182 / 212
第三章 存亡を懸けて
翌朝
しおりを挟む
一八が目覚めたのは日が昇り始める頃であった。どうしてかベッドへ横になっている。治療受けた瞬間からの記憶がなかった。
「あ、奥田さん目覚められたのですね?」
看護士らしき女性が声をかけてくれる。まるで状況が掴めなかったけれど、左腕に感覚が戻っていることくらいは理解できた。
「お、腕が治ってる?」
「ああ、動かしちゃダメですよ! 先生を呼んできますね!」
昨晩はまるで動かなかった左腕。看護士には止められたけれど、一八はグルグルと回してみて調子を見ている。
「奥田さん、物凄い回復力ですね?」
看護士が連れてきたのは高橋という医師であった。聞けば治療班の班長らしく一八の治療を指揮した人物らしい。
「名医っすね? 正直ヤバかったんじゃないっすか?」
「そりゃあね。骨を元通りに接合するのは骨が折れたよ。骨だけにね?」
高橋の親父ギャグに苦笑いの一八。どうやら一八の骨は粉砕骨折していたようで、精密な再生魔法による治療が必要だったらしい。
「高橋班長は再生魔法のエキスパートだからね。奥田さんは幸運だわ」
「幸運かはともかく、放っておけば二度と腕は動かなくなっていただろう」
「マジっすか!?」
もしもあの時、竹之内が治療を申し出てくれなければ、一八の腕は回復できなかったらしい。
「骨も神経も血管まで滅茶苦茶になってたんだ。数日で腐り始めていただろう」
脅かしではなく、事実のよう。先ほどの冗談からは考えられないほど高橋は真面目な表情をしていたのだから。
「ありがとうございました。左腕が動かないなんて俺の夢が達成できなくなるところでしたよ」
一八は礼を言う。片腕で戦う羽目になるなんて考えられない。助けてくれた高橋と提案してくれた竹内には感謝してもしきれなかった。
「ほう、夢かね? 英雄とも呼ぶべき君の夢が気になるね。良ければ教えて欲しいな」
治療を施しながらも、高橋は話を聞く。もう難易度が高い治療ではなく、雑談しながらでも問題ないようだ。
頷く一八。彼は即座に返答を口にしている。
「俺は世界最強になりたい――――」
高橋の手が止まる。雑談のつもりであったけれど、予想外の話を聞いたのか驚いているようだ。
「もう最強じゃないか? 奥田君ほど戦える剣士はいないと竹之内師団長が話しておられたけど」
高橋の話には首を振った。一八が目指すのはそのような話ではない。
「ネームドオークエンペラーを俺は倒せなかった。世界にはまだ強い魔物がいるんだ」
一瞬のあと、高橋は笑い声をあげた。質問の内容とかけ離れすぎた彼の答えに。
「それはいいね! そうか君は人族最強じゃなく、本当に世界最強を目指しているんだね? とてもいい目標だよ。最強への道が途絶えなくて良かった。少しばかり助力できたのなら嬉しく思うよ」
このあとは上機嫌で治療を施す。どうやら規格外の夢を高橋も応援しようと考えたらしい。
「玲奈はどうなってますか?」
ここで一八は質問をした。玲奈はどうなっているのかと。
「ああ、彼女なら特に外傷もないし、魔力切れが酷かっただけだよ。夜中に起きて食事できるほどには回復してるね」
一八はホッとしていた。ずっと意識が朦朧としていたのだ。魔力切れならば問題はないだろうし、食事をしたというのだから。玲奈の体調は自分よりもずっといいはずだ。
このあとは食事をし、患部の最終チェックがあった。とりあえずは問題ないとのことで、ようやく治療が終わったらしい。
「奥田君……」
ここで竹之内が現れた。前線で指揮を執る彼だが、律儀にも見舞いに来たのかもしれない。
「戦況はどうなってますか?」
一応は聞いておく。恐らく十時間は経過しているはず。乱戦の結末を一八は気にしていた。
「一応はほぼ殲滅できたよ。今は周囲の警戒にあたっている。まあ被害は甚大であったがね……」
やはり楽勝とはならなかったらしい。このあと本隊はコウフを目指して出発する予定とのこと。コウフを解放してこそ彼らの任務は終わるのだ。
「君たちには感謝している。やはりあの骸はネームドオークエンペラーであったようだ。我々は下手をすれば壊滅していただろう」
再び頭を下げる竹之内。天災級の魔物が現れたのなら、討伐できるイメージを抱けない。
「礼はいいっす。できたら首相に俺たちの有能さを伝えて欲しいっすね。俺たちは同盟を申し込みに来たのですから……」
「もちろん、伝えよう。君たちがいなければトウキョウの未来はなかったと……」
一八の心残りはなくなった。使者として十分すぎる成果を残せたと思う。
ならば帰還を急ぐだけである。一日を余計に過ごしてしまったのだ。計画の遅れは作戦の成否にもかかわるだろう。
だからこそいち早く戻らねばならない。こんな今も川瀬は着々と侵攻準備をしているのだから……。
「あ、奥田さん目覚められたのですね?」
看護士らしき女性が声をかけてくれる。まるで状況が掴めなかったけれど、左腕に感覚が戻っていることくらいは理解できた。
「お、腕が治ってる?」
「ああ、動かしちゃダメですよ! 先生を呼んできますね!」
昨晩はまるで動かなかった左腕。看護士には止められたけれど、一八はグルグルと回してみて調子を見ている。
「奥田さん、物凄い回復力ですね?」
看護士が連れてきたのは高橋という医師であった。聞けば治療班の班長らしく一八の治療を指揮した人物らしい。
「名医っすね? 正直ヤバかったんじゃないっすか?」
「そりゃあね。骨を元通りに接合するのは骨が折れたよ。骨だけにね?」
高橋の親父ギャグに苦笑いの一八。どうやら一八の骨は粉砕骨折していたようで、精密な再生魔法による治療が必要だったらしい。
「高橋班長は再生魔法のエキスパートだからね。奥田さんは幸運だわ」
「幸運かはともかく、放っておけば二度と腕は動かなくなっていただろう」
「マジっすか!?」
もしもあの時、竹之内が治療を申し出てくれなければ、一八の腕は回復できなかったらしい。
「骨も神経も血管まで滅茶苦茶になってたんだ。数日で腐り始めていただろう」
脅かしではなく、事実のよう。先ほどの冗談からは考えられないほど高橋は真面目な表情をしていたのだから。
「ありがとうございました。左腕が動かないなんて俺の夢が達成できなくなるところでしたよ」
一八は礼を言う。片腕で戦う羽目になるなんて考えられない。助けてくれた高橋と提案してくれた竹内には感謝してもしきれなかった。
「ほう、夢かね? 英雄とも呼ぶべき君の夢が気になるね。良ければ教えて欲しいな」
治療を施しながらも、高橋は話を聞く。もう難易度が高い治療ではなく、雑談しながらでも問題ないようだ。
頷く一八。彼は即座に返答を口にしている。
「俺は世界最強になりたい――――」
高橋の手が止まる。雑談のつもりであったけれど、予想外の話を聞いたのか驚いているようだ。
「もう最強じゃないか? 奥田君ほど戦える剣士はいないと竹之内師団長が話しておられたけど」
高橋の話には首を振った。一八が目指すのはそのような話ではない。
「ネームドオークエンペラーを俺は倒せなかった。世界にはまだ強い魔物がいるんだ」
一瞬のあと、高橋は笑い声をあげた。質問の内容とかけ離れすぎた彼の答えに。
「それはいいね! そうか君は人族最強じゃなく、本当に世界最強を目指しているんだね? とてもいい目標だよ。最強への道が途絶えなくて良かった。少しばかり助力できたのなら嬉しく思うよ」
このあとは上機嫌で治療を施す。どうやら規格外の夢を高橋も応援しようと考えたらしい。
「玲奈はどうなってますか?」
ここで一八は質問をした。玲奈はどうなっているのかと。
「ああ、彼女なら特に外傷もないし、魔力切れが酷かっただけだよ。夜中に起きて食事できるほどには回復してるね」
一八はホッとしていた。ずっと意識が朦朧としていたのだ。魔力切れならば問題はないだろうし、食事をしたというのだから。玲奈の体調は自分よりもずっといいはずだ。
このあとは食事をし、患部の最終チェックがあった。とりあえずは問題ないとのことで、ようやく治療が終わったらしい。
「奥田君……」
ここで竹之内が現れた。前線で指揮を執る彼だが、律儀にも見舞いに来たのかもしれない。
「戦況はどうなってますか?」
一応は聞いておく。恐らく十時間は経過しているはず。乱戦の結末を一八は気にしていた。
「一応はほぼ殲滅できたよ。今は周囲の警戒にあたっている。まあ被害は甚大であったがね……」
やはり楽勝とはならなかったらしい。このあと本隊はコウフを目指して出発する予定とのこと。コウフを解放してこそ彼らの任務は終わるのだ。
「君たちには感謝している。やはりあの骸はネームドオークエンペラーであったようだ。我々は下手をすれば壊滅していただろう」
再び頭を下げる竹之内。天災級の魔物が現れたのなら、討伐できるイメージを抱けない。
「礼はいいっす。できたら首相に俺たちの有能さを伝えて欲しいっすね。俺たちは同盟を申し込みに来たのですから……」
「もちろん、伝えよう。君たちがいなければトウキョウの未来はなかったと……」
一八の心残りはなくなった。使者として十分すぎる成果を残せたと思う。
ならば帰還を急ぐだけである。一日を余計に過ごしてしまったのだ。計画の遅れは作戦の成否にもかかわるだろう。
だからこそいち早く戻らねばならない。こんな今も川瀬は着々と侵攻準備をしているのだから……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる