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第三章 存亡を懸けて

翌朝

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 一八が目覚めたのは日が昇り始める頃であった。どうしてかベッドへ横になっている。治療受けた瞬間からの記憶がなかった。

「あ、奥田さん目覚められたのですね?」
 看護士らしき女性が声をかけてくれる。まるで状況が掴めなかったけれど、左腕に感覚が戻っていることくらいは理解できた。

「お、腕が治ってる?」
「ああ、動かしちゃダメですよ! 先生を呼んできますね!」
 昨晩はまるで動かなかった左腕。看護士には止められたけれど、一八はグルグルと回してみて調子を見ている。

「奥田さん、物凄い回復力ですね?」
 看護士が連れてきたのは高橋という医師であった。聞けば治療班の班長らしく一八の治療を指揮した人物らしい。

「名医っすね? 正直ヤバかったんじゃないっすか?」
「そりゃあね。骨を元通りに接合するのは骨が折れたよ。骨だけにね?」
 高橋の親父ギャグに苦笑いの一八。どうやら一八の骨は粉砕骨折していたようで、精密な再生魔法による治療が必要だったらしい。

「高橋班長は再生魔法のエキスパートだからね。奥田さんは幸運だわ」
「幸運かはともかく、放っておけば二度と腕は動かなくなっていただろう」
「マジっすか!?」
 もしもあの時、竹之内が治療を申し出てくれなければ、一八の腕は回復できなかったらしい。

「骨も神経も血管まで滅茶苦茶になってたんだ。数日で腐り始めていただろう」
 脅かしではなく、事実のよう。先ほどの冗談からは考えられないほど高橋は真面目な表情をしていたのだから。

「ありがとうございました。左腕が動かないなんて俺の夢が達成できなくなるところでしたよ」
 一八は礼を言う。片腕で戦う羽目になるなんて考えられない。助けてくれた高橋と提案してくれた竹内には感謝してもしきれなかった。

「ほう、夢かね? 英雄とも呼ぶべき君の夢が気になるね。良ければ教えて欲しいな」
 治療を施しながらも、高橋は話を聞く。もう難易度が高い治療ではなく、雑談しながらでも問題ないようだ。

 頷く一八。彼は即座に返答を口にしている。

「俺は世界最強になりたい――――」

 高橋の手が止まる。雑談のつもりであったけれど、予想外の話を聞いたのか驚いているようだ。

「もう最強じゃないか? 奥田君ほど戦える剣士はいないと竹之内師団長が話しておられたけど」
 高橋の話には首を振った。一八が目指すのはそのような話ではない。

「ネームドオークエンペラーを俺は倒せなかった。世界にはまだ強い魔物がいるんだ」
 一瞬のあと、高橋は笑い声をあげた。質問の内容とかけ離れすぎた彼の答えに。

「それはいいね! そうか君は人族最強じゃなく、本当に世界最強を目指しているんだね? とてもいい目標だよ。最強への道が途絶えなくて良かった。少しばかり助力できたのなら嬉しく思うよ」
 このあとは上機嫌で治療を施す。どうやら規格外の夢を高橋も応援しようと考えたらしい。

「玲奈はどうなってますか?」
 ここで一八は質問をした。玲奈はどうなっているのかと。

「ああ、彼女なら特に外傷もないし、魔力切れが酷かっただけだよ。夜中に起きて食事できるほどには回復してるね」
 一八はホッとしていた。ずっと意識が朦朧としていたのだ。魔力切れならば問題はないだろうし、食事をしたというのだから。玲奈の体調は自分よりもずっといいはずだ。

 このあとは食事をし、患部の最終チェックがあった。とりあえずは問題ないとのことで、ようやく治療が終わったらしい。

「奥田君……」
 ここで竹之内が現れた。前線で指揮を執る彼だが、律儀にも見舞いに来たのかもしれない。

「戦況はどうなってますか?」
 一応は聞いておく。恐らく十時間は経過しているはず。乱戦の結末を一八は気にしていた。

「一応はほぼ殲滅できたよ。今は周囲の警戒にあたっている。まあ被害は甚大であったがね……」
 やはり楽勝とはならなかったらしい。このあと本隊はコウフを目指して出発する予定とのこと。コウフを解放してこそ彼らの任務は終わるのだ。

「君たちには感謝している。やはりあの骸はネームドオークエンペラーであったようだ。我々は下手をすれば壊滅していただろう」
 再び頭を下げる竹之内。天災級の魔物が現れたのなら、討伐できるイメージを抱けない。

「礼はいいっす。できたら首相に俺たちの有能さを伝えて欲しいっすね。俺たちは同盟を申し込みに来たのですから……」
「もちろん、伝えよう。君たちがいなければトウキョウの未来はなかったと……」
 一八の心残りはなくなった。使者として十分すぎる成果を残せたと思う。

 ならば帰還を急ぐだけである。一日を余計に過ごしてしまったのだ。計画の遅れは作戦の成否にもかかわるだろう。

 だからこそいち早く戻らねばならない。こんな今も川瀬は着々と侵攻準備をしているのだから……。
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