オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
上 下
76 / 212
第一章 転生者二人の高校生活

試験のあと

しおりを挟む
 一八が意識を戻したのは暗くなってからだった……。
 腹部に激痛を覚え、彼は目を覚ましてしまったらしい。どうやら痛み止めが切れたようである。
「痛ぇ……」
 ふと思い出す。試験の途中であったこと。浅村ヒカリと一戦交えていたこと。そして最後に腹を切り裂かれたことを。
 最後の記憶から自身が緊急入院したのは明らかであった。

「気が付いたか、一八……」
 一人きりかと思えば薄暗い病室に玲奈がいた。
 両親はまだ来ていないようだ。試験からずっと彼女が付き添ってくれたらしい。

「玲奈、試験はどうなった……?」
 恐る恐る聞く。筆記試験では点数を期待できない。一八は実技試験で圧倒する必要があったのだ。
「あん? 聞くまでもないだろう?」
 玲奈の話に一八は嘆息する。浅村ヒカリに負けたのだ。決定的ともいえる致命傷を受けた自分が評価に値するとは思えない。

「貴様が落ちるのなら合格者などいない――――」
 玲奈が続けた話は何だか予想と異なる。玲奈は期待感を持たせるような内容を口にしたのだ。
「俺は……負けたんだぜ?」
 言い訳できない完璧な一本をもらった。魔力は限界に近かったけれど、防御魔法をしっかりと使えてさえいたら、入院なんてことにはならなかったはずだ。
「貴様は馬鹿か?」
 慰めの言葉どころか一八は罵られてしまう。一八は何も間違ったことを口にしていないというのに。

「浅村ヒカリ大尉と対戦して十秒持ち堪えた受験生はいない。貴様は三十分と戦っていたのだ。属性攻撃を繰り出させるほど、彼女を追い込んでいた。最後の一撃は彼女の代名詞である『雪花斬』。エンペラーの胴体を斬り裂いたスキルだ。よもや対人戦で見られるとは思いもしなかったぞ……」
 玲奈は理由を語る。幼き日に見た浅村ヒカリの試合はいずれも一瞬でケリがついていた。玲奈自身、浅村ヒカリの全力を初めて見たような気がしている。
「たとえ筆記が0点であっても貴様は合格するだろう……」
 玲奈が続けたのは一八の試験結果について。玲奈の予想では一八が不合格になる未来などないという。

「マジか……?」
「恐らく大尉がしゃしゃり出た時点で合格だろう。試験官には推薦権があるし、一八は浅村大尉に気に入られたと考えるべき」
 ここでようやく一八はふぅっと息を吐く。全ては玲奈の憶測だが、胸のつかえが下りている。師匠である武士に良い報告ができるのではないかと。

「やったぜ……」
 意図せず涙が流れた。このような感情を一八は知らない。初めて全国大会で優勝したときにも涙は出なかったし、幼少期に負けた時にも涙などでなかったというのに。
「ちくしょう……。止まらねぇ……」
 玲奈は一八の涙に成長を見ていた。しかし、それは剣術どうこうという話ではない。人間的な成長を確かに覚えている。

「玲奈、俺は別に腹が痛いんじゃねぇぞ?」
 瞼を擦りながら一八が言った。涙の理由は判然としなかったから、痛みによるものではないと伝えている。
「一八、その涙を忘れるなよ? それは人が何かを成したときにのみ流れるものだ……」
 玲奈が涙のわけを口にする。分かりかねている一八が理解できるようにと。

「人は費やした努力が報われた時、涙を流れすものだ。それが途方もないものであればあるほど溢れ出してしまう……」
 その言葉を聞いた瞬間、止めどなく涙が溢れた。泣くつもりなどなかったというのに、感情を揺さぶるその話に一八の涙は流れ続ける。

 そんなとき病室の扉がノックされた。どうやら一八の両親が病院に到着したらしい。
「さて、私はこれで失礼する。殿下が待ってくれているのでな。あとは三六殿と清美殿に任せるとしよう」
 手を挙げて部屋を去る玲奈。あっさりとしたところは昔も今も変わらない。割と感動的な会話であったはずが、引き摺ることなく背を向けてしまう。

「おい玲奈……」
 涙を拭う一八は彼女を呼び止める。家は隣同士であるから、別に急ぐ話もなかったというのに。
「天軍を全滅させっぞ……」
 それは一八の新しい目標であった。せっかく人生が好転しているのだ。天界で聞いた話が事実であれば、猶予はさほどもない。戦う立場が手に入るのであれば、一八はそれに抗おうと思う。

 ピタリと立ち止まった玲奈は一八を振り返る。心なしその表情は笑っているかのようであった。
「当然だろう? 貴様には期待している……」
 再び手を挙げて歩き出す玲奈。元より彼女はそのつもりである。転生から二十年以内に共和国が窮地に陥ることは玲奈も聞かされていたことなのだから。

 三六と清美が入室してくると三人は軽い挨拶をしている。一八はそれを眺めるだけ。自分との会話には見せないような所作の数々。明らかに猫かぶっているのだが、一見すると良いところのお嬢様であるかのよう。とても町道場の一人娘には見えなかった。

 一八は思わず笑ってしまう。しかしながら、傷口が痛んだ。かといって悪くはない感じである。人生のリスタートを明確に印象付けられたのだ。この痛みを忘れぬ限り、一八は新たな目標に邁進していけるだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...