オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
上 下
127 / 212
第二章 騎士となるために

広域実習

しおりを挟む
 入学から五ヶ月が経過し、本日は広域実習の試験日となっている。随時、AクラスとBクラスの入れ替えが行われていたけれど、一八たち一班は今も同じメンバーであった。

 試験は通常の実習よりも広い範囲が指定されている。従ってまだ日が昇る前からの出発であった。
 一八はあれからずっと火球の撃ちだしを練習しているが、今のところ目の前に火球が生まれるだけ。西大寺が話していたように簡単なことではないようだ。

 Aクラスの全員が集められ、西大寺が試験の概要を説明し始める。
「この試験をクリアした者は来月の混成試験へと進む。過度に戦闘を回避した者や魔力切れを起こそうものなら、即時落第となるので注意しろ。また魔力切れを出した班は全員が減点対象となるからな……」
 どうやら魔力切れは相当に重い処罰が待っているようだ。昨年度の試験で落第した莉子は唇を噛みながらも頷いている。

「早速始めよう。エリアは一班がミノウ山地西部。二班はミノウ山地東部……」
 淡々と説明されていく。一班は入学間もない頃と同じミノウ山地の担当となった。だが、以前は中腹までの探査であったけれど、今回は頂上までが範囲となっている。

 西大寺の説明が終わると、直ぐさま班行動となった。即時、移動する班もあったけれど、例によって例のごとく一班は伸吾が全員を集めている。
「もうパートナーにも慣れただろうし、今さら変更する必要もないと思う。ペア割りは先週のイコマ山と同じでいい?」
 伸吾の話に全員が頷いていた。イコマ山はミノウ山地と同じく魔物の出現率が高い場所だ。そこでさえ難なくクリアした六人は自信を深めている。

「エリアワンは奥田君と金剛さん。エリアツーは僕と岸野さん。エリアスリーは生駒君と今里君。異論はある?」
 四ヶ月に亘って組んだペアだ。属性や戦闘スタイルも最適だと全員が考えている。よって不満など誰も口にしなかった。

「それじゃあ出発しよう」
 今回のエリアは入学当初にあった広域実習とは異なり、ミノウ山地の西部である。以前は魔道科が担当していたエリアに他ならない。

 出発をして一時間が経過し、地平線の向こうに太陽が昇り始めた。東雲の空に映し出される朝焼けは、何だか少しばかり候補生たちに落ち着きを与えている。
「何かあったら通信すること。できれば事後報告は避けて欲しい」
 伸吾が言った。広大なエリアを担当するのだ。ここからは三組に別れ、各々に目的地へと飛んでいかねばならない。

 伸吾の指示を受けて、全員のエアパレットが勢いを増す。もう既に立派な魔道剣士だ。当初は怖がっていた生駒や今里も自信満々に森へと入っていく。

 伸吾と玲奈はエリアツーへと進んでいた。森に差し掛かるや魔物が現れていたけれど、群れでもない限りエアパレットは止めない。単発の弱い魔物はスルーして通り過ぎていくだけだ。
「伸吾よ、どうして私たちが山頂じゃないのだ? てっきりエリアワンだと考えていたのだが……」
 エリアワンから順に山を下りていく感じである。エリアワンの目的地が頂上であるのに対し、エリアツーは中腹までだった。以前ならば伸吾は一番危険なエリアを自ら選んだはずで、玲奈は今回もそうなることを疑っていなかったのだ。

「登頂ルートは一番厳しいからね。金剛さんが新しい剣でどれだけ戦えるのか見たかったんだ。もう魔力切れなんてことにはならないはず……」
「これは試験なのだぞ? 貴様の指示を私は信頼しているが、あとのない莉子を試すようにするな」
「確かにそうだけど、問題ないよ。奥田君が一緒なら心配無用だ……」
 玲奈は呆れた顔をして横目で伸吾を見ていた。しかしながら、同意もしている。最近の一八は異様な成長を見せていたのだ。座学で教わった全てを実戦に取り入れている。細やかな魔力調節は魔力の温存に役立ったし、斬る瞬間にだけ強い魔力を流すことも可能となっていた。

「確かに一八は初級魔法ならデバイスを介すことなく詠唱できるようになっているし、圧倒的な戦力に違いない。未だ私が首席と扱われていることが不思議なくらいに……」
 目覚ましい進歩を遂げた一八だが、Aクラスの首席はまだ玲奈であった。一八はずっと次席を守っており、上位者の順位は入学当初から変わっていない。

「それは君に落ち度がないからさ。的確適切という意味合いも強い。岸野さんは決して無茶をしないし、確実に任務を遂行する力がある。それだけならまだしも、今の君は明らかに決定力が増しているからね。戦う度に僕は君の成長を見ている。奥田君ほどではないにしても、単騎でBランクの魔物と戦える候補生は学校中を探しても二人しかいないのだから……」
 一八だけでなく伸吾は玲奈の成長も言葉にした。意味もなく彼女が首席ではないこと。地道な成長は一八と比較すれば見劣りするけれど、元の完成度が岸野玲奈に勝る者など一人として存在しない。よって現状でも首席に他ならないのだと。

「貴様に褒められると背筋が凍るようだ。ま、それは良いとして、先週貸したセラガトのボックスセットは見終えたか?」
 目的地はまだ先である。伸吾の褒め言葉がむず痒かったのか、玲奈は話題を一変させた。無理矢理に押し付けたアニメのボックスセットの鑑賞をしたかどうかと。

「本気なの? 部屋に奥田君の再生機はあるんだけど、聞いたこともないアニメだし……」
「馬鹿者! 誰もが知ってるアニメだぞ!? 魔道についてもよく考察されている。騎士ならば一見の価値ありだ!」
 苦笑いでやり過ごそうとする伸吾を直ちに察知した玲奈。眉間にしわを寄せながらも続ける。

「貴様でもこの台詞くらいは聞いたことがあるだろう? セーラー服とガトリング砲第一期における山場。主人公モモコと相方のシュンが敵に追い詰められ、頼みの綱であったモモコのガトリング砲も魔力切れが迫っており、撃ち続けることが難しくなっていたのだ。足を引っ張っていることに気付いたシュンがモモコに言った台詞……」
 どうしても鑑賞して欲しかった玲奈は作品におけるお気に入りパートを声に出して言う。その場面であれば聞いたことがあるだろうと……。

「モモコ、僕を蜂の巣にして!――――」

 予想外の台詞に伸吾は思わず吹き出してしまう。確かにガトリング砲をその身に浴びれば蜂の巣は確定であるが、流石に狂気を覚えずにはいられない。

「そんな台詞いうかなぁ?」
「楽に逝ける方法がそれしかなかったのだ! 貴様も見てみたら分かる! 絶対に面白いから一八と一緒に見ておけよ!?」
 正直なところ興味が湧いていた。どうもアニメの舞台は自分たちの状況とよく似ている。良い仲間に恵まれた伸吾は仲間のために命を落とそうとする心情を理解できたのだ。

「うん、今度の休みに見てみようかな……」
「必ずだぞ!? 感想を聞くからな!」
 聞けば既に莉子もそのアニメを見たようだ。強制的であったにせよ、彼女は最後まで付き合ったらしい。

 ようやくと試験エリアに二人は到着した。雑談をやめて集中を高めている。
 万が一にもアニメのような危機的状況に陥ってはならないのだと……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...