オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
上 下
116 / 212
第二章 騎士となるために

一八の試み

しおりを挟む
 夕食後、一八は机に向かっていた。相変わらずボウッとした伸吾に構うことなく、調べ物をしている。

「できるのか……?」
 思いつきを試してみたくなり、教科書と睨めっこをしているが、少しも捗らない。まだ基礎しか学んでいない彼には難しかったようだ。

「おい伸吾、いい加減に辛気くさい顔を止めろ。それより俺を手伝ってくれ!」
 終いには伸吾を頼る。何しろ彼が開いている教科書は術式論という魔道の応用であったのだから。

「これでも悩んでるんだけどね……? 奥田君はデリカシーがないな?」
「るせぇよ。悩んだって仕方ねぇだろ? ここを教えてくれ」
 ふぅっと長い息を吐く伸吾だが、確かに悩んだとして仕方がない。伸吾は気晴らしに一八の勉強を手伝うことにした。

「ん? 術式論……?」
「そうなんだ。難しくてな。火の玉を飛ばしてぇんだよ。飛竜が吐くようなやつ!」
 どうやら一八は本気で魔法を撃ち放ちたいようだ。術式論には実技など含まれていなかったというのに。

「魔法かぁ。僕も良く分かっていないんだけど、基本は短銃とかで打つんじゃないの?」
「いや、そうじゃねぇんだ。俺はな……」
 ここで伸吾は知らされている。一八がしようとする問題の難解さを。

「剣の先から火の玉を飛ばしてぇんだ――――」

 ゴクリと唾を飲み込む。自分たちは剣術科の生徒であり、間違っても魔道科ではなかった。従って彼がいう話は専門外である。

「どうしてそんなことを……?」
 問わずにいられなかった。オークエンペラーだけでなく、飛竜でさえも討伐する彼がなぜに魔法を使おうというのか。既に十分な強さを持つ彼が今さらファイアーといった初級魔法を覚えて何になるのかと。

「天軍の天主って奴らは羽が生えてるんだろ? だったら俺たちができることは少ない。飛竜だってそうだ。莉子が風魔法の使い手じゃなかったら、地面に落とせなかった。上空から火球を撃ち続けられたらどうしようもねぇ……」
「そうだけど、そういうのは適材適所であるはずだよ? だからこそ魔道科があるんじゃないか?」
 伸吾は首を振る。空を飛ぶ魔物が相手では剣術科の出番は少ない。魔道科が撃ち落とした魔物の処理くらいなものである。

「だから、それじゃ駄目なんだ!」
 いつも一八はあまり反論しない。けれど、この件に関してはなぜか聞き入れてくれなかった。どうにも伸吾は困惑してしまう。

「どういうこと……?」
 一八なりの考えを伸吾は聞くことにした。彼も思うところあって、魔法について調べているはずなのだからと。

 冷静に対処したつもりの伸吾。しかし、彼はここで思いもよらぬ話を聞かされてしまう。

「それじゃあ、俺が天主を斬れねぇじゃねぇか――――」

 呼吸すら忘れて伸吾は一八を見ていた。現在はまだ候補生であって、卒業できるかどうかも分からないというのに、一八はずっと先を見ている。実習で戦う魔物についてではなく、彼は兵団が前線にて食い止めている天軍を見ていた。
「いや、僕たちはまだ卒業できるとは……」
 そう返すのが精一杯である。段階を幾つもすっ飛ばしたような一八の話には戸惑うしかない。

「伸吾、俺は天軍をぶっ潰すつもりだ。お前はどうなんだ? やるかやられるかで、やられる方になりたいのかよ?」
 どうしても即答できない。ずっと魔物退治しかしてこなかった伸吾は騎士のあるべき姿をまだイメージできていないのだ。

「俺はやだね。トウカイ王国の二の舞はごめんだ。ぜってぇ天軍は壊滅させる。俺は天軍をぶっ潰して人生を楽しむんだ……」
「いや、別に奥田君が頑張らなくても、前線には大勢の騎士たちがいるんだよ!?」
 伸吾はどうしても受け入れられない。まだ騎士学校に入学したばかりなのだ。卒業後を想像するよりも、この一年のことしか考えられなかった。
 どうしても否定したい伸吾であったのだが、一八はそれを許さない。的を射た的確な返答は伸吾の言葉を遮っている。

「じゃあ、そいつらは信頼できんのか?――――」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...