オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

予想される結末

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 北の大地にある星形要塞都市ゴリョウカク。
 緊急的な報告にアザエルは顔を顰めていた。

「ラファエル、それでガブリエルは逃げ戻ったというのか?」
「アザエル陛下、申し訳ございません……」
 どうやらラファエルは連合国へと進軍した部隊の報告を行っているようだ。しかしながら、吉報ではない。共和国に続いて連合国への侵攻も失敗に終わったのだから。

「連合国は考えていたよりも兵の質が高かったそうです。ディザスターが何もできず討伐されたそうですから……」
「事前の報告では進化級オーク一体で制圧できると聞いていたが?」
 ラファエルの報告にアザエルは睨むようにして言った。両面作戦では共和国軍に戦力を割き、連合国は数を送り込むだけで制圧できると試算されていたのだ。

「その予定でしたが、エース級の剣士が二人もいてはどうしようもなかったとガブリエルは話しております」
「ふん、四天将に任命したのは間違いだったな。以降、ウリエルとガブリエルは降格とする。次回以降の指揮はミカエルに一任しろ」
 アザエルの怒りはもっともであった。両面作戦を立案したのはガブリエルに他ならない。いち早く人族を追い込めると進言していたのだ。

「寛大な処置に感謝致します。次戦は必ずや勝利のご報告をさせていただきます」
 降格程度で済んだのは天軍の滅びが近付いていたからだ。種は北の大地で繁栄を極めたあと、徐々に衰退が始まっている。第二世代は生殖能力がほぼ失われており、魔界門から悪魔を呼び出すしか種の存続方法は残っていない。

「ラファエル、全ては貴様が計画したことだ。もし仮に我らの悲願が成されなかったときには貴様も責任を取ってもらうぞ?」
 アザエルが釘を刺すように言った。責任があるのは戦場の指揮官だけではないのだと。

「グリモアの解読が遅れたことにはお詫び申し上げます。けれど、結論は揺るぎないものです。種として代を重ねるにつれ、我々の因子が失われていたこと。長寿であることが裏目に出たといえましょう。気付いた頃には魔界因子が失われていたのですから。つまりは再び原初の悪魔を召喚し、新たな魔界因子を得なければなりません」
 天主が持つ魔界因子。それは悪魔の名残だと考えられている。生殖能力との因果関係は不明であるが、世代を経るごとに激減するそれが影響しているのは明らかであった。

「それは余も確認しておる。その点には疑いなど持っておらん。余が憂えておるのはその過程である」
 アザエルは天主が生殖能力を失っていることまでは理解している。けれど、ラファエルが立てた計画が正しいのかどうかで今も疑問を覚えているらしい。

 一方でラファエルは自信満々に頷いている。幾人もの人族を拉致し、チキュウ世界の歴史から研究した彼は確信を得ていた。

「我ら天主の誕生はインシピエントカタストロフにまで遡ります。大凡千年前のこと。人族が引き起こした災害により魔界門が開いたそのときです……」
 インシピエントカタストロフとは人類史に残る大災害だ。当時の人族は地脈から大量の魔素を汲み上げエネルギーとしていたのだが、尋常ではない量を吸い上げた結果として大地の魔素を枯渇させてしまった。

 バランスを崩した世界は死の星へと変貌を遂げてしまう。常に雷雲が立ち籠め、大地は痩せ細った。また大災害は自然的に回復するまで百年という年月を要している。その時代に魔界門は開かれていたのだ。

「あのカタストロフにて人族は九割が死滅したと言われております。とはいえ当時は人口が今よりもずっと少なく、死者は推定百万人。我らがこの度目指す数値がそれなのです。現状はトウカイ王国にて八十五万人。先の戦闘で討伐したのは二国合わせて十万弱ですので我らはあと五万程度の人族を殺めればいいのです。決して攻め落とせなかったと嘆く必要はありません……」
 どうやら侵攻軍の全滅はそこまで悲観的になるような話ではないらしい。トウカイ王国を壊滅させた天軍はノルマの殆どを達成していたのだから。

「問題がないのであればよい。余が憂えておるのは天主の未来だけだ……」
 過程よりも結果こそが大事である。どれほどの進捗率を出そうとも結果が伴わなければ意味はない。

 だからこそアザエルは念押しするように言った。天軍の未来がどこまでも続いていくようにと……。
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