オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第一章 転生者二人の高校生活

体育祭を目前にして

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 進路指導が終わるや、玲奈は生徒会役員室に来ていた。だが、生徒会の会議ではなく体育祭実行委員としての用事である。

「玲奈さん、進路指導はいかがでしたか?」
 恵美里が聞く。彼女はまだ進路指導を受けておらず、予定では三十分後らしい。
「何も問題ありません。推薦してもらえるようです」
「さっすが玲奈ちゃんだね? あたしはどうなるかなぁ!」
 舞子は苦笑い。彼女はあいうえお順で最後の方である。恵美里よりも更に一時間あとであった。
「舞子ちゃん、私は推薦もらえましたよ?」
 不安げな様子の舞子に小乃美が声をかけた。彼女も既に面談が終わった一人だ。概ね生徒会役員の希望は騎士学校である。今のところ集まった半数に受験資格が得られた模様だ。

「このみん、いいなぁ。恵美里ちゃんはまず推薦もらえるだろうし、あたしだけ駄目とかホントやばい!」
「舞子殿、心配無用です。舞子殿の成績であれば、十分推薦がもらえるでしょう。家柄を考慮すると推薦されないわけがありません」
「まあ玲奈ちゃんの太鼓判なら安心だけど。何にしても本番勝負かなぁ」
 受験は年明け早々に予定されていた。個々に準備はしているのだが、倍率は高く難関である。仮に失敗しようものなら、大学へ進学し再度受験するしか手がない。
「是非とも全員で合格したいものですねぇ……」
 小乃美が溜め息混じりに話す。騎士は一目置かれる存在だけでなく、実際に待遇が良い。給与だけでも受験理由になるほどであった。

 しばらく受験について雑談が続いていたけれど、ポンと手を叩いて恵美里が話し出す。
「それはそうと玲奈さん、体育祭の設営準備については大丈夫でしょうか?」
 設営準備とはテント設営や競技の道具を用意することである。表向きはプレゼンと称して武道学館生に丸投げしていることだ。

「一学期にプリントを配布しています。まだ一般の生徒は我らの策に気付いておりません。ただ一八にはバレてしまいましたが……」
 今朝方思わず口にしてしまった。とはいえ真意を理解した一八が言いふらすとは思えない。彼自身は選抜に残っているのだし、デメリットはないはずである。

「これから一応は様子を見に行ってきます。夏休み中に改装された共用グランドの確認も済ませておきますから」
「よろしくお願いします。理事には騎士学校に影響力を持つ方もいらっしゃいますし、大成功とはいわずとも、失敗しないようにしなければなりません」
 了解しましたと玲奈。そうと決まれば行動するしかない。玲奈は会議を中座して武道学館を目指す。かといって校門を出る必要はなくなっていた。夏休み期間中に壁が取り除かれただけでなく、武道学館のグランドが学園側にせり出していたのだ。

 校舎を出てグランドを抜けていく。いつも通りに声をかけられるけれど、玲奈は役員室へと直行していた。
「頼もう!」
 もう誰も驚きはしない。玲奈の大声も既に慣れたものである。
「なんだ玲奈? また生徒会の用事か?」
 意外にも本日は一八の姿があった。向かって正面にある生徒会長の机にふて腐れながら座っている。

「もちろんそうだ。既に通達している通り二人三脚は二十組。貴様らからは二十人が投票によって選ばれる。してその選抜方法だが、武道学館に隠しカメラを設置した。準備の様子が逐一カラスマ女子学園に映し出されるのだ。うちの生徒は真面目だからな。サボっているような者には投票しないだろう。また結果は体育祭の当日に発表する。予め言っておくが体育祭は全員参加だからな?」
 明らかな嘘に一八が薄い目をして玲奈を見ている。さりとて一八は口出ししない。既に一次選考を通過していた彼は知らぬ振りをしていた。

「それで玲奈、体育祭は合同練習とかしないのか?」
 一八が話題を変えた。二人三脚の話題は避けた方がいいと。玲奈の嘘がバレる恐れもあるし、人数制限には不満が噴出しかねないのだ。
「合同練習はしない。だが、武道学館は行進の特訓を行う。ダラダラと入場行進されては目障りだ。明日、集中的に行うから全生徒を集めておけ」
「全校生徒だと? お前、うちの連帯感がどれほどあると思っているんだ?」
「うるさい! やると言ったらやる。骨が折れていようと高熱にうなされていようと必ず参加だからな? 休んだ者には相応の罰を与えるからそのつもりで……」
 バシンバシンと竹刀で机を叩く玲奈に役員たちは震え上がっている。一八を気絶させてしまう彼女が罰を与えるというのなら無事では済まないことだろう。

「玲奈さん、もし仮に参加したとしたら罰はないのでしょうか?」
 使いっ走りの土居が手を挙げた。参加してもしなくても罰を受けるのなら、帰宅したいと言いたげである。
「ほう、土居といったな? 良い度胸だ。ならば詳しく説明してやろう。もしも特訓に参加しないのであれば確殺。参加をして失敗すれば半殺しだ。どちらでも好きな方を選べばいい……」
 選択の余地がなかった。半殺しならばまだ未来がある。武道学館生が束になっても敵わないのは実証済みであり、強権に逆らう術はなかった。

「わ、分かりました……」
「土居、声が小さい! 明日は役員全員で全校生徒を捕まえておけよ? 点呼を取って足りない場合、役員には脱走者と同様の罰を与えるからな!」
 土居が余計な話をしたばかりに役員たちはとばっちりを喰らう。全員が土居を睨み付けていたのは明らか。しかし、それ以降は学んだのか誰も反論しない。今以上に縛りが増えてはかなわないと言った風に。

「兵団式の行進をするからそのつもりで。かっちり合うまで続ける。死にたくなければ参加することだ……」
 言って玲奈はツカツカと歩き役員室を去って行く。一難去ったと土居たちは安堵するも、どうしてか彼女を呼び止める声がした。
「玲奈、俺も帰るから待て」
「奥田会長はまだやることが!?」
 即座に副会長の滝井が制止するも一八は首を振る。一応は顔を出しただけ。今は何よりも時間が惜しかった。

「滝井すまねぇ。俺は今、人生で最大の難関に挑んでいる……」
 一八の目標を全員が知っていた。だからこそ文句は口を衝かない。暇を持て余している自分たちとは明確に異なっている。
「ならば奥田会長、絶対に合格してください。我ら武道学館から初の騎士となってください。それが中座する条件です」
 滝井は条件を出していた。しかし、それは条件と言うより願望である。何しろ合否が分かるのは三学期に入ってから。三年生はもう登校などしないのだ。

 少しばかり意外な話に一八は立ち止まった。けれど、次の瞬間にはニッとした笑みを浮かべている。
「任せろ……」
 その一言で十分だった。部屋を出る一八は拍手に見送られている。
 未だかつて誰もいない騎士となれるのかどうか。一八は同級生だけでなく、後輩たちのためにも全力で走りきろうと改めて決意していた……。
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