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第三章 存亡を懸けて

奇襲

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 もう直ぐ日が昇る。東雲の空が俄かに色付く。魔道車にて可能な限りに近づいてから、各師団は各々が持ち場へエアパレットにて向かっていた。

「日が昇るまでが勝負だ。圧倒的な戦果を残し、被害をゼロに近付ける」
 ヒカリによる最後の命令があった。全員が暗視ゴーグルを装着。ヒカリと優子がペアであり、一八と玲奈に莉子を加えたトリオの二組にてギフ市内の魔物を混乱へと誘う。

 ハンディーデバイスにて確認すると、作戦開始時間の10分前だ。まずはヒカリたちが突撃し、その30分後に北側の連合国軍特務師団による奇襲が始まる。更には南側の一般兵もが侵攻し、パニックを誘発させるという計画だった。

 ところが、唐突に北側の空が赤く染まっている。明らかに朝日ではない。何かが燃え盛るような火柱が空を焼いていた。

 刹那にヒカリのハンディーデバイスが音を立てた。発信者は川瀬。これには何かしらの問題が発生したのだと思わざるを得ない。

「もしもし……」
『ああ、川瀬だ。作戦を変更する。君たちは直ちに行動を始めてくれ!』
「いや、何が起きたのです!?」
 流石に問い質すしかない。謎の炎から作戦変更まで。何が起きているのかを知る必要があった。

 返答には少しばかりの時間を要したが、川瀬はことのあらましを告げていく。
『連合国軍特務師団が壊滅状態になった。待機場所に天主が現れたとだけ通信があったのだ。生き残った兵の通信によると、一斉に切り掛かったあと天主は自爆したらしい……』

 ヒカリは声を失う。功を焦る特務師団が先走ったのかと思うも、どうやらそういうわけではないようだ。

「自爆ですか?」
『我らの奇襲は気付かれていた可能性が高い。何しろ、特務師団は街壁の外にいて、そこに天主が現れたのだからな……』
 ようやく作戦変更の真意をヒカリは理解した。既に奇襲は叶わないのだから、待っていたとしても時間の無駄となるだけだ。

『浅村少佐、気を付けてくれ。もはや天軍は何をしてくるか分かったものではない。特に幹部級天主は……』
 了解しましたとヒカリ。通信を切るや、彼女は溜め息を零している。

 クルリと部下を振り返っては川瀬に聞いた内容を口にしていた。
「作戦は変更となった。これよりギフ市内へと侵攻する。天主は自爆する恐れがあるようだ。どうやら我々を道連れにするつもりらしい」
 ヒカリの話に玲奈は愕然としている。それはマナリスに聞いたままであった。魔界門を開く手段。天軍は人族の魂にて、それを開こうとしているのだと。

「浅村少佐、私は天主と対話したいと考えているのですが……」
 玲奈はマナリスの願いを叶えようと思う。正直にそんな義理などなかったし、天主は自爆するかもしれない。けれども、玲奈は話をしてみたいと考えていた。

「それは女神の声を聞いたという話か?」
「ええまあ。最初から憶測で人族を侵略した彼らには真実を知ってもらうべきです。失意の中で天へと還してやります……」
 玲奈は真剣そのものである。対するヒカリは信じたわけではなかったけれど、罪を理解させるという話は悪くないように思う。

 また玲奈は女神の加護を持つ希有な存在である。その天恵技にて女神の声を聞く可能性を彼女は考えていた。

「ならば少なからず距離を取れ。防御魔法はステージ4で固定。約束するのなら許可してやろう……」
 先ほどの爆発を見る限り、広域攻撃魔法の一つだと思われる。一般兵では一溜まりもないだろうが、玲奈は歴とした騎士なのだ。防御に徹したとすれば、致命傷は避けられるだろうと。

「それでは作戦を開始する。必ず生き残れ。私からは以上だ……」
 これより突入となる。今までの二戦よりも危険度は低く見積もられていたが、やはり自爆するという話は警戒しなければならない。

 ヒカリと優子が行動し始めたのを見届けてから、玲奈もまた声を張る。

「さあ叶えてやろうか! 駄女神の願いを!――――」
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