オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第二章 騎士となるために

玲奈とマナリスの思惑

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 昼休みになり、一八は女子寮の前で立ち尽くしていた。というのも彼は莉子に用事があったのだが、呼んできてもらう知り合いの女子が一人も現れなかったからだ。

「初対面の女子に声をかけるのは難易度が高すぎる……」
 立ち往生していたところ、
「あらら? カズやん君じゃん!」
 何と本人から声をかけられていた。まさに願ったり叶ったりである。誰かに声をかけて呼んで来てもらう必要がなくなったのだから。

「一八、女子寮で堂々と覗きとかいい加減にしろよ?」
 更には玲奈も一緒であるようだ。彼女たちは同じ授業を受けた帰りであったらしい。

「覗きじゃねぇよ。そもそも莉子に話があったんだ……」
「告白なら校舎裏に行く?」
「行かねぇよ! てか、告白でもねぇし!」
 一班の班員として割と仲良くなれていた。かといって座学ばかりを履修している一八は班行動をする授業が本日組まれていない。

「実はさ、奈落太刀の柄を改造したいんだが、製作したお前んちでできねぇかと思ってな」
 相談事は斜陽の柄をレイストームのマジックデバイスに換装することである。それは万が一の場面を想定したことであり、マナリスの思惑に気付いた一八は早急に動き出す必要があったのだ。

「ああ、長すぎるの? それとも短い?」
「違うんだ。俺は柄の部分をマジックデバイスに換装したいと考えてる」
 一八の話に二人して眉根を寄せている。剣士である一八がどうしてマジックデバイスを必要とするのか。

「一八、魔法について貴様は何も知らんだろう? 付け焼き刃的な行動など意味はないぞ?」
 魔道科に通っていた玲奈でさえマジックデバイスを持っていないのだ。だからこそ一八の思考には疑問しか覚えない。
 如何に玲奈の指摘であろうと一八は首を振る。もう決めたのだ。マナリスのためではなく、仲間や共和国のために。

「玲奈、俺は女神の声を聞いた。レイストームっていう魔法を完全に理解したんだ。だからそれを使いたい」
 益々眉間にしわを寄せる玲奈。女神といえば天界で会ったマナリスのことだろう。しかし、転生してからというもの彼女からの接触はなかったはず。
 玲奈はある程度の予測をしている。この場には莉子もいたから言葉を濁しているのだと。

「ほう、信心深いところなどない貴様が神の声を聞いたか? 夢だと思うが、一応は聞いてやろうか。どんな内容だったのだ?」
 一八もまた察している。玲奈が気付いてくれたこと。ならば全てを伝えるだけ。莉子に変人呼ばわりされない程度に、経験したままを。

「実は意識を失ったとき俺の頭の中にマナリスが現れたんだ。それで魔法術式を俺の頭に記録しやがった。簡単に言うと、その魔法を使って人族を救えというお告げだ」
 玲奈にとって、その話は意外なものであった。確かマナリスは全ての存在に愛を注ぐ女神。人族に荷担するような感じはなかったはず。

 悩むような玲奈を察知したのか一八が続ける。
「意識を失ったからといって、神雷が落ちるような事故に遭ったわけじゃねぇんだ。マナリスはすっとぼけた女神だが、腐っても女神だから間違いなど犯さない。たとえ寝不足であってもな。俺の脳裏に現れたのは失態じゃなく、思惑があってのことだ。マナリスはいつ何時も意味のあることしかしない。女神はいつも人族を守ろうとしている……」
 一八の話に玲奈がピクリと眉を動かす。それは聞き捨てならない話だ。まさか同じ経験をした一八からマナリスが人族に荷担しているという話を聞くなんて。
 過剰にぼかされた話であったものの、玲奈は語られる内容を推し量っている。事故とは何か。女神が犯した間違いとは何かを……。

「女神殿とはいえ、たまには寝不足で失敗することもあるんじゃないのか? それに女神が人族に荷担するのは当たり前だろう?」
 莉子をよそに話が進んでいく。
 玲奈は一八の話に乗っかることで続きを促している。天界におけるマナリスはオークが地上を制圧するときも静観していたのだ。だからこそ人族には荷担しないのだと思われた。またそれは一八も同じ意見であったはず。従って玲奈は思い直した理由を聞き出すしかない。

「俺には女神が失敗するなんて考えられんな。神様だぞ? 弁明として寝不足だったと嘘をつく可能性はあるかもしれん。でも俺には神がミスするとは思えない。あるとすれば初めから目星を付けていたとしか……」
 莉子には何の話かまるで分からなかっただろうが、対する玲奈は目を丸くした。
 確かに女神マナリスは眠かったという理由で、神雷を誤爆したと語っている。彼女の言動から納得していたけれど、よくよく考えると転生までの話は強要されていた。
 明らかにおかしな流れである。二人して断った願いごとから、玲奈と一八が隣人になったことまで。

「もしかして……」
 玲奈にも分かった。どうして一八だけに伝えたのか疑問は残ったものの、女神マナリスは初めから天軍によるチキュウ世界の統一を望んでいなかったことを。

 だとすれば一八の言う事故が失態ではなかったという話も可能性として高いように思う。マナリスは立場的に明言できなかっただけであり、ベルナルド世界にあった誤爆の真相は強者を天界に招集することではないかと。加えてオークキングを排除することで、マナリスはベルナルド世界の単一統治すらも回避していた。

「ほう、ならばチキュウ世界で一八だけが認められたということか?」
 確認すべきは自身の使命だ。既に一八がマナリスと会話したことに疑いはない。一八がどこまで聞いたのかを問い質すだけだ。

「次席の俺より首席の剣士は期待されてんじゃね? 出来の悪い俺だから直接言ったのだと思うけどな。既に運命は動き始めたらしい。エンペラーが討伐されてから……」
 玲奈は息を呑んでいた。人族の存亡をかけた戦いはまだ先であると考えていたのだ。しかし、それよりも早く人族の試練は始まっていたらしい。

「ならば人族はこの先も安泰なのか?」
 聞かずにはいられない。もしもマナリスが語っていた人族の危機がオークエンペラーの襲撃であったなら、今はもう悲劇を回避した状態となる。

「いいや、引き続き人族はやべぇ状況らしい。だから俺にレイストームを授けやがったんだ……」
 なるほどと玲奈。マナリスの思惑に気付いたあとでなら、全てのことが彼女の希望通りであったのだと分かる。またこれから先に待ち受ける困難も一八への対応で明らかとなっていた。

「莉子、話は聞いたか? マナリス信者のお前なら協力を惜しむな。何しろ神託なのだから。一八と私の奈落太刀を換装してくれ……」
「ええ!? 玲奈ちんのも!?」
 どうやら玲奈は自発的に行動するようだ。一八の真似といったわけではないのだが、天主は空を飛ぶと聞いている。だからこそ撃ち落とす手段が必要なのだと。

「当たり前だ。次席である一八が天主を撃ち落とすのだぞ? 首席である私の立場がないではないか。明日の休みはキョウトへ戻るぞ。今日の内から連絡を取っておけ」
「勝手に決めすぎぃ! でもまあ、あたしの刀も注文を付けるつもりだから、帰るのは構わないけど……」
 トントン拍子で決まる。有無を言わせず決定させてしまうところは玲奈らしい。

 時間が惜しいのは一八たちだけではなかった。女神マナリスもまた神託を与えるほど焦っているのだと分かる。間違いなくマナリスは人族に荷担しているのだから。

 せっかくの休みであったけれど、三人は揃ってキョウトへと戻ることになった。
 帰省ではなく、人族の未来を守るために……。
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