オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

飛竜討伐班

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 外壁に取り付いた飛竜討伐班。破壊された壁から飛び込む一般兵を横目に、ナゴヤ市内の様子を伺っていた。

「予想以上にオークは少ないですね……?」
「ああ、それに飛竜はどこだ? 斥候の見間違いか?」
 優子の疑問にヒカリが答えた。また彼女は更なる疑問を抱いている。

「そういえば、姿が見えませんね。上空を旋回していると話していましたが……」
 わざわざ飛竜の討伐班を編成したのだ。どこかへ飛び去ったのなら嬉しい誤算だが、使役された飛竜が自身の意思で移動できるとは思えない。更には侵攻が見つかった現状で飛竜を退避させる理由はなかった。

「どうします?」
 作戦変更を余儀なくされていた。さりとて飛竜は必ず潜んでいる。よってヒカリが決断を先送りすることはない。

「飛び込むぞ! 飛竜を発見し、討伐するだけだ!」
 飛竜を放置するわけにはならない。一般兵では手も足もでないのだ。脅威を排除するために飛竜討伐班は編成され、一般兵の被害を最小限とするために存在しているのだから。

「全員、飛び越えろ!」
 仮に飛竜が地上にいるのなら、おあつらえ向きだ。ならば飛び立つよりも早く発見し、翼を無効化するべきであった。

 勢いよく外壁を飛び越えていく。四人の剣士がナゴヤへと侵入していった。
「オークは放置だ! 飛竜は必ずどこかにいる。市の隅々まで捜索するぞ!」
 ナゴヤ市は巨大な都市である。大きく四つのエリアに分かれているのだが、ヒカリはまずナゴヤ王城のある中心地を目指す。恐らく飛竜は天主を護衛しているはずで、その天主は中心地にいるだろうと予想できたからだ。

「玲奈ちん、これなら楽勝じゃない?」
 莉子が聞いた。眼下にはオークの姿が見受けられたけれど、五万という軍勢が砦に詰め込まれていた戦闘を経験したあとだ。ナゴヤ市全体で三万から五万というオークは決して多くないと思われる。

「莉子、貴様は油断するな。我々の相手は飛竜なんだぞ?」
「わぁってるよ。玲奈ちんのビリビリが当たるようにフォローするし!」
「ビリビリいうな……」
 どうにも放っておけない。今もまだ玲奈は前世の記憶を莉子に重ねている。性格はまるで違ったけれど、危うさを感じてしまうのだ。今も昔も莉子という存在が、玲奈を悩ませていた。

「王城が見えてきたぞ!」
「少佐、あそこ!?」
 視界にナゴヤ王城が入った直後のこと。優子が声を上げた。彼女が指さす地点は濛々と土煙を上げていたけれど、明らかに巨大な影が確認できる。

「飛竜を見つけた! 全員、剣を抜け!」
 やはり飛竜は地面にいた。落下傘攻撃を考えていたヒカリだが、飛んでいないのなら無理をする必要はない。

「岸野、やれるか?」
 この好機を生かさぬ手はない。どうしてか飛竜はオークを追い回していたのだ。飛び立つ気配がない今こそ絶好の攻撃機会に違いない。

「やれます。血統スキルを放ちます」
「ほう、それは川瀬少将が話していたものか?」
「いえ、私は血統スキルを二つ持っているのです。川瀬少将が知っている天恵技は踏み込みが重要なので発動しない恐れがあるかと……」

 玲奈はこの好機を生かすべくスキルの選択をしていた。ネームドオークエンペラーを斬り裂いた雷霆斬は踏み込みの動作が必須かもしれない。であれば玲奈の選択は一つだ。

「それは楽しみだ。全て任せる。失敗など恐れずに行け! 我らがフォローする!」
「右翼を狙います!」
「了解だ!! 全員、岸野の進路に留意しろ!」
 作戦というには頼りないものであったが、アタッカーは玲奈と決まっている。決定的なダメージを与えられるのは彼女以外に存在しない。

 ヒカリの号令に優子と莉子は反応。玲奈よりも前に出て防御魔法を展開していく。不意にブレスが飛んできたとしても、玲奈を守りきるのだと。
「ふぅ……」
 玲奈は集中している。飛竜は大暴れしているのだ。その中で的確に右翼を斬り裂かねばならない。

「二度目はない。飛竜を飛び立たせてはいけないんだ……」
 動きを予想していく。逃げ惑うオークの向き。それを追う飛竜の動き。幾つものシミュレーションを脳裏に描いていた。

 もう目と鼻の先だ。既に降下が始まっており、数秒もせぬうちに取り付けるはず。
 小さく頷いた玲奈は覚悟を決めた。想像したままの軌跡が現実となること。願うがままに翼を切り裂けるようにと。

「いけえぇぇっっ!」
 スピードに乗った玲奈はクルリと身体を回転させる。それがスキル発動の動作であり、飛竜の翼を確実に斬り裂く手段であった。

「天地雷鳴ッッ!!!」
 全魔力を乗せた天恵技。以前とは比べものにならない稲妻が迸っている。過度に精神を圧迫されたけれど、玲奈は絶叫することで恐怖を振り払っていた。

「斬り裂けぇぇえええっ!!」
 晴れ渡る空を割るような稲光。オークたちだけでなく、侵攻軍の全員が目撃したことだろう。

 強烈な輝きを発したそれは瞬く間に弧を描き、やがて地鳴りのような音を轟かせていたのだから。
 焦げ臭い匂いが漂う。玲奈が落下していった場所からは濛々と粉塵が巻き起こっている。

「岸野!?」
 討伐班の全員が絶句する中、ヒカリだけは行動を起こしていた。翼を無効化するとは聞いていたけれど、捨て身とも思える攻撃を繰り出すだなんて誰も予想していなかったのだ。

 勢いのまま降下し、ヒカリは玲奈を抱きかかえる。悶絶する飛竜に玲奈が踏み潰されないようにと。

「少佐……やりました……」
「誰が地面に激突しろといった!?」
 見事に右翼を叩き斬っていた玲奈だが、天恵技を発動した玲奈は身体の自由が奪われており、地面に叩き付けられていたのだ。
 ヒカリはデバイスから回復薬を取り出し、玲奈に与えている。だが、携帯薬で治癒できるレベルではない。支援士のエクスキュアが必要な怪我であった。

「すみません……。技の威力は私もよく分かっていませんでしたので……」
「喋るな! 飛竜討伐班は一時撤退する!」
 ヒカリは溜め息を漏らしていた。正直に先ほどの天恵技であれば、一撃で飛竜を倒せたと思う。ただ玲奈自身も技の威力を過小評価していたらしく、作戦通りに翼を狙っただけ。彼女を責めるなんてできなかった。

「玲奈ちん!?」
 心配した莉子が近寄る。しかし、ヒカリに制止され、撤退の旨を改めて指示された。

「岸野は大丈夫だ。支援士の治療が必要だが、問題あるまい」
「優子はしんがりを務めろ」
「了解しました!」

 始まったばかりの作戦であったが、討伐班は一度も剣を振ることなく撤退となっている。しかしながら、翼の破壊により飛竜の脅威は格段に下がった。上空から無差別なブレス攻撃が放たれる危険がなくなったのだ。

 飛竜の咆吼を背に受けながら、討伐班が撤退していく……。
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