オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
上 下
78 / 212
第二章 騎士となるために

試験の裏側

しおりを挟む
 時を遡ること一ヶ月。玲奈と一八が二日間に亘る試験を終えたあとのこと。
 騎士学校に隣接するキンキ共和国オオサカ本部の一室にて騎士学校関係者並びに試験官を務めた尉官たちが集まっていた。

「試験官を務められました方々には厚くお礼申し上げます。それでは夕食を取りながら、恒例の推薦審査会を開催いたします」
 学長である九頭葉《くずは》曹長の挨拶にて懇親会の意味合いも持つ推薦者選定会が始まろうとしていた。

 テーブルにはオオサカ市が誇る老舗旅館の豪華な料理が並んでいる。また酒も用意されており、任務というよりは寧ろ歓談に近いものであるようだ。
「まずは剣術科のAブロックからお願いいたします」
 乾杯のあと九頭葉が言った。各々が食事をする間に一人ずつ尋ねる形式である。
 推薦は実技を担当した試験官が担当ブロックの優秀者を挙げるというものであった。名を呼ばれた受験生は大きなアドバンテージを得ることになる。かといって、これは形骸化しているも同然であった。名を呼ばれるような受験生は基本的に座学も優秀であって、指名によって番狂わせが起きることなどなかったのだ。

 淡々と過ぎていく。AブロックからDブロックまで。名前が挙がった受験生は例によって例のごとく筆記面も優秀な剣士ばかりのよう。
「それではEブロックの浅村大尉、お願いいたします」
 ここでヒカリの番になった。彼女の担当したEブロックは全六ブロックの中でも最短で試験が終わっている。他の半分にも満たない時間で終了となっていた。

 箸を置いたヒカリ。少しも考えることなく推薦者の名を告げる。

「私は奥田一八だ――――」

 ここで初めて場がざわめいた。それもそのはず彼女が推薦したのはFブロックの受験生であったからだ。
「あ、浅村大尉、本当に彼で構わないのでしょうか?」
「問題でもあるのか? 私は担当した中から優秀な剣士の名を挙げただけだが?」
「いやしかし、浅村大尉の担当はEブロックですが……」
 慣例とは異なる指名に九頭葉が困惑している。担当ブロックではない受験生の指名など過去には一度もなかったのだ。

「奥田一八は私が試験官を担当した。だから推薦したまでだ……」
 ヒカリは毅然と答えている。無理矢理に割り込んだことは気にすることなく堂々と推薦を終えていた。
「ですが、奥田一八は緊急搬送されて入院したと聞いています。剣士として復帰できるかどうかも……」
「あの男はあれくらい平気だ。九頭葉曹長、まるで心配無用だよ。エンペラーと戦ったあとの奥田一八を貴殿に見せてやりたいくらいだ。体力も魔力も精神力すらも尽き果てた状態。意識を保つのも困難な状況で貴様は剣が振れるか? それも災厄級を相手にしてだ。仲間は一人もいない。孤立無援の中で逃げだそうとせず、一心不乱に剣を振れるか?」
 ヒカリの話には無言で首を振る九頭葉。体力と魔力を失った時点で剣士は詰む。攻撃の手段を完全に失ってしまうからだ。精神力さえも尽きる状況なんて、経験者はごく少数であろう。

「確かに奥田一八は剣術において優秀です。しかし、彼の母校は正直に評判が悪い。一般兵に多く卒業者がいますけれど、問題を起こす者が大多数です。彼にもあまり期待はできないかと……」
「九頭葉曹長、それでは何のための推薦審査会だ?」
 ヒカリが聞く。座談会でしかないのなら意味はないといった風に。
「貴様らが素行や学力を必要以上に重要視するから、前線では多くが失われるのだ。多少の問題は目を瞑るための審査会だろう? だからこそ私は奥田一八を指名する。彼を落としてはならない」
 強く芯の通った推薦であった。体裁など関係なく優れた剣士を彼女は指名している。
「この先に何があるかは分からない。彼が厄介な問題を起こすこともあるかもしれない。しかし、そんなものは相殺して余りあるだろう」
 饒舌に語るヒカリ。彼女は明確な推薦理由を持っていた。

「奥田一八には大勢を救う力がある――――」
 この話には誰も反論できない。幾ら筆記試験が高得点であったとして、人の命は救えないのだから。
「現場が欲しているのは頭でっかちな奴じゃない。寧ろ頭は空っぽでいい。本能だけで剣を振れる者だ……」
 結局、Eブロックから推薦者は生まれなかった。誰も反駁を唱えられずにヒカリの意見が採用されている。

 かつてない審査会であったが、参加者たちは初めからヒカリが決めていたとしか思えない。試験官に割って入った瞬間から、彼を推薦しようと決めていたのだと……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...