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第二章 繰り返す時間軸
忘れもしない暗殺者
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ランカスタ公爵家に居候をして一年が経過していました。
スカーレット伯爵家での準備も万端であり、毒シタケの栽培や王家による開墾は予定よりもずっと進んでいます。
あと数年もあれば、広大な伯爵領の殆どが小麦畑となるのではないでしょうかね。
そんなある日、私は髭に呼び出され、彼の執務室へとやって来ました。
目の前には分厚い資料。何の仕事を任せられるのかと思いきや、それはずっと待っていたものでした。
「とりあえず、近隣で暗殺者として活動している者のリストだ。目を通してくれ」
手渡されたのは暗殺者の人相書き。私は食い入るようにリストを確認しています。
忘れもしないコンラッドという執事。
全ての世界線において、私の攻略法を破ったのは彼だけなのです。
盗聴には気を付けていたというのに、まんまと情報を盗まれてしまった私は完全敗北を喫していました。
王国中の全暗殺者が纏められたようなリスト。
数時間に亘り睨めっこをした結果、最後の方に私はコンラッドを見つけています。
【コードネーム】サイファー
(こいつだ……)
髪色はロマンスグレーじゃなかったけれど、目、鼻、口、輪郭に至るまで私の記憶と合致する。
「このサイファーという暗殺者にコンタクトを取ってください。幾らでもお金を積んで、最低でも二年の契約をお願いいたします」
「むぅ? この男はまだ経験が浅いようだが、構わないのか?」
手練れだと思っていた私の予想と違うけれど、サイファーは間違いなくコンラッドです。
恐らくは暗殺者ギルドを介した仕事をあまりしていないだけでしょう。
「かなりの手練れです。私は報告書の方に疑問を感じますわ」
あと一年しかない。リッチモンド公爵家が直前に計画したとは思えないのです。
だからこそ、先手を打っておくべきだわ。
「ならばサイファーを呼び寄せる。それだけで充分なんだな?」
私は頷きを返しています。
既に私は髭の信頼を得ている。私の予知に間違いはないのだと。
直ぐさま髭は執事を呼び、サイファーとの契約について指示を出す。
行動が早いのは本当に助かるわね。
「ところで、アナスタシア。今晩はイセリナに連れ添い王城へと行ってもらうことになる。ルーク王子殿下の聖浄式《せいじょうしき》が催されるからな。儂は今から出立する予定だが、イセリナの支度が調い次第会場入りするように」
聖浄式とは春立祭の追儀です。
十二歳を迎えた人間は穢れを覚えていくとされています。
よって十三歳の年に穢れを払う儀式が催されるのです。
第一王子殿下の聖浄式なのですから、きっと盛大に執り行われることでしょう。
(そっか。もう十三歳になるのね……)
十三歳はまだゲームに追いついておりません。
清浄式は十五歳から始まるゲームにはないイベントでした。
さりとて、イセリナとして過ごした前世において、私はルークの聖浄式に参列したことを覚えています。
「寒くなるはずですわね? もう冬なのだと理解しました」
「クック、貴殿は本当に見た目と思考が一致しないな? まるで年老いた大臣のようだぞ?」
大臣とは失礼な。これでも私はまだ十三歳の少女だっつーの。
「うら若き乙女ですわ。まあそれで聖浄式の件は承知しました。恐らく聖浄式では何事もないでしょうが……」
聖浄式において問題ごとはないと断言できる。
何しろ王家主催の儀式です。
上位貴族が勢揃いする場所で謀を企てるなんて馬鹿な話ですから。
加えて、私が関与していない世界線でも、イセリナはこのイベントをクリアしていたのですし。
急に忙しくなっていました。
私は今もまだベッドから出てこない姫君を叩き起こして、王城へと向かわねばならないようです。
スカーレット伯爵家での準備も万端であり、毒シタケの栽培や王家による開墾は予定よりもずっと進んでいます。
あと数年もあれば、広大な伯爵領の殆どが小麦畑となるのではないでしょうかね。
そんなある日、私は髭に呼び出され、彼の執務室へとやって来ました。
目の前には分厚い資料。何の仕事を任せられるのかと思いきや、それはずっと待っていたものでした。
「とりあえず、近隣で暗殺者として活動している者のリストだ。目を通してくれ」
手渡されたのは暗殺者の人相書き。私は食い入るようにリストを確認しています。
忘れもしないコンラッドという執事。
全ての世界線において、私の攻略法を破ったのは彼だけなのです。
盗聴には気を付けていたというのに、まんまと情報を盗まれてしまった私は完全敗北を喫していました。
王国中の全暗殺者が纏められたようなリスト。
数時間に亘り睨めっこをした結果、最後の方に私はコンラッドを見つけています。
【コードネーム】サイファー
(こいつだ……)
髪色はロマンスグレーじゃなかったけれど、目、鼻、口、輪郭に至るまで私の記憶と合致する。
「このサイファーという暗殺者にコンタクトを取ってください。幾らでもお金を積んで、最低でも二年の契約をお願いいたします」
「むぅ? この男はまだ経験が浅いようだが、構わないのか?」
手練れだと思っていた私の予想と違うけれど、サイファーは間違いなくコンラッドです。
恐らくは暗殺者ギルドを介した仕事をあまりしていないだけでしょう。
「かなりの手練れです。私は報告書の方に疑問を感じますわ」
あと一年しかない。リッチモンド公爵家が直前に計画したとは思えないのです。
だからこそ、先手を打っておくべきだわ。
「ならばサイファーを呼び寄せる。それだけで充分なんだな?」
私は頷きを返しています。
既に私は髭の信頼を得ている。私の予知に間違いはないのだと。
直ぐさま髭は執事を呼び、サイファーとの契約について指示を出す。
行動が早いのは本当に助かるわね。
「ところで、アナスタシア。今晩はイセリナに連れ添い王城へと行ってもらうことになる。ルーク王子殿下の聖浄式《せいじょうしき》が催されるからな。儂は今から出立する予定だが、イセリナの支度が調い次第会場入りするように」
聖浄式とは春立祭の追儀です。
十二歳を迎えた人間は穢れを覚えていくとされています。
よって十三歳の年に穢れを払う儀式が催されるのです。
第一王子殿下の聖浄式なのですから、きっと盛大に執り行われることでしょう。
(そっか。もう十三歳になるのね……)
十三歳はまだゲームに追いついておりません。
清浄式は十五歳から始まるゲームにはないイベントでした。
さりとて、イセリナとして過ごした前世において、私はルークの聖浄式に参列したことを覚えています。
「寒くなるはずですわね? もう冬なのだと理解しました」
「クック、貴殿は本当に見た目と思考が一致しないな? まるで年老いた大臣のようだぞ?」
大臣とは失礼な。これでも私はまだ十三歳の少女だっつーの。
「うら若き乙女ですわ。まあそれで聖浄式の件は承知しました。恐らく聖浄式では何事もないでしょうが……」
聖浄式において問題ごとはないと断言できる。
何しろ王家主催の儀式です。
上位貴族が勢揃いする場所で謀を企てるなんて馬鹿な話ですから。
加えて、私が関与していない世界線でも、イセリナはこのイベントをクリアしていたのですし。
急に忙しくなっていました。
私は今もまだベッドから出てこない姫君を叩き起こして、王城へと向かわねばならないようです。
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