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第一章 前世と今世と
秘策
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「イセリナが殺されたんだ……」
前世で数え切れないほど死に戻ったというのに、私はその可能性を考えていませんでした。
世界が魔王因子に悩まされるというのならば、恐らくは第一王子ルークとエリカの婚姻を妨害できなくなったからでしょう。
その理由は明々白々。
ルークの担当と決めていたイセリナが輪廻へと還ったからに違いありません。
「しかし、ちょっとくらいモブも頑張ってくれないのかしら? イセリナがいなくなっただけで、エリカとの婚姻が決定してしまうなんて……」
プロメティア世界には他にも上位貴族の女性がいるのだし、第一王子ルークを射止めてもおかしくはない。
「エリカの主人公補正ってやつなのかしらね……」
まるで世界の意志があるかのように、平民出身のエリカにルークを奪われてしまうなんて。
「まず間違いなくイセリナが殺されたんだわ……」
前世を考えると妥当な結果です。転生のプロを自称する私でさえ、何度も殺されたのですから。
完走結果が少しばかり反映されたからといって、彼女を狙う魔の手がなくなるはずもありません。
「ちっくしょ。一体誰に殺されたのかしら……?」
イセリナの殺害方法は多岐にわたっている。
そもそも恨みの本質が二つもあるのです。
イセリナ自身に恨みを持つ者とランカスタ公爵に恨みを持つ者。どちらにせよイセリナが狙われることになります。
「十四歳なら怪しいのはキャサリンのイベント……」
キャサリンとはランカスタ公爵家と隣接するデンバー侯爵家のご令嬢です。
デンバー侯爵共々要注意人物だけど、幼い頃に突っかかってくるのは娘の方に違いない。
「キャサリンのイベント以外なら、侍女の可能性も高いな……」
とにかく恨みを持つ者は多い。
隙あらば命を狙われるイセリナ。プレイヤーでもない彼女は執事にだって簡単に殺されてしまうはず。
「じゃあ、私はどうするべき?」
正直にこの問題の解決策があるとは思えない。
ランカスタ公爵領から遠く離れて暮らす私が、彼女の護衛をするわけにもならないのですから。
「やっぱアルティメットモードだね……」
どうしてか自然と笑みが浮かんだ。
やはり私は超高難度をクリアしたい。指定された男性を口説くだけだなんてつまらないんだもの。
「なら、どうする?」
思考してみるも、十四歳よりも前に出会うのは難しい。
何しろお金がないし、公爵領まで向かったとしてもイセリナに会えるはずもありません。
下位貴族である私と公爵家が繋がりを持つのは岩山イベント以外にないのですから。
「とりあえず、この世界線では岩山イベントまで死ぬことはないか……」
私が変に動かさない限り、岩山イベントまでイセリナの生は確定している。
変動があるとすれば、あの岩山イベントしかないとさえ感じます。
「少しずつミスリルを売って、王都へ向かう軍資金を作る選択もあるけれど……」
先ほどの世界線で私は採掘したミスリルを全てアイテムボックスへとしまったままでした。
それを売り払って資金を捻出するという案について考えてみます。
「でも、子爵令嬢が王都に出たとして動きようがない」
王都に出て暗躍しようにも、十四歳の少女が王城に出入りできるはずもないわ。
信用を得るどころか、不審に思われてしまうのが現実です。
「いや、一つだけ手がある……」
王都に出るには何も自費で向かう必要はない。
王家が無視できない少女になることができるのなら、向こうから使者を送ってくるはずだわ。
「火竜の巣……」
たった一つだけルートが用意されていました。
少女アナスタシアが王都へ行くためのイベント。
それは乙女ゲームBlueRoseにおいて隠しシナリオ的なものでしたけれど、何もかもが酷似するプロメティア世界であれば、火竜もまた存在するはずです。
火竜の巣は王領とスカーレット子爵領の境にあります。
当然のことながら、そこには南部と中部を隔てるレッドウォール山脈が存在する。
山脈名の由来こそが火竜の巣であり、そこにいる火竜は隠しキャラともいえる近衛騎士団長レグス・キャサウェイの攻略イベントフラグでした。
「レグス近衛騎士団長を攻略する必要はないけれど……」
レグス団長を攻略対象とするには十三歳までに火竜を討伐しておかねばならない。
しかも、魔法の使用は不可。剣術のみでの討伐という無理ゲーとも言える内容でした。
もちろんプレイヤーはエリカを使用するのだけど、ゴリゴリの武勇シナリオになるレグスルートはエリカが聖女としてではなく、唯一騎士として王城へと向かうことのできるルートです。
「とりあえず試してみよう。もしも王家に仕えることができたのなら、この先が楽になる。それにイセリナが誰に殺されるのか分かるかもしれない」
正直に今回の生は死に戻り前提です。現状では不明な点が多すぎるもの。
対策の立てようがないし、ひょっとするとレグスルートが正解である可能性もあるのだから。
「次は絶対にイセリナを生かす……」
再び赤子からのリスタートとなった私だけれど、やる気に満ちていました。
乙女ゲーム『BlueRose』の廃プレイヤーとして。
私はアルティメットモードの完全クリアを心に誓っています。
前世で数え切れないほど死に戻ったというのに、私はその可能性を考えていませんでした。
世界が魔王因子に悩まされるというのならば、恐らくは第一王子ルークとエリカの婚姻を妨害できなくなったからでしょう。
その理由は明々白々。
ルークの担当と決めていたイセリナが輪廻へと還ったからに違いありません。
「しかし、ちょっとくらいモブも頑張ってくれないのかしら? イセリナがいなくなっただけで、エリカとの婚姻が決定してしまうなんて……」
プロメティア世界には他にも上位貴族の女性がいるのだし、第一王子ルークを射止めてもおかしくはない。
「エリカの主人公補正ってやつなのかしらね……」
まるで世界の意志があるかのように、平民出身のエリカにルークを奪われてしまうなんて。
「まず間違いなくイセリナが殺されたんだわ……」
前世を考えると妥当な結果です。転生のプロを自称する私でさえ、何度も殺されたのですから。
完走結果が少しばかり反映されたからといって、彼女を狙う魔の手がなくなるはずもありません。
「ちっくしょ。一体誰に殺されたのかしら……?」
イセリナの殺害方法は多岐にわたっている。
そもそも恨みの本質が二つもあるのです。
イセリナ自身に恨みを持つ者とランカスタ公爵に恨みを持つ者。どちらにせよイセリナが狙われることになります。
「十四歳なら怪しいのはキャサリンのイベント……」
キャサリンとはランカスタ公爵家と隣接するデンバー侯爵家のご令嬢です。
デンバー侯爵共々要注意人物だけど、幼い頃に突っかかってくるのは娘の方に違いない。
「キャサリンのイベント以外なら、侍女の可能性も高いな……」
とにかく恨みを持つ者は多い。
隙あらば命を狙われるイセリナ。プレイヤーでもない彼女は執事にだって簡単に殺されてしまうはず。
「じゃあ、私はどうするべき?」
正直にこの問題の解決策があるとは思えない。
ランカスタ公爵領から遠く離れて暮らす私が、彼女の護衛をするわけにもならないのですから。
「やっぱアルティメットモードだね……」
どうしてか自然と笑みが浮かんだ。
やはり私は超高難度をクリアしたい。指定された男性を口説くだけだなんてつまらないんだもの。
「なら、どうする?」
思考してみるも、十四歳よりも前に出会うのは難しい。
何しろお金がないし、公爵領まで向かったとしてもイセリナに会えるはずもありません。
下位貴族である私と公爵家が繋がりを持つのは岩山イベント以外にないのですから。
「とりあえず、この世界線では岩山イベントまで死ぬことはないか……」
私が変に動かさない限り、岩山イベントまでイセリナの生は確定している。
変動があるとすれば、あの岩山イベントしかないとさえ感じます。
「少しずつミスリルを売って、王都へ向かう軍資金を作る選択もあるけれど……」
先ほどの世界線で私は採掘したミスリルを全てアイテムボックスへとしまったままでした。
それを売り払って資金を捻出するという案について考えてみます。
「でも、子爵令嬢が王都に出たとして動きようがない」
王都に出て暗躍しようにも、十四歳の少女が王城に出入りできるはずもないわ。
信用を得るどころか、不審に思われてしまうのが現実です。
「いや、一つだけ手がある……」
王都に出るには何も自費で向かう必要はない。
王家が無視できない少女になることができるのなら、向こうから使者を送ってくるはずだわ。
「火竜の巣……」
たった一つだけルートが用意されていました。
少女アナスタシアが王都へ行くためのイベント。
それは乙女ゲームBlueRoseにおいて隠しシナリオ的なものでしたけれど、何もかもが酷似するプロメティア世界であれば、火竜もまた存在するはずです。
火竜の巣は王領とスカーレット子爵領の境にあります。
当然のことながら、そこには南部と中部を隔てるレッドウォール山脈が存在する。
山脈名の由来こそが火竜の巣であり、そこにいる火竜は隠しキャラともいえる近衛騎士団長レグス・キャサウェイの攻略イベントフラグでした。
「レグス近衛騎士団長を攻略する必要はないけれど……」
レグス団長を攻略対象とするには十三歳までに火竜を討伐しておかねばならない。
しかも、魔法の使用は不可。剣術のみでの討伐という無理ゲーとも言える内容でした。
もちろんプレイヤーはエリカを使用するのだけど、ゴリゴリの武勇シナリオになるレグスルートはエリカが聖女としてではなく、唯一騎士として王城へと向かうことのできるルートです。
「とりあえず試してみよう。もしも王家に仕えることができたのなら、この先が楽になる。それにイセリナが誰に殺されるのか分かるかもしれない」
正直に今回の生は死に戻り前提です。現状では不明な点が多すぎるもの。
対策の立てようがないし、ひょっとするとレグスルートが正解である可能性もあるのだから。
「次は絶対にイセリナを生かす……」
再び赤子からのリスタートとなった私だけれど、やる気に満ちていました。
乙女ゲーム『BlueRose』の廃プレイヤーとして。
私はアルティメットモードの完全クリアを心に誓っています。
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