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第一章 転生者二人の高校生活
入学試験
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騎士学校の入学試験は二日目を迎えていた。初日にある筆記試験を何とかやり終えた一八は二日目の実技試験へと向かっている。
試験会場は首都オオサカであったが泊まりではない。恵美里の好意に甘える格好で魔道車に同乗させてもらっている。表向きは玲奈を拾うついでとなっているけれど、どうやら数ヶ月前に迷惑をかけたことの詫びでもあるようだ。
「殿下、いよいよですね? 魔道試験頑張ってください」
道すがら玲奈が言った。生徒会からは他に小乃美と舞子も受験するのだが、玲奈を除いた全員が魔道科である。
「玲奈さんも頑張ってくださいね。貴方が力を出し切れたのなら、必ず合格できるはずです」
二人は互いの合格を疑わなかった。自分自身よりも合格の可能性が高いと信じている。
「奥田会長も実技試験頑張ってください。わたくしは応援しております」
恵美里は一八にもエールをくれる。一八的に昨日の筆記試験は思っていたより手応えがあった。少なくとも足切りは避けられたのではないかと考えている。
「ありがとうございます。俺の本ちゃんは今日っすから。筆記試験の答え合わせはまだしてません。集中して挑みます」
柔らかい口調とは裏腹に殺気すら覚える。本気で受かろうとしているのは傍目にも分かった。たった一年という準備期間しか彼にはなかったはずなのに。
「一八、張り切るのはいいが、やらかすなよ? 剣術試験は対応力が求められる。思わぬ攻撃にも対処できる冷静さが評価されるのだ。無闇矢鱈と振り回していては減点されるだけだぞ?」
玲奈の話に一八はおうっとだけ返す。採点基準は一八だって分かっているつもりだが、それは彼の作戦にはない。武士を信じて一八は力押しをすると決めている。
「玲奈こそ大丈夫なのかよ? 最近はあまり道場に来てなかっただろ?」
「私は問題ない。家の裏で素振りしたり、筋力トレーニングをしていたからな」
「あん? どうして家の裏なんかで素振りしてんだよ?」
一八の問いに玲奈は口籠もる。ただ沈黙は長く続かない。状況を知る一八に隠す理由はなかったし、そもそも来田は一八が連れて来たのだから。
「まあなんだ。その雷神がな……」
正直に顔を合わせづらかった。玲奈自身は気にしていなかったものの、過度に意識する来田を見てしまっては居たたまれなくなってしまう。
「あー、来田のやつフラれたのか?」
「少しは言葉を濁せ。恵美里殿下もいるんだぞ!?」
ここで恵美里が後ろを向く。助手席に座っていた彼女だが、どうにも興味を惹く話に参加せずにはいられなかった。
「玲奈さん、フラれたとかどういう意味でしょうか?」
恵美里に問われては答えぬわけにはならない。玲奈は渋々と経緯を伝えている。一応は振ったことと、意気消沈せぬようにと期待を持たせてしまったことまで。
「玲奈さん、それはちょっと……」
「馬鹿かお前は……」
二人して玲奈の対応を批判するような口ぶり。玲奈としては最善を選んだ結果であるというのに。
「むぅ、ならばどういった対応が良かったのだ? 私はその辺りに詳しくないから分からん。漫画やアニメなら期待を持たせて引っ張るだろう?」
「創作物と現実は違ぇんだよ。始めからその気もねぇのに期待させんな」
一八の言う通りであったものの、玲奈にも反論はある。最善の対応をしたのだと彼女は今も思っていた。
「では雷神が剣術を辞めてしまっても良かったのか? あの男は美少女且つ勇ましい私を射止めようと頑張っていたのだろう?」
「確かにそうだが、ちっとは謙虚になれっての……。来田が最後まで頑張れたのはお前の存在があってこそだが、最終的にお前は男心を弄んだだけだ」
一八の話に恵美里が頷いている。それは明らかに肯定であって玲奈の対応が間違っていると言っているようなものだ。
ぶぅっと不満げな声を上げる玲奈。しかしながら、恵美里にまで指摘されては間違っていたのだと思う。期待値がゼロであるのは彼女自身が一番分かっている。どうあっても来田が望む未来などないことは……。
「受験が終わればちゃんとケリを付ける。それで良いだろう?」
「ああ、そうしてやってくれ。最近は流石に見てられんかったからな……」
受験が終われば師範である武士に報告するはずだ。玲奈は同席をして彼に返事をするつもり。たとえ来田が失意のどん底に落ちようとも。
「ま、まあそれも青春ですよ! 玲奈さん、剣術科は男の子ばかりですので、そちらの方も頑張ってくださいね?」
「殿下、受かってからでしょう? まあ確かにヒロイン的な立場も味わってみたいですね。中学高校と女子校でしたから……」
少女漫画に見るような展開。そんな未来を想像するのも悪くなかった。人族が存亡の機に瀕していることは重々承知しているけれど、人生を楽しむ上でも恋愛はしてみたいと思う。
「お前が男子の中に混じったとして、また魔王として君臨するだけじゃねぇのか?」
「何だと、一八ァァ!?」
現状の武道学館と同じ結果が一八には想像できた。質実剛健を地で行く玲奈が恋愛するなんて少しも考えられない。
雑談をしていると魔道車は首都オオサカに到着する。経済の中心地であるウメダが彼女たちの目的地だ。
試験会場の正門前に黒塗りの魔道車が停車すると、受験生らしき者たちが避けるようにして道を空けた。試験会場に車で乗り付けるなど貴族しかいない。よって平民は関わりを避けようとするのだ。
まずは一八が降り立った。すると周囲がどよめく。想像していた貴族ではなかったものの、有名人である一八の登場に驚きを隠せない。加えて彼の立派な体躯も驚愕に値していた。
「一八、早くそこをどけ!」
次に降車したのは玲奈だ。正門前は一層ざわめきたってしまう。一八に続いて降りてきた顔も全員が知っているものだ。
『岸野玲奈だ……』
『あの子って貴族だった?』
正直に騒ぎ立てられるのは好きではなかったけれど、玲奈は気にせず助手席の扉を開いた。恵美里を差し置いて目立ってしまうのは本意ではないと。
「お二人のあとでは登場しづらいですね……」
「何を仰います! 殿下は堂々と胸を張っておればいいのです!」
言って玲奈は手を差し伸べ、恵美里が車から降りるのを手助けしている。
再び正門前は騒々しくなった。なぜなら最後に現れたのは本当に貴族である。受験生なら誰もが知る七条家のご息女に他ならない。
「ふはは、頭が高いぞ皆の衆! 恵美里殿下のお通りだ!」
「れ、玲奈さん……」
仁王立ちの玲奈を小突く恵美里。流石に恥ずかしい。思いのほか顔を知られていたことより、玲奈の態度は何よりも決まりが悪かった。
有名人三人が割れた群衆の真ん中を堂々と行く。一八はいつも通りであり、玲奈は肩で風を切るように。最後を歩く恵美里だけが申し訳なさそうにしていた。
「お揃いのようだな!」
騎士学校の門を抜け校舎へと続く道を歩いていると三人は声をかけられていた。
知らない顔ではない。玲奈と一八は四度目。三ヶ月前にも顔を合わせた人物であった。
「でたな、ババァ……」
「ふはは、この浅村ヒカリをババァ呼ばわりするのは君だけだぞ? 土下座をしてデートを申し込むような女性であることを君は知るべきだ!」
現れたのは浅村ヒカリである。これには嫌な予感がしてならない。何しろ実技試験は現役の士官が担当するのだ。彼女が騎士学校にいる理由は限られていた。
「もしや浅村大尉が試験官なのでしょうか?」
恐る恐る玲奈が聞く。返答は明らかであったけれど、確認しないわけにはならなかった。
「前線に出張っている士官には無理だからな。我が小隊からは私と優子が剣術を担当する。胸を借りるつもりでかかってこい。どの組を担当するかは決まっていないがな」
少しばかり玲奈は安堵していた。浅村ヒカリは生粋のアタッカーである。若くして大尉にまで昇進した彼女の実力は守護兵団でもトップクラス。稽古であれば喜んで胸を借りるだろうが、この度は生憎と試験である。できれば自分たち以外の組が担当であるようにと願うしかなかった。
「玲奈さん、まさか大尉が試験官になるとは思いもしませんでしたね?」
「全くです。相手によっては見せ場すら作り出せません。試験官による有利不利は間違いなく存在するでしょう」
ここで恵美里と別れる。グランドに集まる剣術科とは異なり、魔道科は魔道棟と呼ばれる建物が集合場所となっていた。
いよいよ本番である。一八はパキパキを指を鳴らし、すぅっと息を吸った。
一世一代の大勝負であったが、まだ彼は平常心だ。絶対に合格してやるのだとグランドへと踏み出していく。
特訓を始めた日から、この今まで決意のほどは何も変わっていない……。
試験会場は首都オオサカであったが泊まりではない。恵美里の好意に甘える格好で魔道車に同乗させてもらっている。表向きは玲奈を拾うついでとなっているけれど、どうやら数ヶ月前に迷惑をかけたことの詫びでもあるようだ。
「殿下、いよいよですね? 魔道試験頑張ってください」
道すがら玲奈が言った。生徒会からは他に小乃美と舞子も受験するのだが、玲奈を除いた全員が魔道科である。
「玲奈さんも頑張ってくださいね。貴方が力を出し切れたのなら、必ず合格できるはずです」
二人は互いの合格を疑わなかった。自分自身よりも合格の可能性が高いと信じている。
「奥田会長も実技試験頑張ってください。わたくしは応援しております」
恵美里は一八にもエールをくれる。一八的に昨日の筆記試験は思っていたより手応えがあった。少なくとも足切りは避けられたのではないかと考えている。
「ありがとうございます。俺の本ちゃんは今日っすから。筆記試験の答え合わせはまだしてません。集中して挑みます」
柔らかい口調とは裏腹に殺気すら覚える。本気で受かろうとしているのは傍目にも分かった。たった一年という準備期間しか彼にはなかったはずなのに。
「一八、張り切るのはいいが、やらかすなよ? 剣術試験は対応力が求められる。思わぬ攻撃にも対処できる冷静さが評価されるのだ。無闇矢鱈と振り回していては減点されるだけだぞ?」
玲奈の話に一八はおうっとだけ返す。採点基準は一八だって分かっているつもりだが、それは彼の作戦にはない。武士を信じて一八は力押しをすると決めている。
「玲奈こそ大丈夫なのかよ? 最近はあまり道場に来てなかっただろ?」
「私は問題ない。家の裏で素振りしたり、筋力トレーニングをしていたからな」
「あん? どうして家の裏なんかで素振りしてんだよ?」
一八の問いに玲奈は口籠もる。ただ沈黙は長く続かない。状況を知る一八に隠す理由はなかったし、そもそも来田は一八が連れて来たのだから。
「まあなんだ。その雷神がな……」
正直に顔を合わせづらかった。玲奈自身は気にしていなかったものの、過度に意識する来田を見てしまっては居たたまれなくなってしまう。
「あー、来田のやつフラれたのか?」
「少しは言葉を濁せ。恵美里殿下もいるんだぞ!?」
ここで恵美里が後ろを向く。助手席に座っていた彼女だが、どうにも興味を惹く話に参加せずにはいられなかった。
「玲奈さん、フラれたとかどういう意味でしょうか?」
恵美里に問われては答えぬわけにはならない。玲奈は渋々と経緯を伝えている。一応は振ったことと、意気消沈せぬようにと期待を持たせてしまったことまで。
「玲奈さん、それはちょっと……」
「馬鹿かお前は……」
二人して玲奈の対応を批判するような口ぶり。玲奈としては最善を選んだ結果であるというのに。
「むぅ、ならばどういった対応が良かったのだ? 私はその辺りに詳しくないから分からん。漫画やアニメなら期待を持たせて引っ張るだろう?」
「創作物と現実は違ぇんだよ。始めからその気もねぇのに期待させんな」
一八の言う通りであったものの、玲奈にも反論はある。最善の対応をしたのだと彼女は今も思っていた。
「では雷神が剣術を辞めてしまっても良かったのか? あの男は美少女且つ勇ましい私を射止めようと頑張っていたのだろう?」
「確かにそうだが、ちっとは謙虚になれっての……。来田が最後まで頑張れたのはお前の存在があってこそだが、最終的にお前は男心を弄んだだけだ」
一八の話に恵美里が頷いている。それは明らかに肯定であって玲奈の対応が間違っていると言っているようなものだ。
ぶぅっと不満げな声を上げる玲奈。しかしながら、恵美里にまで指摘されては間違っていたのだと思う。期待値がゼロであるのは彼女自身が一番分かっている。どうあっても来田が望む未来などないことは……。
「受験が終わればちゃんとケリを付ける。それで良いだろう?」
「ああ、そうしてやってくれ。最近は流石に見てられんかったからな……」
受験が終われば師範である武士に報告するはずだ。玲奈は同席をして彼に返事をするつもり。たとえ来田が失意のどん底に落ちようとも。
「ま、まあそれも青春ですよ! 玲奈さん、剣術科は男の子ばかりですので、そちらの方も頑張ってくださいね?」
「殿下、受かってからでしょう? まあ確かにヒロイン的な立場も味わってみたいですね。中学高校と女子校でしたから……」
少女漫画に見るような展開。そんな未来を想像するのも悪くなかった。人族が存亡の機に瀕していることは重々承知しているけれど、人生を楽しむ上でも恋愛はしてみたいと思う。
「お前が男子の中に混じったとして、また魔王として君臨するだけじゃねぇのか?」
「何だと、一八ァァ!?」
現状の武道学館と同じ結果が一八には想像できた。質実剛健を地で行く玲奈が恋愛するなんて少しも考えられない。
雑談をしていると魔道車は首都オオサカに到着する。経済の中心地であるウメダが彼女たちの目的地だ。
試験会場の正門前に黒塗りの魔道車が停車すると、受験生らしき者たちが避けるようにして道を空けた。試験会場に車で乗り付けるなど貴族しかいない。よって平民は関わりを避けようとするのだ。
まずは一八が降り立った。すると周囲がどよめく。想像していた貴族ではなかったものの、有名人である一八の登場に驚きを隠せない。加えて彼の立派な体躯も驚愕に値していた。
「一八、早くそこをどけ!」
次に降車したのは玲奈だ。正門前は一層ざわめきたってしまう。一八に続いて降りてきた顔も全員が知っているものだ。
『岸野玲奈だ……』
『あの子って貴族だった?』
正直に騒ぎ立てられるのは好きではなかったけれど、玲奈は気にせず助手席の扉を開いた。恵美里を差し置いて目立ってしまうのは本意ではないと。
「お二人のあとでは登場しづらいですね……」
「何を仰います! 殿下は堂々と胸を張っておればいいのです!」
言って玲奈は手を差し伸べ、恵美里が車から降りるのを手助けしている。
再び正門前は騒々しくなった。なぜなら最後に現れたのは本当に貴族である。受験生なら誰もが知る七条家のご息女に他ならない。
「ふはは、頭が高いぞ皆の衆! 恵美里殿下のお通りだ!」
「れ、玲奈さん……」
仁王立ちの玲奈を小突く恵美里。流石に恥ずかしい。思いのほか顔を知られていたことより、玲奈の態度は何よりも決まりが悪かった。
有名人三人が割れた群衆の真ん中を堂々と行く。一八はいつも通りであり、玲奈は肩で風を切るように。最後を歩く恵美里だけが申し訳なさそうにしていた。
「お揃いのようだな!」
騎士学校の門を抜け校舎へと続く道を歩いていると三人は声をかけられていた。
知らない顔ではない。玲奈と一八は四度目。三ヶ月前にも顔を合わせた人物であった。
「でたな、ババァ……」
「ふはは、この浅村ヒカリをババァ呼ばわりするのは君だけだぞ? 土下座をしてデートを申し込むような女性であることを君は知るべきだ!」
現れたのは浅村ヒカリである。これには嫌な予感がしてならない。何しろ実技試験は現役の士官が担当するのだ。彼女が騎士学校にいる理由は限られていた。
「もしや浅村大尉が試験官なのでしょうか?」
恐る恐る玲奈が聞く。返答は明らかであったけれど、確認しないわけにはならなかった。
「前線に出張っている士官には無理だからな。我が小隊からは私と優子が剣術を担当する。胸を借りるつもりでかかってこい。どの組を担当するかは決まっていないがな」
少しばかり玲奈は安堵していた。浅村ヒカリは生粋のアタッカーである。若くして大尉にまで昇進した彼女の実力は守護兵団でもトップクラス。稽古であれば喜んで胸を借りるだろうが、この度は生憎と試験である。できれば自分たち以外の組が担当であるようにと願うしかなかった。
「玲奈さん、まさか大尉が試験官になるとは思いもしませんでしたね?」
「全くです。相手によっては見せ場すら作り出せません。試験官による有利不利は間違いなく存在するでしょう」
ここで恵美里と別れる。グランドに集まる剣術科とは異なり、魔道科は魔道棟と呼ばれる建物が集合場所となっていた。
いよいよ本番である。一八はパキパキを指を鳴らし、すぅっと息を吸った。
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