204 / 212
第三章 存亡を懸けて
奇襲
しおりを挟む
もう直ぐ日が昇る。東雲の空が俄かに色付く。魔道車にて可能な限りに近づいてから、各師団は各々が持ち場へエアパレットにて向かっていた。
「日が昇るまでが勝負だ。圧倒的な戦果を残し、被害をゼロに近付ける」
ヒカリによる最後の命令があった。全員が暗視ゴーグルを装着。ヒカリと優子がペアであり、一八と玲奈に莉子を加えたトリオの二組にてギフ市内の魔物を混乱へと誘う。
ハンディーデバイスにて確認すると、作戦開始時間の10分前だ。まずはヒカリたちが突撃し、その30分後に北側の連合国軍特務師団による奇襲が始まる。更には南側の一般兵もが侵攻し、パニックを誘発させるという計画だった。
ところが、唐突に北側の空が赤く染まっている。明らかに朝日ではない。何かが燃え盛るような火柱が空を焼いていた。
刹那にヒカリのハンディーデバイスが音を立てた。発信者は川瀬。これには何かしらの問題が発生したのだと思わざるを得ない。
「もしもし……」
『ああ、川瀬だ。作戦を変更する。君たちは直ちに行動を始めてくれ!』
「いや、何が起きたのです!?」
流石に問い質すしかない。謎の炎から作戦変更まで。何が起きているのかを知る必要があった。
返答には少しばかりの時間を要したが、川瀬はことのあらましを告げていく。
『連合国軍特務師団が壊滅状態になった。待機場所に天主が現れたとだけ通信があったのだ。生き残った兵の通信によると、一斉に切り掛かったあと天主は自爆したらしい……』
ヒカリは声を失う。功を焦る特務師団が先走ったのかと思うも、どうやらそういうわけではないようだ。
「自爆ですか?」
『我らの奇襲は気付かれていた可能性が高い。何しろ、特務師団は街壁の外にいて、そこに天主が現れたのだからな……』
ようやく作戦変更の真意をヒカリは理解した。既に奇襲は叶わないのだから、待っていたとしても時間の無駄となるだけだ。
『浅村少佐、気を付けてくれ。もはや天軍は何をしてくるか分かったものではない。特に幹部級天主は……』
了解しましたとヒカリ。通信を切るや、彼女は溜め息を零している。
クルリと部下を振り返っては川瀬に聞いた内容を口にしていた。
「作戦は変更となった。これよりギフ市内へと侵攻する。天主は自爆する恐れがあるようだ。どうやら我々を道連れにするつもりらしい」
ヒカリの話に玲奈は愕然としている。それはマナリスに聞いたままであった。魔界門を開く手段。天軍は人族の魂にて、それを開こうとしているのだと。
「浅村少佐、私は天主と対話したいと考えているのですが……」
玲奈はマナリスの願いを叶えようと思う。正直にそんな義理などなかったし、天主は自爆するかもしれない。けれども、玲奈は話をしてみたいと考えていた。
「それは女神の声を聞いたという話か?」
「ええまあ。最初から憶測で人族を侵略した彼らには真実を知ってもらうべきです。失意の中で天へと還してやります……」
玲奈は真剣そのものである。対するヒカリは信じたわけではなかったけれど、罪を理解させるという話は悪くないように思う。
また玲奈は女神の加護を持つ希有な存在である。その天恵技にて女神の声を聞く可能性を彼女は考えていた。
「ならば少なからず距離を取れ。防御魔法はステージ4で固定。約束するのなら許可してやろう……」
先ほどの爆発を見る限り、広域攻撃魔法の一つだと思われる。一般兵では一溜まりもないだろうが、玲奈は歴とした騎士なのだ。防御に徹したとすれば、致命傷は避けられるだろうと。
「それでは作戦を開始する。必ず生き残れ。私からは以上だ……」
これより突入となる。今までの二戦よりも危険度は低く見積もられていたが、やはり自爆するという話は警戒しなければならない。
ヒカリと優子が行動し始めたのを見届けてから、玲奈もまた声を張る。
「さあ叶えてやろうか! 駄女神の願いを!――――」
「日が昇るまでが勝負だ。圧倒的な戦果を残し、被害をゼロに近付ける」
ヒカリによる最後の命令があった。全員が暗視ゴーグルを装着。ヒカリと優子がペアであり、一八と玲奈に莉子を加えたトリオの二組にてギフ市内の魔物を混乱へと誘う。
ハンディーデバイスにて確認すると、作戦開始時間の10分前だ。まずはヒカリたちが突撃し、その30分後に北側の連合国軍特務師団による奇襲が始まる。更には南側の一般兵もが侵攻し、パニックを誘発させるという計画だった。
ところが、唐突に北側の空が赤く染まっている。明らかに朝日ではない。何かが燃え盛るような火柱が空を焼いていた。
刹那にヒカリのハンディーデバイスが音を立てた。発信者は川瀬。これには何かしらの問題が発生したのだと思わざるを得ない。
「もしもし……」
『ああ、川瀬だ。作戦を変更する。君たちは直ちに行動を始めてくれ!』
「いや、何が起きたのです!?」
流石に問い質すしかない。謎の炎から作戦変更まで。何が起きているのかを知る必要があった。
返答には少しばかりの時間を要したが、川瀬はことのあらましを告げていく。
『連合国軍特務師団が壊滅状態になった。待機場所に天主が現れたとだけ通信があったのだ。生き残った兵の通信によると、一斉に切り掛かったあと天主は自爆したらしい……』
ヒカリは声を失う。功を焦る特務師団が先走ったのかと思うも、どうやらそういうわけではないようだ。
「自爆ですか?」
『我らの奇襲は気付かれていた可能性が高い。何しろ、特務師団は街壁の外にいて、そこに天主が現れたのだからな……』
ようやく作戦変更の真意をヒカリは理解した。既に奇襲は叶わないのだから、待っていたとしても時間の無駄となるだけだ。
『浅村少佐、気を付けてくれ。もはや天軍は何をしてくるか分かったものではない。特に幹部級天主は……』
了解しましたとヒカリ。通信を切るや、彼女は溜め息を零している。
クルリと部下を振り返っては川瀬に聞いた内容を口にしていた。
「作戦は変更となった。これよりギフ市内へと侵攻する。天主は自爆する恐れがあるようだ。どうやら我々を道連れにするつもりらしい」
ヒカリの話に玲奈は愕然としている。それはマナリスに聞いたままであった。魔界門を開く手段。天軍は人族の魂にて、それを開こうとしているのだと。
「浅村少佐、私は天主と対話したいと考えているのですが……」
玲奈はマナリスの願いを叶えようと思う。正直にそんな義理などなかったし、天主は自爆するかもしれない。けれども、玲奈は話をしてみたいと考えていた。
「それは女神の声を聞いたという話か?」
「ええまあ。最初から憶測で人族を侵略した彼らには真実を知ってもらうべきです。失意の中で天へと還してやります……」
玲奈は真剣そのものである。対するヒカリは信じたわけではなかったけれど、罪を理解させるという話は悪くないように思う。
また玲奈は女神の加護を持つ希有な存在である。その天恵技にて女神の声を聞く可能性を彼女は考えていた。
「ならば少なからず距離を取れ。防御魔法はステージ4で固定。約束するのなら許可してやろう……」
先ほどの爆発を見る限り、広域攻撃魔法の一つだと思われる。一般兵では一溜まりもないだろうが、玲奈は歴とした騎士なのだ。防御に徹したとすれば、致命傷は避けられるだろうと。
「それでは作戦を開始する。必ず生き残れ。私からは以上だ……」
これより突入となる。今までの二戦よりも危険度は低く見積もられていたが、やはり自爆するという話は警戒しなければならない。
ヒカリと優子が行動し始めたのを見届けてから、玲奈もまた声を張る。
「さあ叶えてやろうか! 駄女神の願いを!――――」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる