青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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Prologue

再びプロメティア世界へ

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「ハーレムルートぉ?」

 やる気のない返事にアマンダは眉をピクつかせていますけれど、仕方のないことです。

 私的に逆ハーレムとか邪道なんですもの。全然、やる気がでないわ。

「ハーレムルートというか、正直に千紗は真剣に愛と向き合うべきです。ワタクシが望む溺愛には遠く及ばないのよ。よって貴方が過ごした75年は何の意味も持ちません」

 最低な評価をいただきました。

 でもね、何の意味もないなんて馬鹿にしてる。私は言われた通りにクリアしたはずなんですもの。

「あんたの性癖は理解しているけど、あれ以上に愛されるのは無理だし、私は転生前に聞いていたわ。ルークを完落ちさせたら良いのだとね?」

 少なからず文句がある。溺愛具合が足りないと言われたとして、あれ以上できるはずがないわ。

 そもそも恋愛経験皆無のゲーマーOLに何を期待しているのよ。

「とりあえずご褒美を所望します! 一応はルークを完全攻略したのだから」

「まだダメよ。約束は世界を救ってから。ワタクシは貴方の溺愛され具合に不満を持っているし、この世界線でも世界は破滅へと向かっているのだから……」

「あんたはどれだけ愛に飢えてるのよ? てか世界の破滅ってどういうこと?」

 百歩譲って溺愛が足りなかったとして、ルークとエリカの間に子供はいない。

 また現状で七十五歳というルークが今さらエリカと結ばれ、子供をもうけるはずもありません。

 よって私は救世主確定。これから魅惑のエンドコンテンツを楽しむ予定なのよ。

「それが駄目だったのよ。この世界線でエリカは第三王子セシルと結ばれたでしょ? これより先のシミュレーションによると、エリカのひ孫が世界を破滅に追い込む。二人のひ孫がエリカの魔王因子を受け継いでしまったらしいの。どうにも王家とエリカの血が融合すると、悪いものを喚び出してしまうみたいね」

 私は再び長い息を吐いた。

 結局は第三王子セシルとの間にも魔王を産んじゃうのだったら、どうしようもないじゃんと。

 補足として第二王子はゲーム内でも短命であり、攻略対象ではなかったりします。

 そもそも主人公エリカが選べたら簡単な話なのだけど、エリカは世界において重要な存在らしく下手に動かせないらしい。

 かつて世界を巨悪から救ったとされる火竜の聖女アンジェラ・ローズマリーの子孫。それがBlueRoseの主人公エリカ・ローズマリーです。

(下手にエリカを動かすと世界は闇に呑まれるのだっけ……)

 二つ名は清浄なる光。エリカは世界を照らす存在であって、彼女の存在は自然と世界を浄化するみたい。

 エリカを強制的に排除した未浄化の世界線では異なる魔王因子が発現し、世界を滅ぼすとのこと。

(故意的にエリカを誘導することもできないなんてね……)

 エリカの意志で動かねば、エリカは自身が内包する闇に呑まれてしまう。

 そうなると、世界は浄化されずに魔王因子が発現することになるのだとか。

 ちなみに王子殿下のどちらかが死んでしまっても問題はないのですけれど、王家の血筋が途絶えるのはNGであったりします。

 セントローゼス王家の血はプロメティア世界に必須らしく、王子殿下の二人共を殺害するなんて方法は選べません。

(エリカ以外に転生するってことで、私はゲームで好きだった悪役令嬢イセリナを選んだのだけど)

 ルークの寵愛を受けるために、私はイセリナに転生しました。

 何度も暗殺され、幾度となく断罪を受けながら……。

「王家相手に二股とか無理だし。それこそ市中引き回しの末、火あぶりの刑に処されるわよ?」

「とりあえず新たなシナリオを用意しました。それで千紗はイセリナ以外の誰かに転生しなければなりません」

 人使いの荒い女神様だこと。戻ってきたばかりの私に次なる転生を願うかね?

「イセリナではない誰かに転生し、私が第三王子セシルを攻略したとして、ルークはどうするのです? 私がセシルを口説こうとしたならば、エリカは間違いなくルークに近付きますよ?」

 私の見解では、もうプロメティア世界は滅びたも同然です。

 私が一人にしか転生できないのなら、エリカはもう一方へと進むだけだもの。

「問題ありません。貴方が前世界線にて人生を全うしたことで、レジュームポイントは大幅に更新されております。イセリナの性格は随分と大人しくなっておりますし、千紗の影響を受けた彼女は放っておいても第一王子ルークと結ばれることでしょう」

 どうやら私が頑張った成果がレジュームポイントに反映されたらしい。

 レジュームポイントとはやり直しの起点となる時間軸です。

 それは今まさにプロメティア世界が停滞している時間のことでありまして、世界が破滅ルートから外れるまで、女神の裁量で巻き戻されるポイントのことでした。

 ちなみに攻略が進んだのちに死んだ場合はセーブポイントへ戻るときもある。

 時間軸の保存は女神の裁量で行うのだけど、基本的にラブロマンス好きなアマンダは妙な場面の直前で保存する傾向があります。

(私に何度もロマンスをさせて、ニヤニヤするのが趣味という駄女神だもの……)

 ただし、セーブできるのは女神のデバイスに一つの時間だけみたい。

 上書きは可能だけど、十歳のセーブポイントを十五歳で上書きしちゃうと、もう十歳には戻れない。

 最初からやり直すか、十五歳からしか始められないのでご利用は計画的に。

「じゃあ、誰に転生してセシルを口説けばいいの? 正直に疲れてるのだけど?」

「此度は綿密なシミュレーションをした結果、適切な人選を行いました。貴方が転生するのはスカーレット子爵家のアナスタシアです」

 女神アマンダの話に私は眉を引きつらせている。

 なぜならアナスタシアは私もよく知る人物であったからだ。

「ファニーピッグのアナですか!?」

 驚くのも無理はない。何しろアナスタシアは悪役令嬢イセリナの取り巻きなのですから。

(マジなの、それ……?)

 アナスタシアは完全な腰巾着でありましたけれど、可愛い系の小太りであったからファンからはファニーピッグと呼ばれています。

「庶子であるセシルが相手ならば、ド田舎の子爵令嬢でも何とかなるでしょう。第一王子のお相手は公爵令嬢であるイセリナに任せて、千紗はアナスタシアとしてセシルから寵愛を受けなさい。ルークとエリカの様子にも注視しながら、子豚ちゃんとして頑張るのよ!」

「無理ですって! アナスタシアは貴族院に入るまで王都に現れないのですよ!? スタート地点でエリカに負けています!」

 精一杯の反論なのですが、女神アマンダは首を振る。

 世界のシミュレーションがはじき出した答えを実践するだけなのだと。

「絶対に嫌ですから! 今度こそ累積三千年はかかりますよ! ファニーピッグのアナスタシアで完落ちさせつつ、ルークとエリカを監視するとか無理ゲーです!」

「不可能を可能にする魂。千紗、貴方はミカエルの召喚陣に引っかかったのです。世界の停滞を解けるのは貴方だけ。ワタクシの情欲を満足させながら、世界を救えるのは千紗だけなんです。それともミカエルの召喚に不具合があったとでも?」

「ぐぬぅぅ、卑怯なり女神アマンダ……」

 私がこんなにも頑張っている背景には、先ほど話したエンドコンテンツがある。

 見事、女神の歪んだ性癖を満足させ、世界を救ったあかつきには天使であるミカエル様を紹介してくれることになっているの。

 召喚された私はあろうことかミカエル様に一目惚れをした。

 だからこそ、達成時の報酬は彼と同じ立場にしてくれと頼んだ。もし仮に完クリしたのなら、私は天使として迎えられ、煌めく一番星のようなミカエル様にアタックできるというわけです。

「分かったなら旅立ちなさい。それに前回の結末はあまりにもお粗末。世界の救済だけでなく、ワタクシの願望を満たしておりません。ミカエルはまだ彼女がいないと話していましたが、貴方が三千年もかかるのでしたら、彼女くらいはできているでしょうね……」

「分かったわよ! 早くしなさいって。だけど絶対に約束は守ってよ? 第三王子セシルに溺愛され、ルークとエリカを結びつけない。これでいい?」

「飲み込みが早くて助かります。まあしかし、此度はレジュームポイントの更新により、経過した時間と世界線データが同質化を図れています。前回よりも格段に攻略難度が下がっているはずよ。救世主の魂たる千紗ならば、時間はかからないでしょう。愛の女神としてワタクシは期待しておりますわ……」

 最初の転生時と気付けば同じような展開です。私は当時の記憶を彷彿と思い出していました。

 世界時間で七十五年。しかし、死に戻りを含めると軽く千年は経過している。

 それでもまだ止まったままの時間。魔王誕生を阻止し、再びプロメティア世界が動き始めるように私は行動していかねばならない。

 旅立つ瞬間、ニコリと笑ったアマンダが言った。 

「どうか今度こそ貴方の愛で溺れさせてあげてね?――」

 アマンダに頷いた私は、これより二度目の転生へと向かう。

 懐かしいはずもない。つい先ほどまでいた世界に戻るだけだ。

 別人ではあるけれど、新鮮さは如何ほどもありません。
 
 このとき私は気付かなかった。私の使命は第三王子セシルに溺愛されるだけだと思っていたのよ。

 彼を口説き落とすことで、長く停滞したプロメティア世界の時間を進めるだけなのだと。

 不覚にも女神アマンダが最後に語った台詞を私は聞き流していたのです。


 さりとて、いよいよ転生の時。難易度が急激に上がったアルティメットプレイ。

 嘆息しつつも、私はファニーピッグのアナとして生まれ変わろうとしています。
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