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第三章 存亡を懸けて
カイザー
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一八と莉子はカイザーに斬り掛かっていた。雑兵であるオークが見物に徹してくれるのなら、二人して討伐してやろうと。此度は一八も一騎討ちなど予定していない。
「莉子、てめぇは腕を狙え!」
「えっ? 腕と足は滅茶苦茶堅いんじゃないの!?」
「だからだよ。俺が斬る隙を作ってくれ……」
一八の作戦に莉子は頷く。直ぐさま一八の前に出て刀を構えている。
「薫風のポテンシャルを引き出す。斬り落としたとしても勘弁してよね?」
「存分に発揮してくれ! 頼むぞ!」
莉子の愛刀は薫風との銘が与えられている。振り切れるギリギリの長さと重さで鍛造された完全なオーダーメイドであった。
莉子はパートナーの信頼に応えようと思う。全力で魔力を注ぎ、強烈な一撃を叩き込むのだと決めた。
「デッカいな!?」
近付くほどにオークエンペラーの巨大さが露わになる。しかし、臆してなどいられない。侵攻の妨げとなっている災厄級の排除こそが彼女たちの任務なのだから。
「いっけぇぇぇっ!!」
莉子が斬りかかった。自分だけでなく、仲間たちや共和国のために。恐怖は全て飲み込んで彼女は先手を取っている。
直ぐさま莉子の斬撃を腕で受けるエンペラー。それはカイザーの名に相応しい。逃げることも回避することもできたはずだが、正々堂々と受けている。
「堅い!!」
「莉子、どけぇぇっ!!」
即座に一八の斜陽が全力で振り抜かれている。
莉子の立ち位置的に右切り上げとなっていたけれど、手応えとしては悪くない。踏み込みも力強さも正確さも兼ね備えた一振りとなっていた。
「どうだ!?」
直ぐさま距離を取る一八と莉子。しかし、思いのほか浅かったらしい。脇腹を斬り裂いたものの、カイザーは意に介す様子もなかった。
「ちくしょう、思ったよりも堅ぇな……」
「どうする?」
「いや、同じだ。数で押すっきゃねぇ……」
二対一である現状を利用するしかない。雑魚までが参戦しては勝ち目がない。今のうちに決定的なダメージを与えておく必要があった。
このあとも同じようにコンビネーション攻撃を繰り出す。しかしながら、カイザーは事もなげに二人の攻撃を防いでしまう。
「人族が儂に敵うはずがないのだ! 男は真っ二つに引き裂き、女は慰みものとする。今晩の楽しみを与えてくれて感謝するぞ!」
カイザーはまるで脅威と感じていないようだ。何度斬りかかろうとも、軽く受けられている。語った全てが軽口ではないのだと証明するかのように。
「そろそろパーティーは終わりだ! 己が無能を思い知るがいい!」
カイザーは巨木のような腕を振り回してくる。これまでは受けるだけであったというのに、一転して攻勢に転じていた。
「くそっ、莉子は下がれ!」
莉子ではいなすこともできないだろう。従って一八は前に出てカイザーの攻撃に斜陽を合わせている。
「属性発現を手に入れたのに……」
オークエンペラーと戦うのは二度目である。しかも前回は属性発現を知らなかった。この度は属性発現を使用しているというのに、前回よりも有利になったとは思えない。
「やっぱネームドってやつか……」
カイザーは他のオークキングとは異なっていた。強度もさることながら、戦闘勘といったものが備わっているように感じる。絶対的強者の風格を覚えさせていた。
何度目かのコンビネーション攻撃。攻められるままではジリ貧なのだ。攻めてこそ勝利が得られるはずと二人は執拗な攻撃を繰り出していく。
「きゃぁぁっっ!!」
ところが、上手くは運ばない。守勢をやめたカイザーは莉子の攻撃に対して反撃している。左腕で斬撃を受けては右腕を振り回してカウンター攻撃を放っていた。
直撃は避けられたものの、莉子は利き腕にダメージを受けてしまう。防御魔法を展開していたというのに、かすっただけで皮膚が避けて血が流れている。
「莉子!?」
「大丈夫!」
チラリと確認すると、大丈夫との話には疑問しかない。流れ落ちる血の量からもそれは明らかであった。
「クソが……」
こうなると莉子を囮とした攻撃はもう止めた方が良い。一八は左手で彼女を制している。
本当に情けなかった。前回よりも確実に成長したはずで、この度はオークエンペラーを討伐できると信じていたのに。自身の不甲斐ない攻撃のせいで仲間が窮地に陥っている。
「莉子、後ろで治療していろ。存分に休んでおけ……」
周りを取り囲むオークは血を流す莉子に興奮しているようであったが、カイザーの指示には抗えない様子。今も遠巻きに見ているだけであった。
「カズやん君、できるの?」
「できるから言っている。今のうちにちゃんと回復しておけ……」
正直に策などなかった。しかし、一対一は前回と変わらない。ならば戦うだけだ。腕を無効化し、その末に身体を叩き斬るだけであると。
次の瞬間、発光弾が打ち上げられた。それは莉子によるもの。南側もネームドが出現したことを分かっていたけれど、もしも討伐できたのなら駆け付けてくれるようにと。
「余計なことを……。こうなりゃババァが来るまでに始末してやるぜ……」
一八は救援を期待するどころか、逆に燃えたぎっていた。救援が到着してしまえば負けを認めるようで。ヒカリに勝ちたいと一八は改めて思った。
「カイザー、覚悟しやがれ!!――――」
「莉子、てめぇは腕を狙え!」
「えっ? 腕と足は滅茶苦茶堅いんじゃないの!?」
「だからだよ。俺が斬る隙を作ってくれ……」
一八の作戦に莉子は頷く。直ぐさま一八の前に出て刀を構えている。
「薫風のポテンシャルを引き出す。斬り落としたとしても勘弁してよね?」
「存分に発揮してくれ! 頼むぞ!」
莉子の愛刀は薫風との銘が与えられている。振り切れるギリギリの長さと重さで鍛造された完全なオーダーメイドであった。
莉子はパートナーの信頼に応えようと思う。全力で魔力を注ぎ、強烈な一撃を叩き込むのだと決めた。
「デッカいな!?」
近付くほどにオークエンペラーの巨大さが露わになる。しかし、臆してなどいられない。侵攻の妨げとなっている災厄級の排除こそが彼女たちの任務なのだから。
「いっけぇぇぇっ!!」
莉子が斬りかかった。自分だけでなく、仲間たちや共和国のために。恐怖は全て飲み込んで彼女は先手を取っている。
直ぐさま莉子の斬撃を腕で受けるエンペラー。それはカイザーの名に相応しい。逃げることも回避することもできたはずだが、正々堂々と受けている。
「堅い!!」
「莉子、どけぇぇっ!!」
即座に一八の斜陽が全力で振り抜かれている。
莉子の立ち位置的に右切り上げとなっていたけれど、手応えとしては悪くない。踏み込みも力強さも正確さも兼ね備えた一振りとなっていた。
「どうだ!?」
直ぐさま距離を取る一八と莉子。しかし、思いのほか浅かったらしい。脇腹を斬り裂いたものの、カイザーは意に介す様子もなかった。
「ちくしょう、思ったよりも堅ぇな……」
「どうする?」
「いや、同じだ。数で押すっきゃねぇ……」
二対一である現状を利用するしかない。雑魚までが参戦しては勝ち目がない。今のうちに決定的なダメージを与えておく必要があった。
このあとも同じようにコンビネーション攻撃を繰り出す。しかしながら、カイザーは事もなげに二人の攻撃を防いでしまう。
「人族が儂に敵うはずがないのだ! 男は真っ二つに引き裂き、女は慰みものとする。今晩の楽しみを与えてくれて感謝するぞ!」
カイザーはまるで脅威と感じていないようだ。何度斬りかかろうとも、軽く受けられている。語った全てが軽口ではないのだと証明するかのように。
「そろそろパーティーは終わりだ! 己が無能を思い知るがいい!」
カイザーは巨木のような腕を振り回してくる。これまでは受けるだけであったというのに、一転して攻勢に転じていた。
「くそっ、莉子は下がれ!」
莉子ではいなすこともできないだろう。従って一八は前に出てカイザーの攻撃に斜陽を合わせている。
「属性発現を手に入れたのに……」
オークエンペラーと戦うのは二度目である。しかも前回は属性発現を知らなかった。この度は属性発現を使用しているというのに、前回よりも有利になったとは思えない。
「やっぱネームドってやつか……」
カイザーは他のオークキングとは異なっていた。強度もさることながら、戦闘勘といったものが備わっているように感じる。絶対的強者の風格を覚えさせていた。
何度目かのコンビネーション攻撃。攻められるままではジリ貧なのだ。攻めてこそ勝利が得られるはずと二人は執拗な攻撃を繰り出していく。
「きゃぁぁっっ!!」
ところが、上手くは運ばない。守勢をやめたカイザーは莉子の攻撃に対して反撃している。左腕で斬撃を受けては右腕を振り回してカウンター攻撃を放っていた。
直撃は避けられたものの、莉子は利き腕にダメージを受けてしまう。防御魔法を展開していたというのに、かすっただけで皮膚が避けて血が流れている。
「莉子!?」
「大丈夫!」
チラリと確認すると、大丈夫との話には疑問しかない。流れ落ちる血の量からもそれは明らかであった。
「クソが……」
こうなると莉子を囮とした攻撃はもう止めた方が良い。一八は左手で彼女を制している。
本当に情けなかった。前回よりも確実に成長したはずで、この度はオークエンペラーを討伐できると信じていたのに。自身の不甲斐ない攻撃のせいで仲間が窮地に陥っている。
「莉子、後ろで治療していろ。存分に休んでおけ……」
周りを取り囲むオークは血を流す莉子に興奮しているようであったが、カイザーの指示には抗えない様子。今も遠巻きに見ているだけであった。
「カズやん君、できるの?」
「できるから言っている。今のうちにちゃんと回復しておけ……」
正直に策などなかった。しかし、一対一は前回と変わらない。ならば戦うだけだ。腕を無効化し、その末に身体を叩き斬るだけであると。
次の瞬間、発光弾が打ち上げられた。それは莉子によるもの。南側もネームドが出現したことを分かっていたけれど、もしも討伐できたのなら駆け付けてくれるようにと。
「余計なことを……。こうなりゃババァが来るまでに始末してやるぜ……」
一八は救援を期待するどころか、逆に燃えたぎっていた。救援が到着してしまえば負けを認めるようで。ヒカリに勝ちたいと一八は改めて思った。
「カイザー、覚悟しやがれ!!――――」
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