青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第二章 繰り返す時間軸

サマンサ・マキシム侯爵令嬢

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 オリビアがデンバー侯爵領へと向かった二日後、私とイセリナは馬車に揺られて、キャサリンの誕生パーティー会場へと到着していました。

 マリィは寝ていたので、メイドに世話を任せています。

 起きたとして公爵家が用意した高級なお肉があるのですし、メイドでも何とかなるでしょう。

 何しろマリィは食欲の権化。与えただけ食べてしまうし、食糧を与えてくれる人には簡単に懐いてしまうのですから。

「ここも変わらないわね……」

「アナ、貴方はデンバー侯爵家に来たことがあるの?」

「ああいや、こちらのことですわ! オホホ!」

 ええ、来たことありますとも。それも何百回とね。

 殺されるためだけに、私はここへ足繁く通っていたのですから。

 でも安心して欲しい。此度は私が付いている。

 絶対に貴方を死なせはしない。

(長丁場にならなきゃいいけど……)

 少し早いのですが、私とイセリナはパーティー会場入りし、控え室でお茶でも飲んで休憩することに。

 イセリナはやはり注目の的でした。

 全方位から敵意を向けられるのは当然ですが、やはり四つしかない公爵家のご令嬢。

 嫌われていたとしても、挨拶に訪れるご令嬢があとを絶ちません。

(控え室に行くまで、どれだけかかるってのよ?)

 一人一人と抱擁し、挨拶を交わすイセリナ。一方で私は横で突っ立っているだけ。

 しかしながら、ボウッとしているわけではありません。

「ちょっと、貴方!」

 私は握手しようと手を伸ばしたご令嬢の手首を握る。

 一見、害がなさそうなご令嬢だけど、私の目は誤魔化せない。

 ああいや、知っているのだから見逃すはずもありません。

「何をするのです!?」

 力強く手首を握った私に睨みを利かすのは北部の侯爵令嬢サマンサでした。

 サマンサはデンバー侯爵家の遠縁であり、当然のことキャサリンに近い存在です。

「いえ、それはこちらの台詞ですわ……」

 睨みを利かす私は彼女の手首を握ったまま言い放つ。

「猛毒を塗った手袋で接触しようとするなんてね?」

 サマンサの顔が青ざめています。

 まあ当然よね。私も最初は貴方に殺されたんだもの。

 遅効性の猛毒によって皮膚が腐ったように爛れ、そのうち全身を蝕んだ。

 パーティーが始まってから倒れた私は犯人捜しに苦労したのよ。

「な、何を……?」

「どなたか警備を呼んでくださいな? イセリナ様が暗殺されるところでしたわよ?」

 周囲に知らしめるように私は大きな声を上げた。

 こうするだけで最初の暗殺はクリアできる。

 駆け付けた警備により、猛毒の存在が明らかとなるのだから。

 ところが、私の記憶とは異なってしまう。

「せっかく祝いの席なのに、何の騒ぎかな?」

 私は絶句していました。

 それは全く記憶にない人物。

 もちろん存じ上げていましたけれど、侯爵令嬢の誕生パーティーという微妙な席には似つかわしくない方でした。

「セシル殿下!?」

 現れたのは警備兵ではなく、私の攻略対象でした。

 セシル第三王子殿下。何百回と繰り返した世界線で一度もこのパーティーに登場しなかった人物です。

「アナスタシア様、お久しぶりです。王族とはいえ、僕は何の価値もない王子ですよ?」

 正直に火竜を退治したあとの晩餐会以来です。

 私を覚えてくれていたってことは、少しくらい脈があると考えてもいいのかしら?

「アナスタシア様は相変わらず豪胆ですね!」

「ごごご、豪胆って……」

 ですよねぇ。やはり彼の記憶はアップデートされていないのね。

 齢十二歳にして火竜二頭と戦い、一撃にて勝利してしまったご令嬢の武勇伝を……。

「えっと、セシル殿下、ご無沙汰しております。それでこの騒動についてですけれど……」

「ああうん、任せておいて。無能な僕だけど、権力だけはあったりするからね?」

 言ってセシルは引き連れていた護衛にサマンサの毒を調べさせた。

 毒味用の薬で直ぐさま結果が分かるのですけど、セシルは念入りな確認を始めています。

 数種類の薬物を用いて、間違いが起こらぬようにしているみたい。

「サマンサ・マキシムを拘束せよ! イセリナ・イグニス・ランカスタの毒殺容疑だ!」

 会場が騒然としてしまう。

 私は結果を知っていましたけれど、流石に物騒な話ですからね。

 しかも王子殿下が口にしたものだから、イセリナを嫌う者たちも反発の声を上げられません。

 サマンサの奇声が木霊するパーティー会場。つまみ出されていく彼女は最後に声を張っていました。


「イセリナは死ねばいいのよ!!――――」
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