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第二章 騎士となるために
薫風
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七二が周辺の魔物を蹴散らしていたからか、大した問題もなく一八たちは山頂へと到着していた。
聞いていたように山頂の岩場には数多のハーピーが飛び交っている。
「カズやん君、十体以上いるよ……?」
赤い羽根を羽ばたかせているハーピー。まだ二人は気付かれていないけれど、茂みから飛び出すと即座に見つかってしまうだろう。
莉子が問いかけたものの、一八からの返事はない。流石の一八もこの群れは予想していなかったのかもしれない。
「ねぇ、カズやん君どうするの?」
指示がなかったから、莉子が再び聞いた。これだけの数であれば作戦を練る必要があるだろうと。
チラリと莉子が視線を送る。いつもなら即座に決断をし、的確な指示が飛んでくるはずなのに。
「マジおっぱい……」
「家系かぁぁっ!?」
思わず大きな声を上げてしまう。作戦決定前であったというのに、莉子は声を張ってツッコミを入れていた。
「ああ、駄目だ! 先に斬り掛かるよ!?」
おっぱいに見とれた一八を放置して莉子は斬り掛かった。どうせ殲滅する予定だ。新しい刀の試し切りには丁度良い相手だと。
「全滅だからっ!」
飛びかかって一体を斬り裂き、返す刀でもう一体。更にはエアパレットを取り出し、空中を舞うハーピーに襲いかかる。
「イケる!」
手応えを感じていた。新しい相棒『薫風』は莉子の属性に合わせたクリスタルを組み込んである。柄の砲身からは中級魔法エアドライブを発射でき、空飛ぶ魔物にも対抗できた。
「楽勝じゃん!」
魔力を流さずとも振り切れる。加えて限界まで長くしたおかげで威力も十分だった。もうアタッカーではないと口にした莉子であるが、この場面における莉子は優秀なアタッカーそのものである。
みるみるうちに数を減らすハーピー。自在に空を飛び、遠距離攻撃まで繰り出す莉子の相手ではなかった。気付けば莉子は僅か五分足らずの間に殲滅を終えている。
「よし! 男を惑わす魔物はやっぱ全滅っしょ!」
やはり愛刀を変えたのは良い判断だった。父が丹精込めて打ってくれたもの。扱いやすく威力も申し分ないと思う。
納刀するや、莉子はふぅっと長い息を吐く。けれど、それは充実感に満ちたものだ。Dランクの魔物を一人で殲滅した事実。しかも十体以上の群れである。それは彼女が自信を深めるのに十分な数だと言えた。
「カズやん君! いつまで呆けてんの? もう一掃したよ?」
今もまだ夢うつつといった風の一八。彼の背中をパンとひと叩きし、莉子は戦いが終わったことを気付かせている。
「あ、ああ……。どうも魅了されていたみたいだ……」
「まあそうかも。異性はかかりやすいからね。まあでも君のパートナーはどこに出しても恥ずかしくないような良い女だよ? おっぱいくらいで魅了されてんじゃないよ!」
「どこにいんだよ? その良い女ってのは?」
一八は薄い目をして莉子を見ている。悪戯に笑う彼女はまさしくパートナーであったけれど、異性として見たことは一度だってない。だが、この度見せた彼女の笑みは日差しを受けているせいか、とても輝いて一八の瞳に映っていた。
「さあ、折り返し! この調子で試験をクリアしよう!」
もう莉子に落第生だった面影はない。首席であった頃のように、自信が漲っている。
莉子は肩に刀を置き、一八を急かすようにトントンと何度も動かして見せていた。
一八もまた笑顔を見せる。自分は少しも活躍できなかったけれど、パートナーが自信を得られたのなら文句はない。彼女が力強く前へと歩めるのであればと……。
頷く一八に莉子の笑みが大きくなる。トラウマでもあった広域実習の試験を彼女は楽しめているようだ。
「トップでクリアするっしょ!――――」
聞いていたように山頂の岩場には数多のハーピーが飛び交っている。
「カズやん君、十体以上いるよ……?」
赤い羽根を羽ばたかせているハーピー。まだ二人は気付かれていないけれど、茂みから飛び出すと即座に見つかってしまうだろう。
莉子が問いかけたものの、一八からの返事はない。流石の一八もこの群れは予想していなかったのかもしれない。
「ねぇ、カズやん君どうするの?」
指示がなかったから、莉子が再び聞いた。これだけの数であれば作戦を練る必要があるだろうと。
チラリと莉子が視線を送る。いつもなら即座に決断をし、的確な指示が飛んでくるはずなのに。
「マジおっぱい……」
「家系かぁぁっ!?」
思わず大きな声を上げてしまう。作戦決定前であったというのに、莉子は声を張ってツッコミを入れていた。
「ああ、駄目だ! 先に斬り掛かるよ!?」
おっぱいに見とれた一八を放置して莉子は斬り掛かった。どうせ殲滅する予定だ。新しい刀の試し切りには丁度良い相手だと。
「全滅だからっ!」
飛びかかって一体を斬り裂き、返す刀でもう一体。更にはエアパレットを取り出し、空中を舞うハーピーに襲いかかる。
「イケる!」
手応えを感じていた。新しい相棒『薫風』は莉子の属性に合わせたクリスタルを組み込んである。柄の砲身からは中級魔法エアドライブを発射でき、空飛ぶ魔物にも対抗できた。
「楽勝じゃん!」
魔力を流さずとも振り切れる。加えて限界まで長くしたおかげで威力も十分だった。もうアタッカーではないと口にした莉子であるが、この場面における莉子は優秀なアタッカーそのものである。
みるみるうちに数を減らすハーピー。自在に空を飛び、遠距離攻撃まで繰り出す莉子の相手ではなかった。気付けば莉子は僅か五分足らずの間に殲滅を終えている。
「よし! 男を惑わす魔物はやっぱ全滅っしょ!」
やはり愛刀を変えたのは良い判断だった。父が丹精込めて打ってくれたもの。扱いやすく威力も申し分ないと思う。
納刀するや、莉子はふぅっと長い息を吐く。けれど、それは充実感に満ちたものだ。Dランクの魔物を一人で殲滅した事実。しかも十体以上の群れである。それは彼女が自信を深めるのに十分な数だと言えた。
「カズやん君! いつまで呆けてんの? もう一掃したよ?」
今もまだ夢うつつといった風の一八。彼の背中をパンとひと叩きし、莉子は戦いが終わったことを気付かせている。
「あ、ああ……。どうも魅了されていたみたいだ……」
「まあそうかも。異性はかかりやすいからね。まあでも君のパートナーはどこに出しても恥ずかしくないような良い女だよ? おっぱいくらいで魅了されてんじゃないよ!」
「どこにいんだよ? その良い女ってのは?」
一八は薄い目をして莉子を見ている。悪戯に笑う彼女はまさしくパートナーであったけれど、異性として見たことは一度だってない。だが、この度見せた彼女の笑みは日差しを受けているせいか、とても輝いて一八の瞳に映っていた。
「さあ、折り返し! この調子で試験をクリアしよう!」
もう莉子に落第生だった面影はない。首席であった頃のように、自信が漲っている。
莉子は肩に刀を置き、一八を急かすようにトントンと何度も動かして見せていた。
一八もまた笑顔を見せる。自分は少しも活躍できなかったけれど、パートナーが自信を得られたのなら文句はない。彼女が力強く前へと歩めるのであればと……。
頷く一八に莉子の笑みが大きくなる。トラウマでもあった広域実習の試験を彼女は楽しめているようだ。
「トップでクリアするっしょ!――――」
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