137 / 212
第二章 騎士となるために
ヒュドラの毒
しおりを挟む
本部と通信をした伸吾。小さく溜め息を零すも、静まり返る班員に声をかけた。
「みんな、大丈夫。一班が救援に向かってくれている。それまで何とか宮之阪さんを生かすだけ。一班にはエクスピュアリフィケーションを唱えられる術士がいるから……」
誰しもが黙り込んでいた。ジッと支援科の治療を眺めているだけだ。
「でも鷹山君、魔力回復薬はあと二本しかないよ?」
支援科の一人である本郷真菜が言った。どうやら彼女と西村千尋が交代でピュアリフィケーションをかけているらしい。
「使って構わない。僕は間に合うと思っている。だから出し惜しみなんて駄目だ……」
「でも、万が一の場合に小松君のデバイスを使って脱出する選択肢もあるじゃん!?」
小松とは魔道科の一人である。彼はアイスキャノンというバズーカ砲タイプのデバイスを携帯しているのだ。魔力消費が激しいために乱発できなかったけれど、それを使えば逃げ切ることができるかもしれない。
「いや、僕は切り捨てたくない。全員で助かるか、全員が死ぬかだ。即死でないのなら生かす方向で思考するだけ」
「全滅なんて嫌よ! 舞子さんには悪いけど、もう見込みがないわ! 私たちだけでも助かるべき!」
本郷真菜は声を張る。一人を切り捨てたならば五人は助かるのだと。
必死の懇願であったけれど、残念ながら伸吾は首を振る。
「もしも君が毒を受けていたらどう? 犠牲になってくれるの?」
伸吾が問う。至極当たり前の話を。彼女の覚悟が如何ほどのものかと。
流石に真菜は口を噤む。自身が同じ立場であったなら、やはり助けて欲しかった。
「それに安心して欲しい。考えていたよりヒュドラは頭が切れるようだからね。洞窟には絶対に毒素を吐いてこないと断言できるよ」
今のところヒュドラは洞窟の入り口に陣取っているだけだ。しかし、待ち構えるだけで猛毒を吐かない理由は誰にも分からなかった。けれども、伸吾はその理由に気付いたという。
「どうしてなの? いつ吐き出してもおかしくないよ?」
「分からない? ヒュドラは僕たちが洞窟から出ない限り毒素を吐かないよ。なぜなら僕たちは餌だから。洞窟の奥深くで死んでしまえば彼が食べられないからね……」
言われて全員が気付いた。洞窟に逃げ込んだことまで計算されていたのではと思う。追加的な猛毒を吐かない理由は間違いなく彼が話す通りだ。
「寧ろ今飛び出せば全員が猛毒を浴びる危険性があるよ……」
「伸吾っち、じゃあここは安全ってことだね? まあいざとなれば、あたしがデバイスで猛毒を吹き飛ばす。最終的には小松君と支援科の二人を安全に逃がしてあげる」
不安そうな真菜に莉子が言った。彼女の柄にはデバイスが仕込んである。中級の風魔法であり、猛毒を近付けない程度には使えるらしい。
「金剛さん、その必要はない。僕はリーダーとして最後は前に立つつもりだ。最悪の展開になった場合は君たち全員を逃がすから安心して欲しい」
とにかく魔力回復薬が尽きるまでと伸吾が話す。どうしようもなくなる前に決断すると彼は付け加えた。
今も外からはヒュドラの鳴き声にも似た唸るような声が聞こえている。まるで早く出てこいと急かすかのように。餌になれと命令するように……。
「もう駄目! 真菜、交代して!」
ここで西村千尋の魔力が切れた。彼女は二本目を口にしている。
想定よりも早い。かけ続けなければ効果がないピュアリフィケーション。舞子を救うかどうかの決断が近付いていた。
ところが、治療を続けてと伸吾。彼はまだ信じている。信頼する仲間が登場することを。この状況を打破できる強者の到着を……。
「奥田君……」
彼ならばと思う。飛竜にさえ立ち向かった彼であれば、この窮地をも好転させられるだろうと。
険しい顔をしつつも、伸吾はまだ抗うつもりだ……。
「みんな、大丈夫。一班が救援に向かってくれている。それまで何とか宮之阪さんを生かすだけ。一班にはエクスピュアリフィケーションを唱えられる術士がいるから……」
誰しもが黙り込んでいた。ジッと支援科の治療を眺めているだけだ。
「でも鷹山君、魔力回復薬はあと二本しかないよ?」
支援科の一人である本郷真菜が言った。どうやら彼女と西村千尋が交代でピュアリフィケーションをかけているらしい。
「使って構わない。僕は間に合うと思っている。だから出し惜しみなんて駄目だ……」
「でも、万が一の場合に小松君のデバイスを使って脱出する選択肢もあるじゃん!?」
小松とは魔道科の一人である。彼はアイスキャノンというバズーカ砲タイプのデバイスを携帯しているのだ。魔力消費が激しいために乱発できなかったけれど、それを使えば逃げ切ることができるかもしれない。
「いや、僕は切り捨てたくない。全員で助かるか、全員が死ぬかだ。即死でないのなら生かす方向で思考するだけ」
「全滅なんて嫌よ! 舞子さんには悪いけど、もう見込みがないわ! 私たちだけでも助かるべき!」
本郷真菜は声を張る。一人を切り捨てたならば五人は助かるのだと。
必死の懇願であったけれど、残念ながら伸吾は首を振る。
「もしも君が毒を受けていたらどう? 犠牲になってくれるの?」
伸吾が問う。至極当たり前の話を。彼女の覚悟が如何ほどのものかと。
流石に真菜は口を噤む。自身が同じ立場であったなら、やはり助けて欲しかった。
「それに安心して欲しい。考えていたよりヒュドラは頭が切れるようだからね。洞窟には絶対に毒素を吐いてこないと断言できるよ」
今のところヒュドラは洞窟の入り口に陣取っているだけだ。しかし、待ち構えるだけで猛毒を吐かない理由は誰にも分からなかった。けれども、伸吾はその理由に気付いたという。
「どうしてなの? いつ吐き出してもおかしくないよ?」
「分からない? ヒュドラは僕たちが洞窟から出ない限り毒素を吐かないよ。なぜなら僕たちは餌だから。洞窟の奥深くで死んでしまえば彼が食べられないからね……」
言われて全員が気付いた。洞窟に逃げ込んだことまで計算されていたのではと思う。追加的な猛毒を吐かない理由は間違いなく彼が話す通りだ。
「寧ろ今飛び出せば全員が猛毒を浴びる危険性があるよ……」
「伸吾っち、じゃあここは安全ってことだね? まあいざとなれば、あたしがデバイスで猛毒を吹き飛ばす。最終的には小松君と支援科の二人を安全に逃がしてあげる」
不安そうな真菜に莉子が言った。彼女の柄にはデバイスが仕込んである。中級の風魔法であり、猛毒を近付けない程度には使えるらしい。
「金剛さん、その必要はない。僕はリーダーとして最後は前に立つつもりだ。最悪の展開になった場合は君たち全員を逃がすから安心して欲しい」
とにかく魔力回復薬が尽きるまでと伸吾が話す。どうしようもなくなる前に決断すると彼は付け加えた。
今も外からはヒュドラの鳴き声にも似た唸るような声が聞こえている。まるで早く出てこいと急かすかのように。餌になれと命令するように……。
「もう駄目! 真菜、交代して!」
ここで西村千尋の魔力が切れた。彼女は二本目を口にしている。
想定よりも早い。かけ続けなければ効果がないピュアリフィケーション。舞子を救うかどうかの決断が近付いていた。
ところが、治療を続けてと伸吾。彼はまだ信じている。信頼する仲間が登場することを。この状況を打破できる強者の到着を……。
「奥田君……」
彼ならばと思う。飛竜にさえ立ち向かった彼であれば、この窮地をも好転させられるだろうと。
険しい顔をしつつも、伸吾はまだ抗うつもりだ……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる