青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第二章 繰り返す時間軸

イセリナの本心

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 オリビアをデンバー侯爵領へと送り込んだあと、どうしてか私は再び服飾店へと連れられていました。

「アナ、その汚らしいドレスを早く脱ぎなさい!」

 髭は既に屋敷に戻っています。

 つまり現在はイセリナと二人きり。どうしてか愛称で私を呼ぶ彼女に困惑するばかりです。

「えっと、イセリナ様……」

「費用なら気にしなくて良いわ。貴方もパーティーに参加するのだし、ドレスが必要でしょう?」

「えええ!? 私も参加するのでしょうか!?」

 オリビアを送り込むだけで問題ないと考えていたというのに、どうもイセリナは私まで連れて行くつもりのよう。

「当たり前でしょ? ワタクシ、貴方の予知に感動いたしましてよ? アナが近くにいたのなら安心できますわ。それとも危機を伝えるだけで終わりってことではないのでしょう?」

 鋭い視線に思わず顔を背けてしまう。やはりイセリナは本物の悪役令嬢です。

 子豚ちゃんが粋がったところで、偽物の悪役令嬢でしかないからね。

「分かりました。であれば、私のドレスは深い青色でお願いいたしますわ」

 気圧されそうな私だけど、一応は対抗心を燃やしてみる。

 イセリナが青色を好んで身につけていることを知っていたから。

「本当に面白い子ね? ワタクシに対抗しようとしているの?」

「どうでしょう? ですが、一着だけではないのですよね? そういったドレスも欲しいなと考えますわ」

 私の返答にウフフと笑う反応があった。

 とりあえず気に入られたみたいね。怒らせてしまうと手に負えないけれど、イセリナの性格は分かりきっているのよ。

「キャサリンのパーティーではワタクシが決めた衣装にしなさい。貴方はワタクシの陰。目立っては意味がありませんわ」

「陰になろうとは務めますけれど、私って割と目立ってしまうのですよね……」

 先に匂わせておかないと。

 パーティー会場まで行ってしまえば、恐らく私は目立ってしまうわ。別に容姿的なことじゃなく、単なる悪目立ちだけど。

 採寸のあと、職人たちが早速と作業を始める。

 とりあえずパーティーで着るドレスは既製品を手直ししたものとなるみたいです。

 待っている間にイセリナが問う。

「ねぇアナ、貴方がルーク殿下のお気に入りって噂は本当なの?」

 ちくしょう、あの髭親父め。余計な事まで喋りやがったのね。

 私のことは調べ尽くしているだろうけど、死亡フラグの数日前に聞かせるんじゃないっての。

「さあ、どうでしょうか? 確かに面識はございますけれど」

 この誤魔化しが通じるかどうか。

 ま、たぶん無駄だろうね。

「嘘おっしゃい! ルーク殿下は頻繁にスカーレット伯爵領へ向かわれていると聞きましたわ!」

 おやまあ、嫉妬ですか? 何とも可愛らしいことで。

 しかし、あの髭親父、尾ヒレを付けて伝えてんじゃないわよ。

「いえ、お会いしたのは二回だけですわ。それに私は殿下に伝言をお願いしたのですけどね。セシル様によろしくお伝えくださいと」

 ルークのフラグはへし折ったはずなのに、髭の陰は何を調査したっていうのかしら?

「貴方、年下が好みなの? それとも王位に興味がないとか?」

「イセリナ様、私は成り上がりですわ。王家に相応しい存在ではありません」

 今のところはです。よって嘘じゃない。でも、ルーク狙いだけはないと断言できる。

 何しろ私は無限にループする世界の中にいるの。全ての鍵を解くにはセシルしかいないのよ。

 誰に好かれようと、結果は初めから一つしかない。選択の余地など私にはなかった。

「そうなのね。安心したわ。ワタクシはルーク様の婚約者に選ばれたい。四つある公爵家の中で、ワタクシは一番の令嬢になるのだと決めております」

 うんまあ、私の記憶がフィードバックされているのだから、ルーク狙いしかないよね。

 しかしながら、この世界線は聞いていたのとかなり違う。心して挑まなければ、世界は停滞から抜け出せないことでしょう。

 何しろ、アマンダはイセリナのことを放置するような話をしていたのです。

(アマンダ、嘘ばっか言ってんじゃないわよ……)

 現状のイセリナは敵だらけ。放っておけば、簡単に死んでしまう世界線でした。

「イセリナ様であれば一番になれますわ」

 ここでセントローゼス王国の貴族社会について考えてみる。

 イセリナが語ったように公爵家は四つ。筆頭格であるランカスタ公爵家と副都リーフメルに居を構えるメルヴィス公爵家。

 あとは王都ルナレイクの西隣にあるクレアフィール公爵家とデンバー侯爵領の東隣にあるリッチモンド公爵家です。

 くせ者揃いなのですが、北のご老人メルヴィス公爵と髭ことランカスタ公爵は謀略家であり、東端のリッチモンド公爵もまた陰湿な男なのです。

 唯一の救いがクレアフィール公爵家だと私は考えています。

 また全ての公爵家にはご令嬢がおりまして、全員が何らかのシナリオで主人公エリカのライバル令嬢だったりする。

 ちなみに髭はほぼ全てと敵対しています。

 中立であるクレアフィール公爵家とはそれなりですけれど、東にあるリッチモンド公爵家と北の名士メルヴィス公爵とは険悪と呼ぶに相応しい関係です。


 話し込んでいると、裁縫師の特急仕事が終わったみたい。

 私は試着をし、文句の一つも口にせず頷きを返しています。

「もう少し派手な方が良かったかしら?」

「いえいえ、充分ですわ! まさかパーティーに参加することになるとは思いもしませんでした」

 イセリナが選んだのはシックなグレーのドレス。まあ嫉妬した相手に目立たれるのを嫌った結果でしょうね。

 どうせパーティーの華になるつもりはない。悪役に徹するつもりの私に華やかな衣装など必要ないわ。

 このあと私たちは公爵邸で過ごすことになる。

 明後日の早朝に邸宅をあとにする予定です。
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