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第一章 転生者二人の高校生活
義勇兵として
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浅村中隊が発ったあと、キョウト支部は静まり返っていた。兵の殆どが出払うなんてあり得ない。このような状況で別の魔物被害が発生したとすれば、市民に危害が及ぶことになる。
そんなキョウト支部に一台の魔道車が到着する。たった一台だけ。どう考えても期待したオオサカ本部からの援軍などではなかった。
「失礼致します。わたくしは七条恵美里と申します。七条中将の娘です」
毅然とした態度で恵美里が告げた。七条といえばキョウトを長く収める貴族の名であり、今まさに問題となっている者の名である。
「中将のご家族でしたか。こちらへどうぞ……」
受付の女性が直ぐさま応接室へと案内する。しかし、玲奈は彼女についていかず、大声を張るのだった。
「私は義勇兵の募集で来た! 手続きは必要か?」
「俺もだ。魔物なんぞぶった切ってやる!」
制服を着た二人。どう考えても戦力とは思えない。けれど、義勇兵の年齢制限は十五歳であり、高校生らしき二人はその資格者である。
「君たち、本気なの? そりゃあ助かるけれど、普通の魔物事故ではないのよ?」
堪らず受付の女性が問いを返した。一匹や二匹ではないのだ。あらゆる魔物がオークの大軍に追い立てられ、加えてオークの本隊も南下中である。高校生二人では死地へと向かうようなものであった。
「義勇兵の資格は持っている! 私は魔道剣術五段だ!」
「俺は初段を持っている!」
一応の線引きとして戦えるかどうかの基準が設けてある。一八はライセンスを先週取ったばかり。受験に必須であったから試験を受けたのだが、まさかいきなり役に立つとは思ってもいないことだ。
「確かに……。それでは受付します。こちらの同意書に記名し、遺言を用意してください」
手順に乗っ取り受付はファイルを二人に手渡した。署名してしまえば、万が一の場合にも訴えるなんてできない。同意書は命を国に捧げるという内容であるのだから。
流石に遺書は考えていなかった。二人して悩むも一応は書き終えて受付へと手渡す。
「確認ですが、二人の目的はなに? 興味本位なら止めた方がいいわよ? 本隊は既に出発しているし、君たち二人では遠くへも行けないと思うけれど……」
受付の女性が聞く。キョウト市外縁の警備ならば問題はない。だが、たった二人で本隊と合流しようというのなら、その限りではなかった。
「キョウト市の危機だぞ? 戦える者が戦う。それだけだ……」
玲奈は言葉を濁した。ここで止められてしまってはならないと。目的を告げるつもりはないようだ。
「そう……。今は兵団が出払っているの。本部からの援軍もまだ到着していないし、君たちを頼らせてもらうわ。だけど決して無茶をしては駄目よ?」
「もちろん! 私たちは腕前にあったことをするだけ。心配無用だ!」
受付の笑顔に少しばかり罪悪感を覚える玲奈だが、真意を口にはできない。いち早く七条中将の救出に向かうと彼女は決めていたのだから。
受付が済むや、玲奈と一八は目を合わせて頷き合う。間違いなく戦闘があるというのに、二人は怖じ気つくことなく凛々しい笑みを浮かべていた……。
そんなキョウト支部に一台の魔道車が到着する。たった一台だけ。どう考えても期待したオオサカ本部からの援軍などではなかった。
「失礼致します。わたくしは七条恵美里と申します。七条中将の娘です」
毅然とした態度で恵美里が告げた。七条といえばキョウトを長く収める貴族の名であり、今まさに問題となっている者の名である。
「中将のご家族でしたか。こちらへどうぞ……」
受付の女性が直ぐさま応接室へと案内する。しかし、玲奈は彼女についていかず、大声を張るのだった。
「私は義勇兵の募集で来た! 手続きは必要か?」
「俺もだ。魔物なんぞぶった切ってやる!」
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「君たち、本気なの? そりゃあ助かるけれど、普通の魔物事故ではないのよ?」
堪らず受付の女性が問いを返した。一匹や二匹ではないのだ。あらゆる魔物がオークの大軍に追い立てられ、加えてオークの本隊も南下中である。高校生二人では死地へと向かうようなものであった。
「義勇兵の資格は持っている! 私は魔道剣術五段だ!」
「俺は初段を持っている!」
一応の線引きとして戦えるかどうかの基準が設けてある。一八はライセンスを先週取ったばかり。受験に必須であったから試験を受けたのだが、まさかいきなり役に立つとは思ってもいないことだ。
「確かに……。それでは受付します。こちらの同意書に記名し、遺言を用意してください」
手順に乗っ取り受付はファイルを二人に手渡した。署名してしまえば、万が一の場合にも訴えるなんてできない。同意書は命を国に捧げるという内容であるのだから。
流石に遺書は考えていなかった。二人して悩むも一応は書き終えて受付へと手渡す。
「確認ですが、二人の目的はなに? 興味本位なら止めた方がいいわよ? 本隊は既に出発しているし、君たち二人では遠くへも行けないと思うけれど……」
受付の女性が聞く。キョウト市外縁の警備ならば問題はない。だが、たった二人で本隊と合流しようというのなら、その限りではなかった。
「キョウト市の危機だぞ? 戦える者が戦う。それだけだ……」
玲奈は言葉を濁した。ここで止められてしまってはならないと。目的を告げるつもりはないようだ。
「そう……。今は兵団が出払っているの。本部からの援軍もまだ到着していないし、君たちを頼らせてもらうわ。だけど決して無茶をしては駄目よ?」
「もちろん! 私たちは腕前にあったことをするだけ。心配無用だ!」
受付の笑顔に少しばかり罪悪感を覚える玲奈だが、真意を口にはできない。いち早く七条中将の救出に向かうと彼女は決めていたのだから。
受付が済むや、玲奈と一八は目を合わせて頷き合う。間違いなく戦闘があるというのに、二人は怖じ気つくことなく凛々しい笑みを浮かべていた……。
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