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第一章 前世と今世と
目覚めたあと
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魔力切れを起こした私は三日三晩寝っぱなしであったみたい。
ようやくと意識を戻した私は自室の天井を意味もなく見つめていた。
「やったはずよね……?」
全てが夢だったなんてシャレにならない。
重い身体を起こして、私はダンツに確認しようとベッドから抜け出している。
アイテムボックスからパンを取りだして、無作法と知りながらも囓ったままダンツを捜す。
「おお、目が覚めたのか!」
捜すまでもなくダンツが現れていました。
いや、本当に狭い屋敷ね。簡単で良いのは助かるのだけど、何だか泣けてくるような現実でもあるわ。
「お父様、私はあの岩山を吹き飛ばせたのでしょうか?」
確認事項はそれだけだ。
岩山さえ消し飛んでおれば、街道を整備するのは容易い。
スカーレット子爵家では不可能だけど、ランカスタ公爵家にはそれを可能とする財力があるはずです。
「ああ、魔力切れを起こしたんだったな。もの凄い魔法を撃ち放っていたぞ! アナは宮廷魔道士にでもなれるんじゃないか?」
残念パパであるダンツは私の疑問を解消することなく、感想を述べている。
まあでも、彼の評価は一定の結果に結びつけられる。
私があの岩山を木っ端微塵とした事実に。
「それで公爵様からユニコーン便が届いてな。もう街道の整備に取りかかっているらしい。それと、お前宛の手紙が入っていたのだが……」
ユニコーン便だなんて久しぶりに聞いた。
前世ではお世話になっていたけれど、ユニコーン便は貧乏貴族がおいそれと使用できる金額じゃあない。
何しろユニコーンはレアな魔物です。
繁殖力が弱く、ユニコーンの幼体は農耕馬が一万頭くらい買えるような金額なのですから。
私はダンツから手紙を受け取り、執務室でそれを開いた。
『親愛なるアナスタシア嬢へ』
ううむ、あの髭に私は気に入られたようです。
利益がなけば、決してへりくだることなどない男が十四歳の女子にこのような文面をしたためるなんて。
『儂はまだ帰路の途中だが、魔道通話にて岩山の確認を命じた。貴殿が語った通りに、木っ端微塵となっておったらしい。この報告には本当に驚いた。貴殿ならば王宮魔道士隊ではなく、近衛兵団に推薦できると思う』
何の用かと身構えていた私なのですが、思わぬ話にゴクリと唾を呑んでいました。
下位貴族である私は王都へと向かう理由がない。
仮に王都まで辿り着いたとしても、王宮は遥か先に霞んで見えるだけでしょう。
「嘘でしょ? あの髭が美味しい話だけを持ってくるはずがないわ」
前世で髭については完璧に理解したつもり。
悪役令嬢から見ても、明らかに彼は悪であったのだから。
『望むのなら推薦してやるが、それは次の機会に。それで話の途中であった疫病対策についてだが、儂にも充分な利益があるのだろうな? 食料の転売だけでは街道を整備したり、開墾の費用だけで吹き飛んでしまうぞ?』
やっぱ欲どしい髭だね。
飢饉に陥ったとき、どれ程に食料が高騰するか分かっているはず。
だからこそ、文句を言う前に街道の工事に乗り出したくせに。
「ま、少しくらいは甘い汁を用意しなきゃね……」
赤斑病の薬は本当に苦労しました。何度リスタートしたか分からないくらい。薬の開発だけで軽く百年はかかったように思う。
だから製法は秘密にするとして、髭には薬の転売で儲けてもらいましょうかね。
『とりあえず、瓦礫を撤去し終えたら直ぐに人員を派遣する。好きに使って構わない。小麦の種や穀物の苗も送る。収穫のたび輸送するように』
やはり髭は抜け目ないね。
スカーレット子爵家は銅貨一枚ですら出さないのだから、利益が出るまでは公爵家の言いなりとなるしかないわ。
「この分だと開墾の方は任せても大丈夫そうね」
ちなみに赤斑病の薬についても問題はありません。
製法は頭の中にあるのだし、原材料は子爵領でも見つかるはずだから。
「木だけは売るほどあるからね……」
どうして木が必要なのかというと、薬の原材料は毒シダケと呼ばれる毒キノコだからです。
毒シダケに行き着くまで、本当に苦労したのを思い出します。
研究結果ではスノーグラスという野草から生成した薬が一番効果的なのだけど、スノーグラスは雪深いところにしか生えないし、大量生産ができなくて諦めたの。
その点において毒シダケの栽培は簡単でした。
その名の通り毒が問題となったものの、効果を残しながら解毒する浄化魔法を構築したことで私は問題をクリアしています。
「原木はもっと増やした方がいいね。今回は本当に疫病を流行らせるつもりだし……」
悪役令嬢イセリナの折りには被害を最小限とすべく行動していました。
結果的に聖女と呼ばれたけれど、今世では王国の危機を収束させたという実績が必要なの。
やはり私は悪役令嬢として突っ走るしかありません。
「開墾は髭に任せて、私は原木を増やしていこう」
薬の生成方法を髭に知られたくない。
だからこそ、疫病が流行り出すまでに必要量を用意しなければなりません。
私という存在が必要であると髭が考えてくれるように。
私は子爵邸の裏山へと毒キノコの採取に向かうのでした。
ようやくと意識を戻した私は自室の天井を意味もなく見つめていた。
「やったはずよね……?」
全てが夢だったなんてシャレにならない。
重い身体を起こして、私はダンツに確認しようとベッドから抜け出している。
アイテムボックスからパンを取りだして、無作法と知りながらも囓ったままダンツを捜す。
「おお、目が覚めたのか!」
捜すまでもなくダンツが現れていました。
いや、本当に狭い屋敷ね。簡単で良いのは助かるのだけど、何だか泣けてくるような現実でもあるわ。
「お父様、私はあの岩山を吹き飛ばせたのでしょうか?」
確認事項はそれだけだ。
岩山さえ消し飛んでおれば、街道を整備するのは容易い。
スカーレット子爵家では不可能だけど、ランカスタ公爵家にはそれを可能とする財力があるはずです。
「ああ、魔力切れを起こしたんだったな。もの凄い魔法を撃ち放っていたぞ! アナは宮廷魔道士にでもなれるんじゃないか?」
残念パパであるダンツは私の疑問を解消することなく、感想を述べている。
まあでも、彼の評価は一定の結果に結びつけられる。
私があの岩山を木っ端微塵とした事実に。
「それで公爵様からユニコーン便が届いてな。もう街道の整備に取りかかっているらしい。それと、お前宛の手紙が入っていたのだが……」
ユニコーン便だなんて久しぶりに聞いた。
前世ではお世話になっていたけれど、ユニコーン便は貧乏貴族がおいそれと使用できる金額じゃあない。
何しろユニコーンはレアな魔物です。
繁殖力が弱く、ユニコーンの幼体は農耕馬が一万頭くらい買えるような金額なのですから。
私はダンツから手紙を受け取り、執務室でそれを開いた。
『親愛なるアナスタシア嬢へ』
ううむ、あの髭に私は気に入られたようです。
利益がなけば、決してへりくだることなどない男が十四歳の女子にこのような文面をしたためるなんて。
『儂はまだ帰路の途中だが、魔道通話にて岩山の確認を命じた。貴殿が語った通りに、木っ端微塵となっておったらしい。この報告には本当に驚いた。貴殿ならば王宮魔道士隊ではなく、近衛兵団に推薦できると思う』
何の用かと身構えていた私なのですが、思わぬ話にゴクリと唾を呑んでいました。
下位貴族である私は王都へと向かう理由がない。
仮に王都まで辿り着いたとしても、王宮は遥か先に霞んで見えるだけでしょう。
「嘘でしょ? あの髭が美味しい話だけを持ってくるはずがないわ」
前世で髭については完璧に理解したつもり。
悪役令嬢から見ても、明らかに彼は悪であったのだから。
『望むのなら推薦してやるが、それは次の機会に。それで話の途中であった疫病対策についてだが、儂にも充分な利益があるのだろうな? 食料の転売だけでは街道を整備したり、開墾の費用だけで吹き飛んでしまうぞ?』
やっぱ欲どしい髭だね。
飢饉に陥ったとき、どれ程に食料が高騰するか分かっているはず。
だからこそ、文句を言う前に街道の工事に乗り出したくせに。
「ま、少しくらいは甘い汁を用意しなきゃね……」
赤斑病の薬は本当に苦労しました。何度リスタートしたか分からないくらい。薬の開発だけで軽く百年はかかったように思う。
だから製法は秘密にするとして、髭には薬の転売で儲けてもらいましょうかね。
『とりあえず、瓦礫を撤去し終えたら直ぐに人員を派遣する。好きに使って構わない。小麦の種や穀物の苗も送る。収穫のたび輸送するように』
やはり髭は抜け目ないね。
スカーレット子爵家は銅貨一枚ですら出さないのだから、利益が出るまでは公爵家の言いなりとなるしかないわ。
「この分だと開墾の方は任せても大丈夫そうね」
ちなみに赤斑病の薬についても問題はありません。
製法は頭の中にあるのだし、原材料は子爵領でも見つかるはずだから。
「木だけは売るほどあるからね……」
どうして木が必要なのかというと、薬の原材料は毒シダケと呼ばれる毒キノコだからです。
毒シダケに行き着くまで、本当に苦労したのを思い出します。
研究結果ではスノーグラスという野草から生成した薬が一番効果的なのだけど、スノーグラスは雪深いところにしか生えないし、大量生産ができなくて諦めたの。
その点において毒シダケの栽培は簡単でした。
その名の通り毒が問題となったものの、効果を残しながら解毒する浄化魔法を構築したことで私は問題をクリアしています。
「原木はもっと増やした方がいいね。今回は本当に疫病を流行らせるつもりだし……」
悪役令嬢イセリナの折りには被害を最小限とすべく行動していました。
結果的に聖女と呼ばれたけれど、今世では王国の危機を収束させたという実績が必要なの。
やはり私は悪役令嬢として突っ走るしかありません。
「開墾は髭に任せて、私は原木を増やしていこう」
薬の生成方法を髭に知られたくない。
だからこそ、疫病が流行り出すまでに必要量を用意しなければなりません。
私という存在が必要であると髭が考えてくれるように。
私は子爵邸の裏山へと毒キノコの採取に向かうのでした。
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