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第二章 繰り返す時間軸
前座
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デンバー侯爵による長々とした話のあと、一転して和やかな雰囲気となる。
楽団の選曲は暗殺未遂を吹き飛ばす軽快な楽曲が選択されていました。
(ま、多少のいざこざはよくあることだし)
無差別であればその限りではなかったものの、明確にイセリナが狙われた事実。
未遂に終わったこともあり、参加者たちは各々に歓談したり食事をしたりと楽しみ始めています。
(私たちの勝負所はまだ先だね……)
イセリナの暗殺はコンラッドのおかげで既に解決しているといえます。
つまり、リッチモンド公爵に冤罪を押し付けることこそが、此度の勝負所でした。
リラックスタイムのような楽団による演奏とデンバー侯爵の挨拶が終わり、いよいよイベントはイセリナの祝辞へと進行していきます。
イセリナがグラスを掲げた瞬間、照明魔法の効果が切れました。
ここは予定通り。コンラッドの裏切りを悟らせないためであり、私が無双するというちょっとしたズルでした。
(覚悟しなさい!)
私は刹那に駆け出しています。
事前に暗殺者の動きを聞いていた私は的確に短刀を振る。
イセリナを守りながら、一人二人と斬っていくのです。コンラッドの話では暗殺者は四人であるみたい。
この世界は命の価値がとても軽い。それは平民だけでなく、貴族も同じです。
騙される方が悪い。殺される方が悪い。
まるで悪を容認するかのような思考が蔓延しています。
殺さねば殺されるだけ。だから私は躊躇することなく、全てを斬り裂いていく。
障害となる暗殺者全員を照明魔法が回復するまでに……。
約十秒が過ぎて、照明魔法が回復しました。
会場だけでなくステージ上も照らし出され、暗がりの間に何が起きたのかを明らかとしています。
叫声が至るところから聞こえる。なぜならステージには血まみれの私が立っていたから。
「たった今、暗殺者がイセリナ様を襲いました。少しばかり私は苛立っております。卑劣な暗殺を企てようとした者たち……」
来場者全員に植え付けるのみ。
この場にはイセリナを狙う者が存在し、私たちは絶対的に善であるのだと。
「この会場外にいるだろう黒幕は絶対に許しません!!」
リッチモンド公爵を匂わせる発言を口にする。
これにより次なる暗殺未遂が黒幕をあぶり出すことになるはずです。
たとえ、それが捏造された暗殺計画であったとしても。
騒然とするパーティー会場。しかし、一瞬のあと、私に盛大な拍手が送られています。
正直に貴族令嬢として褒められた行動ではないのですけれど、私しかこの茶番の主役を演じられないのですから仕方ありません。
徐に死体を処理するコンラッドをよそ目に、私はデンバー侯爵へ頭を下げる。
「侯爵様、お祝いの場を血で穢してしまい申し訳ございません。しかし、私はイセリナ様の護衛も兼ねております。ご理解いただけましたら幸いでございます」
「う、うむ。良くやってくれた……」
この様子からデンバー侯爵は何も知らされていないのかもしれません。
彼はただ利用されているだけかもしれない。
「侯爵様、気を取り直しましてパーティーを続けましょう。キャサリン様の晴れの舞台。血で汚れたままであるよりも、楽しい思い出で上書きいたしましょう」
私の意見に頷くデンバー侯爵。私は仕切り直しの宣言を促すだけです。
基本的に貴族たちは人の死をも楽しむような輩ばかり。
自分に危害が及ばぬのなら、殺し合いをも見世物にしてしまう人たちなのです。
(ホント、穢れてるわ……)
殺されたのが暗殺者であり、狙われたのがイセリナで確定しているのなら、彼らは恐怖するよりも興奮することでしょう。救いようのない悪こそが貴族なのですから。
「皆様、見苦しいものを見せてしまったようだ。間者が紛れていたようであったが、イセリナ様の護衛が見事に討ち取ってくれたぞ! これより会場内の警備を増強する。どうか安心してパーティーを楽しんでくれ!」
期待していたままの話にホッと一安心。
リッチモンド公爵家の没落は今夜と決まっているのよ。前座の段階で終わらせるわけにはなりません。
全てが私の計画通り。私はたった一人、笑みを浮かべている。
地獄へと向かうパーティーの継続を私は願っていたのだから……。
楽団の選曲は暗殺未遂を吹き飛ばす軽快な楽曲が選択されていました。
(ま、多少のいざこざはよくあることだし)
無差別であればその限りではなかったものの、明確にイセリナが狙われた事実。
未遂に終わったこともあり、参加者たちは各々に歓談したり食事をしたりと楽しみ始めています。
(私たちの勝負所はまだ先だね……)
イセリナの暗殺はコンラッドのおかげで既に解決しているといえます。
つまり、リッチモンド公爵に冤罪を押し付けることこそが、此度の勝負所でした。
リラックスタイムのような楽団による演奏とデンバー侯爵の挨拶が終わり、いよいよイベントはイセリナの祝辞へと進行していきます。
イセリナがグラスを掲げた瞬間、照明魔法の効果が切れました。
ここは予定通り。コンラッドの裏切りを悟らせないためであり、私が無双するというちょっとしたズルでした。
(覚悟しなさい!)
私は刹那に駆け出しています。
事前に暗殺者の動きを聞いていた私は的確に短刀を振る。
イセリナを守りながら、一人二人と斬っていくのです。コンラッドの話では暗殺者は四人であるみたい。
この世界は命の価値がとても軽い。それは平民だけでなく、貴族も同じです。
騙される方が悪い。殺される方が悪い。
まるで悪を容認するかのような思考が蔓延しています。
殺さねば殺されるだけ。だから私は躊躇することなく、全てを斬り裂いていく。
障害となる暗殺者全員を照明魔法が回復するまでに……。
約十秒が過ぎて、照明魔法が回復しました。
会場だけでなくステージ上も照らし出され、暗がりの間に何が起きたのかを明らかとしています。
叫声が至るところから聞こえる。なぜならステージには血まみれの私が立っていたから。
「たった今、暗殺者がイセリナ様を襲いました。少しばかり私は苛立っております。卑劣な暗殺を企てようとした者たち……」
来場者全員に植え付けるのみ。
この場にはイセリナを狙う者が存在し、私たちは絶対的に善であるのだと。
「この会場外にいるだろう黒幕は絶対に許しません!!」
リッチモンド公爵を匂わせる発言を口にする。
これにより次なる暗殺未遂が黒幕をあぶり出すことになるはずです。
たとえ、それが捏造された暗殺計画であったとしても。
騒然とするパーティー会場。しかし、一瞬のあと、私に盛大な拍手が送られています。
正直に貴族令嬢として褒められた行動ではないのですけれど、私しかこの茶番の主役を演じられないのですから仕方ありません。
徐に死体を処理するコンラッドをよそ目に、私はデンバー侯爵へ頭を下げる。
「侯爵様、お祝いの場を血で穢してしまい申し訳ございません。しかし、私はイセリナ様の護衛も兼ねております。ご理解いただけましたら幸いでございます」
「う、うむ。良くやってくれた……」
この様子からデンバー侯爵は何も知らされていないのかもしれません。
彼はただ利用されているだけかもしれない。
「侯爵様、気を取り直しましてパーティーを続けましょう。キャサリン様の晴れの舞台。血で汚れたままであるよりも、楽しい思い出で上書きいたしましょう」
私の意見に頷くデンバー侯爵。私は仕切り直しの宣言を促すだけです。
基本的に貴族たちは人の死をも楽しむような輩ばかり。
自分に危害が及ばぬのなら、殺し合いをも見世物にしてしまう人たちなのです。
(ホント、穢れてるわ……)
殺されたのが暗殺者であり、狙われたのがイセリナで確定しているのなら、彼らは恐怖するよりも興奮することでしょう。救いようのない悪こそが貴族なのですから。
「皆様、見苦しいものを見せてしまったようだ。間者が紛れていたようであったが、イセリナ様の護衛が見事に討ち取ってくれたぞ! これより会場内の警備を増強する。どうか安心してパーティーを楽しんでくれ!」
期待していたままの話にホッと一安心。
リッチモンド公爵家の没落は今夜と決まっているのよ。前座の段階で終わらせるわけにはなりません。
全てが私の計画通り。私はたった一人、笑みを浮かべている。
地獄へと向かうパーティーの継続を私は願っていたのだから……。
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