37 / 377
第二章 繰り返す時間軸
思わぬ来訪者
しおりを挟む
「イセリナは死ねばいいのよ!!」
もう帰りたい……。
イセリナは自分じゃないと分かっていましたが、向けられる憎悪の感情は他人事だと思えません。
私自身はまだ耐性があるけれど、目の当たりにしたイセリナが心配だわ。
「セシル殿下、お手を煩わせてしまい恐縮でございます。正直に私は怖かったですわ」
とりあえず淑女らしく感謝を述べてみる。
せっかくの機会だもの。
脳筋令嬢というイメージを一新しないことには攻略なんてあり得ないわ。
いつまでも火竜二頭を蹂躙する強靭なご令嬢イメージでは駄目なのよ。
「ご冗談を。僕こそしゃしゃり出てしまって申し訳ございません。勇猛なアナスタシア様の見せ場でありましたのに。とはいえ流石は火竜の聖女ですね? アナスタシア様はとても勇敢であられたことを思い出せました」
ご令嬢に対する褒め言葉じゃないでしょ!? それに火竜の聖女はエリカだってば!
(これってルークのせいじゃないの?)
ルークにあることないこと吹き込まれているのかも。
だとすれば、勇敢や勇猛、屈強といった勇者的な語彙を植え付けられた可能性があります。
「私はお淑やかに生きたいのですけれどね?(キャルン)」
乙女アピで上書きし続けるしかない。
妙なイメージを可愛いが上回るまで、私はぶりっ子を続けていかなきゃいけないわ。
「あはは、アナスタシア様はやはり面白い方ですね!」
何だかスルー気味。年上の魅力が伝わらないとか、どうなってんのよ?
ルークの奴、一体どんな話をしたのかしら?
セシルは既にご令嬢として私を見てくれていないみたいなんだけど。
「セシル殿下のご婚約はまだでしょうか?」
「いや、僕はまだですよ! お兄様のように勇ましくもありませんし……」
どうもセシルはまだ気弱な部分を残しているみたいね。
過度に動いた世界線においても、兄に対するコンプレックスは持っているように感じます。
乙女ゲーム『BlueRose』におけるセシルルートは実をいうと初心者に用意されたシナリオでした。
この世界線が同じだとは思いませんけれど、セシルルートにおけるライバルはイセリナじゃありません。
主なライバルは西部にあるクレアフィール公爵家のご令嬢エレオノーラと隣国サルバディール皇国のソフィア姫殿下だけ。普通にプレイしていたらクリアできる難易度に設定されていたのです。
だからこそ、私はモブキャラであるアナスタシアでもクリアできると考えたわけで、女神アマンダの話を了承してもいたのです。
「セシル殿下、アナスタシアとの友好はそれくらいにしていただけません? ワタクシは殺されそうになったのですわ!」
ここでイセリナが口を挟む。少しくらい良いじゃないのよ?
私は世界のためにセシルを口説こうとしているのに。
「イセリナ様、心中お察しします。僕にできることなら、何でも仰ってください」
やはりセシルは兄とは違うタイプです。
思慮深く、腰が低い。
間違っても不意打ちでキスしてくるパリピな性格ではありません。
なんてか、思い出したら腹が立ってきたな……。
「それではイセリナ様、控え室へと行きましょうか。ここは危険です。パーティーが始まってからも気を抜かないように願います」
「アナ、貴方はどこまで知っているの?」
ここで私は問われている。かといって、当然の疑問です。
先ほどの対応も知っていたとしか思えなかったでしょうし。
まあでも、私はその場面にならなきゃ分からなかったりするのよね。
(どう説明したものかしらね……)
イセリナはこのパーティーにおいて、全方位から悪意を向けられています。
分岐が多すぎて、次に何が起きるのか残念ながら予測できません。
動き始めた世界線が女神アマンダの認識と異なってしまったのなら、命が幾つあっても足りないことでしょう。
「サマンサの件はこの殺戮パーティーにおいて、まだ序章ですわ。イセリナ様はあらゆる方面から命を狙われますから」
イセリナだけでなく、セシルもまた声を失う。
良い機会だから、セシルにも私の有能さを知らしめてあげましょうかね。
どうせ脳筋令嬢で固定されてるし。
「個人による殺害は列挙しきれません。ですが、確実に起きる計画ならお伝えできます」
細かな殺害を事前に防ごうとするならば、パーティーに訪れた全員を裸にするしかない。
それだけで何十という凶器が発見されることでしょう。
しかし、パーティーに参加しているのは概ね上位貴族です。
全員を裸にするなんて暴挙が許されるはずもありません。
「そんなにですか!? ワタクシはどれだけ恨まれているんですの!?」
「落ち着いてください。何もイセリナ様だけの問題ではないのです。貴方様のお父様。ランカスタ公爵は割と際どい商売をされております。後継者を亡き者にすることで、溜飲を下げられる場合もあるのですよ」
ゲームではイセリナ自身にも問題がある。
しかし、私のクリアデータが反映された彼女はそこまで酷い行動をしていないはずだ。
最近まで生きていられたのがその証拠。恐らく世界線が動いたことで、聖女としての認識が薄れているのだろうと思います。
「そんな……?」
「とにかく危険です。来場者一人一人を裸にして調べられないのですから、隠れておくべきですわ」
勝ち気なイセリナとしては隠れるなどもっての外であるだろうけれど、確実に生存したいのなら、私が話す通りにするべきでしょう。
私の提案に渋々と頷くようなイセリナ。
これにより、パーティーが始まるまでの問題はなくなったかのように思えました。
しかし、レアキャラとして登場した彼は違います。
セシル殿下はとんでもない話を口にするのでした。
「やりましょうか? 全員の身体検査を……」
もう帰りたい……。
イセリナは自分じゃないと分かっていましたが、向けられる憎悪の感情は他人事だと思えません。
私自身はまだ耐性があるけれど、目の当たりにしたイセリナが心配だわ。
「セシル殿下、お手を煩わせてしまい恐縮でございます。正直に私は怖かったですわ」
とりあえず淑女らしく感謝を述べてみる。
せっかくの機会だもの。
脳筋令嬢というイメージを一新しないことには攻略なんてあり得ないわ。
いつまでも火竜二頭を蹂躙する強靭なご令嬢イメージでは駄目なのよ。
「ご冗談を。僕こそしゃしゃり出てしまって申し訳ございません。勇猛なアナスタシア様の見せ場でありましたのに。とはいえ流石は火竜の聖女ですね? アナスタシア様はとても勇敢であられたことを思い出せました」
ご令嬢に対する褒め言葉じゃないでしょ!? それに火竜の聖女はエリカだってば!
(これってルークのせいじゃないの?)
ルークにあることないこと吹き込まれているのかも。
だとすれば、勇敢や勇猛、屈強といった勇者的な語彙を植え付けられた可能性があります。
「私はお淑やかに生きたいのですけれどね?(キャルン)」
乙女アピで上書きし続けるしかない。
妙なイメージを可愛いが上回るまで、私はぶりっ子を続けていかなきゃいけないわ。
「あはは、アナスタシア様はやはり面白い方ですね!」
何だかスルー気味。年上の魅力が伝わらないとか、どうなってんのよ?
ルークの奴、一体どんな話をしたのかしら?
セシルは既にご令嬢として私を見てくれていないみたいなんだけど。
「セシル殿下のご婚約はまだでしょうか?」
「いや、僕はまだですよ! お兄様のように勇ましくもありませんし……」
どうもセシルはまだ気弱な部分を残しているみたいね。
過度に動いた世界線においても、兄に対するコンプレックスは持っているように感じます。
乙女ゲーム『BlueRose』におけるセシルルートは実をいうと初心者に用意されたシナリオでした。
この世界線が同じだとは思いませんけれど、セシルルートにおけるライバルはイセリナじゃありません。
主なライバルは西部にあるクレアフィール公爵家のご令嬢エレオノーラと隣国サルバディール皇国のソフィア姫殿下だけ。普通にプレイしていたらクリアできる難易度に設定されていたのです。
だからこそ、私はモブキャラであるアナスタシアでもクリアできると考えたわけで、女神アマンダの話を了承してもいたのです。
「セシル殿下、アナスタシアとの友好はそれくらいにしていただけません? ワタクシは殺されそうになったのですわ!」
ここでイセリナが口を挟む。少しくらい良いじゃないのよ?
私は世界のためにセシルを口説こうとしているのに。
「イセリナ様、心中お察しします。僕にできることなら、何でも仰ってください」
やはりセシルは兄とは違うタイプです。
思慮深く、腰が低い。
間違っても不意打ちでキスしてくるパリピな性格ではありません。
なんてか、思い出したら腹が立ってきたな……。
「それではイセリナ様、控え室へと行きましょうか。ここは危険です。パーティーが始まってからも気を抜かないように願います」
「アナ、貴方はどこまで知っているの?」
ここで私は問われている。かといって、当然の疑問です。
先ほどの対応も知っていたとしか思えなかったでしょうし。
まあでも、私はその場面にならなきゃ分からなかったりするのよね。
(どう説明したものかしらね……)
イセリナはこのパーティーにおいて、全方位から悪意を向けられています。
分岐が多すぎて、次に何が起きるのか残念ながら予測できません。
動き始めた世界線が女神アマンダの認識と異なってしまったのなら、命が幾つあっても足りないことでしょう。
「サマンサの件はこの殺戮パーティーにおいて、まだ序章ですわ。イセリナ様はあらゆる方面から命を狙われますから」
イセリナだけでなく、セシルもまた声を失う。
良い機会だから、セシルにも私の有能さを知らしめてあげましょうかね。
どうせ脳筋令嬢で固定されてるし。
「個人による殺害は列挙しきれません。ですが、確実に起きる計画ならお伝えできます」
細かな殺害を事前に防ごうとするならば、パーティーに訪れた全員を裸にするしかない。
それだけで何十という凶器が発見されることでしょう。
しかし、パーティーに参加しているのは概ね上位貴族です。
全員を裸にするなんて暴挙が許されるはずもありません。
「そんなにですか!? ワタクシはどれだけ恨まれているんですの!?」
「落ち着いてください。何もイセリナ様だけの問題ではないのです。貴方様のお父様。ランカスタ公爵は割と際どい商売をされております。後継者を亡き者にすることで、溜飲を下げられる場合もあるのですよ」
ゲームではイセリナ自身にも問題がある。
しかし、私のクリアデータが反映された彼女はそこまで酷い行動をしていないはずだ。
最近まで生きていられたのがその証拠。恐らく世界線が動いたことで、聖女としての認識が薄れているのだろうと思います。
「そんな……?」
「とにかく危険です。来場者一人一人を裸にして調べられないのですから、隠れておくべきですわ」
勝ち気なイセリナとしては隠れるなどもっての外であるだろうけれど、確実に生存したいのなら、私が話す通りにするべきでしょう。
私の提案に渋々と頷くようなイセリナ。
これにより、パーティーが始まるまでの問題はなくなったかのように思えました。
しかし、レアキャラとして登場した彼は違います。
セシル殿下はとんでもない話を口にするのでした。
「やりましょうか? 全員の身体検査を……」
10
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる