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第一章 前世と今世と
推測
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「どうして……?」
意識を戻した私は愕然としていました。身体が思うように動かないのです。
この感覚は間違いない。私は現状を把握できています。
「赤子に戻されたんだ――」
キノコ生産の原木を用意しようとしていただけなのに。
なぜだか私はレジュームポイントまで戻されていました。
「あり得ない。自分が振り下ろした斧で死んだわけでもなかったのに……」
力こそなかったけれど、一応は剣術を収めた身です。
鉈にも似た刃物を扱えないはずがありません。
「どこで世界は行き詰まったってわけ?」
赤子に戻される原因は一つ。それは世界線が行き詰まってしまったからでしょう。
あのまま進めたとして、プロメティア世界は破滅するからだ。
「髭との取引に問題でもあったのかしら?」
考えられる原因は数日前にしたランカスタ公爵との取り決めしかない。
内容は食糧危機に際してスカーレット子爵領を開墾をするというもの。
「あの岩山がキーなのかな?」
赤子であるのだし、考える時間は充分にある。
私は一つ一つ原因を潰していかねばならない。でもないと、再び私は十四歳でレジュームポイントへと戻される羽目になる。
「いや、岩山に関してはベストといえる結果。もし仮にあの取引が間違っているのなら、アナスタシアは十七歳になるまで王都へ辿り着けないことになるわ」
一年でも早く王子殿下と顔見知りになっておかねばならない。だから髭との関係性は前世界線がベストだと思う。
後ろ盾がなければ、子爵令嬢が王子殿下と出会えるはずもないのだし。
「じゃあ、疫病関連かしら?」
次に思いつく原因は赤斑病を流行らせようとしたこと。
これもまた髭に関連している。薬を優先的に卸すことで彼の心象を良くできたのです。
「ううん、疫病も違うはず。現にイセリナだった世界線では疫病が蔓延しても、世界は続いていた。王国が荒れ果てた末、権力者への批判が高まってクーデターが起きてしまうんだ。王子たちと親しくしていたエリカまでもが殺されて終わるバッドエンド。私自身が死なない稀有な死に戻りだったわ」
世界がエリカを失ってはならない。
闇を照らす彼女がいなければ、世界は魔王を生み出してしまうからね。
「今まで赤斑病でエリカが死んだことはなかったけど……?」
エリカは王家に仕えるまで、スラム街で生活していました。
よって彼女が赤斑病を罹患する可能性は否定できませんが、千年と繰り返した世界でただの一度も罹患していません。
恐らくエリカはこのリスタートに無関係だと思われます。
「アマンダと交信できたら話は早いのだけどね……」
転生してしまうと女神アマンダに話を聞くことができません。
前世で何度も女神像に祈りを捧げたというのに、一度も助言をもらえなかったのです。
結論として女神は世界に関与できない。従って死に戻りの原因追及は私自身が行わねばなりません。
「必ず原因があるはずだわ。理由もなく赤子に戻るはずがないもの……」
全ては天界のシミュレーション次第なのよね。またそれは往々にして三日以内に結果が出ていた。
それ以上に時間を要したのは天界へ戻ってからの出来事しかない。
エリカのひ孫が魔王因子を発現させたという話がそれに該当します。
「現時点から分岐が増えるほどシミュレーションに時間がかかるのは当たり前ね。現状から考察するに、私はそこまで先の未来まで影響を与える行動をしていない。せいぜい数年内の出来事だし、現状で分かることは近々に起きた事象によって、未来が途絶えてしまうって話だろうね」
改めて考えてみる。世界は何をもって未来を閉ざすのかと。
一つ一つを脳内で指折り数え、私は原因究明を急ぐだけだ。
「エリカが生きているのが絶対条件。あとエリカとセントローゼス王家が結びついても駄目。エリカと王子殿下の婚姻が現実味を帯びれば、今回は早々にリセットされるはずよ」
前世界線にてエリカと王家の血が混ざり合うことが魔王因子に繋がると判明している。
だからこそ、アマンダはエリカの動向に注視しているはずだわ。
婚姻が決まった瞬間に、私のことなど考えずにレジュームポイントへと戻すはずよね。
「まあでも今回はそれじゃあない。王子殿下の婚姻はまだ先の話だし、決定的になったのだとすれば、下位貴族にも通知や噂くらいは届いているはずだもの」
何よりランカスタ公爵と面会した折りに、少しもそのような話はなかったんだ。
夜会にて耳目を集めたいと話した私に、髭が婚姻の話をしないはずもないのだし。
「今回の転生において、重要なポイントは私とセシルが結ばれること。セシル狙いの目が早々になくなるものかな?」
問題があるとすれば前世界線と同じようにエリカだけど、彼女が王城へと顔を出し始めるのは十五歳からです。
よってエリカが十四歳で婚約できるはずもありません。
「だとすれば、何が問題? あの場面でリセットされる意味はそんなに多くないでしょうに……」
もう一度、最初から考えてみるべきかな。
レジュームポイントへと戻されるわけ。恐らくは最終的に魔王因子が発現するからでしょう。
「エリカに問題がないのなら、きっと私の方だろうなぁ……」
私が抱える問題であれば第三王子セシルしかない。
だとしても、仮に赤斑病でセシルが亡くなったとして、何の問題も起きないはず。
何しろ魔王因子を発現させるという彼のひ孫は生まれなくなるというのですから。
「んん? じゃあ、ルークに問題があるのかしら?」
正直にルークもセシルと変わらない。
彼が疫病で亡くなったとして、王国が傾くだけで世界に影響はなかったはず。王家の血が途絶えなければ、それで問題ないと聞いています。
「まさか二人して死んじゃったなんて……」
それもまた可能性は低い。
基本的に王子殿下は出歩きませんし、何年も先に流行する赤斑病に二人して罹患するなんて、私の記憶にはない事象ですもの。
「ややこしいなぁ。ルークだけが生き残ったとして、エリカとくっつかなければいいだけなのに……」
言って私は気が付いていました。
ルークに関しては丸投げであった現状に。思考するほどに真相だと思えるもの。
レジュームポイントへと戻った理由について、ようやくと私は理解していました。
「イセリナが殺されたんだ――」
意識を戻した私は愕然としていました。身体が思うように動かないのです。
この感覚は間違いない。私は現状を把握できています。
「赤子に戻されたんだ――」
キノコ生産の原木を用意しようとしていただけなのに。
なぜだか私はレジュームポイントまで戻されていました。
「あり得ない。自分が振り下ろした斧で死んだわけでもなかったのに……」
力こそなかったけれど、一応は剣術を収めた身です。
鉈にも似た刃物を扱えないはずがありません。
「どこで世界は行き詰まったってわけ?」
赤子に戻される原因は一つ。それは世界線が行き詰まってしまったからでしょう。
あのまま進めたとして、プロメティア世界は破滅するからだ。
「髭との取引に問題でもあったのかしら?」
考えられる原因は数日前にしたランカスタ公爵との取り決めしかない。
内容は食糧危機に際してスカーレット子爵領を開墾をするというもの。
「あの岩山がキーなのかな?」
赤子であるのだし、考える時間は充分にある。
私は一つ一つ原因を潰していかねばならない。でもないと、再び私は十四歳でレジュームポイントへと戻される羽目になる。
「いや、岩山に関してはベストといえる結果。もし仮にあの取引が間違っているのなら、アナスタシアは十七歳になるまで王都へ辿り着けないことになるわ」
一年でも早く王子殿下と顔見知りになっておかねばならない。だから髭との関係性は前世界線がベストだと思う。
後ろ盾がなければ、子爵令嬢が王子殿下と出会えるはずもないのだし。
「じゃあ、疫病関連かしら?」
次に思いつく原因は赤斑病を流行らせようとしたこと。
これもまた髭に関連している。薬を優先的に卸すことで彼の心象を良くできたのです。
「ううん、疫病も違うはず。現にイセリナだった世界線では疫病が蔓延しても、世界は続いていた。王国が荒れ果てた末、権力者への批判が高まってクーデターが起きてしまうんだ。王子たちと親しくしていたエリカまでもが殺されて終わるバッドエンド。私自身が死なない稀有な死に戻りだったわ」
世界がエリカを失ってはならない。
闇を照らす彼女がいなければ、世界は魔王を生み出してしまうからね。
「今まで赤斑病でエリカが死んだことはなかったけど……?」
エリカは王家に仕えるまで、スラム街で生活していました。
よって彼女が赤斑病を罹患する可能性は否定できませんが、千年と繰り返した世界でただの一度も罹患していません。
恐らくエリカはこのリスタートに無関係だと思われます。
「アマンダと交信できたら話は早いのだけどね……」
転生してしまうと女神アマンダに話を聞くことができません。
前世で何度も女神像に祈りを捧げたというのに、一度も助言をもらえなかったのです。
結論として女神は世界に関与できない。従って死に戻りの原因追及は私自身が行わねばなりません。
「必ず原因があるはずだわ。理由もなく赤子に戻るはずがないもの……」
全ては天界のシミュレーション次第なのよね。またそれは往々にして三日以内に結果が出ていた。
それ以上に時間を要したのは天界へ戻ってからの出来事しかない。
エリカのひ孫が魔王因子を発現させたという話がそれに該当します。
「現時点から分岐が増えるほどシミュレーションに時間がかかるのは当たり前ね。現状から考察するに、私はそこまで先の未来まで影響を与える行動をしていない。せいぜい数年内の出来事だし、現状で分かることは近々に起きた事象によって、未来が途絶えてしまうって話だろうね」
改めて考えてみる。世界は何をもって未来を閉ざすのかと。
一つ一つを脳内で指折り数え、私は原因究明を急ぐだけだ。
「エリカが生きているのが絶対条件。あとエリカとセントローゼス王家が結びついても駄目。エリカと王子殿下の婚姻が現実味を帯びれば、今回は早々にリセットされるはずよ」
前世界線にてエリカと王家の血が混ざり合うことが魔王因子に繋がると判明している。
だからこそ、アマンダはエリカの動向に注視しているはずだわ。
婚姻が決まった瞬間に、私のことなど考えずにレジュームポイントへと戻すはずよね。
「まあでも今回はそれじゃあない。王子殿下の婚姻はまだ先の話だし、決定的になったのだとすれば、下位貴族にも通知や噂くらいは届いているはずだもの」
何よりランカスタ公爵と面会した折りに、少しもそのような話はなかったんだ。
夜会にて耳目を集めたいと話した私に、髭が婚姻の話をしないはずもないのだし。
「今回の転生において、重要なポイントは私とセシルが結ばれること。セシル狙いの目が早々になくなるものかな?」
問題があるとすれば前世界線と同じようにエリカだけど、彼女が王城へと顔を出し始めるのは十五歳からです。
よってエリカが十四歳で婚約できるはずもありません。
「だとすれば、何が問題? あの場面でリセットされる意味はそんなに多くないでしょうに……」
もう一度、最初から考えてみるべきかな。
レジュームポイントへと戻されるわけ。恐らくは最終的に魔王因子が発現するからでしょう。
「エリカに問題がないのなら、きっと私の方だろうなぁ……」
私が抱える問題であれば第三王子セシルしかない。
だとしても、仮に赤斑病でセシルが亡くなったとして、何の問題も起きないはず。
何しろ魔王因子を発現させるという彼のひ孫は生まれなくなるというのですから。
「んん? じゃあ、ルークに問題があるのかしら?」
正直にルークもセシルと変わらない。
彼が疫病で亡くなったとして、王国が傾くだけで世界に影響はなかったはず。王家の血が途絶えなければ、それで問題ないと聞いています。
「まさか二人して死んじゃったなんて……」
それもまた可能性は低い。
基本的に王子殿下は出歩きませんし、何年も先に流行する赤斑病に二人して罹患するなんて、私の記憶にはない事象ですもの。
「ややこしいなぁ。ルークだけが生き残ったとして、エリカとくっつかなければいいだけなのに……」
言って私は気が付いていました。
ルークに関しては丸投げであった現状に。思考するほどに真相だと思えるもの。
レジュームポイントへと戻った理由について、ようやくと私は理解していました。
「イセリナが殺されたんだ――」
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