79 / 212
第二章 騎士となるために
一八、オオサカへ
しおりを挟む
短い春休み。ようやくと寒さも和らいだけれど、朝晩の冷え込みは相変わらずだ。
一八は早朝稽古のあと庭先で顔を洗っている。騎士学校に合格した一八であるが、彼の日常は何も変わっていない。幾分かは睡眠時間を取るようにしていたけれど、夜間の勉強は今も続けている。なぜなら騎士学校はその名が示す通りに学校であって、入学が卒業を約束することはない。少なからず落第者を出すものであり、士官として配備されるには一定以上の実技と学力を備えていなければならなかった。
「いよいよ入学か……」
入学式を明日に控えていた。騎士学校は全寮制であるから朝稽古も今日が最後だ。少しばかり感傷的になってしまうけれど、今まで地元を離れたことのない一八には新鮮でもあった。
三人で食べる最後の朝食。このあと一八はオオサカへと向かう予定である。
「一八よ、一年間精一杯に努力しろ」
食事の前に手を合わせたあと三六が言った。合格してからというもの大騒ぎであった彼も、ようやく落ち着いた感じだ。かといって師範代が騎士学校に合格との張り紙を大々的に飾り付けたりと今もなお興奮しているのは明らかである。
「あったりめぇだろ? ちゃんとやるよ。卒業してなんぼ。ここまできて士官になれないなんてあり得ん」
騎士学校は一年で卒業できなくても、二年生として一年の猶予があった。しかし、落第生は基本的に二年目も同じように落第し、騎士となれるのはごく一部である。よって一八が頑張るべきは一年のみであり、それは気が遠くなるほどの期間ではない。一八は既に一年近くも努力し続けていたのだから。
「一八、身体には気を付けなよ? 幾ら頑丈だといっても人間なんだから……」
「分かってるよ。まあでも俺はオーク並みに強ぇんだ。無茶くらいするさ」
清美の心配をよそに一八は全力でいこうと考えている。全てはあの日、誓ったまま。一八は人族を脅かす天軍を全滅させるつもりだ。誰の手でもなく自分自身の手でこの世界を守るのだと決めている。
食事を済ませた一八。着替えなどは宅配便で送りつけていたので、手荷物は財布だけである。高校時代のように清美が忘れ物の心配をする必要はない。
「じゃあ、行ってくる……」
手を挙げる一八に三六と清美は頷いていた。それはかける言葉がなかったから。立派に成長した息子はもう小言を必要としていなかったのだ。
家を出た一八は期待に胸を膨らませている。初めての寮生活もさることながら、これから始まる新しい人生は希望に満ちあふれているだけであった……。
一八は早朝稽古のあと庭先で顔を洗っている。騎士学校に合格した一八であるが、彼の日常は何も変わっていない。幾分かは睡眠時間を取るようにしていたけれど、夜間の勉強は今も続けている。なぜなら騎士学校はその名が示す通りに学校であって、入学が卒業を約束することはない。少なからず落第者を出すものであり、士官として配備されるには一定以上の実技と学力を備えていなければならなかった。
「いよいよ入学か……」
入学式を明日に控えていた。騎士学校は全寮制であるから朝稽古も今日が最後だ。少しばかり感傷的になってしまうけれど、今まで地元を離れたことのない一八には新鮮でもあった。
三人で食べる最後の朝食。このあと一八はオオサカへと向かう予定である。
「一八よ、一年間精一杯に努力しろ」
食事の前に手を合わせたあと三六が言った。合格してからというもの大騒ぎであった彼も、ようやく落ち着いた感じだ。かといって師範代が騎士学校に合格との張り紙を大々的に飾り付けたりと今もなお興奮しているのは明らかである。
「あったりめぇだろ? ちゃんとやるよ。卒業してなんぼ。ここまできて士官になれないなんてあり得ん」
騎士学校は一年で卒業できなくても、二年生として一年の猶予があった。しかし、落第生は基本的に二年目も同じように落第し、騎士となれるのはごく一部である。よって一八が頑張るべきは一年のみであり、それは気が遠くなるほどの期間ではない。一八は既に一年近くも努力し続けていたのだから。
「一八、身体には気を付けなよ? 幾ら頑丈だといっても人間なんだから……」
「分かってるよ。まあでも俺はオーク並みに強ぇんだ。無茶くらいするさ」
清美の心配をよそに一八は全力でいこうと考えている。全てはあの日、誓ったまま。一八は人族を脅かす天軍を全滅させるつもりだ。誰の手でもなく自分自身の手でこの世界を守るのだと決めている。
食事を済ませた一八。着替えなどは宅配便で送りつけていたので、手荷物は財布だけである。高校時代のように清美が忘れ物の心配をする必要はない。
「じゃあ、行ってくる……」
手を挙げる一八に三六と清美は頷いていた。それはかける言葉がなかったから。立派に成長した息子はもう小言を必要としていなかったのだ。
家を出た一八は期待に胸を膨らませている。初めての寮生活もさることながら、これから始まる新しい人生は希望に満ちあふれているだけであった……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる