上 下
48 / 212
第一章 転生者二人の高校生活

進路指導

しおりを挟む
 カラスマ女子学園では始業式早々に進路希望調査を行っていた。学科別に分けられており、尚且つあいうえお順ということもあって割と早く玲奈の順番となっている。

 ノックをしてから玲奈は進路指導室へと入っていく。中には進路指導員である河内教員の姿があった。かといって、今までの進路調査で河内が担当となるのは初めてである。
「河内教員、よろしくお願いします」
「ああ、岸野さんだね。どうぞかけてください」
 玲奈が着席すると河内は彼女の資料を取り出した。ざっと目を通したあと、河内は笑みを見せている。

「さて岸野さん、貴方は将来について考えていますか?」
 笑顔を見る限りは何の問題もなさそう。けれど、進路に関しては最初の面談からずっと同じことを話している。よって確認するような河内には疑問しかなかった。

「私は騎士学校を受験します。もちろん推薦が必要であるのは存じているのですが……」
 校内推薦は別に枠が設けられているというわけではない。推薦に値する生徒が百人いて百人共が推薦を希望すればそのままの数が推薦された。

「ああいや別に脅かそうとしたわけではないよ。岸野さんの希望が変わっていないかと確認したいだけだからね」
「そうでしたか……。河内教員、私の希望は変わっていません。それこそ幼い頃から、ずっと騎士を目指しています」
 毅然と語る玲奈に河内が頷く。調査書通りの返答に彼の笑みが大きくなっていた。彼は調査書に少しばかり書き込んだあと、玲奈と目を合わせる。

「もう三年になるのか……。岸野さんが高等部に進学してから……」
 進路指導らしくない話が続けられた。思い出す様に視線を上げた河内は独り言のように呟いている。
「あの頃は毎日のように理事会が開かれてね。それに伴い職員会議も連日行われていたんだよ……」
 よく分からない話であった。玲奈は中等部から進学しただけだ。どうして理事会が開催されるのか皆目見当が付かない。

「河内教員、もしかして私は素行不良の問題児として扱われていたのでしょうか?」
「ああいや、そうじゃないよ。進学者名簿に剣術の全中チャンピオンが含まれていたからね。高等部には剣術部がないだろう? だから剣術部を創設するかどうかで議論していたんだ」
 どうやら玲奈が高等部への進学を希望したことで学園側は大慌てであったらしい。剣術部など存在しないカラスマ女子学園。まさか剣術で名を馳せた玲奈が進学するとは考えていなかったようだ。

「結局、剣術部は見送られた。君が希望したのは魔道科だったからね。我々は岸野玲奈が高等部で剣術をしないのだと理解したんだ。創部したとして他の生徒が入るとは思えなかったのも理由だったね」
「私は実家が道場なので、高校では本格的に魔道を習いたかったのです。剣術だけでは前線で戦えませんから……」
 騎士になりたいと語った内容に嘘はなかった。彼女は戦うために魔道科を選択している。本当の進学理由は褒められたものではなかったけれど、用意された選択肢から必要なものを選んでいた。

「というと受験は剣術科ですか? 岸野さんであれば魔道科でも推薦できますけれど?」
「剣術科です。今のところ大きな動きはありませんが、天軍は必ずや大規模な侵攻を始めるでしょう。私は共和国が好きです。自分の手でこの国を守っていきたい」
 確固たる意志を主張できる生徒は多くない。玲奈の受け答えには指導員の河内も感嘆の声を上げてしまう。十八歳でしかない彼女に少女の面影はなかった。

「なるほど、岸野さんには是非とも合格してもらいたいですね。生活態度や学業を見ても内申点は申し分ありません。あとは試験次第です。頑張ってください」
 進路指導はほぼ雑談で終わった。玲奈の希望が変わっていないのならば、何も問題ないといった風に。
 河内が退席を促すや玲奈は立ち上がって礼をする。

 笑みで返した河内。指導室を去る彼女を見送る。
 扉を開いたあと再び深いお辞儀をする彼女を見ては感心するしかない。立ち振る舞いまで彼女は完璧だった。よほど両親の躾が良かったのだと思わざるを得ない。

 カラスマ女子学園初の剣術科受験者。河内は玲奈が合格することを願っている……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

処理中です...