上 下
41 / 377
第二章 繰り返す時間軸

死に戻り

しおりを挟む
 アドルフに刺し殺され、意識を失った私は気付けば見慣れた景色へと戻されています。

 見慣れた長閑な景色に加えて、眼前にはルークの姿があります。

 やはりセーブポイントの更新はないみたいね。

 そういえばラブロマンス。すっかり忘れていましたが、死に戻りのセーブポイントはルークとのキスシーンでした。

 意識が戻るや、不意打ちでキスしようとするルークの顔が近付いています。

(まったく、この男は暢気な顔して……)

 少なからず苛立っていた私はルークの顔面へ頭突きをお見舞いすることに。

 キスとか受け入れる気分じゃないっての。

「い、痛ぇぇ!!」

「ルーク殿下、不意打ちは卑怯ですわ!」

 この八つ当たりはアマンダに対する仕返しでもある。

 聞いていた話とまるで異なる現実。

 イセリナは放置しても構わないと説明を受けたはずなのに、蓋を開けばイセリナは前世界線と変わらず命を狙われているのですから。

(まあでも、私のせいか……)

 当初は女神アマンダが話した通りであったのでしょう。

 しかし、現状の世界線は私が滅茶苦茶にしてしまった。

 過度に改変を受けた世界線は反映を受けた状態を維持できなかったのだと思います。

 そもそも聖女という自覚のないイセリナが聖女らしく振る舞うなんてできやしない。

 聖女補正が薄れていくのは自明の理ってやつかもしれません。

(やっぱイセリナは狙われ続ける運命ね……)

 現状はゲームのプロローグ部分にも入っていないのです。

 ゲームはエリカが王城勤めを始める十五歳から。ゲームの設定でもイセリナは常に命を狙われていたと書いてあったし、避けられない事象なのでしょう。

「アナ、ごめん。俺は自分の気持ちに嘘がつけなかった……」

「用事を済ませて、さっさと帰ってくださいまし! 私は忙しいのです。殿下と戯れている時間などございませんわ!」

 憂さ晴らしとばかりに、ルークを責めていました。

 前世でも事あるごとに私はルークに当たり散らしていましたからね。

 ですが、これくらいでルークが気落ちするとは考えられません。

 彼はかなり図太い性格だもの。よって私のストレス解消先は彼と決まっているのです。

「ルーク殿下、アナスタシア嬢はご機嫌斜めなようですよ? ここは引くことも大事です」

 私の塩対応にレグス近衛騎士団長が口を挟む。

 ホントその通りよ。正直に腹が立って仕方ないっての。

 幾らでも八つ当たりしちゃうわよ?

 レグス近衛騎士団長の話に、ルークも気付いたみたい。

 小さく手を挙げてから、スゴスゴと立ち去っていく。

 少しばかり悪い気はしたけれど、私は気が立っていたのだし、引き留める理由だってない。

 膨れ面をして、ルークを見送るだけだわ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...