36 / 377
第二章 繰り返す時間軸
サマンサ・マキシム侯爵令嬢
しおりを挟む
オリビアがデンバー侯爵領へと向かった二日後、私とイセリナは馬車に揺られて、キャサリンの誕生パーティー会場へと到着していました。
マリィは寝ていたので、メイドに世話を任せています。
起きたとして公爵家が用意した高級なお肉があるのですし、メイドでも何とかなるでしょう。
何しろマリィは食欲の権化。与えただけ食べてしまうし、食糧を与えてくれる人には簡単に懐いてしまうのですから。
「ここも変わらないわね……」
「アナ、貴方はデンバー侯爵家に来たことがあるの?」
「ああいや、こちらのことですわ! オホホ!」
ええ、来たことありますとも。それも何百回とね。
殺されるためだけに、私はここへ足繁く通っていたのですから。
でも安心して欲しい。此度は私が付いている。
絶対に貴方を死なせはしない。
(長丁場にならなきゃいいけど……)
少し早いのですが、私とイセリナはパーティー会場入りし、控え室でお茶でも飲んで休憩することに。
イセリナはやはり注目の的でした。
全方位から敵意を向けられるのは当然ですが、やはり四つしかない公爵家のご令嬢。
嫌われていたとしても、挨拶に訪れるご令嬢があとを絶ちません。
(控え室に行くまで、どれだけかかるってのよ?)
一人一人と抱擁し、挨拶を交わすイセリナ。一方で私は横で突っ立っているだけ。
しかしながら、ボウッとしているわけではありません。
「ちょっと、貴方!」
私は握手しようと手を伸ばしたご令嬢の手首を握る。
一見、害がなさそうなご令嬢だけど、私の目は誤魔化せない。
ああいや、知っているのだから見逃すはずもありません。
「何をするのです!?」
力強く手首を握った私に睨みを利かすのは北部の侯爵令嬢サマンサでした。
サマンサはデンバー侯爵家の遠縁であり、当然のことキャサリンに近い存在です。
「いえ、それはこちらの台詞ですわ……」
睨みを利かす私は彼女の手首を握ったまま言い放つ。
「猛毒を塗った手袋で接触しようとするなんてね?」
サマンサの顔が青ざめています。
まあ当然よね。私も最初は貴方に殺されたんだもの。
遅効性の猛毒によって皮膚が腐ったように爛れ、そのうち全身を蝕んだ。
パーティーが始まってから倒れた私は犯人捜しに苦労したのよ。
「な、何を……?」
「どなたか警備を呼んでくださいな? イセリナ様が暗殺されるところでしたわよ?」
周囲に知らしめるように私は大きな声を上げた。
こうするだけで最初の暗殺はクリアできる。
駆け付けた警備により、猛毒の存在が明らかとなるのだから。
ところが、私の記憶とは異なってしまう。
「せっかく祝いの席なのに、何の騒ぎかな?」
私は絶句していました。
それは全く記憶にない人物。
もちろん存じ上げていましたけれど、侯爵令嬢の誕生パーティーという微妙な席には似つかわしくない方でした。
「セシル殿下!?」
現れたのは警備兵ではなく、私の攻略対象でした。
セシル第三王子殿下。何百回と繰り返した世界線で一度もこのパーティーに登場しなかった人物です。
「アナスタシア様、お久しぶりです。王族とはいえ、僕は何の価値もない王子ですよ?」
正直に火竜を退治したあとの晩餐会以来です。
私を覚えてくれていたってことは、少しくらい脈があると考えてもいいのかしら?
「アナスタシア様は相変わらず豪胆ですね!」
「ごごご、豪胆って……」
ですよねぇ。やはり彼の記憶はアップデートされていないのね。
齢十二歳にして火竜二頭と戦い、一撃にて勝利してしまったご令嬢の武勇伝を……。
「えっと、セシル殿下、ご無沙汰しております。それでこの騒動についてですけれど……」
「ああうん、任せておいて。無能な僕だけど、権力だけはあったりするからね?」
言ってセシルは引き連れていた護衛にサマンサの毒を調べさせた。
毒味用の薬で直ぐさま結果が分かるのですけど、セシルは念入りな確認を始めています。
数種類の薬物を用いて、間違いが起こらぬようにしているみたい。
「サマンサ・マキシムを拘束せよ! イセリナ・イグニス・ランカスタの毒殺容疑だ!」
会場が騒然としてしまう。
私は結果を知っていましたけれど、流石に物騒な話ですからね。
しかも王子殿下が口にしたものだから、イセリナを嫌う者たちも反発の声を上げられません。
サマンサの奇声が木霊するパーティー会場。つまみ出されていく彼女は最後に声を張っていました。
「イセリナは死ねばいいのよ!!――――」
マリィは寝ていたので、メイドに世話を任せています。
起きたとして公爵家が用意した高級なお肉があるのですし、メイドでも何とかなるでしょう。
何しろマリィは食欲の権化。与えただけ食べてしまうし、食糧を与えてくれる人には簡単に懐いてしまうのですから。
「ここも変わらないわね……」
「アナ、貴方はデンバー侯爵家に来たことがあるの?」
「ああいや、こちらのことですわ! オホホ!」
ええ、来たことありますとも。それも何百回とね。
殺されるためだけに、私はここへ足繁く通っていたのですから。
でも安心して欲しい。此度は私が付いている。
絶対に貴方を死なせはしない。
(長丁場にならなきゃいいけど……)
少し早いのですが、私とイセリナはパーティー会場入りし、控え室でお茶でも飲んで休憩することに。
イセリナはやはり注目の的でした。
全方位から敵意を向けられるのは当然ですが、やはり四つしかない公爵家のご令嬢。
嫌われていたとしても、挨拶に訪れるご令嬢があとを絶ちません。
(控え室に行くまで、どれだけかかるってのよ?)
一人一人と抱擁し、挨拶を交わすイセリナ。一方で私は横で突っ立っているだけ。
しかしながら、ボウッとしているわけではありません。
「ちょっと、貴方!」
私は握手しようと手を伸ばしたご令嬢の手首を握る。
一見、害がなさそうなご令嬢だけど、私の目は誤魔化せない。
ああいや、知っているのだから見逃すはずもありません。
「何をするのです!?」
力強く手首を握った私に睨みを利かすのは北部の侯爵令嬢サマンサでした。
サマンサはデンバー侯爵家の遠縁であり、当然のことキャサリンに近い存在です。
「いえ、それはこちらの台詞ですわ……」
睨みを利かす私は彼女の手首を握ったまま言い放つ。
「猛毒を塗った手袋で接触しようとするなんてね?」
サマンサの顔が青ざめています。
まあ当然よね。私も最初は貴方に殺されたんだもの。
遅効性の猛毒によって皮膚が腐ったように爛れ、そのうち全身を蝕んだ。
パーティーが始まってから倒れた私は犯人捜しに苦労したのよ。
「な、何を……?」
「どなたか警備を呼んでくださいな? イセリナ様が暗殺されるところでしたわよ?」
周囲に知らしめるように私は大きな声を上げた。
こうするだけで最初の暗殺はクリアできる。
駆け付けた警備により、猛毒の存在が明らかとなるのだから。
ところが、私の記憶とは異なってしまう。
「せっかく祝いの席なのに、何の騒ぎかな?」
私は絶句していました。
それは全く記憶にない人物。
もちろん存じ上げていましたけれど、侯爵令嬢の誕生パーティーという微妙な席には似つかわしくない方でした。
「セシル殿下!?」
現れたのは警備兵ではなく、私の攻略対象でした。
セシル第三王子殿下。何百回と繰り返した世界線で一度もこのパーティーに登場しなかった人物です。
「アナスタシア様、お久しぶりです。王族とはいえ、僕は何の価値もない王子ですよ?」
正直に火竜を退治したあとの晩餐会以来です。
私を覚えてくれていたってことは、少しくらい脈があると考えてもいいのかしら?
「アナスタシア様は相変わらず豪胆ですね!」
「ごごご、豪胆って……」
ですよねぇ。やはり彼の記憶はアップデートされていないのね。
齢十二歳にして火竜二頭と戦い、一撃にて勝利してしまったご令嬢の武勇伝を……。
「えっと、セシル殿下、ご無沙汰しております。それでこの騒動についてですけれど……」
「ああうん、任せておいて。無能な僕だけど、権力だけはあったりするからね?」
言ってセシルは引き連れていた護衛にサマンサの毒を調べさせた。
毒味用の薬で直ぐさま結果が分かるのですけど、セシルは念入りな確認を始めています。
数種類の薬物を用いて、間違いが起こらぬようにしているみたい。
「サマンサ・マキシムを拘束せよ! イセリナ・イグニス・ランカスタの毒殺容疑だ!」
会場が騒然としてしまう。
私は結果を知っていましたけれど、流石に物騒な話ですからね。
しかも王子殿下が口にしたものだから、イセリナを嫌う者たちも反発の声を上げられません。
サマンサの奇声が木霊するパーティー会場。つまみ出されていく彼女は最後に声を張っていました。
「イセリナは死ねばいいのよ!!――――」
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる