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第二章 繰り返す時間軸
早々の失態
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十時間ほど馬車を走らせた私たちは、日が落ちたあとに王家の保養地へと到着しています。
広さだけが取り柄の伯爵領ですけれど、急ぐ場合は本当に最悪ですね。
例によって公爵家の執事に案内され、記憶にある部屋へと通されていました。
「むぅ、早かったな。スカーレット伯爵……」
部屋には髭だけです。まあ、この状況は前世界線も変わらないのだけど。
今回もガチガチに緊張しているダンツに代わって、私が一歩前へと進む。
「ランカスタ公爵様、お初にお目にかかります。私がアナスタシア・スカーレットですわ。こちらが父のダンツ・スカーレット伯爵ですの」
汚いドレスの裾を上げ、私は礼儀正しく挨拶をする。
私まで来ることを望んではいないようだけど、そこは髭も予想していたのでしょう。
少しばかりの皮肉が返ってくるだけでした。
「伯爵令嬢にしては質素な暮らしをしているのだな? 貴殿は王家に取り入ったと聞いているが?」
肩にいるマリィのことを咎めないし、私まで来たことについて彼は何も言いませんでした。
かといって、確実に調査はしていたと思います。何しろ此度は王家と親密な関係を築いているからね。
「ただの農耕貴族ですわ。それよりもイセリナ様はいらっしゃらないのでしょうか?」
「ああ、イセリナは連れて来ていない。送付した書面の通りに、この場は商談だからな。子供が騒いでいては邪魔だ」
「あら? 私も子供なのですが?」
ダンツが恐ろしい目で睨んでいるけれど、私は一歩も引くつもりがない。
この世界線の未来がどうなっているのか分かりませんが、イセリナはこの売買イベントのあと一週間程度で失われる運命にあるからです。
前回リセットされた原因はイセリナの死に他ならないのですから。
「ふはは、できたご息女だと聞いていたが、想像を遥かに超えるな? アナスタシア嬢、君はイセリナと親交を持ちたいと考えているのか?」
「もちろんですわ。お会いできなくて残念です」
どうすれば良いのだろう。この世界線は既に終わったような気がしてしまう。
イセリナに会えなければ、彼女を救えない。リセットされた原因である彼女との邂逅は果たせそうにありません。
「まあ、貴殿も王都へ行くのだろう? 嫌でも出会うことになる。それで此度の件だが、伯爵領の岩山を買い取りたいのだ。あの場所に別荘を建てたいと考えておってな」
早速と商談に入る髭公爵。理由は以前と同じです。
あんな場所に別荘を建てるなんて、バカでも信じないでしょうに。
「ほう、それは見晴らしが良いでしょうな。うちは貧乏なので羨ましい限りです!」
そういや、バカがいたよ。脳みそが筋肉で構成される伯爵様がね……。
しかしながら、ダンツのおかげで私の策がバレることはないはずです。
(あれ? イセリナがいないのなら、商談が成立しちゃうんじゃ?)
前回はイセリナが口を挟んだ結果、私の策がバレてしまいました。
今回は同席していないイセリナ。ならば私の独壇場じゃない?
「うむ。しかし、あの岩山だからな。金貨三百枚でどうだろう?」
ここも記憶通りです。だとしたら、私はどうすべきか。
既にこの世界線は終わっているような気がするけれど、今後の対応策と情報収集をしておかねばなりません。
「それで構いませんが、一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
とりあえず言い値で売ることにした。
代わりに私はイセリナの情報を仕入れておこうと思う。
ところが、考えていたようには進まみませんでした。
なぜなら、刹那に視界がブラックアウトし、意識が失われる感覚に襲われていたのです。
(嘘? ここでリセット!?)
何ということでしょう。この世界線はどこでリセットを決めたのかしら?
疑問しか思い浮かばない。イセリナが現れない時点でリセットされない理由は何?
会話の途中で終わりだなんて、わけ分かんない。
何とも、やりきれない気持ちが燻るけれど、天界が決めた通りに私は動くしかありません。
これでも世界を託された使徒であるのですから。
兎にも角にもセーブポイントへと戻って行く。これには嘆息するしかありませんね。
まぁたルークとキスしなきゃならんのか……。
広さだけが取り柄の伯爵領ですけれど、急ぐ場合は本当に最悪ですね。
例によって公爵家の執事に案内され、記憶にある部屋へと通されていました。
「むぅ、早かったな。スカーレット伯爵……」
部屋には髭だけです。まあ、この状況は前世界線も変わらないのだけど。
今回もガチガチに緊張しているダンツに代わって、私が一歩前へと進む。
「ランカスタ公爵様、お初にお目にかかります。私がアナスタシア・スカーレットですわ。こちらが父のダンツ・スカーレット伯爵ですの」
汚いドレスの裾を上げ、私は礼儀正しく挨拶をする。
私まで来ることを望んではいないようだけど、そこは髭も予想していたのでしょう。
少しばかりの皮肉が返ってくるだけでした。
「伯爵令嬢にしては質素な暮らしをしているのだな? 貴殿は王家に取り入ったと聞いているが?」
肩にいるマリィのことを咎めないし、私まで来たことについて彼は何も言いませんでした。
かといって、確実に調査はしていたと思います。何しろ此度は王家と親密な関係を築いているからね。
「ただの農耕貴族ですわ。それよりもイセリナ様はいらっしゃらないのでしょうか?」
「ああ、イセリナは連れて来ていない。送付した書面の通りに、この場は商談だからな。子供が騒いでいては邪魔だ」
「あら? 私も子供なのですが?」
ダンツが恐ろしい目で睨んでいるけれど、私は一歩も引くつもりがない。
この世界線の未来がどうなっているのか分かりませんが、イセリナはこの売買イベントのあと一週間程度で失われる運命にあるからです。
前回リセットされた原因はイセリナの死に他ならないのですから。
「ふはは、できたご息女だと聞いていたが、想像を遥かに超えるな? アナスタシア嬢、君はイセリナと親交を持ちたいと考えているのか?」
「もちろんですわ。お会いできなくて残念です」
どうすれば良いのだろう。この世界線は既に終わったような気がしてしまう。
イセリナに会えなければ、彼女を救えない。リセットされた原因である彼女との邂逅は果たせそうにありません。
「まあ、貴殿も王都へ行くのだろう? 嫌でも出会うことになる。それで此度の件だが、伯爵領の岩山を買い取りたいのだ。あの場所に別荘を建てたいと考えておってな」
早速と商談に入る髭公爵。理由は以前と同じです。
あんな場所に別荘を建てるなんて、バカでも信じないでしょうに。
「ほう、それは見晴らしが良いでしょうな。うちは貧乏なので羨ましい限りです!」
そういや、バカがいたよ。脳みそが筋肉で構成される伯爵様がね……。
しかしながら、ダンツのおかげで私の策がバレることはないはずです。
(あれ? イセリナがいないのなら、商談が成立しちゃうんじゃ?)
前回はイセリナが口を挟んだ結果、私の策がバレてしまいました。
今回は同席していないイセリナ。ならば私の独壇場じゃない?
「うむ。しかし、あの岩山だからな。金貨三百枚でどうだろう?」
ここも記憶通りです。だとしたら、私はどうすべきか。
既にこの世界線は終わっているような気がするけれど、今後の対応策と情報収集をしておかねばなりません。
「それで構いませんが、一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
とりあえず言い値で売ることにした。
代わりに私はイセリナの情報を仕入れておこうと思う。
ところが、考えていたようには進まみませんでした。
なぜなら、刹那に視界がブラックアウトし、意識が失われる感覚に襲われていたのです。
(嘘? ここでリセット!?)
何ということでしょう。この世界線はどこでリセットを決めたのかしら?
疑問しか思い浮かばない。イセリナが現れない時点でリセットされない理由は何?
会話の途中で終わりだなんて、わけ分かんない。
何とも、やりきれない気持ちが燻るけれど、天界が決めた通りに私は動くしかありません。
これでも世界を託された使徒であるのですから。
兎にも角にもセーブポイントへと戻って行く。これには嘆息するしかありませんね。
まぁたルークとキスしなきゃならんのか……。
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