上 下
158 / 212
第三章 存亡を懸けて

現れる強者

しおりを挟む
 ヒカリと優子は戸惑っていた。考えていたよりもオークキングが多く、また雑兵であるオークも想像以上の数であったからだ。

「優子、あれはヤバいぞ。流石に一刀では仕留められん……」
 乱戦の中に現れた新たな影。明らかに雰囲気が異なっていた。ここまで三体のオークキングを斬ったヒカリであるが、迫り来る巨大な影がそれらと同じだとは思わない。

「少佐、フォローします。念のため発光弾を……」
「止めておけ。この状況だ。簡単に移動できるはずもない。混乱させるだけだ……」
「いえ、情報を共有する必要があるはずです!」
 言って優子は赤色の発光弾を上空へと撃ち放った。ヒカリが話すように混乱させる可能性は否定できなかったけれど、一八であればそのようなことにはならないはずと。

「まったく、しょうがないやつだな。優子は……」
「まだ死ぬつもりはありませんので。恋人の一人もいないまま死ねません!」
 剣を振りながらも強気に返す優子。救援が来るかどうかはともかくとして、意志をありのまま伝えている。

「ふはは! 朝食すら作れぬ女に誰がなびく?」
「ネームドを前に落ち着いている豪胆な女性にいわれたくありません! 殿方もドン引きですよ!」
 ヒカリは優子の余裕を感じ取っていた。さりとて開き直りだとも思っている。周囲はオークに埋め尽くされているのだ。この状況で絶望しないのなら、逆に覚悟を決められたのだと。

「ならば結構。アレを斬って、我らの任務は完遂だ」
「はい! 絶対に生還しましょう!」
 ハンディデバイスを確認すると、一八と莉子はまだ健在であった。だからこそ優子は意気込んでいる。新人よりも先に失われてはなるものかと。

 程なくオークたちが距離を取った。やはりこれまでのオークキングは作り出された偽物。現れた魔物に畏怖している姿はそう考えるのに十分であった。

「メインディッシュが大層なご登場だな?」
 ヒカリが声をかける。まず間違いなく新手のオークキングは言葉を操るだろうと。身体にある無数の傷跡は強者の証し。秘術などではなく純粋に勝利を積み重ねた王者なのだと思う。

「ふははは! 威勢がいい女だ。安心して良いぞ? 殺しはしない。我の女にしてやろう」
 予想通りに返答をするオークキング。魔力回復薬を飲みつつも、ヒカリは時間稼ぎのために話を続けた。

「これまでのオークキングは非常に歯ごたえのないものだった。貴様は違うのか?」
「ああ、見ていたぞ。あの木偶の坊たちは天主様の秘術によって生み出された。弱くて当たり前だ。失敗作なのだからな……」
「ほう、ならば貴様は成功した作り物なのか?」
 伝えられる話は予想通りである。進化を促進する秘術など聞いたこともないが、正規の手順ではない進化は体躯くらいしか真似られなかったのだろう。

「我はオーバーロード。数多のオークを食い殺して、ここまで登り詰めた。地獄を生き抜いた我はいつしか知恵を得て、果てには名を手に入れている……」
 強者の余裕なのか、オークキングは饒舌に語る。自身が辿ってきた道程。地獄と称した内容について。

「草一本生えぬ大穴へと放り込まれたのは生まれて間もないときだった。弱者であるお前たちには決して生き残れるはずもない。我らは同胞を食って生き残る道しか与えられなかったのだ。ひたすら殺し合い、数が少なくなれば再びガキが放り込まれてくる。全てを食い尽くし、蹂躙する日々。遂には進化をし、殺戮の果てに名を得た我は空に輝きを見た。薄暗い穴の底からでもはっきりと視認できる光を……」
 ヒカリは静かに聞いていた。既に優子の息も整っていたけれど、語られるのは恐らく洗脳術式に違いない。今後の対策にも役立つかもしれないと。

「それこそが救いの光。我は天主様により地獄から救われた……」
 元々が天主による実験であったはず。しかしながら、オークキングは救われたと話す。どうにも納得がいかないヒカリであったけれど、洗脳とは極限に追い込むことにあるのだとも思う。

「よく喋る豚だな? オーバーロード、私が本当の地獄から救い出してやろう……」
 オーバーロードもまた人為的に生み出された魔物であった。ただし、気が遠くなるような実験であったはず。トウカイ王国が滅びる以前から計画されたものかもしれない。

「女、名を聞こうか? 我を前にして軽口を叩けるなど、並の強者ではない。褒美として手足をもいだあと、お前の名を呼びながら犯してやろう」
 オーバーロードの話に、どうしてか笑みを浮かべるヒカリ。何だか先ほどの話が脳裏に蘇って仕方がない。

「残念だが、それは叶わない。何しろ私は……」
 剣を握る手に力を入れる。雑魚のオークが遠巻きに見ているだけなら、十分勝機があるはずと。
 ヒカリは大声を張った。啖呵に対して啖呵を返すように……。

「殿方をドン引きさせる豪胆な女なのだからな!――――」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

結城芙由奈 
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】 20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ―― ※他サイトでも投稿中

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...