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第二章 繰り返す時間軸
前倒しの交渉
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ルークからの手紙は翌日に届いた。
長いキスの前払いが効いたのか、早速と約束を取り付けてくれたらしい。
私はペガサスの操舵手から手紙を受け取るや、その場で開封する。
ランカスタ公爵と面会する日取りがいつなのかを直ぐさま確認しています。
「えっ……?」
しかし、瞬間的に固まってしまう。記されたあり得ない内容には愕然とさせられていました。
「今日って、急すぎるでしょ!?」
何度、読み返したとして、本日と書いてある。
急かしたのは私自身ですけれど、流石にまだ取り入る方法を何も考えていません。
手紙によると、ペガサス便に乗せてもらえるみたい。
だけど、ペガサスには二人までしか乗れないそうなので、私だけが向かうことになるようです。
加えてランカスタ公爵はちょうどソレスティア王城にいるとのことで、今日を逃せば面会は何ヶ月も先になってしまうのだとか。
「ダンツは必要ないけれど、あの髭は十二歳の女児に会ってくれるの?」
どうにも不可解でした。
子供の遊びに髭が付き合ってくれるとは考えられないし、王家が適当な約束を取り付けるはずもありません。
恐らく王家からの要請に渋々と同意し、面倒ごとを早々に済ませようといった感じでしょうかね。
「ま、会ってくれるのなら私はそれで構わない」
仕事をしてくれたルークに感謝をし、私はペガサスに乗せてもらいます。
ダンツには留守にする理由を話していないけれど、家に帰らないのは多々あること。
幼女として相応しいとは思えない行動ですが、事情が事情なので仕方ありません。
「マリィは連れて行けないって!」
「がぁぁっ!」
どうやら言いきかせても無駄のよう。
言葉を理解している感じなのに、マリィは絶対についてくるつもりでしょうね。
颯爽と大空へ飛び立つペガサス。スピードに乗ると、スカートが風を受けて広がってしまう。
後ろに座ったとはいえ、流石に恥ずかしい。
しかしまあ、ペガサス便に乗って来いだとか、ルークは伯爵令嬢を何だと思っているのかしら?
普通の令嬢はペガサスに跨がったりしないというのに。
「でも、気持ちいいね!」
「がぁぁ!」
日差しを受けた一面の緑が目に眩しい。
マリィは隣を飛んでいましたが、美しい景色など気にする様子もなく、ドレスから棚引くリボンに興味津々です。
馬車であれば二週間はかかるだろう王都への道のり。しかし、山脈を越えれば本当に近い。
早く街道が通ってくれないかと考えてしまいますね。
しばらくすると、ソレスティア王城が見えてきました。
ルークからの手紙によると、ランカスタ公爵は王城で職務中であるみたいです。
「仕事で来ているのだから、イセリナはいないよね」
前世の記憶通りであれば、イセリナは同行していない。
彼女が王城へと呼ばれるのは茶会が開かれる時くらいですから。
(あれ……?)
王城へ到着すると、どうしてかガゼル王と側近たちの姿がありました。
まさか伯爵令嬢のお出迎えなんてことはないでしょうけれど……。
(ヤバ……!)
ここで私はやらかしに気付きました。
なぜなら王家のご厚意でドレスを頂戴しておったのですが、なんと私は汚いドレスのままです。
少し考えたら着替えておくべきなのは分かったというのに。
「おおお、王様、作業中でしたので、汚らしい格好のままで申し訳ございません!」
とりあえず平身低頭謝罪するだけです。
十二歳の女児ではあるけれど、ここは王城ですからね。ど田舎の伯爵領とは違います。
「よい。ちょうど其方が登城すると聞いてな。火竜の幼体とやらを見てみたいと思うたのだ」
ガゼル王は私の肩を指さしている。
まあ報告は受けているでしょうね。
王国の懸念であった火竜の卵を羽化させてしまったんだもの。
「重ねて申し訳ございません。聞き分けは良い子なのですけれど、私の側を離れようとしませんので……」
髭が気にしないのはもう分かっている。
まさか王様と会うなんて考えもしていなかったから、私はマリィを連れてきてしまった。
「良く懐いているようだな。まさしく火竜の聖女伝説そのもの……」
王様はやはり脅威かどうかを確認しようとしていたのでしょう。
近衛兵まで引き連れて待っていたのは直にマリィを見極めるため。
「それで髭……ああいえ、ランカスタ公爵様はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
思わず髭と口走ってしまった。
ランカスタ公爵とは面識がないという設定なのに。
どうしてか全員が吹き出しています。私の無礼な物言いに対して。
「ああ、その髭公爵は貴賓室で待たせておるぞ?」
「ガ、ガゼル王陛下! わた、私は別に髭だなんて!?」
「まあよい。其方は面白い令嬢だな? エバートン、アナスタシア嬢を貴賓室までお連れしろ」
着替えることも許されず、みすぼらしい格好のまま王城を歩くことに。
すれ違うメイドの方が上等な服を着てるとか恥ずかしすぎ。
エバートンという近衛兵に連れられてきた貴賓室。
応答のあと私が踏み入れると、偉そうな態度でふんぞり返った髭がいました。
「ランカスタ公爵様、お初にお目にかかります。私はスカーレット伯爵家が長女アナスタシア・スカーレットでございますわ」
身なりはともかく、礼儀だけはしっかりと。礼節をわきまえない田舎令嬢だと思われないためにもね。
「ああ、座れ。それで儂に何の用だ? ガゼル王の命でなかったなら、このような場は設けていない。さっさと要件を述べろ」
何て横柄なんでしょうか。
こんなだから敵だらけになるのよ。ホント呆れちゃうわ。
二年後には自ら私を呼び寄せるランカスタ公爵ですけれど、この時間帯の髭はまだミスリル鉱脈について知らないみたいね。知っていたら、このような態度は絶対にしないのだから。
「私の要件は商談と言いましょうか……」
「商談だと? 伯爵領には何もないだろうが?」
不機嫌さが増すランカスタ公爵。けれど、日和ってなどいられません。
私は要件を突きつけるだけです。
「ええ、その通りですが、売れるものもございますの。実はランカスタ公爵領に隣接する岩山を買っていただきたいのですわ」
私がそういうと無言で髭は席を立つ。
私に視線すら合わせず、荷物を纏めようとしています。
「いいのですか? 別にランカスタ公爵家でなくても構わないのです。隣接しているからこそ、先にお声をおかけしただけ」
こんな今も髭は帰り支度をし、貴賓室をあとにしようと歩き始めました。
「それならば、リッチモンド公爵家にお話を持ち掛けましょうか……」
ここで敵対するリッチモンド公爵家の名を出してみます。
しかし、髭は気にせず歩き、扉の前まで到着していました。
「ミスリル鉱脈がある岩山の取引を――――」
扉に手をかけた髭がピタリと動きを止めます。
座ったままの私を振り返っては不適な笑みを浮かべていました。
「クック、要件を先に言えといったであろう?」
やはり興味を示した模様です。
守銭奴である彼が聞き逃すはずもない。ましてリッチモンド公爵家の名を私は口にしていたのですから。
「あら? 私は要件を述べましたけれど? ご興味がないのでしたら、さっさとお帰りくださいな?」
立場逆転かしらね。
私は嫌味を返しています。これくらいで彼がミスリル鉱脈を諦めるはずもないのだからと。
「口の悪い令嬢だな? まあいい、交渉とは立場をどう有利に持っていくかだ。貴殿は間違っていない」
「私は別に有利不利など考えておりませんわ。それに口の悪さはお互い様では?」
私の返答にカッカと笑う髭。まあこの辺りは彼を熟知している私ならではでしょう。
「クック……、面白いな。田舎令嬢にしておくのは惜しいくらいだ。それでミスリル鉱脈の話は事実なのか?」
「もちろんですわ。既に白金貨三枚分程度は採掘しております。残りは白金貨二枚分程度でしょうかね。何なら採掘済みのミスリルも格安でお譲りいたしますわ」
私の説明に髭は頷きを返しています。
恐らく私という令嬢がどういった人物なのかは既に知っていることでしょう。
「なるほど、貴殿は火竜を二頭も屠る魔法使いだったな。岩盤を貫く魔法くらい容易いか」
「買うのか買わないのかどっちです? 私は結論を先に聞きとうございます」
あくまで強気に。主導権は絶対渡すもんか。
髭は足下を見る。だからこそ、私は他にも交渉できるかのように振る舞うだけだわ。
頷く髭を見る限り、この交渉は成功したと思える。
「良いだろう。採掘済みと合わせて白金貨三枚でどうだ? 残りが本当にニ枚分あるのか分からんのだしな」
「白金貨四枚。これが最低限ですわ。既に採掘済みのミスリルはどこへ売っても白金貨三枚以上になるはずです。市場価値で考えるなら二倍の白金貨六枚に達します。残りを合わせると市場価値で白金貨十枚分もあるのですから」
私の主張に髭は再び邪悪な笑い声を上げる。
しかし、それは機嫌が良い証拠。長年娘をしてきた私には分かります。
「良いだろう。早速と案内せよ。支払いは残りの鉱脈を実際に見てからだ」
やはり乗ってきた。しかし、今からとか本気なの?
馬車で向かったら二週間以上はかかるのだけど。
「お忙しいのではなかったので?」
「ふはは! そんなものは後回しだ。白金貨単位の取引より優先すべき事項など存在せぬわ!」
髭は大笑いしたあと、ペガサスを用意すると言う。
私がリッチモンド公爵家の名を出したからか、いち早い契約を望んでいるみたい。
「良いでしょう。ですが、一つだけ条件がございますの。私、採掘する魔法を唱えると、魔力切れで三日三晩寝込んでしまうのです。申し訳ございませんが、鉱脈を確認されたあと公爵家で休ませてくださいな?」
「容易いこと。それでは向かうとしようか」
私は元父であるランカスタ公爵に連れられ、王城に隣接したペガサスの馬房へとやってきた。
ライセンスを提示し、待つこと五分。私は立派なゴンドラへと案内されています。
またもやペガサスに跨がるのかと思いきや、何と四頭もペガサスを借りたようで、ゴンドラを運ぶみたいです。
上位貴族なのは分かっておりますが、やはり半端ないね。ランカスタ公爵家は……。
私たちを乗せたゴンドラが宙に舞います。
何度目かのミスリル鉱脈へと向かって旅立つのでした。
長いキスの前払いが効いたのか、早速と約束を取り付けてくれたらしい。
私はペガサスの操舵手から手紙を受け取るや、その場で開封する。
ランカスタ公爵と面会する日取りがいつなのかを直ぐさま確認しています。
「えっ……?」
しかし、瞬間的に固まってしまう。記されたあり得ない内容には愕然とさせられていました。
「今日って、急すぎるでしょ!?」
何度、読み返したとして、本日と書いてある。
急かしたのは私自身ですけれど、流石にまだ取り入る方法を何も考えていません。
手紙によると、ペガサス便に乗せてもらえるみたい。
だけど、ペガサスには二人までしか乗れないそうなので、私だけが向かうことになるようです。
加えてランカスタ公爵はちょうどソレスティア王城にいるとのことで、今日を逃せば面会は何ヶ月も先になってしまうのだとか。
「ダンツは必要ないけれど、あの髭は十二歳の女児に会ってくれるの?」
どうにも不可解でした。
子供の遊びに髭が付き合ってくれるとは考えられないし、王家が適当な約束を取り付けるはずもありません。
恐らく王家からの要請に渋々と同意し、面倒ごとを早々に済ませようといった感じでしょうかね。
「ま、会ってくれるのなら私はそれで構わない」
仕事をしてくれたルークに感謝をし、私はペガサスに乗せてもらいます。
ダンツには留守にする理由を話していないけれど、家に帰らないのは多々あること。
幼女として相応しいとは思えない行動ですが、事情が事情なので仕方ありません。
「マリィは連れて行けないって!」
「がぁぁっ!」
どうやら言いきかせても無駄のよう。
言葉を理解している感じなのに、マリィは絶対についてくるつもりでしょうね。
颯爽と大空へ飛び立つペガサス。スピードに乗ると、スカートが風を受けて広がってしまう。
後ろに座ったとはいえ、流石に恥ずかしい。
しかしまあ、ペガサス便に乗って来いだとか、ルークは伯爵令嬢を何だと思っているのかしら?
普通の令嬢はペガサスに跨がったりしないというのに。
「でも、気持ちいいね!」
「がぁぁ!」
日差しを受けた一面の緑が目に眩しい。
マリィは隣を飛んでいましたが、美しい景色など気にする様子もなく、ドレスから棚引くリボンに興味津々です。
馬車であれば二週間はかかるだろう王都への道のり。しかし、山脈を越えれば本当に近い。
早く街道が通ってくれないかと考えてしまいますね。
しばらくすると、ソレスティア王城が見えてきました。
ルークからの手紙によると、ランカスタ公爵は王城で職務中であるみたいです。
「仕事で来ているのだから、イセリナはいないよね」
前世の記憶通りであれば、イセリナは同行していない。
彼女が王城へと呼ばれるのは茶会が開かれる時くらいですから。
(あれ……?)
王城へ到着すると、どうしてかガゼル王と側近たちの姿がありました。
まさか伯爵令嬢のお出迎えなんてことはないでしょうけれど……。
(ヤバ……!)
ここで私はやらかしに気付きました。
なぜなら王家のご厚意でドレスを頂戴しておったのですが、なんと私は汚いドレスのままです。
少し考えたら着替えておくべきなのは分かったというのに。
「おおお、王様、作業中でしたので、汚らしい格好のままで申し訳ございません!」
とりあえず平身低頭謝罪するだけです。
十二歳の女児ではあるけれど、ここは王城ですからね。ど田舎の伯爵領とは違います。
「よい。ちょうど其方が登城すると聞いてな。火竜の幼体とやらを見てみたいと思うたのだ」
ガゼル王は私の肩を指さしている。
まあ報告は受けているでしょうね。
王国の懸念であった火竜の卵を羽化させてしまったんだもの。
「重ねて申し訳ございません。聞き分けは良い子なのですけれど、私の側を離れようとしませんので……」
髭が気にしないのはもう分かっている。
まさか王様と会うなんて考えもしていなかったから、私はマリィを連れてきてしまった。
「良く懐いているようだな。まさしく火竜の聖女伝説そのもの……」
王様はやはり脅威かどうかを確認しようとしていたのでしょう。
近衛兵まで引き連れて待っていたのは直にマリィを見極めるため。
「それで髭……ああいえ、ランカスタ公爵様はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
思わず髭と口走ってしまった。
ランカスタ公爵とは面識がないという設定なのに。
どうしてか全員が吹き出しています。私の無礼な物言いに対して。
「ああ、その髭公爵は貴賓室で待たせておるぞ?」
「ガ、ガゼル王陛下! わた、私は別に髭だなんて!?」
「まあよい。其方は面白い令嬢だな? エバートン、アナスタシア嬢を貴賓室までお連れしろ」
着替えることも許されず、みすぼらしい格好のまま王城を歩くことに。
すれ違うメイドの方が上等な服を着てるとか恥ずかしすぎ。
エバートンという近衛兵に連れられてきた貴賓室。
応答のあと私が踏み入れると、偉そうな態度でふんぞり返った髭がいました。
「ランカスタ公爵様、お初にお目にかかります。私はスカーレット伯爵家が長女アナスタシア・スカーレットでございますわ」
身なりはともかく、礼儀だけはしっかりと。礼節をわきまえない田舎令嬢だと思われないためにもね。
「ああ、座れ。それで儂に何の用だ? ガゼル王の命でなかったなら、このような場は設けていない。さっさと要件を述べろ」
何て横柄なんでしょうか。
こんなだから敵だらけになるのよ。ホント呆れちゃうわ。
二年後には自ら私を呼び寄せるランカスタ公爵ですけれど、この時間帯の髭はまだミスリル鉱脈について知らないみたいね。知っていたら、このような態度は絶対にしないのだから。
「私の要件は商談と言いましょうか……」
「商談だと? 伯爵領には何もないだろうが?」
不機嫌さが増すランカスタ公爵。けれど、日和ってなどいられません。
私は要件を突きつけるだけです。
「ええ、その通りですが、売れるものもございますの。実はランカスタ公爵領に隣接する岩山を買っていただきたいのですわ」
私がそういうと無言で髭は席を立つ。
私に視線すら合わせず、荷物を纏めようとしています。
「いいのですか? 別にランカスタ公爵家でなくても構わないのです。隣接しているからこそ、先にお声をおかけしただけ」
こんな今も髭は帰り支度をし、貴賓室をあとにしようと歩き始めました。
「それならば、リッチモンド公爵家にお話を持ち掛けましょうか……」
ここで敵対するリッチモンド公爵家の名を出してみます。
しかし、髭は気にせず歩き、扉の前まで到着していました。
「ミスリル鉱脈がある岩山の取引を――――」
扉に手をかけた髭がピタリと動きを止めます。
座ったままの私を振り返っては不適な笑みを浮かべていました。
「クック、要件を先に言えといったであろう?」
やはり興味を示した模様です。
守銭奴である彼が聞き逃すはずもない。ましてリッチモンド公爵家の名を私は口にしていたのですから。
「あら? 私は要件を述べましたけれど? ご興味がないのでしたら、さっさとお帰りくださいな?」
立場逆転かしらね。
私は嫌味を返しています。これくらいで彼がミスリル鉱脈を諦めるはずもないのだからと。
「口の悪い令嬢だな? まあいい、交渉とは立場をどう有利に持っていくかだ。貴殿は間違っていない」
「私は別に有利不利など考えておりませんわ。それに口の悪さはお互い様では?」
私の返答にカッカと笑う髭。まあこの辺りは彼を熟知している私ならではでしょう。
「クック……、面白いな。田舎令嬢にしておくのは惜しいくらいだ。それでミスリル鉱脈の話は事実なのか?」
「もちろんですわ。既に白金貨三枚分程度は採掘しております。残りは白金貨二枚分程度でしょうかね。何なら採掘済みのミスリルも格安でお譲りいたしますわ」
私の説明に髭は頷きを返しています。
恐らく私という令嬢がどういった人物なのかは既に知っていることでしょう。
「なるほど、貴殿は火竜を二頭も屠る魔法使いだったな。岩盤を貫く魔法くらい容易いか」
「買うのか買わないのかどっちです? 私は結論を先に聞きとうございます」
あくまで強気に。主導権は絶対渡すもんか。
髭は足下を見る。だからこそ、私は他にも交渉できるかのように振る舞うだけだわ。
頷く髭を見る限り、この交渉は成功したと思える。
「良いだろう。採掘済みと合わせて白金貨三枚でどうだ? 残りが本当にニ枚分あるのか分からんのだしな」
「白金貨四枚。これが最低限ですわ。既に採掘済みのミスリルはどこへ売っても白金貨三枚以上になるはずです。市場価値で考えるなら二倍の白金貨六枚に達します。残りを合わせると市場価値で白金貨十枚分もあるのですから」
私の主張に髭は再び邪悪な笑い声を上げる。
しかし、それは機嫌が良い証拠。長年娘をしてきた私には分かります。
「良いだろう。早速と案内せよ。支払いは残りの鉱脈を実際に見てからだ」
やはり乗ってきた。しかし、今からとか本気なの?
馬車で向かったら二週間以上はかかるのだけど。
「お忙しいのではなかったので?」
「ふはは! そんなものは後回しだ。白金貨単位の取引より優先すべき事項など存在せぬわ!」
髭は大笑いしたあと、ペガサスを用意すると言う。
私がリッチモンド公爵家の名を出したからか、いち早い契約を望んでいるみたい。
「良いでしょう。ですが、一つだけ条件がございますの。私、採掘する魔法を唱えると、魔力切れで三日三晩寝込んでしまうのです。申し訳ございませんが、鉱脈を確認されたあと公爵家で休ませてくださいな?」
「容易いこと。それでは向かうとしようか」
私は元父であるランカスタ公爵に連れられ、王城に隣接したペガサスの馬房へとやってきた。
ライセンスを提示し、待つこと五分。私は立派なゴンドラへと案内されています。
またもやペガサスに跨がるのかと思いきや、何と四頭もペガサスを借りたようで、ゴンドラを運ぶみたいです。
上位貴族なのは分かっておりますが、やはり半端ないね。ランカスタ公爵家は……。
私たちを乗せたゴンドラが宙に舞います。
何度目かのミスリル鉱脈へと向かって旅立つのでした。
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