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第一章 転生者二人の高校生活
進路指導
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カラスマ女子学園では始業式早々に進路希望調査を行っていた。学科別に分けられており、尚且つあいうえお順ということもあって割と早く玲奈の順番となっている。
ノックをしてから玲奈は進路指導室へと入っていく。中には進路指導員である河内教員の姿があった。かといって、今までの進路調査で河内が担当となるのは初めてである。
「河内教員、よろしくお願いします」
「ああ、岸野さんだね。どうぞかけてください」
玲奈が着席すると河内は彼女の資料を取り出した。ざっと目を通したあと、河内は笑みを見せている。
「さて岸野さん、貴方は将来について考えていますか?」
笑顔を見る限りは何の問題もなさそう。けれど、進路に関しては最初の面談からずっと同じことを話している。よって確認するような河内には疑問しかなかった。
「私は騎士学校を受験します。もちろん推薦が必要であるのは存じているのですが……」
校内推薦は別に枠が設けられているというわけではない。推薦に値する生徒が百人いて百人共が推薦を希望すればそのままの数が推薦された。
「ああいや別に脅かそうとしたわけではないよ。岸野さんの希望が変わっていないかと確認したいだけだからね」
「そうでしたか……。河内教員、私の希望は変わっていません。それこそ幼い頃から、ずっと騎士を目指しています」
毅然と語る玲奈に河内が頷く。調査書通りの返答に彼の笑みが大きくなっていた。彼は調査書に少しばかり書き込んだあと、玲奈と目を合わせる。
「もう三年になるのか……。岸野さんが高等部に進学してから……」
進路指導らしくない話が続けられた。思い出す様に視線を上げた河内は独り言のように呟いている。
「あの頃は毎日のように理事会が開かれてね。それに伴い職員会議も連日行われていたんだよ……」
よく分からない話であった。玲奈は中等部から進学しただけだ。どうして理事会が開催されるのか皆目見当が付かない。
「河内教員、もしかして私は素行不良の問題児として扱われていたのでしょうか?」
「ああいや、そうじゃないよ。進学者名簿に剣術の全中チャンピオンが含まれていたからね。高等部には剣術部がないだろう? だから剣術部を創設するかどうかで議論していたんだ」
どうやら玲奈が高等部への進学を希望したことで学園側は大慌てであったらしい。剣術部など存在しないカラスマ女子学園。まさか剣術で名を馳せた玲奈が進学するとは考えていなかったようだ。
「結局、剣術部は見送られた。君が希望したのは魔道科だったからね。我々は岸野玲奈が高等部で剣術をしないのだと理解したんだ。創部したとして他の生徒が入るとは思えなかったのも理由だったね」
「私は実家が道場なので、高校では本格的に魔道を習いたかったのです。剣術だけでは前線で戦えませんから……」
騎士になりたいと語った内容に嘘はなかった。彼女は戦うために魔道科を選択している。本当の進学理由は褒められたものではなかったけれど、用意された選択肢から必要なものを選んでいた。
「というと受験は剣術科ですか? 岸野さんであれば魔道科でも推薦できますけれど?」
「剣術科です。今のところ大きな動きはありませんが、天軍は必ずや大規模な侵攻を始めるでしょう。私は共和国が好きです。自分の手でこの国を守っていきたい」
確固たる意志を主張できる生徒は多くない。玲奈の受け答えには指導員の河内も感嘆の声を上げてしまう。十八歳でしかない彼女に少女の面影はなかった。
「なるほど、岸野さんには是非とも合格してもらいたいですね。生活態度や学業を見ても内申点は申し分ありません。あとは試験次第です。頑張ってください」
進路指導はほぼ雑談で終わった。玲奈の希望が変わっていないのならば、何も問題ないといった風に。
河内が退席を促すや玲奈は立ち上がって礼をする。
笑みで返した河内。指導室を去る彼女を見送る。
扉を開いたあと再び深いお辞儀をする彼女を見ては感心するしかない。立ち振る舞いまで彼女は完璧だった。よほど両親の躾が良かったのだと思わざるを得ない。
カラスマ女子学園初の剣術科受験者。河内は玲奈が合格することを願っている……。
ノックをしてから玲奈は進路指導室へと入っていく。中には進路指導員である河内教員の姿があった。かといって、今までの進路調査で河内が担当となるのは初めてである。
「河内教員、よろしくお願いします」
「ああ、岸野さんだね。どうぞかけてください」
玲奈が着席すると河内は彼女の資料を取り出した。ざっと目を通したあと、河内は笑みを見せている。
「さて岸野さん、貴方は将来について考えていますか?」
笑顔を見る限りは何の問題もなさそう。けれど、進路に関しては最初の面談からずっと同じことを話している。よって確認するような河内には疑問しかなかった。
「私は騎士学校を受験します。もちろん推薦が必要であるのは存じているのですが……」
校内推薦は別に枠が設けられているというわけではない。推薦に値する生徒が百人いて百人共が推薦を希望すればそのままの数が推薦された。
「ああいや別に脅かそうとしたわけではないよ。岸野さんの希望が変わっていないかと確認したいだけだからね」
「そうでしたか……。河内教員、私の希望は変わっていません。それこそ幼い頃から、ずっと騎士を目指しています」
毅然と語る玲奈に河内が頷く。調査書通りの返答に彼の笑みが大きくなっていた。彼は調査書に少しばかり書き込んだあと、玲奈と目を合わせる。
「もう三年になるのか……。岸野さんが高等部に進学してから……」
進路指導らしくない話が続けられた。思い出す様に視線を上げた河内は独り言のように呟いている。
「あの頃は毎日のように理事会が開かれてね。それに伴い職員会議も連日行われていたんだよ……」
よく分からない話であった。玲奈は中等部から進学しただけだ。どうして理事会が開催されるのか皆目見当が付かない。
「河内教員、もしかして私は素行不良の問題児として扱われていたのでしょうか?」
「ああいや、そうじゃないよ。進学者名簿に剣術の全中チャンピオンが含まれていたからね。高等部には剣術部がないだろう? だから剣術部を創設するかどうかで議論していたんだ」
どうやら玲奈が高等部への進学を希望したことで学園側は大慌てであったらしい。剣術部など存在しないカラスマ女子学園。まさか剣術で名を馳せた玲奈が進学するとは考えていなかったようだ。
「結局、剣術部は見送られた。君が希望したのは魔道科だったからね。我々は岸野玲奈が高等部で剣術をしないのだと理解したんだ。創部したとして他の生徒が入るとは思えなかったのも理由だったね」
「私は実家が道場なので、高校では本格的に魔道を習いたかったのです。剣術だけでは前線で戦えませんから……」
騎士になりたいと語った内容に嘘はなかった。彼女は戦うために魔道科を選択している。本当の進学理由は褒められたものではなかったけれど、用意された選択肢から必要なものを選んでいた。
「というと受験は剣術科ですか? 岸野さんであれば魔道科でも推薦できますけれど?」
「剣術科です。今のところ大きな動きはありませんが、天軍は必ずや大規模な侵攻を始めるでしょう。私は共和国が好きです。自分の手でこの国を守っていきたい」
確固たる意志を主張できる生徒は多くない。玲奈の受け答えには指導員の河内も感嘆の声を上げてしまう。十八歳でしかない彼女に少女の面影はなかった。
「なるほど、岸野さんには是非とも合格してもらいたいですね。生活態度や学業を見ても内申点は申し分ありません。あとは試験次第です。頑張ってください」
進路指導はほぼ雑談で終わった。玲奈の希望が変わっていないのならば、何も問題ないといった風に。
河内が退席を促すや玲奈は立ち上がって礼をする。
笑みで返した河内。指導室を去る彼女を見送る。
扉を開いたあと再び深いお辞儀をする彼女を見ては感心するしかない。立ち振る舞いまで彼女は完璧だった。よほど両親の躾が良かったのだと思わざるを得ない。
カラスマ女子学園初の剣術科受験者。河内は玲奈が合格することを願っている……。
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