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Prologue
愛の女神アマンダ
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長すぎるようにも感じた人生が、ようやく終幕を迎えています。
「ようやく戻ってきたわね……」
現在、私は天命を全うして魂となり、天界へと戻っていました。
実をいうと私は転生者であって転生する以前は、しがないOLをしていた高宮千紗《たかみやちさ》と言います。
つまり、現状は転生後の人生を終えたところ。私自身、二度目の人生を全うしたところです。
「とても長い人生だったわ……」
目的を与えられて転生した私は輪廻に還ることなく、女神様の執務室に呼び戻されていました。
乙女ゲーム【Blue Rose】の廃プレイヤーであったことが転生者に選ばれた理由。ゲームの世界と酷似したプロメティア世界を救う目的で、私は異世界から召喚された魂なのです。
眼前には愛の女神アマンダの姿。そして彼女の隣には下界を映すモニターが設置してありました。
「えっと……?」
無言でモニターを指さす女神アマンダに促され、私はモニターに流れる映像へと視線を向けています。
『イセリナ、俺はこの夜を待ち焦がれていた。ようやく君の全てが手に入る。俺の青き薔薇イセリナ。今宵は美しい薔薇を一輪摘ませてもらうからね……』
還ってくるやいなや、何を視聴させられているのでしょうかね……。
かといって、それは記憶にある場面です。
何しろ、イセリナとは私が転生した人物であり、この場面は人生で初めて迎えた夜の映像なのですから。
ようやく使命を終えて天界へと還って来たというのに、女神アマンダはどうしてか新婚初夜の視聴を私に強要しています。
『イセリナ、とても美しいよ。青い花弁の裏側に潜む新雪の如き白い肌。頂にある薄桃色の蕾もまた君の可憐さに一役買っているね。君の全てを知ると、ブルーローズの愛称だけでは君の美しさを表現できていないと分かる……』
相手は我が夫ルーク・ルミナス・セントローゼス第一王子殿下です。
ブルーローズという恥ずかしい私の二つ名を連呼する彼は、後にセントローゼス王国の王様になった人でした。
『あっ……ぁぁっ…………』
まあそれで、どうして天界に戻ってまで初体験の様子を視聴させられているのか。
私には全く理解できません。なぜなら私は完璧にアマンダの要求を満たしたはずですし、私の落ち度など映像には見受けられないのですから。
私が転生した目的は第一王子【ルーク・ルミナス・セントローゼス】から寵愛を受けることです。
王となる彼の愛を独り占めするように私はアマンダから命じられていました。
『イセリナ! イセリナッ!!』
過度に興奮しつつ私を抱くルーク。政略結婚などではなく、重すぎると感じる愛が間違いなくありました。
75歳で天命を全うするまでルークは私を愛したままであったし、一人の側室も迎えようとはしなかったのですから。
「愛の女神アマンダ、何か問題でもある? 命令通りでしょ?」
薄い目をして、私は女神アマンダを睨みます。しかし、彼女は長い息を吐くだけでした。
「イセリナ……ああいえ、千紗と呼びましょうか。貴方は全然分かっていない。これが溺愛? 愛の女神を笑わせるんじゃないわ」
ややこしいので前世の名前で呼ぶみたいね。
イセリナの初体験映像を見る上で、アマンダは懐かしくも感じる名前を口にしています。
こんな今も恥ずかしい映像が流れていたのだけど、滅茶苦茶興奮しているルークを見ると、これ以上に愛されるなんて絶対に無理よ。
かといって、アマンダは自身の考える溺愛について説明を続けていました。
「溺愛とは男女が愛に溺れること。この映像にはワタクシが望んだ愛の欠片すらありません」
不満げな表情をして愛の女神アマンダは言い放つ。
「この愛は溺れてなどいない――――」
愛の女神だというアマンダの話には嘆息するしかありません。
一生涯を通して愛されたというのに、溺愛だと認定しないつもり?
人生のどこを切り取っても、イセリナは愛されまくったはず。女神アマンダは私がどれだけ身体を張ってきたのか見ていたでしょうに。
「女神アマンダ、私は十二人も彼の子供を産みました。あれよりも愛されろって、2ダースも子供を産めと言うつもりなの? それに天命を全うするまで、彼は一人の側室も迎えなかったわ。これを溺愛と言わないのであれば、この世に溺愛など存在いたしません!」
私には確固たる自信があった。
タマゴのパックでさえ十個入りなのです。ニワトリを超える1ダースもの子をもうけた私は溺愛されていたに違いありません。
「まあ確かにルークには愛されていた。でもね、愛さえあれば24人くらい産めるわ。できなかったのは愛が足りないから。それにワタクシは全方位に愛されて欲しかったのよ。更には双方向に……」
「それハーレムルートだからね!?」
愛の女神が聞いて呆れます。
ハーレムルートなんて、ゲームでもオマケシナリオでしかないのですから。
そもそも私がなぜ転生者になったのかというと、それは愛の女神アマンダが守護する世界[プロメティア]が存亡の機に晒されているからでした。
乙女ゲームBlueRoseを完全コンプした私ならば世界を救えるとかどうとかで、私はプロメティア世界に召喚されたってわけなんです。
「どうして文句を言われなきゃならないってのよ……」
溺愛フェチの女神アマンダは自身の欲求を叶えると同時に、世界を救えと私に願っていました。
アマンダ曰く、第一王子ルークとゲームの主人公【エリカ・ローズマリー】が結ばれてはならないみたい。
エリカは稀有な光属性を持つ聖女に他なりませんが、実をいうと闇の属性も持っています。
まあそれで二人の子供は何度やり直しても闇属性となり、更には魔王因子が発現してしまうのだとか。
やがて二人の子供は魔王となり、世界を破滅に追い込むらしい。
女神アマンダは何度時間を巻き戻しても魔王が出現してしまうことを嘆き、部下である天使ミカエル様に異世界召喚を命令したといいます。
「ルークは私にメロメロ状態だったし、エリカに付け入る隙を与えていないのに……」
そんなわけでルーク攻略の適任者として、ブルーローズの廃プレイヤーであった高宮千紗の魂が召喚されております。暴走トラックに轢き殺されるというベタな死に方をした私の魂を……。
兎にも角にも、愛の女神が求める結末はハーレムエンド。何とも納得がいきません。
せっかくルークを私の虜にして戻ってきたというのにあんまりですよね。
労いの言葉一つないなんて、アマンダこそ愛の女神とか笑わせんじゃないっての。
私への愛はどこへ行ったっていうのよ……。
「ようやく戻ってきたわね……」
現在、私は天命を全うして魂となり、天界へと戻っていました。
実をいうと私は転生者であって転生する以前は、しがないOLをしていた高宮千紗《たかみやちさ》と言います。
つまり、現状は転生後の人生を終えたところ。私自身、二度目の人生を全うしたところです。
「とても長い人生だったわ……」
目的を与えられて転生した私は輪廻に還ることなく、女神様の執務室に呼び戻されていました。
乙女ゲーム【Blue Rose】の廃プレイヤーであったことが転生者に選ばれた理由。ゲームの世界と酷似したプロメティア世界を救う目的で、私は異世界から召喚された魂なのです。
眼前には愛の女神アマンダの姿。そして彼女の隣には下界を映すモニターが設置してありました。
「えっと……?」
無言でモニターを指さす女神アマンダに促され、私はモニターに流れる映像へと視線を向けています。
『イセリナ、俺はこの夜を待ち焦がれていた。ようやく君の全てが手に入る。俺の青き薔薇イセリナ。今宵は美しい薔薇を一輪摘ませてもらうからね……』
還ってくるやいなや、何を視聴させられているのでしょうかね……。
かといって、それは記憶にある場面です。
何しろ、イセリナとは私が転生した人物であり、この場面は人生で初めて迎えた夜の映像なのですから。
ようやく使命を終えて天界へと還って来たというのに、女神アマンダはどうしてか新婚初夜の視聴を私に強要しています。
『イセリナ、とても美しいよ。青い花弁の裏側に潜む新雪の如き白い肌。頂にある薄桃色の蕾もまた君の可憐さに一役買っているね。君の全てを知ると、ブルーローズの愛称だけでは君の美しさを表現できていないと分かる……』
相手は我が夫ルーク・ルミナス・セントローゼス第一王子殿下です。
ブルーローズという恥ずかしい私の二つ名を連呼する彼は、後にセントローゼス王国の王様になった人でした。
『あっ……ぁぁっ…………』
まあそれで、どうして天界に戻ってまで初体験の様子を視聴させられているのか。
私には全く理解できません。なぜなら私は完璧にアマンダの要求を満たしたはずですし、私の落ち度など映像には見受けられないのですから。
私が転生した目的は第一王子【ルーク・ルミナス・セントローゼス】から寵愛を受けることです。
王となる彼の愛を独り占めするように私はアマンダから命じられていました。
『イセリナ! イセリナッ!!』
過度に興奮しつつ私を抱くルーク。政略結婚などではなく、重すぎると感じる愛が間違いなくありました。
75歳で天命を全うするまでルークは私を愛したままであったし、一人の側室も迎えようとはしなかったのですから。
「愛の女神アマンダ、何か問題でもある? 命令通りでしょ?」
薄い目をして、私は女神アマンダを睨みます。しかし、彼女は長い息を吐くだけでした。
「イセリナ……ああいえ、千紗と呼びましょうか。貴方は全然分かっていない。これが溺愛? 愛の女神を笑わせるんじゃないわ」
ややこしいので前世の名前で呼ぶみたいね。
イセリナの初体験映像を見る上で、アマンダは懐かしくも感じる名前を口にしています。
こんな今も恥ずかしい映像が流れていたのだけど、滅茶苦茶興奮しているルークを見ると、これ以上に愛されるなんて絶対に無理よ。
かといって、アマンダは自身の考える溺愛について説明を続けていました。
「溺愛とは男女が愛に溺れること。この映像にはワタクシが望んだ愛の欠片すらありません」
不満げな表情をして愛の女神アマンダは言い放つ。
「この愛は溺れてなどいない――――」
愛の女神だというアマンダの話には嘆息するしかありません。
一生涯を通して愛されたというのに、溺愛だと認定しないつもり?
人生のどこを切り取っても、イセリナは愛されまくったはず。女神アマンダは私がどれだけ身体を張ってきたのか見ていたでしょうに。
「女神アマンダ、私は十二人も彼の子供を産みました。あれよりも愛されろって、2ダースも子供を産めと言うつもりなの? それに天命を全うするまで、彼は一人の側室も迎えなかったわ。これを溺愛と言わないのであれば、この世に溺愛など存在いたしません!」
私には確固たる自信があった。
タマゴのパックでさえ十個入りなのです。ニワトリを超える1ダースもの子をもうけた私は溺愛されていたに違いありません。
「まあ確かにルークには愛されていた。でもね、愛さえあれば24人くらい産めるわ。できなかったのは愛が足りないから。それにワタクシは全方位に愛されて欲しかったのよ。更には双方向に……」
「それハーレムルートだからね!?」
愛の女神が聞いて呆れます。
ハーレムルートなんて、ゲームでもオマケシナリオでしかないのですから。
そもそも私がなぜ転生者になったのかというと、それは愛の女神アマンダが守護する世界[プロメティア]が存亡の機に晒されているからでした。
乙女ゲームBlueRoseを完全コンプした私ならば世界を救えるとかどうとかで、私はプロメティア世界に召喚されたってわけなんです。
「どうして文句を言われなきゃならないってのよ……」
溺愛フェチの女神アマンダは自身の欲求を叶えると同時に、世界を救えと私に願っていました。
アマンダ曰く、第一王子ルークとゲームの主人公【エリカ・ローズマリー】が結ばれてはならないみたい。
エリカは稀有な光属性を持つ聖女に他なりませんが、実をいうと闇の属性も持っています。
まあそれで二人の子供は何度やり直しても闇属性となり、更には魔王因子が発現してしまうのだとか。
やがて二人の子供は魔王となり、世界を破滅に追い込むらしい。
女神アマンダは何度時間を巻き戻しても魔王が出現してしまうことを嘆き、部下である天使ミカエル様に異世界召喚を命令したといいます。
「ルークは私にメロメロ状態だったし、エリカに付け入る隙を与えていないのに……」
そんなわけでルーク攻略の適任者として、ブルーローズの廃プレイヤーであった高宮千紗の魂が召喚されております。暴走トラックに轢き殺されるというベタな死に方をした私の魂を……。
兎にも角にも、愛の女神が求める結末はハーレムエンド。何とも納得がいきません。
せっかくルークを私の虜にして戻ってきたというのにあんまりですよね。
労いの言葉一つないなんて、アマンダこそ愛の女神とか笑わせんじゃないっての。
私への愛はどこへ行ったっていうのよ……。
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