オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

山越え

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 玲奈が眠ってしまったあと、一八はかまくらを出て素振りをしていた。自分まで眠るわけにはならない。魔物の気配はなかったけれど、万が一を想定して。

「良い感じに温まってきたな……」
 かなり冷え込んでいたものの、熱心に振っていた一八は目が覚めると同時に寒さを感じなくなっていた。

「一八、いい素振りだな?」
 ふと声をかけられていた。どうやら素振りの音で目を覚ましてしまったらしい。

「ああ、すまん。うるさかったか……」
「いや、私こそすまない。腹を満たしたせいか眠気に負けてしまった……」
 それは別にいいと一八。それでなくても昨日は肉体的に疲れ果てていたのだ。雪中登山ともいうべき過酷なルートを通ってきたあとである。

「私も素振りをするかな……」
 玲奈もかまくらを出て、零月を鞘から抜こうとした瞬間、どうしてか地面が激しく揺れ始めた。それは次第に大きくなり、地響きを伴っている。

「おい一八! 雪崩になる! 山を下りるぞ!」
 一瞬、呆けていた一八だが、玲奈に言われて気付く。激しく地面が揺れていたのだ。降り積もった雪の層が地滑りを始めているのだと。

「マジかよ!?」
 直ぐさまエアパレットを装着し、慌ただしく山を下りる。思えば昨日のうちに登頂しておいて良かったと思う。登る途中であれば、引き返すしかなかったのだ。

「くっそ、本当に雪崩じゃねぇか!?」
「巻き込まれたらどうしようもないぞ!」
 まだ日の出前であり、周囲は真っ暗である。地平線の先が仄かに淡くなっていたけれど、二人を星空が見下ろしていた。

「圧倒的な星空だな!」
 ふと玲奈が言った。正直に景色を眺める場面ではなかったというのに、視界へと入り込む景色に彼女は感動を覚えている。

「ゆっくり見てる場合じゃねぇって! あの崖から飛び降りっぞ!」
 目の前にジャンプ台になったようなせり出した岩がある。別に雪の上を滑っているわけではなかったが、一八はそのまま上空へと飛んで雪崩を回避しようと提案していた。

「了解。先に落ちた方が負けだぞ?」
「落ちたら死ぬだろうがよ!?」
 ワハハと声を上げる玲奈。どうしてか彼女は面白くなっていた。危機的状況にも不安は覚えていないようである。

「いけぇぇっっ!!」
 二人のエアパレットが宙を舞った。一面の星の海に身を預けるように。

 まるでほうき星のように魔力の尾が闇を彩る。ステージ4の魔力展開は青白い光と真っ赤な光をその軌跡に残した。

「気持ちいいな!」
「ああ、もう大丈夫だろう!」
 空高く舞い上がり、一気に山を下っていく。一八は魔力回復薬を飲みながら、一息ついている。魔力を消費してでも、このまま山越えしてしまおうと。

 二人は四日目にしてカントウ連合国へと入っていた。目指すは首都トウキョウ。
 そこは人族の歴史上、最も栄えた巨大な都市である……。
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