オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

狙撃

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 一八と伸吾はナゴヤ市内へと侵攻していた。聞いていたように魔物の数は少なく、一般兵が戦うエリアに近付けている。

「恵美里さん、この辺りでどうっすか?」
 援護射撃に相応しい開けた場所へと到着し、一八が意見を聞く。
 しかし、次の瞬間、強大な魔力を感じた。それは上空から感じるものであり、間違っても味方が撃ち放ったものではないだろう。

「なっ……!?」
 刹那に黒い雨のようなものが見えた。暗雲から無数に飛び出したそれは一般兵に容赦なく降り注がれていく。

「奥田君、天主だよ!?」
「ああ……」
 呆然としていたけれど、今は呆気にとられている場合じゃない。一八は直ぐさま恵美里を振り返っている。

「恵美里さん、あれを撃ち抜けますか?」
 この場所からでは米粒程度にしか見えない。しかし、撃ち落とさねば一般兵は全滅してしまうだろう。

「できるとは言えません。けれど、やるしかありません……」
 魔道士部隊の主力である恵美里がそういうと、舞子も頷いていた。

 ここには魔道科四席の小松もいたけれど、彼は無理だと言わんばかりに首を振っている。

「私は命中させられると思いますが、威力が問題です。天主は魔法耐性が高いと聞きますし……」
 どうやら小乃美はこの距離でも問題ないらしい。だが、彼女は威力が問題であるという。

 一瞬だけ考え込む一八。別に指揮官ではなかったけれど、彼は大きな声を張る。

「魔道士は全員スナイパー装備にて射撃だ。撃って撃って撃ちまくる。詠唱を続けられないくらいに」
 首を振っていた小松であるけれど、一八の指示には頷きを返していた。これは試験などではない。外れたら次がない場面とは違うのだ。仲間を守るという意味での乱射は正解であるように思う。
「よし、撃ちまくるぞ!」
「ええ、元よりわたくしたちは援護射撃をするためにいるのですし」

 即座に全員がスナイパーライフルを装備。一八が話したように一斉に撃ち始めた。
 ここにいるのは総勢二十名。Aクラスにいた三分の二が集められている。まるで射撃訓練の如く、魔道士たちが天主を狙い始めていた。
 一八もまた行動していく。天主を発見したのなら、ヒカリに連絡しなければならない。赤色の発光弾を上空目掛けて撃ち放っている。

「奥田君の求心力は凄いね?」
「ざけんな。それより恐らく俺たちは狙われるぞ。防御魔法最大でみんなを守るしかねぇ」
 一八は魔道科の必修科目で学んでいたため、全員の顔を知っている。伸吾以上に彼らを守る使命を感じていた。

「僕も防御魔法を展開するよ」
「やめろ。あれは闇属性魔法だろう。伸吾の防御魔法は必要ねぇ。俺が全域をカバーすっからよ……」
「全域とか無茶だよ!?」

「ああ? 仲間が撃ち殺されてんだぞ? 今無茶しねぇでどこですんだよ?」
 支援士たちは適切なロッドを携帯しているが、剣士はその限りではない。支援士の防御魔法は剣士が自己防衛に使う防御魔法とは違うのだ。支援士の防御魔法は上位魔法であり、任意の場所に展開できるけれど、剣士が使用するのは下位魔法であって自身を中心にして展開するというものである。

 一八は広域をカバーするために大量の魔力を使うだけでなく、天主の魔法攻撃に耐え得るステージを展開しなければならない。

「じゃあ、僕は君の後ろで防御魔法を展開する。それなら異論はないでしょ?」
 伸吾は意見を変えなかった。しかし、その重ね掛けという案は悪くない。自身の後ろならば安全であるし、不意に現れるオークへの対処も可能であった。

「じゃあ、それでいく。もっとも、恵美里さんたちが撃ち落としてくれたなら、それが一番だがな……」
 遠距離魔法を撃ち続ける魔道士たち。一八の願いも虚しく、一発として当たっていない。命中させられると話していた小乃美も天主が呼び出した雷雲のようなものの影響を受けている感じだ。

 一八と伸吾は祈るようにして遠距離魔法の行き着く先を眺めていた……。
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