青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
29 / 377
第二章 繰り返す時間軸

早々の失態

しおりを挟む
 十時間ほど馬車を走らせた私たちは、日が落ちたあとに王家の保養地へと到着しています。

 広さだけが取り柄の伯爵領ですけれど、急ぐ場合は本当に最悪ですね。

 例によって公爵家の執事に案内され、記憶にある部屋へと通されていました。

「むぅ、早かったな。スカーレット伯爵……」

 部屋には髭だけです。まあ、この状況は前世界線も変わらないのだけど。

 今回もガチガチに緊張しているダンツに代わって、私が一歩前へと進む。

「ランカスタ公爵様、お初にお目にかかります。私がアナスタシア・スカーレットですわ。こちらが父のダンツ・スカーレット伯爵ですの」

 汚いドレスの裾を上げ、私は礼儀正しく挨拶をする。

 私まで来ることを望んではいないようだけど、そこは髭も予想していたのでしょう。

 少しばかりの皮肉が返ってくるだけでした。

「伯爵令嬢にしては質素な暮らしをしているのだな? 貴殿は王家に取り入ったと聞いているが?」

 肩にいるマリィのことを咎めないし、私まで来たことについて彼は何も言いませんでした。

 かといって、確実に調査はしていたと思います。何しろ此度は王家と親密な関係を築いているからね。

「ただの農耕貴族ですわ。それよりもイセリナ様はいらっしゃらないのでしょうか?」

「ああ、イセリナは連れて来ていない。送付した書面の通りに、この場は商談だからな。子供が騒いでいては邪魔だ」

「あら? 私も子供なのですが?」

 ダンツが恐ろしい目で睨んでいるけれど、私は一歩も引くつもりがない。

 この世界線の未来がどうなっているのか分かりませんが、イセリナはこの売買イベントのあと一週間程度で失われる運命にあるからです。

 前回リセットされた原因はイセリナの死に他ならないのですから。

「ふはは、できたご息女だと聞いていたが、想像を遥かに超えるな? アナスタシア嬢、君はイセリナと親交を持ちたいと考えているのか?」

「もちろんですわ。お会いできなくて残念です」

 どうすれば良いのだろう。この世界線は既に終わったような気がしてしまう。

 イセリナに会えなければ、彼女を救えない。リセットされた原因である彼女との邂逅は果たせそうにありません。

「まあ、貴殿も王都へ行くのだろう? 嫌でも出会うことになる。それで此度の件だが、伯爵領の岩山を買い取りたいのだ。あの場所に別荘を建てたいと考えておってな」

 早速と商談に入る髭公爵。理由は以前と同じです。

 あんな場所に別荘を建てるなんて、バカでも信じないでしょうに。

「ほう、それは見晴らしが良いでしょうな。うちは貧乏なので羨ましい限りです!」

 そういや、バカがいたよ。脳みそが筋肉で構成される伯爵様がね……。

 しかしながら、ダンツのおかげで私の策がバレることはないはずです。

(あれ? イセリナがいないのなら、商談が成立しちゃうんじゃ?)

 前回はイセリナが口を挟んだ結果、私の策がバレてしまいました。

 今回は同席していないイセリナ。ならば私の独壇場じゃない?

「うむ。しかし、あの岩山だからな。金貨三百枚でどうだろう?」

 ここも記憶通りです。だとしたら、私はどうすべきか。

 既にこの世界線は終わっているような気がするけれど、今後の対応策と情報収集をしておかねばなりません。

「それで構いませんが、一つお伺いしてよろしいでしょうか?」

 とりあえず言い値で売ることにした。

 代わりに私はイセリナの情報を仕入れておこうと思う。

 ところが、考えていたようには進まみませんでした。

 なぜなら、刹那に視界がブラックアウトし、意識が失われる感覚に襲われていたのです。

(嘘? ここでリセット!?)

 何ということでしょう。この世界線はどこでリセットを決めたのかしら?

 疑問しか思い浮かばない。イセリナが現れない時点でリセットされない理由は何?

 会話の途中で終わりだなんて、わけ分かんない。


 何とも、やりきれない気持ちが燻るけれど、天界が決めた通りに私は動くしかありません。

 これでも世界を託された使徒であるのですから。

 兎にも角にもセーブポイントへと戻って行く。これには嘆息するしかありませんね。

 まぁたルークとキスしなきゃならんのか……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...