を歩まねばならないのですから。
「ルーク殿下は身分など気にされませんが……」
「うるさい!!」
私は怒鳴りつけていた。
清浄なる光エリカ・ローズマリーは良かれと思って話しかけてくれたというのに。
かといって、私は冷静になれないほど苛立っていました。
「黙りなさい! 私はルーク殿下など……」
どうしてだろう。私は言いかけて口を噤む。
それどころか瞳からは涙が零れ落ちていました。
こんなにも弱い人間だったのかな。
涙は女の武器というけれど、私にはそんなつもりがない。
ただ胸の痛みに耐えきれず、涙が頬を伝ってしまうだけ。
「アナスタシア様……?」
「怒鳴ってごめんなさい。私は自分の気持ちに気付いています。でもね、それは願っちゃいけないことなのよ。だから私は向き合わない。永遠に平行線を辿り、近付いてくるのなら離れるだけ。どうか、私の心を惑わさないで。もう決めたことだし、納得もしているのだから」
少女のように泣きじゃくる私をエリカは介抱してくれました。
きっと私の気持ちに気付いたことでしょう。
できれば察して欲しいわ。今の話はここだけにしてもらいたい。
「アナスタシア様が目指されているものは何でしょうか?」
背中をさすりながらエリカが聞いた。
流石に聖女なだけはあります。まあでも、その質問には答えられない。
悩みをぶちまけたところで、私の目的は変わらないのだし、何より世界を救うなんて話ができるはずもありません。
「胡蝶蘭の夜会――――」
もし仮に伝えられることがあるとすればそれだけだ。
恋愛に関しては決定事項だし、今世で私の意志が反映されるとすれば、卒業式のあとにある夜会のみ。そこで私は再び輝きたいのです。
「胡蝶蘭の夜会でしょうか?」
「今は気にしなくてもいいわ。でも、きっと貴方もそこにいるから……」
それだけは間違いない。本来なら主人公エリカが最も輝く場所なのだから。
星たちが照らし出す純白のテラス。晴れて成人した王子様と踊るのはエリカなのです。
二代に亘って役割を奪うのは悪いと思いますが、私はきっと停滞する世界を動かしてみせる。愛を捨ててまで私は世界を選んでいるのですから。
「エリカさん、貴方は准男爵。恐らく悪目立ちするでしょう。何かあれば手を貸します。私を頼ってください」
これでいいはずだ。
今世ではエリカを味方につけよう。貴方に相応しい殿方を私が捜してあげる。
千年後、いえ三千年後かもしれません。でも必ず達成するわ。
再びプロメティア世界が時を刻み始めるように。
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