青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第二章 繰り返す時間軸

再度の交渉

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 二年が過ぎていました。

 レジュームポイントに戻されることなく、どうしてかルークルートのまま世界線が維持されています。

「やっぱ、ミスリルの売却がリセットされた原因みたいね」

 全て採掘していたわけでもないのですが、王家に買い取ってもらった事実は髭が岩山を買い叩く理由を消失させたようです。

「ミスリル鉱脈だと確定したあとで、金貨三百枚を提示できるはずもないか……」

 ルークが話していた通り、我がスカーレット子爵家は陞爵され、伯爵家となっていました。

 しかも王家から人員が派遣され、大規模な開墾が始まっております。

「治水から手をつけたのには皆が驚いていたね。だけど、長雨の規模を分かってるのは私だけだもの。開墾したとして洪水となっては意味がないし」

 飢饉対策と赤斑病対策にも私は全力で取り組みました。

 王家が派遣してくれた人員は本当に優秀で、私の指示通りに動いてくれます。

 このまま所領の全域を開拓できたのなら、飢饉で国が傾くことは避けられるのではないでしょうか。

「さしずめ王国の台所って感じね。まあ農耕貴族なんて伯爵家の所領ぽくないけど……」

「がぁああ!」

 ふと耳元で私を急かすような声。それは懐いてしまった火竜の子供です。

「マリィ、もう少し待って。この書類をチェックしたらね?」

「がぁぁあ!」

 火竜の赤ちゃんに私はマリィと名付けました。

 火竜は火球を吐きますからマ〇オと名前を付けたのですけど、女の子だと分かったのでマリィに変えたのよ。

 今もマリィは私にベッタリで、いつになったら親離れするのかと考えてしまいます。

「さてと、マリィのご飯にしますか……」

「があああ!!」

 どうもマリィは言葉を理解している感じ。

 とても良い子なのですが、竜種だからか食欲が凄いの。かといって全然大きくならないのは不思議だわ。

 沢山食べるマリィのために、剣術の稽古がてら開墾地へと向かいます。

「お嬢様、狩りですか?」

 開墾地は畑を耕すエリアではなく、木を切って造成する現場です。

 往々にして獣や魔物は森にいるからね。

「ええ、マリィがお腹を空かせているの。魔物を見なかった?」

「そういえば先ほど、伯爵様がビッグボアを倒されたとか聞きましたけど」

 おお、ビッグボア。平たく言えば巨大な猪のこと。

 どうやらダンツは開墾作業中に出くわしたビッグボアを討伐したらしい。

 相変わらず貴族らしくない脳筋です。

「ありがとう。行ってみるわ!」

 ビッグボアは人間が食べても問題ありません。

 なのでマリィが食べた残りは鍋にでもして、作業員たちに振る舞うことにしましょう。

 私は聞いたままにダンツがいるという開墾地へとやって来ました。

 既にビッグボアは解体されており、みんな食べる気まんまんです。

「お父様、マリィが食べるお肉をいただきたいのですけど」

「おお、そうか。構わんぞ? 一刀にて仕留めてやったわ!」

 流石は脳筋伯爵。もういっそ、傭兵になった方が良いのではないかしら?

 岩ほどもあるビッグボアを一撃で倒す貴族は貴方しかいないわ。

 早速と私はビッグボアの肉を切り分け、そのままマリィに与えます。小さな手で持って美味しそうに食べる様子は見ていて本当に癒されるのよね。

「そうだ、アナ。お前、ランカスタ公爵と面識ってあるのか?」

 ここでダンツが妙な話を始めます。

 さりとて、その理由は簡単に推し量ることができるものでした。

「先ほど、ペガサス便が来てな。公爵の封蝋がされた書類が送られてきたんだ」

 やはり十四歳のイベントに違いない。

 来年は王城で働くことになっているし、髭公爵のイベントが終われば、いよいよこの田舎ステージがクリアとなるはずです。

「見せてもらえる?」

 如何なる書類も私が先に読む。ダンツが余計な行動をしないように。

 私を信頼しているダンツも嫌な顔をせずに言いつけを守っています。

「なるほどね……」

「何が書いてあった?」

 やはり世界は私と髭公爵、更にはイセリナの邂逅を望んでいる。

 書面にあったのは予想通りに東の岩山を買い取りたいという内容でした。

「公爵領と隣接する岩山を買い取りたいのだって。直ぐに支度しないと」

「そんなに急ぐ話なのか?」

 ダンツは驚いていたけれど、公爵は保養も兼ねて既に王家の別荘地へと入っているらしい。

 ルークルートであるこの世界線でも状況は変わらないようです。

 恐らく、それはスカーレット伯爵家に調査する時間を与えないためでしょう。

「もう既に東の街道沿いにある王家の保養地にいらっしゃるみたい。まあ、内容は話を聞いてからね」

 手紙には私を連れてくるようにとは書かれていない。

 既に私の身辺調査は済ませているのでしょう。子爵家を陞爵させた私を恐れているのかもしれません。

 私たちは早速と馬車を走らせます。

「アナ、殿下にもらったドレスがあっただろう?」

 御者台からダンツ。彼は正装をしていたけれど、私は普段着のまま。

 この世界線においてイセリナが同行しているのか分かりませんが、あわよくばドレスを贈ってもらおうという下心ですのよ。オホホホ。

「私のことは気にしないで。お父様、ぶっ飛ばしていきましょう!」

 意気揚々と私たちはランカスタ公爵が待つ保養地へと向かう。

 世界線がどう変化しているのかなど考えもせずに……。
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