174 / 212
第三章 存亡を懸けて
動き出す世界
しおりを挟む
「コウフが天軍によって壊滅しました!」
思いも寄らぬ報告である。未だかつて連合国はただの一度も攻撃を受けていない。だが、報告によると天軍はヒダ山脈を越え、連合国内に侵攻したとのこと。
「コウフが? あそこには五万を超える兵が配備していただろう!?」
「壊滅です。高度な魔法を操る天主とオークの大軍勢によって占領されたという話。特に脅威であるのは……」
兵が続ける。取り乱す原因を口にしていた。
「ネームドオークエンペラーです――――」
絶句する藤城。今し方、その名は聞いたばかりだ。本当に存在するのかも分からぬレアモンスターだったはずが、あろうことか自国に攻め入っているのだという。
「恐らく既に軍勢は南下している模様。逃げ延びた兵が言うにはコウフの陥落は二日前とのことです!」
間近に迫る明確な危機である。天軍の目的地は間違いなくトウキョウ市であろう。
問題は通信ではなく、逃げ延びた兵による情報であることだ。もう既に二日も経過しているのなら、トウキョウを目指していてもおかしくはない。
立ち止まって聞いていた一八だが、玲奈を一瞥したあと再び出口へと歩き出す。
「待ってくれ! 共和国の使者!」
大声が二人の足を止めた。背後より届いた声の主は藤城首相に他ならない。
「何だよ? 言ったはずだぞ? 俺たちはもう知らねぇって……」
「不体裁も無礼も分かっている。だが、我ら連合国は明確な危機を覚えていなかったのだ! 君たちが誠に強者であるのなら力を貸して欲しい。トウキョウには十万を超える兵がいるけれど、ネームドオークエンペラーと戦った強者はいないのだ……」
縋るような目をする藤城。先ほどまでの態度を翻している。
彼もまた国家のために存在しているのだ。プライドなんてものは国家存続の前には如何ほどの重さも持つことはない。
「生き残りゃいいだろ? 俺たちみたいに……」
腹に据えかねた一八は簡単に同意しない。戦う前から逃げ腰である藤城には呆れて物が言えなかった。
流石に藤城はショックを受けている。彼らが本当に強者であるのなら、連合国は救いの手を自ら突っぱねたことになるのだ。また藤城は一八が本当に強者なのだと理解していた。怒りと共に漏れ出す彼の魔力は今まで感じたことのない異質なものであったからだ。
「どうかお願いだ! 国民を守って欲しい! どのような同盟でも受け入れる! 私の首が必要なら、後々に共和国まで赴こう!」
藤城は本気であった。五万という兵を抱えるコウフ市が一瞬にして壊滅させられたのだ。天軍はそれを圧倒する大軍勢であったのだと考えられる。更には情報が二日も遅れた事実。コウフ市が援軍を要請する間もなく滅びたのは明らかであった。混乱のうちにネームドオークエンペラーに壊滅させられたはずだと。
頭を下げる彼は同一人物のようには思えない。国民のために頭を下げる様子は見下していた先ほどとは異なる。自らの命を捧げるような話は怒り心頭に発す一八とはいえ、流石に無視できなかった。
「玲奈、戦えるか?」
「誰に言っている?」
まずは確認をする。また返答は予想通りであった。昔も今も彼女は勇敢な騎士であるのだから。
「藤城首相、別にあんたの命はいらねぇ。人族は手を取り合うべきだ。今後、連合国が協力してくれるのなら、俺たちは手を貸してもいいぜ?」
一八は引き受けようと思う。どうせ天軍を全滅させるつもりなのだ。ここでネームドオークエンペラーを倒しておくのは悪くないと思う。背後より侵攻されるなど悪夢でしかないのだから。
「協力しよう。本当に君たち二人で討伐できるのか?」
「確約はできない。ネームドオークエンペラーはそれだけの相手だ。でも可能性がゼロならば、俺たちが引き受けるはずもないだろう?」
一八の話には頷きを見せる。確かにその通りだった。引き受けなくてはならない状況とは違う。既に立場は逆転しており、一八たちが断るという選択肢が生まれている。従って勝つ見込みがない話を彼らが請け負うなんてあり得なかった。
「藤城首相、我らがネームドオークエンペラーを請け負う。ただし、それだけだ。話したように私たちは進軍を控えているのだ。残りは連合国で何とかして欲しい」
ここで玲奈が条件をつけている。数すら分からぬ敵の全てを任されるなどあり得ない。それこそ十万というトウキョウの兵力にて防衛すべきことである。
「エンペラー以外にも、やたらとデカいオークがいるはずだ。だが、そいつらは作られた偽物。間違ってもオークキングじゃねぇ。デカいだけのオークだ。練度のある兵士であれば倒せるはず。そっちは自力で何とかしてくれ」
忠告として一八は知り得る情報を伝えている。見た目だけで逃げ出したくなるオークがいること。臆することなく戦えばいいのだと。
「すまない。この借りは必ず返す。最後になって申し訳ないが、君たちの名を聞かせてくれないか?」
藤城は再度、頭を下げている。横柄な態度はもう見られない。まるで救世主を見るような目が向けられていた。
「私は岸野玲奈だ!」
真っ先に返答を終える玲奈。彼女のチラリとした視線を感じたあと、一八もまた返答を終えている。
「俺は奥田一八……」
名を告げるだけでは我慢ならない。見下された倍以上の尊厳を一八は求めている。だからこそ名乗ったあと堂々と告げていた。
「世界最強を目指す刀士だ」――――と。
思いも寄らぬ報告である。未だかつて連合国はただの一度も攻撃を受けていない。だが、報告によると天軍はヒダ山脈を越え、連合国内に侵攻したとのこと。
「コウフが? あそこには五万を超える兵が配備していただろう!?」
「壊滅です。高度な魔法を操る天主とオークの大軍勢によって占領されたという話。特に脅威であるのは……」
兵が続ける。取り乱す原因を口にしていた。
「ネームドオークエンペラーです――――」
絶句する藤城。今し方、その名は聞いたばかりだ。本当に存在するのかも分からぬレアモンスターだったはずが、あろうことか自国に攻め入っているのだという。
「恐らく既に軍勢は南下している模様。逃げ延びた兵が言うにはコウフの陥落は二日前とのことです!」
間近に迫る明確な危機である。天軍の目的地は間違いなくトウキョウ市であろう。
問題は通信ではなく、逃げ延びた兵による情報であることだ。もう既に二日も経過しているのなら、トウキョウを目指していてもおかしくはない。
立ち止まって聞いていた一八だが、玲奈を一瞥したあと再び出口へと歩き出す。
「待ってくれ! 共和国の使者!」
大声が二人の足を止めた。背後より届いた声の主は藤城首相に他ならない。
「何だよ? 言ったはずだぞ? 俺たちはもう知らねぇって……」
「不体裁も無礼も分かっている。だが、我ら連合国は明確な危機を覚えていなかったのだ! 君たちが誠に強者であるのなら力を貸して欲しい。トウキョウには十万を超える兵がいるけれど、ネームドオークエンペラーと戦った強者はいないのだ……」
縋るような目をする藤城。先ほどまでの態度を翻している。
彼もまた国家のために存在しているのだ。プライドなんてものは国家存続の前には如何ほどの重さも持つことはない。
「生き残りゃいいだろ? 俺たちみたいに……」
腹に据えかねた一八は簡単に同意しない。戦う前から逃げ腰である藤城には呆れて物が言えなかった。
流石に藤城はショックを受けている。彼らが本当に強者であるのなら、連合国は救いの手を自ら突っぱねたことになるのだ。また藤城は一八が本当に強者なのだと理解していた。怒りと共に漏れ出す彼の魔力は今まで感じたことのない異質なものであったからだ。
「どうかお願いだ! 国民を守って欲しい! どのような同盟でも受け入れる! 私の首が必要なら、後々に共和国まで赴こう!」
藤城は本気であった。五万という兵を抱えるコウフ市が一瞬にして壊滅させられたのだ。天軍はそれを圧倒する大軍勢であったのだと考えられる。更には情報が二日も遅れた事実。コウフ市が援軍を要請する間もなく滅びたのは明らかであった。混乱のうちにネームドオークエンペラーに壊滅させられたはずだと。
頭を下げる彼は同一人物のようには思えない。国民のために頭を下げる様子は見下していた先ほどとは異なる。自らの命を捧げるような話は怒り心頭に発す一八とはいえ、流石に無視できなかった。
「玲奈、戦えるか?」
「誰に言っている?」
まずは確認をする。また返答は予想通りであった。昔も今も彼女は勇敢な騎士であるのだから。
「藤城首相、別にあんたの命はいらねぇ。人族は手を取り合うべきだ。今後、連合国が協力してくれるのなら、俺たちは手を貸してもいいぜ?」
一八は引き受けようと思う。どうせ天軍を全滅させるつもりなのだ。ここでネームドオークエンペラーを倒しておくのは悪くないと思う。背後より侵攻されるなど悪夢でしかないのだから。
「協力しよう。本当に君たち二人で討伐できるのか?」
「確約はできない。ネームドオークエンペラーはそれだけの相手だ。でも可能性がゼロならば、俺たちが引き受けるはずもないだろう?」
一八の話には頷きを見せる。確かにその通りだった。引き受けなくてはならない状況とは違う。既に立場は逆転しており、一八たちが断るという選択肢が生まれている。従って勝つ見込みがない話を彼らが請け負うなんてあり得なかった。
「藤城首相、我らがネームドオークエンペラーを請け負う。ただし、それだけだ。話したように私たちは進軍を控えているのだ。残りは連合国で何とかして欲しい」
ここで玲奈が条件をつけている。数すら分からぬ敵の全てを任されるなどあり得ない。それこそ十万というトウキョウの兵力にて防衛すべきことである。
「エンペラー以外にも、やたらとデカいオークがいるはずだ。だが、そいつらは作られた偽物。間違ってもオークキングじゃねぇ。デカいだけのオークだ。練度のある兵士であれば倒せるはず。そっちは自力で何とかしてくれ」
忠告として一八は知り得る情報を伝えている。見た目だけで逃げ出したくなるオークがいること。臆することなく戦えばいいのだと。
「すまない。この借りは必ず返す。最後になって申し訳ないが、君たちの名を聞かせてくれないか?」
藤城は再度、頭を下げている。横柄な態度はもう見られない。まるで救世主を見るような目が向けられていた。
「私は岸野玲奈だ!」
真っ先に返答を終える玲奈。彼女のチラリとした視線を感じたあと、一八もまた返答を終えている。
「俺は奥田一八……」
名を告げるだけでは我慢ならない。見下された倍以上の尊厳を一八は求めている。だからこそ名乗ったあと堂々と告げていた。
「世界最強を目指す刀士だ」――――と。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる