オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
上 下
150 / 212
第三章 存亡を懸けて

作戦概要

しおりを挟む
 玲奈たち早期配備組は騎士学校に隣接する守護兵団オオサカ本部へと来ていた。ここから配備先のキョウト支部へと送ってもらう手筈となっている。

 集められた小部屋には七条中将だけでなく、川瀬少将や浅村ヒカリの姿。部屋に招かれた時点で何らかの話があることは分かっていたけれど、どうやら配備先についての説明があるらしい。

「揃ったな。各々席に座ってくれたまえ……」
 並べられた机には名前と階級が記されたプレートが貼ってある。剣術科四人に魔道科が五人。支援科の四名が本来の早期配備予定者であろう。

 全員が着席するのを待って七条中将の話が始まる。ただ共和国の危機に関する話はなく、いきなり戦術に関する内容となっていた。

「本来予定していたこの十三名は浅村ヒカリ少佐及び川瀬少将の部隊へと振り分けられている。それは我々が考える作戦の一部なのだ」
 どうやら早速と任務が与えられる予定らしい。先んじて集められたのは恐らく緊急を要するからであろう。

 静かに聞く少尉たち。概ね覚悟を決めていたけれど、予想外の話を聞くことになった。
「我らは二部隊による二面攻勢にてマイバラ基地を奪い返す――――」
 まるで想定していない。少尉待遇になって一夜。マイバラ基地が陥落して一晩しか経っていないというのに。

 流石に全員が困惑していた。しかしながら、直ぐさま玲奈が手を挙げて発言許可をもらう。
「お言葉ですが、流石に早計過ぎるのではないでしょうか?」
 全員の意見を代表するように言った。生意気だと捉えられるかもしれないが、意見せずにはいられなかったようだ。

「岸野少尉、ことは急を要している。生存者がいるのだ。悠長にしている暇はない」
 七条中将は即座に却下としてしまう。なぜなら、マイバラ基地には必ず生存者がいると思われたからだ。

 玲奈もまたそれを分かって意見した。マイバラ基地を陥落させたのはオークの大軍なのだ。男ならばまだしも、女は生きている可能性が高い。更には精神が壊れてしまうよりも早く救出すべきだとも。

「しかし……」
「作戦は既に立案され、議会と小平大将の承認も得られている。決定事項だ……」
 もう玲奈は強く出られなかった。生存者よりも自己を優先していると思われてしまってはならないのだと。

「浅村少佐から作戦内容について伝えるから、よく聞いておくことだ」
 言って七条中将はヒカリを呼び、作戦の詳細説明を求める。知らぬ間に彼女は少佐となっており、全員が気になっていたけれど問いを投げることはなかった。

「浅村ヒカリ少佐だ。よろしく頼む。まずこの作戦は奇襲であることを先に告げておく。日が落ちてからの決行であり、我ら浅村小隊はこのあと直ぐさま準備に入ることになる」
 やはり作戦は本日中に実行となるらしい。奇襲との話はそれしか手がなかったからだろう。

「発言を!」
 再び玲奈が手を挙げる。看過できない内容はどうしても聞き流せなかった。
 頷くヒカリを見るや、玲奈は意見を口にする。なぜにそのような作戦になったのかと。

「小隊は五十人規模ですよ? 旅団を使うべきでは?」
 ヒカリは浅村小隊の作戦を述べただけであり、玲奈が所属する川瀬一個旅団について言窮していない。奇襲を仕掛ける小隊とは異なり、旅団は3000人も編成されていたのだ。

「奇襲班だといっただろう? そもそも旅団を使ったとして同じことだ。五万というマイバラ基地を陥落させた大軍勢だぞ? 五十も三千も同じこと。秘密裏に襲撃するなら小隊規模が望ましいだけだ」
 勇敢だと思うけれど、流石に無謀だと感じる。恐らくは万単位のオークが生きているはずで、全部隊を突撃させたとして人数的には圧倒的に劣勢なのだ。

「死に急ぐつもりはない。奇襲班は真っ先にオークキングを仕留めるのみ。乱戦の中に災厄が混じると、それこそ手に負えない。可能だと判断したから、上申したまでだ」
「けれど、オークキングに取り付くまでに雑兵のオークがいるでしょう!?」
「岸野少尉、貴様がこれほどまでに臆病だとは思わなかった。誠に残念だよ。なぁ、奥田一八?」
 ここでヒカリはどうしてか一八に話を振る。これまで一言も発していなかったというのに、彼女は一八の考えを予想しているのかもしれない。

「あん? 俺にも少尉って付けろよ、クソババァ……」
 一八は睨むようにして言った。正直に軍隊として認められない発言であったけれど、七条中将も川瀬少将も注意すらしない。彼の言動は既にヒカリから詳しく聞いていたのだと思われる。

「では奥田少尉、どう思う?」
「ふん、俺は別にどこでも構わないぜ。どうせ全滅させてやるんだ。一番乗りは悪かねぇな……」
 一八の返答にヒカリは笑みを大きくする。やはり指名して正解だったと思う。この作戦は一八なしでは成立しないのだから。

 一八の隣に座る莉子は唖然と息を呑んでいた。正直に彼女はかなり動揺していたというのに、隣席の大男は悪くないと言ってのけている。同じ新人であったにもかかわらず。

「フハハ! 一番乗り結構! 我らの目標はオークキング五体。それ以上いる可能性もある。全て叩き斬ってやれ!」
 莉子だけでなく同じ浅村小隊に配備された恵美里や舞子も困惑していた。更には支援科から選ばれた佐山早久良と高井静華も一様に戸惑うだけである。

「は、発言を!」
 ここで恵美里が手を挙げた。流石に看過できない。ここまで作戦らしき内容が一つもなかったのだ。奇襲という話だけであり、詳しい説明がないまま話を終わらせるわけにはならないのだと。

「奇襲と少佐は仰いましたが、魔道士と支援士はどうすればいいのでしょう? マイバラ基地には外壁沿いに魔力無効化の術式が施されているはず。よって私たちは何の仕事もできないかと……」
 既に外壁は粗方オークキングによって破壊されたと聞く。しかしながら、魔法陣は基礎に記録されており、地面ごと破壊するか適切な解除を施さない限りは有効だろうと思われる。

「だからこそ奇襲をかけるのだ。剣士四人で特攻を仕掛け、内部を混乱させる。その隙を突いて私の手駒が魔力吸収術式を解除する予定だ……」
「術式を解除? マイバラ基地がどれほど巨大かを考えておられるのでしょうか?」
「当然だろう? 追って魔道士には座標を伝える。貴様らはそこに最大級の魔法を撃ち放てば良い。ただし狙いは外すな。全面を解除する時間などないのだから」
 ヒカリは作戦の概要を口にした。やはり五十人だけで大軍勢に奇襲をかけるつもりのよう。議会や大将が承認したとして無謀だとしか思えなかった。

「もう少し作戦を煮詰めても良いのではないでしょうか?」
 堪らず意見してしまう。死に急ぐつもりはないと話したヒカリであったけれど、現状の作戦は大雑把すぎると考えられるものであり、恵美里が納得できるものではなかった。

「七条少尉、貴様は甘すぎる。共和国は岐路に立っているのだ。無論のこと存亡をかけたもの。一つ間違えれば壊滅する。それこそ話し合いで時間を潰すなど愚策だ。大戦の翌日であるからこそ奇襲は効果を最大とできる。オークという豚畜生といえど、無傷ではないのだ。人命優先だけでなく、早ければ早いほど作戦は効果を発揮する。逆に時間をかけるほどに成功確率は下がっていくだろう」
 もう恵美里は反論できなかった。そもそも議会と大将が承認した作戦である。投げやりと思える作戦にも、ちゃんとした理由があったのだ。

「我ら浅村小隊の奇襲が作戦の成否を握る。少なくともオークキングを半分以上潰したあと、川瀬旅団には西側から攻勢をかけてもらう手筈になっている。それはマイバラ基地の正門方面。我らとは異なり、正攻法のガチンコ勝負となる。スピードと確実性に優れた面々が配備されているのはそのためだ。オーク共をなぎ倒して欲しい」
 どうやら作戦は全てヒカリが伝えるようだ。川瀬一個旅団に関することまでも彼女が説明していく。

「川瀬少将は後方で指揮を執る。岸野少尉と鷹山少尉が先陣を切るように。相手はデカい豚だが、大量にいる。不足はあるまい?」
 かといって、こちらも作戦といえる内容はなかった。特攻する時間が違うだけであり、やるべきことは何も変わらない。

 ここで伸吾が手を挙げる。どうやらヒカリの話に疑問を覚えたようだ。
「乱戦であれば奥田少尉の長刀が有効です。彼は旅団に組み込むべきだと進言致します!」
 オークの大軍勢を相手にするのだ。伸吾は一八の豪腕こそ道を切り開くのに有効だと思う。だからこそ、配置換えともいうべき話を口にしている。

「ならば問うが、貴様にオークキングの相手が務まるか?」
 素早いヒカリの返答に伸吾は口を噤む。オークキングという災厄。何頭も目撃されているそれと戦うなど不可能である。

「できないのなら余計な事は言うな。この作戦は奥田一八がいてこそだ。私と奥田一八がオークキングを屠る。無闇矢鱈と斬り裂くのではなく、一刀にて仕留められるからこそ奥田一八を選んでいるのだ。奴らが態勢を整える前に殲滅するぞ」
 全員が威勢の良い返事をしたものの、浮かない表情である。この作戦は成功する確率が高くない。それだけは明確に伝わっていた。

 隊員たちの雰囲気を感じ取ったヒカリ。直ぐさま彼女は言葉を繋げている。この現状に至る決断の全てを。

「言っておくが、本作戦次第で共和国は滅びるだろう。ナガハマ前線基地の戦力だけで戦えるはずがないのだ。現状は学徒動員とも取れる末期的状況。だが、幸いにも戦える人員が揃っている。だから私たちはそれに懸けるしかない。諸君らの活躍に共和国の行く末を写し見ているのだ……」
 ヒカリも自暴自棄的に作戦を立案したわけではない。タイミングが今しかなかったのだ。時間を設けたとして、戦力が増強されるわけではない。急ぐほどに効果的であったから、そのように上申しただけである。

「とにかく今夜決行だ。十分な休息を取っておけ。このあとは部隊ごとに別れて準備となる。必ず我らは勝利せねばならない!」
 強い台詞で締められる。共和国にとっての分水嶺。勝つか負けるかで存亡が決定するという。

 退出が命じられた十三人の少尉たちは各々が指定された場所へと向かっていく。
 ただし、足取りが軽いはずもなかった。任官早々に死地へと赴くような任務を命じられていたのだから……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...