青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第二章 繰り返す時間軸

巻き戻される世界線

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 ルークたちと別れた私は馬を走らせ、坂を下りようとしていました。

 しかし、ふと気になることが。

「そういえば火竜のタマゴはどうなったのかな?」

 確かレグス近衛騎士団長は見つかったとだけ話していた。だとすれば、彼らは卵の存在に気付いていないのかもしれない。

 間違いなく存在する火竜の卵。世界線は動いていたけれど、恐らくそれは存在することでしょう。

「どうせリセットされるんだし、見に行ってみますか」

 ただの興味本位でした。

 ルークに惚れられてしまった現状は幾ばくもなく巻き戻される運命です。

 一生懸命に馬を走らせても、家路の途中でセーブポイントかレジュームポイントまで戻されるのなら、火竜の巣を見ておくのも一興かと思いませんか?

「そうと決まれば、急ぐっきゃないね!」

 私は馬を走らせて一段と高い峰を目指します。

 そこからは崖を登っていくことになるのですが、少しも気になりません。

 頂戴したドレスも今宵限りなのです。だから汚れたとしてもへっちゃらなのよ。

 足場は悪かったけれど、鍛え上げた肉体は火竜の巣を簡単に踏破しています。

 我ながら貴族のご令嬢だとは思えぬ成長をしていますが、こんな令嬢がいても面白いでしょ。

「でっか! 一個しか産まないのね……」

 巣にあった卵は一つだけでした。まあでも、両手で抱えるくらいに大きい。

 量より質ってことじゃないだろうけど、火竜は多くの卵を産まないのかもしれません。

「とりあえず、アイテムボックスに入れとこう」

 ここも興味本位に他なりません。レアな卵をゲットしたという自己満足ですかね。

 ダンツに見せたら、飛び上がって驚くことでしょう。

「想像したら面白すぎるね。リセットされる前に家へと帰ろう!」

 登るよりも素早く私は峰を下りました。

 直ぐさま馬に跨がって、颯爽とレッドウォール山脈を駆け下りていきます。

 ドレスが豪快に開いてしまったのですけれど、夜だし気にする必要もない。そもそも私は十二歳の少女なのだし。

 四時間ほどでしょうか。行きと比べて帰路はやはり早い。とはいえ、王都を発ってから八時間程度が経過しています。

 スカーレット邸に着いた頃には陽が昇っていました。

「おう? アナじゃないか?」

 四日は戻っていないというのに、ダンツという名の脳筋は暢気なものだ。

 本当に父親なのかと疑ってしまうね。私は一応、子爵家の長女だというのに。

「久しぶりに会ってそれはなくない?」

「家にいることの方が珍しいだろ?」

 言われて気付く。

 確かにそうだわ。この世界線において、私はやることが多すぎたのです。

 ミスリルの採掘から領地の開墾に毒シダケの栽培とか暇なんて少しもない。

 寝ているときでさえ、魔力強化に努めたりして休まる時間なんてありません。

「ま、今日は寝るわ。流石に疲れたから……」

 父ダンツに手を挙げて家に入ろうとしたのですが、ふと思い出す。

 そういえば火竜の卵を持ち帰ってきたのよ。ダンツを驚かせるためだけに。

「お父様、これ見て!」

 嬉々としてアイテムボックスから火竜の卵を取り出す。

 ニヤニヤとした表情を浮かべながら。

「うお! 何だこれは!?」

 予想通りの反応に私の疲労は吹っ飛んでいました。

 この辺りは前世にない楽しみです。貴族とは思えない遣り取りであったのだけど。

「火竜のタマゴよ! 取ってきた!」

「アナ、お前って奴は本当に貴族の令嬢なのか?」

「残念だけど、貴方の娘よ? お淑やかで可愛い全然似ていない貴方の娘ね!」

 とりあえずミッションコンプリート。もうベッドに倒れ込んでも問題はないでしょう。

 次に目が覚めたとき、私は恐らく赤子に戻っている。

 リスタート時はどのルートを選ぶのか、少しくらいは考えておかなくちゃね。

「じゃあ、もう寝るから、開墾はよろしくね!」

 言って私は執務室(子供部屋)へ。

 ベッドに倒れ込もうとして、私は眉根を寄せる。

 そういえば私はピンク色のドレスを着たままでありました。

「あんのバカ父、娘がドレスを着て戻ったってのに、無関心とかとんでもないな。タマゴみたいに盗んできたとか考えていないでしょうね?」

 私はこれでも誇り高き悪役令嬢です。

 盗みといった軽犯罪に手を染めるほど小者ではありません。まあ、詐欺紛いのことはしたけれど。

「次の世界線では娘を愛でる父親であることを祈りましょうか……」

 ドレスを脱ぎ捨てた私は下着のままベッドへと潜り込んだ。

 疲ればかりが残ったこの世界線に別れを告げるため。

 少しばかり楽しめたけれど、この今は私が目指す世界線ではありませんでした。
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