143 / 212
第二章 騎士となるために
混成試験を終えて
しおりを挟む
緊急的に全ての試験は中止となっていた。だがしかし、それはロッコウ山系にヒュドラが現れたせいではない。守護兵団本部の指示によるものだった。
いち早く西大寺の元へと戻った十八人。Aクラスにおける他のエリアは何の問題もなかったようだ。
猛毒に冒されたという舞子を連れて一八たちが戻ると、自然と拍手が巻き起こっている。
それは西大寺も同じだったようで、拍手をしつつ彼らを迎えていた。
「よく戻った。正直に無傷で帰ってくるとは想像していなかった。本当に良くやってくれた!」
西大寺がそういうと、本郷真菜が手を挙げた。完全なる祝勝ムードであったものの、真菜は笑みなく語り出す。
「教官、全ては鷹山リーダーの判断です。私は全員が助かる未来を想定していませんでした。もしも、彼がリーダーではなかったのなら、誰かが失われていたか、或いは全員がヒュドラに殺されていたでしょう……」
それはひとえにリーダーのみが賞賛されるべきという内容だった。彼以外の全員が舞子を見捨てるというような思考を始めていたからだ。
「しかも最後は決断していました。私たちを逃がすために、リーダーは自ら囮を買って出てくれたのです。あの行動には敬服するしかありません……」
恐らく西大寺はある程度の動きを把握していたはず。けれど、真菜は伸吾が取った行動への賛辞を述べている。
「なるほど、鷹山よくやった。窮地に陥ったとして仲間を守り切る。これは生半可なことではない。また最後の決断も的確だった。誰しもが自分自身を大切に考えてしまう。他人の命と自身の命は決して平等ではないのだ。如何なる場合においても本音は明確な答えがでていただろう。だというのに、貴様は自分自身を捨ててまで仲間を守ろうとした。賞賛されて然るべき行動だ。最初の報告で欠落した内容があったにせよ、私はお前を褒め称えよう。貴様が失われずに戻って来てくれたことは守護兵団にとって何よりも有益なことであった……」
手放しで褒める西大寺は普段の演習時とは異なっていた。それだけ彼が今回の結果を評価していることであり、最高の結末を迎えた事実を明らかにしている。
「一班もまたよくやったな。お前たちがいなければ、この結果は成り立たない。既に連携は兵団でもトップクラスであると評価する。またヒュドラの討伐なんてことは一班でなければ無理だった。生憎と試験は中止となってしまったが、最大限の評価を与えよう」
あまりに褒め続ける西大寺に候補生たちは困惑している。彼がここまで少しの苦言も呈さないのは逆に不安しか覚えなかった。
「さて、これで今年度の授業は全て消化したことになる……」
ここで妙な話になった。実技試験が終わったところなのだ。しかし、候補生たちはまだ筆記試験を残している。だからこそ全てを消化したという彼の話に疑問を持つ。
「教官殿、まだ卒業試験が始まっていないと思うのですが? それに早期配備でない者は後期もあるのでしょう?」
玲奈が代表して聞く。西大寺が話す通りならば、前期も後期も終わったかのようである。大半の候補生が後期も受講することを考えると、不可解に思えてならない。
「いや、授業はこれで終わりだ……」
直ぐさま西大寺が返答している。
このあと候補生たちは知らされてしまう。悪い予感が現実になってしまったことを。
「貴様らは全員が早期配備となる――――」
いち早く西大寺の元へと戻った十八人。Aクラスにおける他のエリアは何の問題もなかったようだ。
猛毒に冒されたという舞子を連れて一八たちが戻ると、自然と拍手が巻き起こっている。
それは西大寺も同じだったようで、拍手をしつつ彼らを迎えていた。
「よく戻った。正直に無傷で帰ってくるとは想像していなかった。本当に良くやってくれた!」
西大寺がそういうと、本郷真菜が手を挙げた。完全なる祝勝ムードであったものの、真菜は笑みなく語り出す。
「教官、全ては鷹山リーダーの判断です。私は全員が助かる未来を想定していませんでした。もしも、彼がリーダーではなかったのなら、誰かが失われていたか、或いは全員がヒュドラに殺されていたでしょう……」
それはひとえにリーダーのみが賞賛されるべきという内容だった。彼以外の全員が舞子を見捨てるというような思考を始めていたからだ。
「しかも最後は決断していました。私たちを逃がすために、リーダーは自ら囮を買って出てくれたのです。あの行動には敬服するしかありません……」
恐らく西大寺はある程度の動きを把握していたはず。けれど、真菜は伸吾が取った行動への賛辞を述べている。
「なるほど、鷹山よくやった。窮地に陥ったとして仲間を守り切る。これは生半可なことではない。また最後の決断も的確だった。誰しもが自分自身を大切に考えてしまう。他人の命と自身の命は決して平等ではないのだ。如何なる場合においても本音は明確な答えがでていただろう。だというのに、貴様は自分自身を捨ててまで仲間を守ろうとした。賞賛されて然るべき行動だ。最初の報告で欠落した内容があったにせよ、私はお前を褒め称えよう。貴様が失われずに戻って来てくれたことは守護兵団にとって何よりも有益なことであった……」
手放しで褒める西大寺は普段の演習時とは異なっていた。それだけ彼が今回の結果を評価していることであり、最高の結末を迎えた事実を明らかにしている。
「一班もまたよくやったな。お前たちがいなければ、この結果は成り立たない。既に連携は兵団でもトップクラスであると評価する。またヒュドラの討伐なんてことは一班でなければ無理だった。生憎と試験は中止となってしまったが、最大限の評価を与えよう」
あまりに褒め続ける西大寺に候補生たちは困惑している。彼がここまで少しの苦言も呈さないのは逆に不安しか覚えなかった。
「さて、これで今年度の授業は全て消化したことになる……」
ここで妙な話になった。実技試験が終わったところなのだ。しかし、候補生たちはまだ筆記試験を残している。だからこそ全てを消化したという彼の話に疑問を持つ。
「教官殿、まだ卒業試験が始まっていないと思うのですが? それに早期配備でない者は後期もあるのでしょう?」
玲奈が代表して聞く。西大寺が話す通りならば、前期も後期も終わったかのようである。大半の候補生が後期も受講することを考えると、不可解に思えてならない。
「いや、授業はこれで終わりだ……」
直ぐさま西大寺が返答している。
このあと候補生たちは知らされてしまう。悪い予感が現実になってしまったことを。
「貴様らは全員が早期配備となる――――」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる