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第三章 鮮血に染まる赤薔薇を君に

清浄なる光エリカ・ローズマリー

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 ソレスティア王城ではとある女性の簡易的な授爵式が行われていた。

 彼女の名はエリカ・ローズマリー。孤児院出身であったけれど、希有な光属性を持つ。

 エリカはシスターとして雑務をこなす傍ら、教会にて孤児たちに勉強を教えたり、神聖魔法にて無償治療をしたりと貧民街にて聖女と呼ばれている。

 さりとて、授爵の理由は人道的活躍が認められたわけではなく、光属性を持つという理由だけでしかない。

 何しろ光属性は女神の加護とされている。何百年に一人存在するかしないかという確率でしか発現しないのだ。

 従って、セントローゼス王国は彼女が国外に引き抜かれないように、王国へと縛り付ける必要があっただけである。

 授爵式が終わったエリカは謁見の間をあとにしていく。

 爵位は准男爵。それも一代貴族であり、彼女の子供たちには引き継がれない。ただ王国の貴族という肩書きを与えられただけのよう。

「エリカさま、おめでとうございます!」

 謁見の間をあとにしたエリカに声かけがあった。

 幼い声の通りに、小さな女の子の姿がある。素敵なドレスに身を包んだ彼女はシャルロット王女殿下に他ならない。

「シャルロット様、ありがとうございます。身に余る栄誉です」

「エリカさまはご立派です! お父様が仰っておられました。価値のない貧民を無償で救うなど誰にもできないと。貧民を救ってやるなんて無駄なことなのに、それを成したのだと!」

 エリカは苦い顔をしている。自分もその貧民の一人であったからだ。

 かといって、王族からすると価値がないという理由は理解できる。

 貧民は何も生み出さない。産まれて死ぬだけ。社会に対する貢献などないに等しいものだ。

「シャルロット様にとって、私の価値はなんでしょうか?」

 まずは問いを返している。

 王族の認識を変えるなどおこがましいことであったけれど、それとなく彼女が考えてくれることを願って。

「エリカさまの価値など決まっておりますわ! 万人が求める光属性をお持ちなのですから!」

 屈託のない笑顔からは悪意を感じない。

 だが、貧民からすれば、シャルロットの返答は明確に存在を否定する。彼女にとって人の価値とは使えるか使えないかの二択。人柄や努力を考慮しない評価はほぼ全ての貧民を切り捨てることであった。

「ならば、私に光属性がなければ、私は無価値でしょうか?」

 エリカは少しばかり意地になっていた。

 シャルロットが育った環境を考えると、彼女は悪くなかったはず。短い人生にて知ったままの事実を口にしているだけなのだから。

「エリカさまは光属性をお持ちです! あたくしはそれを存じております。凄いです!」

 このような話をスラム街の教会で口にできるはずもなかった。

 たちまち暴動へと発展しかねない王族の考えはこの場限りとし、引き摺ってはならないと思う。

「シャルロット殿下、来年からどうぞよろしくお願いいたします」

 エリカは問答を止め、挨拶だけをすることにした。

 王女殿下の認識をこの場で変えられるはずもないのだと。

 ただ立ち去るだけだと考えていたエリカ。しかし、続けられたシャルロットの話は彼女の興味を惹く。

「エリカさまは本来なら、あたくしの教育係ではなかったのです! 最近までアナスタシアさまが、あたくしにお勉強を教えてくれることになっていました。アナスタシアさまも光属性をお持ちなのです!」

 ここも悪意のない話。でも初耳であった。自分以外に光属性を持つ者がいるなんてと。

「どなた様なのでしょうか?」

「北に山があるでしょ? あの山の向こう側の田舎令嬢ですわ。お兄様たちはアナスタシア様の話ばかりしております。それで、あたくしもその気になっていたのですけれど、東の髭という人にアナスタシアを取られてしまったのです」

 東の髭が誰であるのか、孤児院出身のエリカには分からない。

 しかし、光属性の持ち主が貴族であったなら、引く手あまたであったと思う。何しろ、孤児であった自分でも爵位が与えられるくらいなのだ。

「それは残念でしたね……?」

「ああいえ、シャルロットはエリカさまで良かったのです! 来年からよろしくお願いいたします!」

 エリカは頷いていた。

 十一歳であるシャルロットは悪くない。

 寧ろ彼女は純粋だと思う。環境のせいでその思考が偏っているだけ。少しずつ話し合っていけば、シャルロットならば分かってもらえるはずと。

 笑顔で会釈をし、エリカは王城を去って行くのだった。
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