青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第二章 繰り返す時間軸

得られたこと

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 ランカスタ公爵家へと戻った私は早速と髭に呼び出されています。

「アナ、良くやったな。期待したままの成果だ!」

「まだ喜ぶのは早いですよ。デンバー侯爵領が手に入るのか分かりませんし、肝心のリッチモンド公爵がまだ捕まっていないのですから」

 気持ちを切り替えて行く。

 私は突き進むだけだ。

 結論として得られたのは世界線を動かすこと。

 私の使命はそれであって、充実した今世を過ごすことではないのだと。

「まあコンラッドなら上手くやってくれるだろう。どうやらリッチモンド公爵家の捜査に王家が乗り出すらしい。儂の陰がそう話していた」

 やはり髭の暗部は優秀らしい。

 六時間ほど前の出来事であったというのに、既に王家の動きを察知しているなんて。

「そうですか。まあイセリナ様が無事で何よりです。それで公爵様にお願いがあるのです」

 丁度いい機会だ。イセリナはもう眠ってしまったし、この髭と腹を割って話したいことが私にはあった。

 髭は頷きつつも、何が願いだと問いを返しています。

 充分な成果を上げた私には相応の褒美を与えてくれるはず。

 彼は非常にドライな性格をしておりますけれど、成果に対する褒美をケチるような人間ではないのですから。

「実は貴族院に入るまで公爵家で雇って欲しいのです」

 別に無理難題というわけではありません。

 私はただ今の生活を続けたいと伝えています。

「貴族院に? アナは来年から王城で働くことになっていただろう?」

「それが働きたくなくなったのです。公爵から王家にお断りの連絡を入れて欲しいのですが……」

 やはり私は王城へ行くべきではない。

 どの面下げて毎日顔を合わせろと言うの? 暗殺を試みた私が彼の前に出られるはずもありません。

 この燻る想い。鬱屈としたこの気持ちに終止符を打たねばなりません。

 悪に徹することを決意していたはずが、実際はルークを毒殺未遂しただけで心が折れている。

 彼と過ごした七十五年という歳月のせいなのか、或いは私の覚悟がまだ足りないのか。

 いずれにせよ、私は王城に入り込む気はなくなっていました。

(シャルロット王女殿下の教育係をするのなら、毎日ルークに会うはずよ……)

 そこで私が正気でいられるのかどうか自信がありません。

 私にはセシルと結ばれなくてはならないという使命があるのだから。

(クリアだけを目指すの……)

 幸いにもセシルは既に好意を示してくれているし、王城で働く意義はもうないようなもの。

 だとすれば余計な感情を抱くことなく、ランカスタ公爵家にて生活すべきでしょう。

「まあ儂は構わん。王家が納得するかは分からんがな」

「それで結構です。私が王家で働きたくないと話していたと伝えてもらえれば構いません。あと貴族院に入るお金を出してください」

「それくらい安いものだ。しかし、王家で働けば、それなりの金額が支給されただろうに」

 とりあえず髭の同意を得た。

 これにより私は王城で働く必要はなくなるはずです。

 私が難色を示していること。王家も私の意志を尊重してくれると思います。

(どうしようもない……)

 私は自分が何をしているのかも分からないのです。

 この決断によりレジュームポイントへ戻されるのなら有り難い。

 異なる世界線ではきっと上手く立ち回れるはず。

 ルークとの接触を最小限とし、セシルの攻略に専念できることでしょう。

 何にせよ現状の世界線は負担にしか感じられません。

 ルークは前世の夫。そう心に投げかけたとして、私はどうしても割り切れないのです。

 今世では繋がりが薄い彼を毒殺しようとしたこと。仮にセシルが現れていたらどうなっていたのか。

 考えるほどに私は深みへと落ちていきました。

 だからこそ、関わらない。

 王子殿下の二人にはもう会わないことに決めました。

 この世界線は私にとって辛すぎるのですから……。
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