130 / 212
第二章 騎士となるために
薫風
しおりを挟む
七二が周辺の魔物を蹴散らしていたからか、大した問題もなく一八たちは山頂へと到着していた。
聞いていたように山頂の岩場には数多のハーピーが飛び交っている。
「カズやん君、十体以上いるよ……?」
赤い羽根を羽ばたかせているハーピー。まだ二人は気付かれていないけれど、茂みから飛び出すと即座に見つかってしまうだろう。
莉子が問いかけたものの、一八からの返事はない。流石の一八もこの群れは予想していなかったのかもしれない。
「ねぇ、カズやん君どうするの?」
指示がなかったから、莉子が再び聞いた。これだけの数であれば作戦を練る必要があるだろうと。
チラリと莉子が視線を送る。いつもなら即座に決断をし、的確な指示が飛んでくるはずなのに。
「マジおっぱい……」
「家系かぁぁっ!?」
思わず大きな声を上げてしまう。作戦決定前であったというのに、莉子は声を張ってツッコミを入れていた。
「ああ、駄目だ! 先に斬り掛かるよ!?」
おっぱいに見とれた一八を放置して莉子は斬り掛かった。どうせ殲滅する予定だ。新しい刀の試し切りには丁度良い相手だと。
「全滅だからっ!」
飛びかかって一体を斬り裂き、返す刀でもう一体。更にはエアパレットを取り出し、空中を舞うハーピーに襲いかかる。
「イケる!」
手応えを感じていた。新しい相棒『薫風』は莉子の属性に合わせたクリスタルを組み込んである。柄の砲身からは中級魔法エアドライブを発射でき、空飛ぶ魔物にも対抗できた。
「楽勝じゃん!」
魔力を流さずとも振り切れる。加えて限界まで長くしたおかげで威力も十分だった。もうアタッカーではないと口にした莉子であるが、この場面における莉子は優秀なアタッカーそのものである。
みるみるうちに数を減らすハーピー。自在に空を飛び、遠距離攻撃まで繰り出す莉子の相手ではなかった。気付けば莉子は僅か五分足らずの間に殲滅を終えている。
「よし! 男を惑わす魔物はやっぱ全滅っしょ!」
やはり愛刀を変えたのは良い判断だった。父が丹精込めて打ってくれたもの。扱いやすく威力も申し分ないと思う。
納刀するや、莉子はふぅっと長い息を吐く。けれど、それは充実感に満ちたものだ。Dランクの魔物を一人で殲滅した事実。しかも十体以上の群れである。それは彼女が自信を深めるのに十分な数だと言えた。
「カズやん君! いつまで呆けてんの? もう一掃したよ?」
今もまだ夢うつつといった風の一八。彼の背中をパンとひと叩きし、莉子は戦いが終わったことを気付かせている。
「あ、ああ……。どうも魅了されていたみたいだ……」
「まあそうかも。異性はかかりやすいからね。まあでも君のパートナーはどこに出しても恥ずかしくないような良い女だよ? おっぱいくらいで魅了されてんじゃないよ!」
「どこにいんだよ? その良い女ってのは?」
一八は薄い目をして莉子を見ている。悪戯に笑う彼女はまさしくパートナーであったけれど、異性として見たことは一度だってない。だが、この度見せた彼女の笑みは日差しを受けているせいか、とても輝いて一八の瞳に映っていた。
「さあ、折り返し! この調子で試験をクリアしよう!」
もう莉子に落第生だった面影はない。首席であった頃のように、自信が漲っている。
莉子は肩に刀を置き、一八を急かすようにトントンと何度も動かして見せていた。
一八もまた笑顔を見せる。自分は少しも活躍できなかったけれど、パートナーが自信を得られたのなら文句はない。彼女が力強く前へと歩めるのであればと……。
頷く一八に莉子の笑みが大きくなる。トラウマでもあった広域実習の試験を彼女は楽しめているようだ。
「トップでクリアするっしょ!――――」
聞いていたように山頂の岩場には数多のハーピーが飛び交っている。
「カズやん君、十体以上いるよ……?」
赤い羽根を羽ばたかせているハーピー。まだ二人は気付かれていないけれど、茂みから飛び出すと即座に見つかってしまうだろう。
莉子が問いかけたものの、一八からの返事はない。流石の一八もこの群れは予想していなかったのかもしれない。
「ねぇ、カズやん君どうするの?」
指示がなかったから、莉子が再び聞いた。これだけの数であれば作戦を練る必要があるだろうと。
チラリと莉子が視線を送る。いつもなら即座に決断をし、的確な指示が飛んでくるはずなのに。
「マジおっぱい……」
「家系かぁぁっ!?」
思わず大きな声を上げてしまう。作戦決定前であったというのに、莉子は声を張ってツッコミを入れていた。
「ああ、駄目だ! 先に斬り掛かるよ!?」
おっぱいに見とれた一八を放置して莉子は斬り掛かった。どうせ殲滅する予定だ。新しい刀の試し切りには丁度良い相手だと。
「全滅だからっ!」
飛びかかって一体を斬り裂き、返す刀でもう一体。更にはエアパレットを取り出し、空中を舞うハーピーに襲いかかる。
「イケる!」
手応えを感じていた。新しい相棒『薫風』は莉子の属性に合わせたクリスタルを組み込んである。柄の砲身からは中級魔法エアドライブを発射でき、空飛ぶ魔物にも対抗できた。
「楽勝じゃん!」
魔力を流さずとも振り切れる。加えて限界まで長くしたおかげで威力も十分だった。もうアタッカーではないと口にした莉子であるが、この場面における莉子は優秀なアタッカーそのものである。
みるみるうちに数を減らすハーピー。自在に空を飛び、遠距離攻撃まで繰り出す莉子の相手ではなかった。気付けば莉子は僅か五分足らずの間に殲滅を終えている。
「よし! 男を惑わす魔物はやっぱ全滅っしょ!」
やはり愛刀を変えたのは良い判断だった。父が丹精込めて打ってくれたもの。扱いやすく威力も申し分ないと思う。
納刀するや、莉子はふぅっと長い息を吐く。けれど、それは充実感に満ちたものだ。Dランクの魔物を一人で殲滅した事実。しかも十体以上の群れである。それは彼女が自信を深めるのに十分な数だと言えた。
「カズやん君! いつまで呆けてんの? もう一掃したよ?」
今もまだ夢うつつといった風の一八。彼の背中をパンとひと叩きし、莉子は戦いが終わったことを気付かせている。
「あ、ああ……。どうも魅了されていたみたいだ……」
「まあそうかも。異性はかかりやすいからね。まあでも君のパートナーはどこに出しても恥ずかしくないような良い女だよ? おっぱいくらいで魅了されてんじゃないよ!」
「どこにいんだよ? その良い女ってのは?」
一八は薄い目をして莉子を見ている。悪戯に笑う彼女はまさしくパートナーであったけれど、異性として見たことは一度だってない。だが、この度見せた彼女の笑みは日差しを受けているせいか、とても輝いて一八の瞳に映っていた。
「さあ、折り返し! この調子で試験をクリアしよう!」
もう莉子に落第生だった面影はない。首席であった頃のように、自信が漲っている。
莉子は肩に刀を置き、一八を急かすようにトントンと何度も動かして見せていた。
一八もまた笑顔を見せる。自分は少しも活躍できなかったけれど、パートナーが自信を得られたのなら文句はない。彼女が力強く前へと歩めるのであればと……。
頷く一八に莉子の笑みが大きくなる。トラウマでもあった広域実習の試験を彼女は楽しめているようだ。
「トップでクリアするっしょ!――――」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法省魔道具研究員クロエ
大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。
その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。
エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。
人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。
大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。
本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。
小説家になろうにも掲載してます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる