青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第一章 前世と今世と

スカーレット子爵領

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 私はアナスタシア・スカーレット子爵令嬢として転生していました。

 此度もまた女神アマンダの思惑通りだと考えると、少しばかり腹立たしい。

 とはいえ、このミッションを完クリしなきゃ、エンドコンテンツを迎えられないのだから仕方ないね。

 現在は十二歳になったばかりです。スカーレット子爵家には弟が一人いるだけで、他に兄弟はおりません。

「まあしかし、分かっていたけれど、とんだ片田舎ね……」

 実をいうと、スカーレット子爵領は王領と隣り合っています。

 絶好の立地に思える子爵領がど田舎であるのには、明確な理由が存在しました。

「忌々しいレッドウォール山脈のせいね……」

 北側と南側には険しい山脈が延びています。

 その山々に囲まれた僻地こそがスカーレット子爵領。主要都市と街道で繋がらない所領が発展するはずもありません。

「さしずめ陸の孤島か……」

 地図上では北に副都リーフメル、南に王都ルナレイクがあるというのに、未開地だなんてあんまりです。

 スカーレット子爵領は広さだけが取り柄。その台所事情には驚きを通り越して笑うしかないわ。

「アナ、窓を眺めてどうしたのだ?」

 子供らしくなく嘆息していると、父であるダンツ・スカーレットが話しかけてきました。

「お父様、どうしてスカーレット子爵領はこんなにもみすぼらしいのですか?」

 嫌味をたっぷりと含ませて私は言った。

 ただでさえ私は一刻も早く王都へ向かわねばならない身の上。お金がなければ、王都に移り住むことすらできません。

「長閑で良いところだろ? 食事も充分な量が食べられる。それともお菓子の量が足りないのか?」

 やはりダンツは残念子爵です。

 恐らくファニーピッグのアナスタシアは食べることにしか興味が抱けなかったのでしょう。

 ホント可哀想に。この残念な父のせいで太ってしまったのね……。

「お父様、しばらく私は留守にします。家出ではないのでご安心を」

 今までは幼女だからと自重していたのだけど、このままでは王都に行くのは貴族院へと入る十七歳。確実に私は出遅れることになってしまう。

 また貴族だからといって貴族院に入学できるわけではありません。年間に金貨百枚の寄付金、二年間で金貨二百枚が必要となるのです。

「何をするつもりだ? アナはまだ十二歳だろう?」

「お父様のせいよ? 私はもう貧乏が我慢ならないの。お父様は所領の開墾とか始めてください」

「開墾だとぅ? 今のままで充分だろうが?」

 私にはゲームの知識と前世の知識がある。

 金策だってアテがあるの。あと五年もこの僻地に引き籠もるなんて無駄な時間だもん。

「あら、貴方たちこんなところで何をしているの?」

 ダンツと話し合っていると、母であるメイアがやって来ました。

「お母様、私は思うところがあって、自由に行動したいのです。お父様には開墾をお願いしたのですが、難色を示されているのですよ」

 ろくな収益がない貴族のお屋敷には使用人などおりません。

 本当に不憫でならない。美人で器量の良い母が脳筋子爵の嫁だなんて不幸すぎると思いませんか?

「子爵領はほぼ山林なのよ? 開墾するにもお金が必要。アナちゃんも知っているように、そんなお金はありませんよ?」

 母メイアは真面目に話を聞いてくれる。

 この辺りは脳筋ダンツと決定的に異なっています。

「ふはは、残念だったな! アナスタシアよ、我が子爵領は貧乏なのだ!」

 誰のせいで貧乏だと思ってんのよ? 自慢げに貧乏を語ってんじゃないっての。

「それに自由に行動って何をするつもりなの?」

「色々と調べ物をしたら、子爵領でも金策ができるみたいなの。その調査に行きたいのです。開墾資金はそこから捻出するつもり……」

「なるほどねぇ。アナちゃんは優秀だけど、領内には魔物がでるのよ? ほぼ密林だし」

「魔物とか平気! 私は魔法が得意ですし!」

 独り立ちするために魔法強化は常に行っていました。

 家族も私の魔法が秀でていることを知っていますし、何とか許可してもらいたいところです。

「そうねぇ、集落の周辺なら強い魔物もでないし……」

「おいメイア、勝手に決めるんじゃない!」

「貴方、アナちゃんは貧乏が嫌でそう言っているのよ? 一人でビッグボアを倒したこともあるのだし、自立心を養うのも悪くないと思うの」

 ダンツはお母様に逆らえないからね。

 母が了承したならば、受け入れてくれるでしょう。

「アナちゃん、決して森の奥には行かないこと。危ないことをしないと約束できる?」

「もちろんです。お母様!」

 ま、嘘だけどね。お母様には悪いと思いますけれど。

 私は森の奥どころか、南端にあるレッドウォール山脈まで行くつもりなのよ。

 こうしている間にも主人公エリカは光属性の持ち主として認められ、王家との繋がりができてしまうのだから。

「アナちゃんを見習って、貴方も開墾してくださらない? 子爵領を人並みの貴族にして欲しいわ」

「う、うむ……」

 全て計画通り。お母様を味方につけたのなら、こっちのものってね。

「それでは早速、私は出発しますので!」

 そそくさと家を出て行く。

 成果があるまで、数日は戻らないつもりよ。

 絶対に成り上がって見せるんだから……。
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